野シバ草地でゆとりを

(兵庫県津名郡 神野秀子さんの経営)

上 野  透


はじめに

 兵庫県の肉用牛生産地域においては、高齢化や後継者不足などにより小規模飼育農家を中心に経営離脱が進んでおり、加えて子牛価格の低迷によって生産意欲が低下しています。

 従来から肉用牛繁殖経営は女性の力が重要といわれてきましたが、今回、紹介する神野(かんの)秀子さんの経営は、そのようななかにあって、繁殖成績が良好で、特に飼養している繁殖牛の分娩間隔が初産牛も含め12.6ヵ月とほぼ1年1産を達成しています。また、飼養牛は自家産が中心で、施設・機械についても中古資産の利用が多く、これに加えて野シバ草地の造成・放牧による省力化により、低コスト生産に取組んでいます。

1. 花の島「淡路島」

 神野さんの住む兵庫県津名郡東浦町は、兵庫県の最南端、淡路島の北東部に位置し、面積は24.7km2で南北に細長くなっています。東は大阪湾を臨み、海岸沿いに平地が開け、西は標高300〜500mの山地で平坦地は少なく、帯状の棚田が存在しています。

 気象条件は、瀬戸内気候帯に属しているため、温暖な気候に恵まれ、年平均気温は16℃で積雪になることはほとんどありません。しかし、年間降水量は1288mmと少なく、このため全国有数の溜池地帯となっています。

 阪神圏に近接しながらも、明石海峡がその影響を阻害していましたが、平成10年4月5日に明石海峡大橋が開通し、神戸市垂水区とは約10分で結ばれました。また、同時に「あわじ花さじき」がオープンしたのをはじめ、今年の3月18日から9月17日までの184日間、淡路花博「ジャパンフローラ2000」が淡路町、東浦町で開催されるなど観光地としての脚光を浴びています。

 
草地のむこうは播磨灘   神野さんの姿に集まる牛たち

2. 経営を支える家族

 家族は、本人、夫(55歳)、父、長男(24歳)夫妻と孫の6人です。経営地は水稲150a、牧草地190a、野シバ草地85aで、繁殖牛16頭を飼育しています。ご主人は農協職員、長男は会社員で、肉用牛繁殖経営は神野さんとお父さんが中心となっています。しかし、大きな機械を操作する作業などはご主人や長男が担当するなど、家族がそれぞれの立場で経営に協力しています。最近では3歳になる孫が牛舎へ来て、エサやりを手伝ってくれるようになり、一番頼り(笑い)になるということです。

3. 成果への道のり

 一家の畜産へのかかわりは、昭和36年ごろ、お父さんが乳牛5〜6頭を導入して酪農を開始されたことにはじまります。昭和55年には国営パイロット事業の一環として補助事業で20頭牛舎を建築し、乳牛から和牛に切換えました。その当時は和牛は8頭でした。

 経営が軌道に乗りかけた平成元年に、牛舎の補修のためのサビ止めを舐めた子牛4頭が鉛中毒にかかり、そのうち3頭を死亡させるという事故がおこりました。この事件を契機にちょっとした油断が経営を大きく左右することを学びました。払った代償は大きかったものの、この教訓が経営発展の礎となったといいます。

 平成9年11月、省力化のため、県の補助事業により牧草畑45aに電気牧柵を張り、野シバを植えました。その後、平成11年8月には、牧草畑40aを野シバの放牧地とし、合計85aとなりました。

4. 経営のポイント

 平成10年の成績では分娩間隔12.7ヵ月、受胎に要した種付回数1.2回と、良好な繁殖成績を維持しています。特に期末時点に飼育している成雌牛の初産から当期までの総分娩間隔は12.6ヵ月とほぼ1年1産を実現しています。

 日齢体重からみた発育も雌0.840kg、去勢0.979kgと良好で、子牛の販売成績は雌で39万円、去勢で48万円となっています。市場平均価格比でみると雌106.7%、去勢119.8%と、子牛価格が低迷している時期にあって有利に販売しています。

 また、生産コストを抑えることに努めています。補助事業を利用することや中古資産の導入によって、建物・機械器具の減価償却費が少ないこと、現在飼養している成雌牛・育成牛16頭のうち11頭が自家産牛で占めていること、働きやすい牛舎で作業動線が短く、放牧地の利用によって労働時間が短縮されたこと、自給飼料の生産により購入飼料費が抑えられたことなどにより、子牛1頭当りの生産費用は36万3000円となっています。

 自給飼料はのべ395aに作付けし、TDN収量2万500kgの生産をあげています。TDN1kg当りの生産費は52円、飼料のTDN自給率な68%と良好な成績をあげています。

 優良系統を保留するために、素性の明らかな後継牛を残していくことに努め、繁殖成績が良好なものや、産肉成績の良いものを中心に保留しています。

5. 野シバ草地への取組み

 労働力不足から、牧草の刈取り時は臨時雇用者に頼っていましたが、重労働のうえに経費がかかることから、平成9年11月に県や関係機関の指導もあって、牧草の栽培を行っていた飼料畑に野シバを植えつけ、放牧を行い作業の省力化を図りました。余裕のできた時間は子牛の育成に充当しています。

 放牧の実施状況や放牧実施前後の飼料費と労働時間の変化は、表−2表−3のとおりです。放牧は4〜12月の期間は雨の日以外は11〜18時までの7時間、1〜3月の期間は天気が良く暖かい日だけに行っています。野シバの生育が良い6〜8月までの間は放牧地での採食は旺盛となっています。

表−1 放牧の実施状況

放牧地の面積0.85ha
放牧頭数16頭
放牧形態時間放牧
放牧期間300日(4〜12月)
牧柵の種類電気牧柵

表−2 繁殖牛1日1頭当り飼料費の変化(単位:円)

濃厚飼料購入粗飼料自給粗飼料
舎飼時1801245237
放牧時1611242215

表−3 繁殖牛1日1頭当り労働時間の変化(単位:分)

飼養管理飼料生産ふん尿処理
舎飼時8.97.15.021.0
放牧時8.65.94.819.3

6. 環境にやさしく

 牛舎は播磨灘を見渡せる高台にあって、天気の良い日の播磨灘に沈む夕日の美しさは映画のラストシーンを見るようなすばらしい環境のなかにあります。環境への配慮は、畜産経営を続けていくためには、避けることのできない問題です。ふん尿は、固液分離を行い、ふんはたい肥舎においてたい積発酵、尿は尿溜槽へ投入しています。たい肥・尿とも牛舎に隣接する牧草地へ土地還元をしていますが、自家分では不足する状態だといいます。

 淡路島は、島全体がリゾート地として脚光を浴びています。牛舎の近くには県が造成した約16haの「あわじ花さじき」があり、四季を通じて観光客が訪れます。また、牛舎周辺が観光ルートの1つになっています。消費者に安全な食料を供給することからも、牛舎周辺の美化や衛生管理に努めていくことが大切です。

 また、淡路花博が開催されるのをきっかけに、淡路島すべての畜産農家が参加して、畜舎の周辺に花を植える運動を推進しています。神野さんは平成10年9月に、島内環境美化コンクールにおいて最優秀賞を受賞するなど環境美化に積極的に取組まれています。

7. 今後の発展のために

 現在、子牛価格が低迷していますが、神野さんは肉用牛と水稲と農外収入の複合経営として、トータルとしての所得の確保をめざしています。

 現在飼養牛の平均年齢は6.9歳と高くなっていますので、今後も自家産を中心として、産肉性、繁殖性、市場性の高い牛を揃え、牛群の整備を図っていくことが大切です。

 部会活動にはこれからも積極的に参加し、技術の研鑽・研究、情報の収集はもちろんのこと、親睦を深め仲間とともに歩んでいただきたいと思います。特に子育てが終った女性がメンバーとなっている「あわじ和牛愛好婦人友の会」では、同じような環境の仲間との交流を深めています。

 現在、神野さんは和牛育種組合の婦人部長や和牛育種組合地域支部婦人部長の大役を務めるなど地域のリーダーとして活躍されています。これらの活動を糧に地域の和、経営の向上にさらに努めていただきたいと思います。


おわりに

 所得をあげることも大切ですが、体や心にもゆとりのある経営でなければならないと思います。子供が自立し、ご主人もあと数年で定年を迎えます。「これからが夫妻の時間となり、今後は二人で楽しみながら経営に取組んでいきたい」と神野さんは話します。

 野シバ草地を造成し、放牧によって経営にゆとりを求めた取組みの一端を紹介させていただきました。女性は今後とも肉用牛繁殖経営の重要な担い手であるといえます。神野さんの取組みが同じような環境にある方々の参考となり、神野さんが地域リーダーとしてますますご活躍されることを期待しています。

(報告者:(社)兵庫県畜産会・総括畜産コンサルタント)