生涯をかけたブランド
「かごしま黒豚」の生産とその取組み

(鹿児島県高山町 大窪勝さんの経営)

西  浩 一

はじめに

 今回、紹介する大窪さんは、鹿児島県の大隅半島の中央東南部に位置する高山町で、耕種農業から採卵鶏経営へ、そして現在では親子で「かごしま黒豚」の生産に取組む中核的な畜産経営者です。

 当地域の基幹産業である農業の主要作物は、早期水稲、甘藷、果樹、葉たばこ等で、最近特に、早期水稲はアイガモ低農薬米栽培やカルゲン米、有機栽培など消費者の環境や健康に対する関心の高まりに伴い、消費者が安心して購入できる農産物の生産を推進しています。また、山間部はポンカン、ミカン等の団地を形成し、町全域の農業振興策として水田営農活性化対策や活動火山周辺地域防災営農対策事業を導入して、生産性の高い農業経営を推進するとともに農業後継者の確保に力を入れている地域です。

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大窪さん家族

経営の概況

 大窪さんの養豚経営の概要は、奥さんと長男夫婦4人でバークシャー種雌豚120頭の一貫経営で、「かごしま黒豚」の生産に取組んでいます。

 土地の所有状況は、水田25a、畑270a(尿の還元用地)、養豚用地74a、山林400aです。豚舎施設は、昭和57年以降、繁殖関連の施設、肥育豚舎など自己資金と農業近代化資金により施設を整備しながら計画的に規模を大きくしています。

経営の歩み

 大窪さんの経営の推移は表−1のとおり、養豚を初めて手がけたのは昭和31年で、バークシャー種2頭の残飯飼いからだそうです。当時の農業作物の構成は、地鶏30羽、たばこ50a、甘藷200aと耕種農業が主体で、昭和39年に現地に移転して採卵鶏700羽、昭和40年には3000羽、昭和44年には7000羽の採卵鶏経営の規模に発展させました。

 しかし、しだいに所得の絶対額が減少してきたことから採卵鶏経営を断念せざるを得なくなり、経営規模を縮小する一方で、興味があり当時地域で盛んだった養豚に取組みました。当初は、ランドレース種5頭程度で子豚と種豚生産に取組み、少しずつ増頭して昭和48年には、日本種豚登録協会県支部から指定種豚場の認定を受けています。

表−1 経営の推移

年 次 作目構成 規  模 経営及び活動の推移
昭和31年 養豚+地鶏+たばこ
耕作+甘藷
バークシャー種2頭
地鶏30羽
残飯飼い
昭和39年 採卵鶏専門経営 採卵鶏700羽 採卵鶏経営規模拡大のため現地に移転
昭和40年 採卵鶏専門経営 採卵鶏3,000羽 規模拡大のため鶏舎建築
昭和44年 採卵鶏+養豚 採卵鶏7,000羽
ランドレース種5頭
規模拡大のため鶏舎建築
昭和47年 採卵鶏+養豚 採卵鶏7,000羽
ランドレース種10頭
種豚を増頭
昭和48年 採卵鶏+養豚 採卵鶏7,000羽
ランドレース種10頭
日本種豚登録協会から指定種豚場に認定される。種豚を生産し、県畜産共進会へ出品したり地元種豚オークションで販売
昭和50年 採卵鶏+養豚 採卵鶏5,000羽
ランドレース種17頭
青色申告開始(経営主が複式伝票に記入)
昭和52年 養豚専業経営 種雌豚37頭(昭和56年までバークシャー、大型種混合経営) 採卵経営を中止し、養豚経営へ移行
昭和57年 バークシャー専門経営 種雌豚75頭 増頭のため分娩舎260m2
昭和59年 バークシャー専門経営 種雌豚120頭 肉豚舎546m2を建築
昭和60年 バークシャー専門経営 種雌豚120頭 後継者就農
平成02年 バークシャー専門経営 種雌豚120頭 有限会社設立(1戸法人)
平成03年 バークシャー専門経営 種雌豚120頭 施設の老朽化により分娩舎285m2
肉豚舎276m2を建築
平成07年 バークシャー専門経営 種雌豚120頭 東京へ出荷(産直)開始(月150頭)

 その後、一貫経営に一部の種豚生産を取入れて、生産した種豚を全日本豚共進会や県畜産共進会に出品するなど、種豚の改良にも意欲的で、しかも楽しみながら養豚経営を進めてきています。

 この取組みが、さらに養豚への魅力を増すこととなり、大型種の種雌豚を増やし、養豚の専業を志向すると同時に、税務対策も考慮して複式簿記を取入れ自分で記帳し、青色申告を開始するなど新たな経営基盤づくりが始まりました。

黒豚生産への移行

 昭和52年の養豚専業への移行時は、経営の安定性を考慮して大型種とバークシャー種の混合飼育経営を、そして、昭和57年からは世間ではランドレースやLWの大型種の種雌豚がどんどん増えつつある時期でしたが、バークシャー専門経営を志向し、ストール舎を整備して一挙に種雌豚75頭の「かごしま黒豚」の生産に専念するようになりました。

長男の経営参加

 昭和59年には長男がやがて後継者として経営に参加してくれる約束ができたことと、大窪さん自身が高品質「かごしま黒豚」の生産に生涯をかけた情熱と、そして、施設の老朽化が進行していることや、豚舎が不足していたことなども加わって、農業近代化資金を借入れて新規に分娩舎、肥育豚舎を整備して、バークシャー種雌豚120頭の規模に拡大しています。

 昭和60年の春、長男が高校を卒業と同時に後継者として就農し、やがて結婚したのをきっかけに家族4人で養豚に取組むようになってから、家族の労働報酬の明確化と規模拡大による販売収入の増大や経営管理を充実させていく必要がでてきました。このため、平成2年に1戸法人の有限会社を設立し、生産管理と経営管理の両面を充実させ、二家族が生活できる経営規模と経営方式を選択し、その基盤づくりに努めてきています。

産直の始まり

 平成7年には取引先の業者から、自分たちが生産した「かごしま黒豚」を、消費地東京への共同出荷の誘いがあり、その後、半年間肥育豚の仕上がり具合等をみた後に、月150頭の本格的な産直を開始しています。

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「かごしま黒豚」肥育豚群

 高品質の「かごしま黒豚」を生産し、銘柄化を促進するためには「かごしま黒豚ブランド産地指定基準」を遵守しなければなりません。

 また、高品質の豚肉を生産する種豚群を確保するために、近親交配をさけ、県が造成した系統豚サツマとニューサツマをクロスした雌候補豚を計画的に導入したものと在来のバークシャー種の自家保留したものを飼養し、これらの雌に交配する雄は在来のバークシャー種を飼養しています。

 肥育豚の飼養管理は、配合飼料はさつまいもを15〜20%含んだものを給与し、飼育日数(生後から出荷まで)は約8ヵ月を要しています。肉豚の出荷時体重は、取引先の要望に応じて110〜115kgを目安に出荷し、平均枝肉重量は72kg前後で年々大きくなりつつあります。これらの飼養管理体系は、「かごしま黒豚ブランド産地指定基準」と取引先の要望に沿って実施してきており、「質的にも、量的にも約束できる生産体制が絶対であり、個人プレーは許されない」と、大窪さんは言います。

経営の特徴

(1)キメ細かい飼養管理技術

 バークシャー種は産子数が少ないということから、できるだけ母豚の過脂肪を防止するためなるべく緑餌を与えるなど、大窪さん方式の飼養管理を励行しています。緑餌の種類は、冬場はイタリアンライグラスを70aほど作付けして年間42t、夏場はトウモロコシを30aに3回に分けて作付けし、早刈りで年間36tを収穫しています。これを1日1頭当りに換算しますと、種雌豚1頭当り1600gを給与していることになります。

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イタリアンライグラス

 また、子豚の損耗防止策として、分娩はすべて看護分娩を行い生時体重が700g以下の未熟児には、哺乳ビンでミルクを補給し、仮死状態で生まれた子豚もできるだけ人工呼吸を実施するなど、キメ細かい飼養管理を励行しています。

 ちなみに、大窪さんがすべて看護分娩にしているのには訳があります。それは、昭和52〜53年にかけての豚価が好況の時期には無看護分娩を実施していましたが、離乳子豚数が少ないと感じたことから、翌年から全頭看護分娩に切換えたところ、1年後の出荷頭数が約150頭増えたという経験があるからです。大窪さんは看護分娩の重要性を痛感しておられます。

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子数が多くツブの揃った哺乳子豚

(2)有限会社の設立

 長男が後継者として就農し、結婚したのをきっかけに有限会社を設立し、家族の業務分担と役員の報酬制を採入れて、責任の明確化と法人経営の管理能力の向上に努めるとともに、社会保険や厚生年金に加入するなど、就業環境を整備しながら他産業並みの給料のとれる充実した法人経営を家族でめざしてきています。

(3)流通関係者、消費者からの高い評価

 肉豚の枝肉単価は年間を通して一定した価格で取引が行われています。最近の豚肉の生産・流通 動向は、高品質化や銘柄化へ指向しており、大窪さんが生産している「かごしま黒豚」は高品質豚肉の代表的な銘柄として、鹿児島県黒豚生産者協議会の黒豚証明シールを貼るなど生産者としての責務を明確にしていることで、流通関係者や消費者から高く評価されています。

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スーパーの店頭に並ぶ大窪さん生産の「かごしま黒豚」

(4)経営改善への取組み

 大窪さんの経営が、すべて順調にきたわけではありません。大型種主体の一貫経営で規模拡大途中に繁殖成績など技術成績は良好に推移していたものの、過去2回の代位弁済保証と豚舎の施設整備に借入れた資金の返済が滞り、一時経営危機に陥り、経営管理運営のまずさを痛感する時期もありました。

 大窪さんは当時を振返りこう言います。「当時、二家族の生活がかかっていたから必死だった。そのとき、低利資金を融資してくれたJA高山町とそれを支援してくれた高山町、そして、何よりも嬉しかったのは家族が当時の養豚経営に危機感を持ち、家族が一丸となって経営改善のために協力してくれたおかげです」とのこと。このように苦しい体験をしてきたことが、結果としてバークシャー種専門経営への転換や有限会社の設立、そして時代の流れに沿った産直体制の確立など、積極的な経営の取組みにつながり、借入金は昨年11月末をもって完済し、現在では健全経営を実践されています。

  (5)仲間づくりと地域社会の協調

 大窪さんは、県黒豚生産者協議会の会員であるとともに、系列で県全域的に組織するグループに長男夫婦とともに参加しています。グループ員は33名。活動内容は、消費地への共同出荷と年1〜2回の消費に関する実態調査、会員の親睦を図るためのスポーツ大会の開催、全会員が参加する年2〜3回の黒豚ハムづくりなど、食味研修と品質向上のための研修の他、忘年会、新年会、総会などです。お互いの情報収集の場として、元気な仲間たちが顔を合わせる機会を大事にして、親子で積極的に参加しながら親睦を図っています。また、大窪さんは大のゲートボール好きです。

 このように地域社会との融和を図りながら、地域住民との協調性や自己の経営改善に取組む大窪さんの姿勢は、地域の農業経営者や各指導機関の方々にとって大きな刺激と支えになり、地域畜産振興のための推進役として厚い信頼が寄せられています。

経営成果の概要

 経営実績については、表−2のとおりで収益性、生産性、安全性などいずれも安定した経営成績を示しています。

表−2 経営の実績・技術等の概要

診  断  期  間 
 項   目
自 平成09年4月31日
至 平成10年3月31日
自 平成10年4月31日
至 平成11年3月31日




労働力員数(畜産) 家族(人)
雇用(人)
4
0
4
0
種雌豚平均飼養頭数(頭) 119.9 112.6
肥育豚平均飼養頭数(頭) 973 958
年間子豚出荷頭数(頭) 0 0
年間肉豚出荷頭数(頭) 1,942 1,853

所得率(%) 31.9 31.1
種雌豚1頭当り 部門収入(円) 791,984 791,924
 うち肉豚販売収入(円) 791,984 788,727
売上原価(円) 496,134 486,851
 うち購入飼料費(円) 331,799 318,472
 うち労働費(円) 63,309 65,639
 うち減価償却費(円) 36,731 36,407

 

 

 

 

 

種雌豚1頭当り年間平均分娩回数(回) 2.32 2.34
1腹当り分娩頭数(頭) 9.1 9.1
1腹当り子豚哺乳開始頭数(頭) 8.3 8.3
1腹当り子豚離乳頭数(頭) 7.8 7.6
子豚育成率(哺乳開始〜離乳)(%) 93.6 91.0
種雌豚1頭当り年間子豚出荷・保留頭数(頭) 16.5 16.5

 

 

種雌豚1頭当り年間肉豚出荷頭数(頭) 16.2 16.5
肥育豚事故率(%) 1.75 2.94
肥育開始時 日齢(日)
体重(kg)
61
23
61
23
肉豚出荷時 日齢(日)
体重(kg)
240
111
240
110
平均肥育日数(日)
出荷肉豚1頭1日当り増体重(g)
肥育豚飼料要求率(生後〜出荷まで)
180
489
3.16
180
484
3.33
トータル飼料要求率
枝肉1kg当り平均価格(円)
枝肉規格「上」以上適合率(%)(自主格付)
3.74
640
53.5
3.87
634
67.2
種雌豚1頭当り投下労働時間(時間) 70.3 72.9


総借入金残高(期末時)(万円)
種雌豚1頭当り借入金残高(期末時)(円)
種雌豚1頭当り年間借入金償還負担額(円)
2,546
212,394
110,367
1,223
108,641
117,522

今後の課題

 大窪さんのふん尿処理はスラリー方式を採用しており、純農村地帯の利点を活かして自己所有畑270aに、ふん尿混合で散布しています。しかし、最近では地域が混住化してきています。苦情の発生源とみなされないためにも現在では酵素剤を使用した消臭対策や、畜舎周辺に花を植えるなど日々の環境美化に努力されています。

 しかし、環境保全の規制が強化されるなかで、土地還元では自ずと限界があることから平成13年度に高山町が取組む畜産環境整備特別対策事業へ参加することにしています。このことで、今後の養豚経営を担う長男夫婦にとって展望が大きく開けそうです。

おわりに

 高品質の「かごしま黒豚」の生産と産直に取組み、国際化への対応として責任ある豚肉の生産と価格変動に左右されない販売・流通体制の確立、そして、家族一人ひとりが給料をもらえる養豚経営を目指している大窪さん家族。全国的に多くの消費者の皆さんに認めていただいている「かごしま黒豚」を生産しているだけに、今後とも良質な好まれる豚肉づくりと地域との調和を保ちながら養豚経営に励んでほしいと期待してやみません。

(報告者:(社)鹿児島県畜産会・総括畜産コンサルタント)