競争力のある養豚経営の構築をめざして

−高木農場における経営戦略−

萩 原  保


新たな風を起こそう
 本年から本格的に開始されるWTO(世界貿易機関)を舞台にした次期農業交渉においては、21世紀に向け農畜産業経営の再生産が確保され、かけがえのない家族の営農と生活が守られ、そして、明るい展望を持って農畜産業の経営に取組むことができるような諸外国との交渉結果 を獲得するよう、切に期待しております。そのためには、今後のわが国農政の指針となる「食料・農業・農村基本法」(平成11年7月16日公布・施行)に掲げられた基本理念や、これに基づく諸施策が、国際規律の中で正当に位 置づけられるよう、官・民等の関係者が一体になって総力を結集し、積極的に求めていくことが急務であると思います。

 このような農畜産業を巡る国際経済・社会の中で、著しい国際化の進展に伴い、輸入畜産物の攻勢による国際競争と、国内の激化する産地間競争の挟撃により、畜産経営を巡る環境は厳しい情勢となっています。


ガンバレ・千葉の畜産
 このような状況の中で、今回紹介する千葉県山田町に住む高木邦彦(42歳)さんの養豚経営は、厳しい国際競争化時代の潮流に対して、泣き言を言わず、自立・自助のポリシーを持って経営戦略を構築し、元気いっぱい前向きにチャレンジしている先進的な養豚経営者です。

先進的養豚経営に取組む高木さんご夫妻

 現在、高木さんは養豚の一貫経営(繁殖雌豚150頭)を行うとともに、平成6年度より自らが生産した安全で新鮮な自信の持てる豚肉を素材にした「食肉加工品の製造・販売」に勇気を持って挑戦している地域の中核的養豚経営者です。

 そして、元気ある21世紀の千葉県の畜産を支えていく一員でもあると思います。

 千葉県における平成10年度の農業粗生産額は、4875億6300万円(うち畜産部門の粗生産額は951億4400万円)となり、北海道に次いで5年連続で全国第2位となっております。

 家畜飼養動向は、表−1のとおり全国有数の畜産県としての地位を占めております。一方、生産の分野では環境保全対策、後継者の確保等の諸課題に直面しておりますが、反面、畜産物の販売・消費等の分野では、首都圏域という立地に合わせて、現在、全国第6位の大消費人口592万人に支えられ、相対的には恵まれた立地環境に置かれているものと思います。

表−1 千葉県の家畜飼養動向(平成12年2月1日現在)


養豚経営の経緯と概要
 高木さんの養豚経営のあらましは、表−2家族・従業員の構成、表−3養豚経営等の経緯、表−4平成11年度養豚部門飼養管理成績の概要のとおりです。

表−2 家族・従業員の構成

氏 名 年齢 続柄 摘    要
高木邦彦 42 経営主 農場及び食肉加工製造・販売部門の総括
高木幸子 41 農場部門管理主任担当
高木日出夫 66 農場担当
高木よし子 63  
高木多喜 83 祖母  
高木秀直 18 長男  
高木直人 16 次男  
高木美咲 8 長女  
農場部門の雇用従業員 2名
食肉加工製造・販売部門の雇用従業員 20名

表−3 養豚経営等の経緯

時 期 摘        要

昭和51年

県立小見川高校を卒業後、3年間千葉山田町農協、畜産課に勤務する。
昭和55年 農業に専業従事する。養豚経営(繁殖雌豚15頭の一貫経営)並びに水稲(250a)、野菜経営を行う。
山田町青年団副団長に就任する。
昭和56年 繁殖雌豚30頭の一貫経営に規模拡大する。
後継者育成資金で分娩舎新設する。
昭和58年 繁殖雌豚50頭の一貫経営に規模拡大する。
近代化資金で肉豚舎、ストール施設を新設する。
昭和59年 繁殖雌豚70頭の一貫経営に規模拡大する。
育成舎を新設する。
昭和60年 繁殖雌豚120頭の一貫経営に規模拡大する。
近代化資金で肉豚舎、ストール施設を新設する。
山田町農協青年部委員長に就任する。
昭和62年 繁殖雌豚150頭の一貫経営に規模拡大する。
近代化資金で肉豚舎新設する。
昭和63年 有限会社サンライズを設立する。
千葉県農業士協会香取支部長に就任する。
平成5年 山田町総合計画審議会委員に就任する。
平成6年 食肉加工部門の加工場を建設し(約2500円投資)、製造・販売への取組みを本格的に開始する。
平成8年

食肉加工部門の加工場生産機能を拡充する(約3500万円投資)。

平成11年 ナイス・ポーク・チバ推進協議会の理事に就任する。
平成12年 社団法人千葉県食品衛生協会より、平成12年食品衛生推進施設の指定を受ける。
有限会社サンライズ・ファームを設立する。

表−4 平成11年度養豚部門飼養管理成績の概要

項    目 摘      要
常時飼養規模 繁殖雌豚 150頭、肉豚 1,500頭
1腹当り年間分娩回数 2.38回
1腹当り哺乳開始頭数 10.7頭
1腹当り離乳頭数 9.4頭
1腹当り年間肥育豚販売頭数 22.1頭
肥育豚販売枝肉重量 72.3kg
枝肉規格「上」以上適合率 69.8%


養豚経営の特徴
 本県内で多数を占める養豚一貫経営においては、繁殖に供用する種雌豚と種雄豚の確保については、外部(特定のブリーダーや種豚市場等)から導入しているのが大勢となっています。

 しかしながら、高木さんの一貫経営では、供用する繁殖豚(種雌豚・種雄豚)は原則として自家生産・育成により確保しているのが最大の特徴です。このため、外部からの病原菌等の侵入は他の養豚場に比べ相対的に少ないものと推察されます。優れた資質(繁殖性、産肉性、強健性)を有する繁殖豚の自家生産・育成を基本とする養豚経営の特徴を総括すると下記のとおりです。

(1)農事組合法人・千葉スワインが保有する優れた資質の遺伝子を、人工授精により積極的に利活用しています。

(2)薬品等の使用は、他の農場に比べ少ないですが、ここ13年間にわたり病気等の発生が少なく、生産技術成績は安定的に推移しています。

(3)繁殖雌豚1腹当りの年間肥育豚の出荷頭数は、ここ11年間は21〜23頭の範囲で安定的に推移しています。

(4)豚肉加工品のニーズ(一歩先をゆく優良な素材の確保)に合致するため、専門家の指導を受けながら研究開発した飼料を委託製造し、肥育豚の発育ステージに合わせ合理的な給与をしています。

(5)肥育豚の出荷は、オールイン・オールアウト方式で、出荷後、豚舎内部を完全に清掃後、効果 的な消毒をしてから次の肥育用子豚を入れています。

(6)中・長期の経営戦略に基づき、経営安定対策の一環として、豚肉加工品の製造・販売部門に進出し、積極的に取組んでいます。


食品加工品の製造・販売への進出
事業進出への動機

 昭和63年には、一貫経営として繁殖雌豚150頭規模で養豚経営も安定的に推移するとともに、有限会社サンライズを設立し経営管理体制の組織強化を図りました。

 その後、平成2年には内部留保も可能となり、養豚経営部門はさらに安定してきました。しかしながら著しい国際化の進展や産地間競争激化等の諸情勢の中で将来を展望すると、この程度の養豚経営の収益性では何かしら不安になる気持ちを抑えることができない、もんもんとした日々が続いたとのことです。

 現状の小さな安定の境遇に甘んじて妥協するよりも、何かをやってみたいという気持ちが心の底からふつふつと沸き上がってきたそうです。その打開策としては、現在軌道に乗っている養豚経営の規模拡大ですが、土地取得の制約や環境保全措置にともなう多額な新規投資が壁となり断念せざるを得なかったそうです。それでは何をしようかと模索する日々が続く中で、かねてから自分の趣味でもあったハム作りをやってみようかと思ったそうです。

 その結果、幾多の紆余曲折のうえ平成6年に約2,500万円を投資して豚肉の加工場を建設したのです。

 その後、食肉の加工製造・販売部門の経営は順調に進展し、平成8年には、さらに3500万円の追加投資を行い、食肉の加工施設・加工機械器具機能の拡充を図り、本格的な食肉加工製造・販売部門の態勢が構築されました。

ドイツ風のイメージの事務所・食肉加工場の外観


食肉加工品の特徴と販売方法−ズシッときた消費者からのメッセージ−
 高木さんの経営ポリシーは、食肉加工の本場である、ドイツのレシピが必ずしも良いとは思っていないとのことです。やはり日本人の嗜好にあった製品の開発供給が基本であるとのことです。そして通 常の手作りハムより3割ぐらい安く提供し、消費者の皆さんに買い求め易くしているとのことです。

 食肉加工品の流通は、ナショナルブランド(東証1部上場の巨大食肉加工メーカー)等が全国的に強力な販売ネットワークを形成し展開しています。このような経済情勢の中で、高木さんのような小さな資本の経営体が活路を見出していくには、自らが生産した自信の持てる安全で新鮮な素材を生かして、地域・県域の範囲で安全・安心・美味を求める多くの消費者に提供していくことが重要であると認識しています。

(有)サンライズ・ファームの食肉加工場の内部

 現在、(有)サンライズ・ファーム製品の主要な販売先は、農産物直売所、デパート、スーパー、生協、自然食品を扱う卸売店、委託加工販売先、居酒屋チェーン等の約50ヵ所で販売を展開しています。

 これまでの販売展開の過程で多数の消費者に接して、顔の見える、心のふれ合う環境の中で新しい発見や、おいしいと言われた時は最高の幸せを感じたとのことです。

 このように多数の消費者の方々から、多様なシグナルをいただき、貴重な経営戦略展開方策の確立に資することができ、「自分はもう一人ではないのだ」と思ったそうです。

 これからは、自らの経営戦略に基づいて、「いつも始まりなんだ」というしなやかな気持ちをもって、これまで交流のあった多数の消費者のニーズに謙虚に応えていくとともに、事業関係者のアドバイスに真面目に取組んでいけば、何とか未来への活路は開けていけるのではないかと思い、大いに勇気づけられたそうです。

山田町にある農産物直売所ドルチェでは、(有)サンライズ・ファームの製品を販売中


食卓の元気は千葉県産のポークから−消費者と連帯で活路を見出す−
 高木さんは、自らの養豚農場と食肉加工・販売部門の経営に加えて、ナイス・ポークチバ推進協議会の理事としても精力的に活躍しております。

 平成11年11月17日から23日までの7日間、幕張メッセにおいて開催(入場者数33万7000人)された、「第9回全国食文化交流プラザ」に、同推進協議会が出展し、「努力が実ったひと味上の千葉県産ポーク」の消費拡大推進に努めました。

 さらに平成12年4月6日、千葉マリンスタジアムにおいてのイベント(西武対ロッテ)において、ナイス・ポーク・チバ推進協議会の主催のもと、千葉県食肉事業協同組合連合会の協力により、来場の野球ファンに対して、豚汁、焼肉の試食配布や抽選で100名に肩ロース肉のプレゼント等を行い、県産豚肉の消費拡大のため努めました。

千葉マリンスタジアムにおいて、プロ野球ファンに豚汁・焼肉を試食配布のうえ、
千葉県産ポークの美味しさをスキンシップでPRする。


今後の課題と展開の方向について−21世紀は創意工夫を生かせる時代−
(1)食肉加工品における新商品の開発

 近年における量販店の経営戦略は、食品の取扱い強化を最大の営業課題に揚げているようです。

 つまり、食品に強い店かどうかが、その店全体の優劣評価にもつながってくるからです。

 このため、食肉加工品の分野についても、その売り場、品揃え等に係るポリシーが二極化への傾向が顕著であるようです。

 すなわち、従来のような、ナショナルブランド品重視の「商品陳列型」の売り場から、新たに、生産者の顔が見える「こだわり主張型」の売り場を重視・拡充する傾向が広がっているとのことです。

 一方、消費者の食品に対する指向・欲求は、かけがえのない人の生命と活力の源となる食品(栄養、品質、鮮度、美味、銘柄、安心、安全性等へのこだわり)となっており、その思い入れは年々強まってきています。

 このような消費者ニーズの潮流に対して、各量販店は、競合他店との差別 化を推し進めようとする経営戦略から、その対応を構築中です。このような量 販店における販売情勢の展開は、高木さんのような小さな経営体にとっては、やや順境となってきましたが、著しい国際化の進展や激化する産地間競争の中で、今後活路を見出していくためには、今後も並々ならぬ経営努力が求められます。

 そのひとつに、新商品の開発の分野において、昨年、千葉県食肉事業協同組合連合会の積極的な支援により、高木さんの地元、山田町の特産であるゴボウを原料とした、ゴボウ入りソーセージの新商品を開発し、千葉県食肉事業協同組合連合会を基軸として、現在供給をしています。昨今、マスコミにおいて、連日、生活習慣病の重要性が取り上げられているので、ゴボウに含まれる食物繊維の効能が知れわたり各方面から注目されています。

(2)高度な経営管理へ取組み

 現在、養豚農場部門における生産技術成績の実績については、県内においては上位 のレベルで安定的に推移していますが、今後は、生産・財務のトータルの中で、(1)自らの精密な経営分析の数値を把握する。(2)産地間競争のライバル(先進的養豚経営体群等)との相対的な比較分析の検討を行うことが重要であると考えています。このため、今後は県畜産会のコンピューター経営診断システム(担い手集中経営支援体制整備事業)等の積極的な利・活用等により、包括的で高度な経営管理をめざしています。

(3)活力ある経営体組織の体制強化

 今後の経営方針と抱負について、高木さんは次のように力強く話してくれました。昭和63年有限会社サンライズを設立し、かねてからの念願であった経営の多角化(養豚農場部門と食肉の加工販売部門)を実現しましたが、その後、経営管理執行体制の見直しの必要性を感じ、次のように改めました。

 (1) 昭和63年設立の有限会社サンライズは、養豚農場部門を経営管理する会社とする。

 (2) 平成12年3月設立した有限会社サンライズ・ファームは、食肉の加工販売部門を経営管理する会社とする。

 このように、別会社の組織として明確に区分することによって、(有)サンライズグループ内における、役・職員相互の依存・もたれ合いの環境を排除するとともに、自己責任の原則と社員の経営参加意識の高揚により、会社組織の生産性の向上を目指しているとのことです。

 これまで、一般的に法人化の主要なメリットは、(1)従業員の雇用、(2)社会的信用、(3)経営資金の調達等が言われております。経営主の家族、子供たちが後継者にならない場合(このケースでの経営中止の事例があります。)でも法人化すれば構成従業員の中で経営能力・意欲のある従業員を後継者として育成できる可能性があります。個人経営では、経営主が高齢化すると経営意欲も老化し、家族の子供等が後継者にならなければ、やがては経営中止となってしまいます。

 しかし、法人化した経営体では、きちんとした経営戦略に基づき、経営管理の的確な執行が前提要件とはなりますが、必要に応じて、有為な人材(財)を採用補充していける可能性があります。

 昔から「事業は人なり」との格言があります。

 法人化した健全な畜産経営体はいつまでも青雲の志を持った、フレキシブルな(しなやかな)青年でいられるということを強調しておきたいと思います。

 高木さんが、今度、あえて経営組織体制の見直しという、ソフトシステムに着目し、果断に所信を実行されたその裁量は、先見性を有する経営者としての素質の片鱗を、筆者はかいま見たように思います。


新世紀を見越して試練に挑む−地平線をみつめて−
 いよいよ新世紀は、ひたひたと音もなく近づいてまいります。著しい国際化の進展に伴う国際競争時代の中で、生き残れる畜産経営者の要件は、自己責任を原則とし、国際的な視野を持って、そして惰性と漫然の安定を嫌い、変化を好機とするような独創性を有する経営のポリシーが求められるものと思います。

 高木さんは、今、国際化競争時代という潮流の大海原に向って、小船(小さな一養豚経営体として)に乗って、自らが企画決定した経営戦略の目標港をめざして、一路、まっしぐらに、そして、なすすべもなく呑み込まれてはならないと思い、ひたむきになって汗を流しています。

 その経営姿勢に対して、筆者は感銘を受け、そして、ガンバレ!とエールを送りたいと思います。


おわりに
 本県の養豚は、首都圏に位置し、環境保全対策等へのさらなる厳しい局面に立たされております。このような情勢の中で、高木さんは、今後とも、ナイス・ポーク・チバ推進協議会の一員として、そして本県の養豚基盤全体の強化拡充に向けて活躍されますとともに、自らの経営戦略の目標として、ゆるぎない養豚経営基盤の構築に努め、そして、養豚農場と食肉加工販売事業という多角経営の「天職」を、また、これまで逆境の中で幾多の試練を乗り越えてきて、本当に良かったなあ、と将来思うような経営の展開を期し、ますますの雄飛をされますよう、心から期待しています。

(報告者:(社)千葉県畜産会 総括畜産コンサルタント)