養豚経営─生き残るための手がかり(3)─

塩 原 広 之

 現在の養豚経営者が最も緊急に対応を迫られている課題は、いまさら言うまでもなく畜産環境問題でしょう。生産の増加に直接には結びつかない対応が収益性の不透明ななかで求められている、ということは経営者にとってみればかなりの精神的負担であろうと思います。特に養豚においてどうしても避けて通ることのできない尿汚水の処理では、施設の整備はもとより、希釈水の確保や処理水の放流先の確保など、経営内だけでは解決できない問題を乗り越えていかなければなりません。また、すでに対策を終えている場合であっても、今後の経営の展開にはふん尿処理が大きな足かせとなることは目に見えています。畜産環境問題への対応に悲観的な見方をする経営者が中小規模に多いのも、これらへの対応に悩んでいる姿を映しているものと言えます。しかし、苦しんでいるのは日本だけではありません。ヨーロッパはもちろんのこと、あの広大な国土を持つアメリカでさえも環境問題が経営に大きな影を落としつつあります。日本よりももっと厳しい規制が行われている国もいくつもあります。畜産環境整備は養豚事業を行う上で欠くことのできない、経営の一部分として取り組んでいくしかありません。そのためにはまず、いわゆる「環境対策費」としていくらかかるのかを把握し、そのコストをどのように吸収していくかについて経営面から検討する必要があります。

 本稿では、私たちが最近行った具体的な取組みや経営試算の結果から、これらの問題を考えてみました。参考になれば幸いです。

1. 養豚のふん尿処理施設が備えるべき条件

 養豚経営の規模を決定するのは、以前は分娩豚房の数や肥育豚房の収容可能頭数でした。しかし今では、第1の制限因子は経営が保持しているふん尿の処理能力となりました。ふん尿処理を安定的に行うことこそが健全な養豚経営を継続していくための条件であると言えます。処理を安定的に行うためにはいくつかの要因がありますが、その中でも特にふん尿処理施設をどのように選択していくのかは、養豚経営にとって大きな問題です。処理能力が当初の計画どおり発揮できなければなりませんし、また、環境対策費を支出した上で、経営を存続させるために必要な収益の確保が可能でなければなりません。また施設を建設する場所の立地(たとえば周辺の環境や自然条件など)や選択する施設が要求する条件によって建設コストや運転経費が異なりますから、ふん尿処理施設の選択には経営のおかれた条件を満たせるかどうかを十分に検討しておく必要があります。そこで、養豚経営において用いられる一般的なふん尿処理施設の処理方式ごとの特徴について、「群馬県糞尿処理施設検討委員会」でまとめた結果をもとに考えることにします。

 まず堆肥化施設についてです。表−1に養豚で用いられている堆肥化施設の、処理方式ごとの特徴を整理してみました。養豚で用いられている堆肥化方式には、大きく分けて堆肥舎方式、開放攪拌方式、密閉方式の3方式がありますが、経営面から見るとそれぞれに一長一短があります。たとえば建設コストが最も安くまたランニングコストが最もかからないのは堆肥舎方式ですが、処理労力を費用化した場合には、維持に要する費用は決して安いとはいえません。一方、建設費が最もかかる密閉方式ですが、管理にかかる時間は少なく、特に投入前の水分調整を必要としないことに有利性があります。また、施設の必要とする土地面積を資本利子や借地料に換算した場合、立地条件によっては必要面積の小さい方式に利があるといえるかもしれません。設置場所によっては臭気対策の最もしやすい方式が求められる場合もあるでしょう。

表−1 堆肥化施設の処理方式の特徴

  水分調整 臭気処理 処理労力 施設面積 建設費 ランニングコスト 処理時間
堆肥舎 あり
攪拌方式 あり やや難
密閉型 なし
※「畜産環境対策の実際「群馬方式」」(群馬県糞尿処理施設検討委員会)

 また、表−2には、養豚の汚水処理施設の方式ごとの特徴を整理してみました。養豚で一般に用いられている汚水処理は、いずれの方式も基本的には活性汚泥を利用した方式ですから、特徴づけられる項目は堆肥化施設に比べて多くはありません。汚水処理施設で問題となるのは、活性汚泥を安定的に働かせるために求められている条件を、満たすことができるかどうかではないかと思います。たとえば回分式は、原理から言えば安定的に活性汚泥を働かせる方式であるといえますが、ばっ気槽へ投入する汚水を希釈する水を得られるかどうかが採用を制限する因子になります。一方連続式は、必要面積も少なく希釈水も必要としませんが、安定的な処理を行うためには維持管理の難しさを克服する必要があります。

表−2 汚水処理施設の処理方式の特徴

  希釈水 施設面積 建設費 ランニングコスト 維持管理
回分式 あり
半回分式 なし
連続式 なし
※「畜産環境対策の実際「群馬方式」」(群馬県糞尿処理施設検討委員会)

 このように、養豚経営に求められているふん尿処理施設は、すべての経営に同じように当てはまるものではなく、それぞれの経営が置かれた条件を整理してから選定に取りかかる必要があります。これらをシステマチックに整理して、畜産経営診断に「環境診断」というカテゴリーを設けることも検討すべきかもしれません。

2. 養豚のふん尿処理施設のコスト

 養豚のふん尿処理施設の設置、運営にかかるコストは、経営がおかれた状況によりかなりばらつきがあるものと考えられますが、ここでは同一敷地内にすべての施設がある種雌豚120頭一貫経営の、全量がふん尿分離型豚舎から排出されるふんと尿汚水の処理にかかるコストを考えてみます。

 まず堆肥化施設ですが、表−3に施設の建設費と運転費用について、開放式7社、密閉式3社に依頼した実際の見積書をもとにまとめてみました。くわしく見ていきましょう。

表−3 養豚堆肥化施設の仕様および費用(種雌豚120頭規模一貫経営)

 開放式では、最も大きい面積を必要とするものと最も小さいものとでは面積に約3倍の開きがありました。「土木工事・建屋工事」費の全体の建設費に占める割合は平均で約6割ですから、施設面積の大小が建設費に大きく影響することを示していますが、「土木工事・建屋工事」費を面積単価で比較してみますと1m2当り24千円から66千円とばらつきがあり、必ずしも大面積の施設の建設費が高いとは言えません。安価な材料の使用や工事の方法により、建設費を下げられる可能性があるものと考えられます。また、小面積を志向して「土木工事・建屋工事」費が低い施設では、発酵槽を深くせざるを得ない設計となり、「機械機器」費は高くなる傾向があります。種雌豚1頭当りの建設費では平均すると約23万円で、最も高いものは最も安いものの約1.7倍の金額となりました。一方密閉式では、設置面積は開放式に比べて小さいため建物の建設費は安くすみますが、機械機器の費用が大きく全体の費用の8割から9割を占めています。また、容量の大きいものほど金額が高くなっています。当然のことですが、処理槽容積の設定が非常に重要であることがわかります。種雌豚1頭当りの建設費では開放式に比べていずれの機種も安価な傾向にあり、平均すると約13万円でした。一方、運転費用で主要なものは電気代ですが、開放式の平均は年間約30万円、密閉式の平均は年間約70万円で、開放式が安価な傾向にあります。また開放型の最も安い施設と密閉型の最も高い施設との間には約7倍の差があり、さらに同じ開放型でも浅型は安く、深型は高い傾向にあります。

 次に汚水処理施設について見ていきます。表−4は汚水処理施設の建設費と運転費用について、4社から得た実際の見積書をまとめたものです。施設の建設費用は、見積がすべて同一条件ではないために単純な比較はできないものと思いますが、種雌豚120頭程度の規模では種雌豚1頭当り20万円から30万円が目安となっています。一方、運転費用として計上される電気代や凝集剤等の金額は施設によって大きな差があります。施設によって電気代だけを計上しているものもあれば、凝集剤や消毒剤を計上している場合もあります。また、施設のフローから考えて計上されている以外にも費用が発生する可能性が考えられるものもありました。見積書に記載されている運転費用について評価してみますと、最も安い施設で年間60万円弱、最も高い施設で年間約120万円でした。これを種雌豚1頭当りに計算しなおしてみると平均で年間約8千円となりました。

表−4 養豚汚水処理施設の仕様および費用(種雌豚120頭規模一貫経営)

会社名 A社 B社 C社 D社




運転方法 回分式 半回分式 連続式 連続式
活性汚泥微生物の働かせ方 標準 標準 標準 標準
曝気方法 表面機械式 散気式・表面機械式併用 散気式 散気式
希釈の有無 あり なし なし あり
水槽の材質 コンクリート槽 コンクリート槽
一部ゴムシート
コンクリート槽 FRP
概算施設面積 m2 270 425 101 102






土木工事・建屋工事 千円 7,857 10,300 13,900 8,074
機械機器 千円 6,535 9,700 13,000 13,720
配管工事 千円 1,152 3,400 3,000
電気工事 千円 3,092 5,600 1,000
その他工事 千円 5,268 2,000 4,100 1,639
合計 千円 23,904 31,000 35,000 23,433
汚泥脱水機 汚泥濾床 含む 含む 含まず
脱窒処理 含む 含む 含まず
脱りん処理 含む 含む 含まず
除外費用 1次電気工事
導入管・排出管工事
消費税
1次電気工事
導入管・排出管工事
消費税
1次電気工事
導入管・排出管工事
消費税
1次電気工事
導入管・排出管工事
消費税





電力料金 円/月 35,713 70,900 96,588 83,844
凝集剤費用 円/月 16,700
消毒剤費用 円/月 11,102 14,490
円/月
千円/年
46,815
562
87,600
1,051
96,588
1,159
98,334
1,180

 ではこれらを参考に、環境対策費としていくら必要なのかを一例をあげて検討してみましょう。表−5は堆肥化施設としてB社を、汚水処理施設としてC社を選定した種雌豚120頭一貫経営の経営試算の結果です。環境対策費はふん尿処理施設を新設した場合の減価償却費と運転経費及び減価償却費の10%相当の修繕費を計上しています。運転管理に必要な人件費は、現在の労働時間の中で吸収するという設定としました。その結果、環境対策費は種雌豚1頭当り48,934円(堆肥化施設18,444円、汚水処理施設30,490円)、枝肉1kg当たり34円(堆肥化施設13円、汚水処理施設21円)となりました(表−6)。これは生産費用の10.5%、売上高の8.3%の金額です。また、この設定条件における所得は、いずれの施設も設置しない場合に比べ54%減少しています。もちろん、より建設費用や運転費用の安価な施設を選択することで、環境対策費を減らすことは可能であると考えられますが、いずれにしても養豚経営においてふん尿処理施設を新設する場合のコストは、収益を大きく圧迫することは明らかです。現在実施されている補助事業等の助成措置により設置のコストを下げていくことは、養豚経営の発展を図っていくためには必要な措置であるものと考えられます。

表−5 ふん尿処理施設を装備した経営の損益試算

(単位:円)
  種雌豚1頭当り 枝肉1kg当り

枝肉売上高 573,070 402
その他売上 16,200 11
売上高合計 589,270 413
収益合計 589,270 413

 

購入飼料費 287,831 202
診療医薬品費 25,554 18
減価償却費 32,899 23
環境対策費 48,934 34
その他費用 69,365 49
生産費用合計 464,583 326
販売一般管理費 74,935 53
事業外費用 7,644 5
費用合計 547,162 383
経常所得 42,105 30
※種雌豚120頭一貫経営
※家族労働費を含まない
※種雌豚1頭当り年間枝肉生産量1,427kgで計算

表−6 種雌豚120頭一貫経営における環境対策費の例

(単位:円)
  種雌豚1頭当り 枝肉1kg当り




減価償却費 12,411 9
修繕費 1,241 1
運転費用 4,792 3
18,444 13
尿



減価償却費 18,937 13
修繕費 1,894 1
運転費用 9,658 7
30,490 21
※種雌豚1頭当り年間枝肉生産量1,427kgで計算

3. コスト増加に対応するために

 環境対策費の増加は養豚経営の収益性に大きな影響を与えることは言うまでもないことですが、そこで手をこまねいていても仕方がありません。増加分をいくらかでも相殺するための対応が求められます。

 まず、ふん尿処理対策の面からのコスト低減方策について、具体的に考えてみましょう。最も現実的なのは、処理量を減らしていくことです。処理能力が計画どおり発揮できる、また経営条件に合ったできるだけ安価な施設を整備していくこととともに、処理すべきふん尿量の発生をいかに抑えるかが非常に重要です。それにはえさのこぼれや水のこぼれの減少など、ふん尿処理にかかわらず一般的なコスト低減の手段として考えられる事項もあるでしょうし、飼料の成分や配合する原料の工夫によって、より処理の負荷を小さくしようとする試みもされていますが、処理量減少手段として容易に思い起こされるのが、いわゆる「踏込み式豚舎」の活用です。ふんや尿汚水が最も多く排出される子豚・肥育豚舎をこれに替えていくことで、経営全体から発生するふん尿量を減少させようとすることはすでにかなりの実績を持って行われています。踏込み式豚舎は大きく分けていわゆるハウス式のものと、群飼豚舎形式のものと2種類がありますが、いずれもふん尿が地下に浸透しないなどの処置が施されたものでなければなりません。

 そこで表−7に、肥育豚舎をすべて踏込み式豚舎にしたときの、施設で処理すべきふん尿の発生量を試算してみました。これによれば、種雌豚120頭一貫経営の肥育豚舎のすべてを踏込み式豚舎にした場合、施設で処理すべきふん尿発生量は約5分の1にまで減少し、種雌豚25頭規模の経営と同程度になります。また、肥育豚舎の半分を踏み込み式豚舎にした場合でも、処理すべきふん尿量は6割に減少します。もちろん踏込み式豚舎から排出される堆肥については、切返し労力や貯蔵施設が必要となりますし敷料も必要ですから、処理量の減少に比例して費用が低下するとは考えられませんが、環境対策費を大きく低減させる可能性はあります。

表−7 踏込み式豚舎の使用によるふん尿処理量

肥育豚舎全部を踏込み式にした場合 肥育豚舎の半分を踏込み式にした場合 通常のふん尿分離型肥育豚舎の場合
ふん量(kg/日) 1,503(20) 1,499(60) 2,495(100)
尿 量(kg/日) 1,143(22) 3,135(61) 5,127(100)
※種雌豚120頭一貫経営
※豚1頭当りのふん尿量は「畜産環境アドバイザー研修資料(畜産環境整備機構)」による
※( )内はふん尿分離型肥育豚舎を100とした場合の指数

 次に求められるのは、経営全般のコスト低減です。養豚の環境対策は、経営面から考えると負債対策に似ています。負債対策では、規模拡大による「売上高の増加」は経営改善のために行うべき対策の順位としては、決して高いほうではありません。なぜなら売上高の増加にはなんらかの費用の増加が先行して伴うことが多いからです。規模拡大によって生産量を増加させて経営の改善を図ろうとしても、増頭分の追加投資とともに生産量増加効果が出るまでの運転資金の増加等による経営リスクを背負うことになり、ただでさえ償還圧や多額の支払利息に苦しんでいる経営にとっては、それが致命傷になりかねません。

 それと同じように、環境対策ではコスト上昇による収益性の低下を飼養頭数規模の拡大で補おうとしても、「収益性向上には結びつかない」ふん尿処理能力の向上がなければ、結局は経営の行き詰まりに結びつくものと思われます。環境対策による収益の低下は、単なる規模拡大による場当たり的な売上高の増加で補うのではなく、経営全体のコスト低減で吸収することを第1に考えるべきです。経営規模の拡大はあくまでも大きな経営戦略の一貫として考えるべきなのです。そのためには、もう一度養豚経営のコストを見直す必要があります。経営全体のコスト低減の手だてについては次回にくわしく述べる予定です。

 第2に考えることは、集団的あるいは広域的な処理への取組みです。今まで養豚生産者は、防疫上の問題もあってできるだけ経営内ですべてを処理しようとしてきました。また、養豚経営者は酪農経営者等に比べて、共同で行うことが不得手のように見受けられます。しかし、コストの試算に見られるとおり、また収益性が低下している現在の情勢を踏まえてみると、養豚におけるふん尿処理は、個々の経営が対応できる範囲を超えつつあると考えられます。経営内におけるコストの低減努力とともに、他の経営、グループとの連携による処理コスト低減の道も積極的に考える時期に来ています。乗り越えていかなければならない問題点も多数あると思いますが、それらを解決するための努力が今求められています。

(つづく)

(筆者:(社)群馬県畜産協会・総括畜産コンサルタント)