養豚経営──生き残るための手がかり(2)──

塩 原 広 之

 前回は最近の養豚経営分析から見た今後の経営の重点について、特にコスト低減のための足がかりをどこに求めるか、という点を強調して述べました。繁殖成績の向上の余地はあるもののコストの低減には肥育部門の充実がより重要であること、またそのための手段として枝肉格付成績の活用が有効と考えられることを述べました。さて今回は、繁殖成績の直接的な向上としては現れにくいけれども収益性の向上を図るには無視できない、「生産の季節的変動」について考えてみます。

 同様な生産性でありながらなぜ経営間の収益性にばらつきがあるのかをくわしく評価してみると、生産の季節的変動が大きな要因となっていることがわかります。夏の高温や高湿度の影響による離乳母豚の発情再起の遅れ、雄の精液性状悪化による夏季不妊や子宮内環境の悪化による不受胎豚の増加、その反動としての秋口からの種付け回数の増加、疾病等の影響による流・死産の増加、食欲不振などによる肥育豚の発育速度の低下や肉質の低下など季節的な生産の変動が、その年だけでなく次の年の経営実績にまで影響を及ぼして収益性の低下を招き、結果として運転資金の不足から借入金の増加につながることが少なくありません。施設の効率的な活用が阻害され、結果としてコスト上昇につながっている可能性もじゅうぶん考えられます。豚肉価格の低下傾向が続くなかにあって、年間を通した安定的な生産は豚肉の販売戦略においても重要なポイントであるとも言えるでしょう。生産平準化対策、言換えれば夏季の繁殖を順調に行うことは、養豚経営の大きな課題であると考えられます。

 そこで本稿では、生産平準化の面から経営実態がどのようになっていて、またそれが経営実績にどのような影響を与えているのかについて、経営分析の結果をもとに考えてみました。生産平準化の重要性を再認識するきっかけになればと思います。

1.経営実績に見る生産の変動の実体

 肉豚出荷頭数には季節的変動があって夏に少なく秋に多い傾向があり、これが豚価に大きな影響を与えていることは言うまでもありません。高い収益が見込まれる夏季に出荷頭数をできるだけ多くしたいと考えるのは当然のことで、さまざまな対策を採っているようですが、なかなか出荷頭数が増加していかないのもまた現実です。経営実績を詳細に把握している養豚一貫経営24戸について、4〜9月の間に出荷された頭数の年間出荷頭数に対する割合(仮に高値月出荷頭数割合とします)を調べたところ平均47.9%で、50%以上が7戸あるものの45%未満も3戸とかなりのばらつきが見られます。このことは経営によって夏季対策の有効性にばらつきがあることを示しています。

 図−1には、分析を実施した経営の月別の種雌豚飼養頭数、種雌豚飼養頭数に対する種付け頭数の割合、同じく分娩腹数の割合をグラフにしています。ここで項目別に特徴的な動きを追ってみましょう。まず、種雌豚飼養頭数は年の後半にやや多くなる傾向が見られます。このことは、来年の出荷頭数増加を意図して夏季に飼養頭数を増やしていることに起因しているのではないかと考えられます。春の種付け頭数のピークは前年秋に種付けした豚の次の繁殖周期にあたるものでしょう。しかし分娩腹数の動きを見ると、7月の種付け頭数のピークや秋の種付け頭数増加の結果として現れるはずの12〜2月の分娩が少なく、妊娠期間から想定される分娩予定月よりもやや遅れて3月に大きな分娩のピークがあります。暑熱等の影響によって発情再起が遅延したり再種付けが増加したりして、分娩が集中する結果となったものかもしれません。そして次のピークは、3月に分娩した雌豚の離乳後種付け数の増加を受けて、真夏の暑い時期に来ています。

図−1 繁殖実績の月別推移

 次に図−2に、種雌豚1頭当りの肉豚出荷実績の月別推移を24戸の平均、最も高値月出荷頭数割合の高い経営および最も低い経営について示しました。平均で見ると肉豚出荷頭数の最多のピークは10月にあり、これは図−1で示された3月の分娩のピーク時に生産された豚が出荷される時期にあたります。また最少月は7月となっています。また高値月出荷頭数割合が高い経営では6月、7月に出荷のピークがあるのに対し、低い経営は2月と10月に極端に高いピークがあります。図−3には出荷肉豚1頭当りの平均枝肉重量と平均枝肉販売単価を示しましたが、平均枝肉重量は6〜9月までが小さく10月以降に大きくなり、最小月は7月で71.8kg、最大月は1月で74.4kgでその差は2.6kg、生体重に換算すると約4kgもあります。販売単価の高い時期にできるだけ多く出荷しようとする意図が現れたものでしょう。図−4は種雌豚1頭当り平均肉豚(離乳から出荷までの豚)在庫頭数の月別推移を示しています。3月に集中して生まれた豚と7月、8月の分娩ピーク時に生まれた豚が重なって、また3月生まれの豚の発育が暑熱により遅れることも手伝って、特に8月〜10月の在庫頭数は増加しています。最も少ない1月に比べて最も多い9月は約2割も頭数が多くなっています。

図−2 肉豚出荷実績の月別推移

図−3 枝肉出荷重量と販売単価の月別推移

図−4 肉豚在庫頭数の月別推移

 今度は出荷枝肉の品質の変化について見てみましょう。表−1はある集団から出荷された5万頭あまりの肉豚の月別枝肉重量および背脂肪厚の集計結果です。先ほども述べましたが、夏季の平均枝肉重量の低下が目立ちます。しかし、枝肉重量のばらつきや背脂肪厚には、出荷頭数が少なくなる夏季、多くなる秋季ともに大きな変化は見られません。集計したデータの範囲内で見る限りでは特に目立った傾向はないように感じられます。経営体を個別にくわしく見ていきますと、夏季の枝肉重量の低下をはじめとして、出荷適期の見逃しによる秋季の枝肉重量の増加による上物率の低下、過度な密飼いによる出荷豚のばらつきの拡大や肉質の低下など季節的に特徴のある経営が見受けられますが、平均的に見ると枝肉重量の減少が最も大きな枝肉品質に関する変化であると言えます。

表−1 枝肉重量・背脂肪厚の月別推移

単位 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
枝肉重量 kg 75.5 75.1 74.7 74.0 73.3 73.1 72.8 72.8 73.2 74.3 74.6 74.4
 同標準偏差 kg 4.5 4.6 4.7 5.0 4.9 4.7 4.8 4.9 4.7 4.6 4.5 4.7
背脂肪厚 cm 1.72 1.63 1.64 1.62 1.68 1.68 1.70 1.72 1.69 1.71 1.76 1.74
 同標準偏差 cm 0.49 0.49 0.49 0.49 0.47 0.48 0.48 0.48 0.45 0.46 0.46 0.46

 さて、経営の目的である利益が月別にどのような変化をするのかを、経営分析を行った24戸の収支実績から間接的に見てみましょう。図−5には種雌豚1頭当りの枝肉販売金額、同じく収支差額(現金収支ベースで見た売上と費用との差)の月別推移を示しました。収支差額がマイナスとなったのは1月と12月で、その他の月は額にばらつきはあるもののすべてプラスとなっており、特に夏季のプラス額が大きくなっています。分析に用いた経営のうち、年間収支差額がプラスとなった経営の6月と7月の2ヵ月間における収支差額の合計は、平均で年間合計金額の31.7%を占めています。しかし8月の収支差額は、出荷頭数が少なくなっていることに加えて販売単価が急激に低下しているため、大幅に減少しています。9月以降になると、出荷頭数の増加が販売単価の落込みを補う形となり収支差額はプラスに確保されますが、11月になると販売単価がさらに低下するとともに出荷頭数も減少してくるため、収支差額は大幅に低下します。さらに12月になると出荷頭数がさらに減少し収支差額はマイナスに転じています。豚価の動きによって若干の違いはあるとは思いますが、おおむねこのような傾向が毎年繰り返されているものと考えられます。出荷頭数の動きと販売価格の動きのバランスの上に何とか利益を確保しているのが、現在の養豚経営の現状であると言えます。その点で、夏季対策を有効に機能させ生産の季節変動を少なくすることが、経営の安定には非常に重要なのです。

図−5 収支差額と販売金額の月別推移

2.生産の偏りの問題点

 経営実績を分析して得られた結果から、養豚経営にとって生産の偏りの何が問題なのかをもう一度整理してみましょう。

 第一の問題は、言うまでもなく飼養頭数の季節的偏りです。季節的偏りによって効率的な施設・設備の活用ができにくくなります。特に夏季の影響を受けて分娩は3月と7月、8月に集中する傾向があります。健全に豚を分娩させるためにはその分娩母豚数に対応した分娩設備が必要ですが、豚舎建設費の中で最も単価が高い分娩舎を最大使用時にあわせて余裕を持った収容頭数にしておくことは、経済的には決して得策ではありませんし、一般的には年間平均種雌豚飼養頭数を基礎数値として分娩豚房数を決定しているはずです。ですから分娩母豚数の一時的な増加に対応するためには、母豚の分娩舎での馴致期間を短くしたり、あるいは子豚の離乳日齢を早めたりせざるを得ません。しかし離乳日齢を早めることは、離乳豚舎の設備が整っている場合には影響は小さいかもしれませんが、離乳後の豚の発育遅延が起こりがちです。豚の収容可能頭数がじゅうぶんであればそれでも何とか切り抜けられる可能性もありますが、種雌豚飼養頭数を収容可能頭数いっぱいにしている経営が多い現在の状況では、それが肥育豚の全般的な密飼いを誘引して成績の低下をきたす原因になる可能性があります。図−4で見られるように月別在庫肥育豚数は最多時と最少時で約20%の差があり、まさにこのような状況が起こっている実態を示しています。また生産変動の影響は、豚の生産性に影響を及ぼすだけではありません。現在養豚経営の大きな焦点となっているふん尿処理においても、施設の管理に重大な影響を及ぼすものと考えられます。また図−5の収支差額の動きで見られるように、一定額以上の豚価が維持されている場合には何とか利益も確保できますが、価格が下落すればすぐに運転資金の不足に陥ることでしょう。このような経営にとっての不安定要因を少しずつでも解消していかなければ、経営の着実な発展は見込めないのです。

 第二の問題は、豚価の季節的変動に生産をあわせてしまい、豚肉の安定的な生産ができにくくなっているということです。夏季の枝肉生産量の減少がそれを表しています。夏季には肉豚の出荷頭数が減少するとともに、高豚価を動機として、また8月後半からの価格低下を見越した「早出し」が行われており、枝肉重量が小さくなっています。確かに収支差額から見ると夏季は決して収益性が低い時期ではありません。逆に年間利益のかなりの部分を夏季に確保していることが裏付けられています。経営のためにはまず出荷頭数を確保することのほうが安定した品質の豚肉を生産することよりも重要性が高いと言えるかもしれません。しかし、豚肉加工業者や消費者の豚肉の選択肢は今や国産だけに限ったものではありません。また、国産豚肉の競争の中で生き残りを図っていくためにも安定した豚肉生産が欠かせないものであることは、盛んに行われている豚肉銘柄化の動きを見るまでもなく明らかなことです。だからこそ、安定的な生産を行うための環境作りとして生産平準化対策が重要なのです。

3.生産平準化の対策

 図−6は(社)全国養豚協会が昨年度行った豚肉生産平準化事業に関わる生産者の意識調査ですが、豚生産の平準化に寄与する要素として、種付け頭数の確保が最も多くあげられています。つまり生産段階では、夏季に受胎率が低下することを前提として、種雌豚の量的確保を行っていかに受胎頭数を多くしていくかがポイントであると考えていることを示しています。その具体的な方法としては、若雌豚を多く手当てする、経産豚更新頭数を減らすなどがあげられており、経営分析の結果にも見られるように、月別種雌豚飼養頭数で種雌豚頭数が夏季以降に多くなっている結果と一致しています。しかしこのような対応は、生産の一層の季節的集中を招く恐れがあり、またそれが密飼いによる効率の低下、肉質の低下につながる可能性があります。さらに生産量の変動が、それに影響を受けた1kg当り枝肉販売単価の変動とあいまって枝肉重量の季節的ばらつきを大きくし、結果として生産の平準化を妨げている可能性も否定できません。

図−6 生産平準化のために重要と思われる点

 一方、夏の繁殖成績向上のために実際に行っている対策で多いのが、冷水の滴下や送風による物理的な体感温度の低下や、栄養補給による間接的な効果を期待する強化飼料の使用です。実際にどの程度の効果があるのかは実施されている状況によりばらつきがあるものと考えられますが、対策としては最もポピュラーと言えます。次いで多いのは前述の種雌豚飼養頭数の増加を念頭においた種付け頭数の確保となっています。これらは種雌豚側からの対策と言えるでしょう。夏季の繁殖成績の低下には種雄豚側の要因と種雌豚側の要因がありますが、もう一方の当事者である種雄豚側の対策は、交配方法によって着目の程度に違いがあります(図−7)。これは、自然交配経営では「種雄豚の増加」をあげた割合が10%に満たないのに対し、自然交配・人工授精併用経営では「種雄豚の増加」と「人工授精割合の増加」をあわせると全体の3分の1以上が対策を考えていることに示されています。対策のメニューは可能な限り多いほうが望ましいことは当然であり、その点で言えば人工授精は生産の平準化に有効な対策となる可能性があります。

図−7 夏季の出荷頭数増加策

4.生産平準化の効果

 夏季対策の効果が収益に反映される程度を測定することは、経営ごとに条件がさまざまに異なっていることから難しい問題です。すべての経営にあてはまるとは言えませんが、表−2で種雌豚150頭の一貫経営をモデルにして、経営分析の結果から高値月出荷頭数割合の違いが収益にどのような影響を与えるかを試算してみました。

表−2 高値月出荷頭数割合と種雌豚1頭当り収益試算(単位:円)

高い 平均 低い

枝肉売上高 575,309 569,045 564,170
その他売上 31,830 31,830 31,830
売上高合計 607,139 600,884 596,000
収益合計 607,139 600,884 596,000

購入飼料費 287,361 287,361 287,361
診療医薬品費 25,520 25,520 25,520
その他費用 139,928 139,928 139,928
生産費用合計 452,809 452,809 452,809
販売一般管理費 75,195 74,963 74,782
事業外費用 11,224 11,224 11,224
費用合計 539,228 538,996 538,185
経常所得 67,911 61,888 57,185

※費用に家族労働費は含まない

 経営分析を行った24戸の平均高値月出荷頭数割合は47.9%でしたが、この場合の出荷頭数パターンで得られる所得と最も高値月出荷頭数割合が高かった経営(51.9%・図−2の高値月出荷頭数の多い経営)の出荷頭数パターンでの所得を比較してみると、高い経営のほうが年間所得は10%程度増加しています。一方最も高値月出荷頭数割合の低かった経営(42.5%・図−2の高値月出荷頭数の少ない経営)の出荷頭数パターンでは、所得は平均よりも8%程度減少しました。これらのことから、夏季対策の有効性が経営の収益性にかなりの影響を与えているものと考えられます。またこれに加えて、図−8でみるように高値月出荷頭数割合の低い経営ほど高値月の枝肉重が小さい傾向が見られることから、生産平準化により枝肉重量が大きくなる可能性が考えられ、その場合の収益性はさらに改善されるものと推定されます。

図−8 高値月出荷頭数割合と枝肉重量の関係

 なお、月ごとの枝肉重量の月別変動は高値月出荷頭数割合によって大きな違いは見られなかったことから同一のパターンを用いて計算を行い、枝肉販売単価の月別パターンは群馬県食肉卸売市場の過去5年間の平均値を用いました。また、月ごとの一日平均増体重、飼料要求率の変動は無視しました。

 これらの試算は厳密に言えば生産平準化の効果を計算しているのではなく、高値が得られる夏季の出荷頭数が増加したことによる効果を求めていると言えます。真の生産平準化の効果は、安定的な生産に連動した販売価格の安定や有利な販売条件の獲得であるといえるのかも知れません。(つづく)

(筆者:(社)群馬県畜産協会・総括畜産コンサルタント)

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