酪  農=経営再生〔III〕

─ 切札は多頭化!─

村 上 明 弘

III.多頭化

 投資を伴わない経営の再生は、ほとんどありません。

 経営困難な農場は、大抵、牛も機械も施設も…そして人もガタガタです。特に牛はこの世の物とも思えぬ惨状になっています。見た目のヒドさもさることながら、そうではなく、姿はまことに健全なのにすでに「経済的死」を迎えているか、またはそれ寸前の牛も多々います。日乳量は既に20kg以下なのにまだ種付け中だとか、もう乾乳寸前なのに分娩までまだ半年以上もあるとかの牛です。さらにそのような農場では、近腹の育成牛はわずかしかいません。親牛の頭数も少なく、空き牛床が目立ちます。

 もちろん、中には、牛も健全で頭数もまあまあ揃っているのに収支だけ毎年合わない農場もあります。そのような経営は、収入の大本である牛の飼い方はうまいのだから、何か大きく突出している「趣味的支出」を止めさえすれば、再生は容易(かえって厄介?)なはずです。

 技術がほぼ全面的に不十分で、何がなんだか訳の分からない困難農場が、はじめのような無惨な牛群になっているのです。

 収入を即効的に増やす手段は、昨年連載の復習になりますが、以下の5項目です。

 ・無駄なコストの解消

 ・購入する資材単価の引下げ

 ・生産資材の有効な利用

 ・個体当り乳代金の増加(持続的な)

 ・頭数規模の拡大(多頭化)

 軽度な経営困難なら、大抵は個体成績の向上までの4項目で済むでしょう。しかし、重度な場合、結局は搾乳牛頭数の増加、すなわち「導入による多頭化」に行着きます。

 ただし、その多頭化は、牛を駄目にしない、その資産価値をじゅうぶんに引出せる、そんな基本技術をそれなりに身に付けてからが絶対条件です。繁殖をうまく回せない、分娩と産褥期トラブルが多い、太り過ぎと痩せ過ぎの牛が目立つ、乳房炎で出荷できない牛が常在しているなど、牛の資産価値をたちどころにダウンさせているようでは、導入どころの話しではありません。

 牛を健全に飼う技術が高まった後、多頭化した場合は、かりにその後、酪農をやめる事態になっても、乳牛個体の資産価値(残存価額)は高いわけですから、多頭化のための乳牛導入という支出は、小さな価値の目減りで済むことになるわけです。

 そこのところが牛と機械施設の導入との大きな差異なのです。もちろん、その処分時の相場次第ではありますが。今持っている機械や施設が余程な不備・低性能で、生産性向上にとって大きな足カセになっていることがない限り、乳牛の導入の方を優先すべきなのはそういう理由によるわけです。機械や施設はかなり良い条件が揃わない限り、販売時における価値の目減りは大きなものになります。

1. 淘汰する牛のタイミング

 酪農の生産性を評価する重要な一つの考え方は、牛床当り産乳量がどのくらいあるかです。

 生産性にとって、まもなく不利な状態になる事が判明した牛を、どんなタイミングで販売するか、これが単純そうで意外に難しいのです。

 日常的な仕事の中で、どうせほぼ同じコストや作業を要するのなら、少しでも生産量を増やすのが、再建の地味な下支えになります。その場合、今ある施設や労力の中で、少しの仕事増なら我慢してでも、やり遂げることが肝要です。

 牛床当りの生産量を増やす方法は以下のとおりです。

 (1)日乳量のより多い牛を揃える。

 (2)搾乳牛でできるだけ牛床をうめる。

 (3)搾乳牛による牛床の回転率を高める。

  (別小屋での乾乳牛飼養や入換え搾乳)

 しかし、牛床が空くからといって、損をしてまで搾乳牛を飼うのは論外です。どのくらいの日乳量で淘汰すればよいのか、限界量を決めねばなりません。

 搾乳牛を飼っていれば直接的にかかる経費は種々あります。その中でも、電気代や洗浄殺菌剤代などは頭数の多少では大して変わりません。そういうたぐいの経費は多々あります。差が生じるのは飼料代です。乳代収入が飼料代プラスα以下になった時は、いくら空き牛床があっても、飼うだけ損です。せめてタバコ銭くらいの実入りがないと搾る気がしません。しかし、そのギリギリの時点までは、空き牛床がある限り飼い続けるべきでしょう。特に再建時は…。

 通常の体格の牛は、乳量15kgで乾物摂取は16kg強、乳量10kgなら15kg弱です。乾物1kgの平均価格が40円のエサなら1日640〜600円。その他、添加物や敷料代や飲水料などのプラスαを50〜100円として、1日700円くらいでしょう。乳価90円なら乳量10kgで900円、タバコ銭くらいは出ます。乳価75円なら、乳量10kgではエサ代等が500円強以下でないと合わなくなります。このあたりが空き牛床のある場合の淘汰タイミングとなります。

 その時、隣牛のエサを盗食した分とか、搾乳中肥育による増えたエサ代分は、淘汰時の増加した肉代金で相殺します。搾乳しながらの肥育は存外に効率が良く、乳量の低下も鈍ります。若い牛は高い肉値も期待できます。

 もっとも、いつも空き牛床があるわけではありません。まだ利益が残っている淘汰予定牛でも、牛床の数以上に飼うことは不可能です。利益のあまりにもわずかな牛を入換え、搾乳やフリーストールの密飼いまでして飼う理由はありません。かといって、廃用にし過ぎて空き牛床をつくるのも損です。その場合は、淘汰予定牛に順番を付けておくと無難です。新しい搾乳牛の加入があるたびに、その序列で淘汰してゆくのです。乳量とその減り方、乳質とくに体細胞、搾乳のしづらさ、肉量と付くスピード、選び食いや盗食のクセを配慮して順番を決めます。

 もちろん、いつも牛床を満杯にしておかねばならない理由はありません。肉値の相場が有利になったら一気に売却するセンスも必要です。しかしその場合、肝心なのは、その収入でなるべく早く「初妊近腹牛」を導入することです。

 こんな細かいことをと思うでしょうが、次に説明する導入方法とともに、ここのところのタイミングが外れていて、積もり積もって大きな収入減少を来している場合が多いからです。

2. 淘汰決定の判定法

 たとえ妊娠がプラスであっても、更新牛の準備具合や購入牛の相場との関係を検討し、淘汰を予定せねばならない牛もいます。「適正な淘汰の決定」さえ下せばこそ、次の方向も明確に見えてきます。それは、次の導入牛の購入時期とか、その牛の搾乳中肥育の開始時期とか、空胎牛ならその後の種付けをすべきかどうかや付けるなら何の種類にするか、などです。

 では、妊娠プラス牛の淘汰時とマイナスの時に分けて判定例をあげます。

(1)妊娠プラスの牛

 図−1に沿って説明します。

図−1 妊娠が遅れた牛の淘汰・入換え判定法

 焦点の牛はA牛です。3産目で能力は中程度。この牛は1月1日分娩です。現在は10月1日です。種付け後60日目に妊娠鑑定したら プラスでした。最終種付けは8月10日(分娩後250日)で、次の分娩予定は翌年の5月20日になります。現在の日乳量は20kg位です。収支が合わなくなる乳量10kgになるまで後3ヵ月位しかありません。1日の減乳量が100g弱だからです。

 繰返しになりますが、なぜ10kgかといいますと、乳量10kgの牛は乾物で大体15kg食べます。乾物1kgの平均飼料価格が約40円なら、15kg×40円=600円になります。その他、添加物や敷料や水などを加えると、直接経費で大体700円前後になるでしょう。乳価を100〜75円とみると乳代でせいぜい1000〜750円です。乳量10kgではもうほとんど利益が出ないことになります。

 次の乳期で搾るとしても、12〜13kgの乳量になると、かえって、過搾乳による乳房炎や横盗り採食等による過肥状態のリスクが高まるため、搾乳を続ける根拠がありません。

 このA牛は乳量10kgで乾乳しても、その後、通常の乾乳期間2ヵ月に、さらに80〜90日の無駄な飼養期間が生じます。乾乳牛は乾物で13kg弱食べます。乾物1kg36円の飼料を給与した場合、13kg×36円=468円になり、添加物を入れると約500円になるでしょう。80日間の無駄飼養なら、4万円にもなります。廃用にすればそれだけはまず浮きます。

 このA牛を乳量10kg時点で販売し、同時にあと2ヵ月で分娩予定がある初妊牛(C牛)を購入するとします。ただし、今いる牛で牛舎が満杯なため、購入牛の入れ場所がない場合です。その廃用時の価格を、種々ありますが、とりあえず肉値で8万円とします。

 この2つの直接的な収入を足すと12万円になります。その無駄な飼養期間中は手間もかかります。その間の横取り採食による隣牛の生産性低下も生じます。また、廃用時点での同時購入で、A牛比で80日間も先にC牛は分娩し前倒し生産(産子と産乳)できる利点も見逃せません。

 このような前倒し生産が、当該年の収支や2〜3年後の収支でどのように影響するのか、私には計算不能です。しかし経験上、相当な好影響を得ることは確かです。ましてや、飼養場所に空きがあり(だいたいはある)、A牛の廃用以前に初妊牛を購入できるなら(B牛の例)、さらに大きな前倒し収益を期待できます。

 この他にも、A牛のような繁殖不振牛にありがちな太り過ぎやそれらに由来する分娩前後のトラブルなどのリスクが、販売によりなくなります。さらに、産次を重ねた牛と初妊牛とのチェンジにより残存価額が高まります。

 また、厳しい淘汰の圧力は経営者に緊張感が芽生え、本気の繁殖管理に目覚めます(逆にユルむ人もいるかも?)。

 ただし、初妊牛を購入するタイミングはその分娩予定日の2ヵ月前とします。ですから、A牛の通常乾乳期間と同じ飼養日数なので、その間の費用は相殺します。また娩出子の価値も初妊牛と淘汰A牛で同じにします。

 私の経験では、経営困難な農場ほど、乳牛を分娩間近で購入する事が多いようです。最近の育成牛は広い所で自由に飼われ、狭い所での寝起きに不慣れです。また、その他さまざまな条件の差異が移動先の農場にあります。さまざまな意味の馴致を必要としています。環境変化にストレスは付き物です。ショックが少ない状態で馴致させねばなりません。ですから、ある程度期間が必要です。臨月状態にならないうちに馴致する必要があります。そのためには分娩まで最短で1.5ヵ月、できれば2ヵ月以上の期間を持って購入してください。また、安かろう悪かろうという牛か、意味もなく割高な牛を購入する傾向が、切ない農場にはあります。さらにいうなら、なぜか初妊ではなく経産牛を買うのも目立ちます。一般的には、出した農場の内情をハッキリ知らない限り、産次を重ねた牛は、経営再生を望む農場において不利が目立ちます。健全な初妊牛を導入すべきでしょう。

 一方、購入初妊牛には以下のマイナス要因があります。購入に35万円前後かかります。また初産次の産乳水準が経産牛より年間で1000kg強少ないでしょう。さらに、馴致ミスや難産などの初産次リスクもあります。

 以上のようなプラスとマイナスの要因を、現金的な収支の面と間接的・感覚的な収支の面とで、的確に評価し、その牛を残すべきか、入換えるべきか判断しなければなりません。判断材料にはこの他にも、分娩月による年間の乳量差(季節性)、季節による乳価の差、胎子の個体価格差、初妊牛や廃用牛の相場変動、廃用予定牛の年齢・体格・産乳能力・性質・搾乳の難易性・疾病傾向・乳質などがあります。

 直接の収支だけなら、この図−1の例の場合は35万円−12万円=23万円です。この余分に現金支出する23万円に関し、感性的評価をし、残すか淘汰更新するか決めるわけです。

(2)妊娠マイナスの牛

 日乳量20kg以下で発情があるようなら、余程の事情がない限り、もう授精しても仕方がありません。後3〜4ヵ月間で乾乳なのに分娩はその遙か彼方だからです。3〜4ヵ月以上も無駄な飼養期間があるようでは、存在価値を失ったも同然です。有利な販売条件のタイミングでお別れすべきでしょう。

 しかし、23〜24kg位産乳しており、あと1〜2回の種付けをしたいなら、和牛精液の安い方を使うべきでしょう。その理由は、まだ留まらない確率が高いし、もし留まっても淘汰される可能性の方が大きいし、もし留まって残しても過肥による難産が起こりやすいのでF1胎子の方が軽いお産で済むし、もし搾乳用として売れる場合はF1胎子の方が有利かもしれないという事です。ただし、安くても血統は配慮した方がよいでしょう。

 分娩後7〜8ヵ月以上経て、日乳量25kg以下で発情があるようなら、明確に淘汰を意識し始めるべきでしょう。肥育モト牛としての条件が有利な牛はハッキリと搾乳中肥育に管理転換した方がよいでしょう。ただし、条件が不利な牛にまで肥育の費用をかけられないので、その区分は明確にします。

 肉質を良くするためには5ヵ月間くらい要するようです。肥育用の濃厚飼料を多給すると乳量も減り方がゆっくりになります。産肉と産乳の両方に効果が出ます。

 かりに、5ヵ月間(150日)、単価40円の肥育用のエサ1日12kg給与したとします。すると、150日×12kg×40円=7万2000円の濃厚飼料代になります。その間の粗飼料は乾物で1kg40円のものを1日5kg食うとすると、150日×5kg×40円=3万円になります。その合計は10万2000円です。

 一方、肥育しないで飼っても乳量は5ヵ月間平均17kg位出ます。その間、濃厚飼料は1日約4kg使います。単価40円とすると、150日×4kg×40円=2万4000円です。その間、粗飼料と中間飼料で1日乾物14kg弱採食します。乾物1kg36円として、150日×14kg×36円=約7万6000円になります。その合計はちょうど10万円です。

 飼料代としては、両方の場合ともほとんど同じくらいです。しかし搾乳中肥育の方が乳量の目減りが小さく、少なくとも平均2kgは日乳量が多いでしょう。丸々利益の乳が、乳価80円として、150日×2kg×80円=2万4000円多く出ます。さらに肉値の増加分が加わります。何もしないで廃用牛にするより、搾乳中肥育の牛は少なくとも4〜5万円は利益が殖えるでしょう。うまくすれば結構な額になるでしょう。結局、少なくとも合計6〜7万円以上は利益になります。今までの計算は転売できる手持ち粗飼料を前提にしています。

 繋ぎ飼いによる搾乳肥育は、繋留場所を替え、他の搾乳牛のエサの影響がないように別飼いしたいものです。

 同じ廃用でも、このような方法で少しでも価値を増やして販売したいものです。そして、販売と同時に、2ヵ月後くらいに分娩する初妊牛を購入します。もちろん、飼う場所が空いているなら事前購入しておく方が、通常は有利です。

3. 導入のタイミング

 現有の施設で、牛床数や搾乳システムなどの条件を可能とする規模まで、購入によって多頭化するのが経営再生の近道となります。もっとも、自前の更新牛がじゅうぶんにいるのならば最良ですが、大方の場合は無理です。ただし、購入してまでも多頭化する場合は、クドイようですが、牛を駄目にしない技術を確かなものにしてからです。

 その場合は下記のことを配慮して、上手に牛を導入してください。ともかく、困難農場が導入する時は、妙に相場の不利なときに集中したり、気候の厳しい時にぶつかったり、経営主の趣味的なものが入ったり、斡旋側の都合があったり、分娩の近過ぎる牛が多く回ってきてトラブルが多発したりと不都合が目立つものです。

 ・利用できる資金の種類とタイプ

 ・資金調達のタイミング

 ・労働力の年間配分

 ・入れる施設の有無と状態

 ・飼料調達の条件

 ・乳牛価格の変動

 ・季節的な乳価変動との関係

 ・既存牛群の分娩分布(搾乳牛の配分)

 ・暑熱や寒冷との関係

 ・牛本来の泌乳生理(季節による生産の差)

 ・分娩予定日までの期間

 ・在胎牛の種類

 ・馴致、順応の程度(状態)

 ・体格、性格、肢蹄などの特徴

 特に以下には留意してください。

 (1)季節的な配慮、すなわち、分娩時期に関し、過酷な季節(梅雨、盛夏)をはずしたり、光周期的に有利な季節(真冬、放牧主体なら初春)を利用したりします。

 (2)人、他の牛、温湿度、場所、繋ぎ方、飼料タイプ、器具器材などに対する馴致順応のレベルを見極め、その状態に合わせた慣らし方をすること。このことは本当に気を付けること。

 資産価値の一番高い初産分娩の時点で、新規参入牛に対する馴致の技術が未熟なために、精神的、肉体的なストレスや外傷を激しく受けてしまう牛がいます。かろうじて生きながらえても大きく生産性を低下させてしまっているか、廃用かです。

 たとえば、冬でも長毛コートと断熱皮下脂肪で汗だくになりヒートストレスを受けている牛、初めて繋がれて前膝を強くコンクリート仕切りにぶつけ腫れあがっている牛、繋がれたままの寝起きが不慣れで横壁や仕切りに体をぶつけている牛、近くの牛が恐くて縮みあがっている牛、粗飼料は制限されて飼槽にないのに濃厚飼料は増給され腹が変になっている牛、寝起きもままならないのに首吊り状態で繋がれたまま出産を余儀なくさせられている牛、初めての搾乳器具なので不安で足を上げたら激しく叱られミルカーと人間不信におちいった牛、味わったことのない匂いと味の魚粉とかを与えられ食欲不振になっている牛など枚挙にいとまがありません。

 ここのところを大きく技術アップできないなら、初妊牛よりも体験豊かな経産牛を手に入れた方がまだましでしょう。

 牛の飼われ方が極めて多様な現在、導入時の牛の状況を的確に見抜いて、それにあった馴致管理をすることはとても大事な技術です。

 それはまた大きな利益を呼込みます。このことは、自分で育てた初妊牛があがってくる時もほぼ同様です。

 (3)肢蹄をよくチェックしてください。近年の哺育や育成の飼養環境には、肢蹄の発達に関し、軟弱で、細く、小さく、かつ異常な形で発育し易い状況が目立ちます。

 体の土台が不安定では、資産価値は大きく劣ります。少々体格的に小さいくらいなら、それはその後の技術でいくらでもカバーできます。しかし、当初からの肢蹄の変形軟弱は、後の技術的カバーに限界があります。蹄形や蹄質、蹄面の大きさやバランス、繋ぎの強さ、飛節の形、関節の太さと安定、立ち幅と方向、歩様の力強さや滑らかさをよく見て購入してください。

 (4)はじめから性格的に危険な牛は導入を避けます。人に対し異常な恐怖感や敵がい心や仲間意識や支配欲を持っている牛がいます。これは危険だし管理に無用な神経と手間を要します。人との主従関係を、信頼のある中で保つことができる牛が最良のようです。

 生まれつき、家畜的に悪性質な牛はほとんどいないでしょう。たとえば、人やミルカーを蹴飛ばし続ける牛も、たいていは、初めて牛舎に入れる時や初めてミルカーを使う時の大騒ぎでそういう性格にさせてしまったのです。すなわち人がうまくしつけられなかった結果なわけです。腕の良い?管理者なら、その悪性質をコントロールできるかもしれませんが、普通は避けた方が無難です。このような牛は困難農場になぜか多く見られるものです。多頭化対策でたくさん牛を導入するときは、特に注意してください。

 (5)初妊牛ではなく、経産牛を導入する経営主がいます。しかし、経営を再建したい場合はどうかと思います。繰り返しになりますが、お産を重ねた牛は、必然的に何かしらの問題を抱えている事が多いものです。少しくらい見ても分かりにくい、クセや繁殖性や代謝病や体細胞などです。資産価値も劣ります。極めて価格的に有利か、余程売り手の農場に信頼をおけるか、でないかぎり経産牛は不利です。

4. 乾乳牛の別飼いによる多頭化

 搾乳できる牛床や牛舎に乾乳牛が飼われているのは、産乳効率を制限します。乾乳牛を別の場所で飼い、空いた所を牛の導入でうめるのは手っ取り早い多頭化の方法です。しかも、搾乳牛の中に乾乳牛がいることによる、横盗り採食の害、特別管理の困難さ、作業的な流れの混乱を回避できます。すなわち、簡単で最も効果的なグループ分け管理になるわけです。

 別飼いすると、例えば50頭分しかない繋ぎ牛舎でも、搾乳牛率を83%として、50kg÷0.83=60頭強の経産牛を飼養できるようになります。すなわち平均10頭の乾乳牛を別飼いするわけです。

 ここで注意を要するのは、多くの場合、分娩には時期的な偏りがつきものだということです。牛舎のベット数以上に牛を飼えば、搾乳牛が牛舎からあふれることが時期的に起こるということです。搾乳牛数がベット数を超えると、結局、早めに乾乳せざるを得ない搾乳牛が出ます。多くの牛にこの搾乳の早期打切りが起こるようでは、乾乳牛別飼い多頭化の値打ちが落ちます。通年的に分娩が散らばるように、導入時期や牛の売買により調節する必要があります。

 フリーストールやフリーバーン牛舎なら、さまざまな調節方法があるので、その辺の融通はかなり利きます。

 入換え搾乳をしてまで、分娩ムラを調節しようとすると、労多くしてかえってマイナスとなるのが、困難農場の常かと思います。

 一方、この方法の弱点のひとつに、座席指定の難しさがあります。毎日、牛を屋外に出す飼い方は、席決めで混乱します。自由席はカウトレーナを使えず体を汚します。できれば、搾乳牛の繋ぎっぱなし管理をしたいものです。その代わり、乳牛の安楽性はじゅうぶんにとってあげます。

 乾乳牛を別飼いするといっても、わざわざ施設を新設するようでは再建は成就しがたくなります。ましてや既存の搾乳牛用牛舎を増築してまで多頭化するのはかなり疑問です。一般農場であっても相当なハテナ? マークものです。わずか14〜15頭そこそこの増頭のために複雑な施工をし、バーンクリーナやパイプラインを延ばし、給水具やカウトレーナをセットし、たい肥場まで広げるなど、完全フル装備の大投資増築をしても、仕事の辛さは加速し、しかも増頭はわずかということになります。

 少ない投入で大きな生産増を得るようにしなければなりません。乾乳牛にはできるだけ行動の自由や安産を保証し、かつ作業も手間取らないことがたいせつです。牛舎内や周りには案外使える建物や広場があるものです。そう簡単にうまいものを作れはしないけれど、農場の人とともに悩み、検討すれば、たいてい何とか設計施工できるものです。思いもつかない場所や建物が宝になることもあります。

 乾乳牛舎の設計には以下のことを留意し、図−2のフリーストールの場合を参考に、別 飼いによる多頭化を試みてください。管理さえじゅうぶんなら、フリーバーンやビニールハウス牛舎でもよいでしょう。予算が大きくなる要素は少ないので、新設フリー牛舎でも可です。

図−2 乾乳牛別飼い牛舎の設計例

〈設計の留意事項〉

 (1)入る頭数に季節変動があります。

 分娩が偏ると、乾乳牛が多くなり過ぎることが起こります。その時は、乾乳にしても、乾乳牛舎が空くまで搾乳牛舎の方に入れておきます。繋ぎ飼いの場合は、エサの横盗りをしにくい場所に移動して繋ぐか、モクシで顔の振幅を制限し盗食を防ぎます。

 別飼い乾乳牛舎は、通常、平均分娩頭数の最大30%増しくらいのベット数か広さにします。60頭の経産牛数で年1産、乾乳期間2ヵ月なら、60×(2÷12)×1.3=13頭の牛床数ということになります。

 (2)当然ですが、搾乳がありません。だからどうした?とおっしゃるかも知れませんが、それは、搾乳がないので乾乳牛はその場に居続けるわけです。すなわち、定期的に行う除ふんや敷料入れ作業を困難にします。必ず、容易に牛を作業の邪魔にならない所へ移動できるようにしなければなりません。閉じ込められる通路が並行2列あるか、パドックなどです。

 (3)できれば、クロースアップ期や過肥牛の別管理のために、2群に分けられること。

 (4)混合飼料の不断給餌ができない場合は、濃厚飼料の割当て採食のために、連動スタンチョンを付ける。

 (5)最も体重のある時なので肢蹄への負担も極大化します。通路や牛床の段差をできるだけ低くします。ソフト感やぬくもりのある建築素材を使います。牛床は最高の安楽性を保証します。通路にはじゅうぶんな滑り止め施工やソフト材(ゴムマット通路床や切断ワラやオガコの散布)の利用をします。できれば、コンクリートでないソフトな場所にも行き来できるようにします。

 (6)冬の光は奥まで差込み、夏の光はほとんど入らない設計がよいです。

 (7)できれば、安産し易く、衛生的で、管理し易い分娩場をセットします。

5. 繋ぎ飼いによる分娩前後牛の特別施設

 前回、前々回でクドクドと説明を繰り返した分娩前後の特殊性を理解するなら、この間を特別管理する価値がとても大きいことに気付くはずです。

 別飼いの施設において、クロースアップ牛や分娩牛管理をうまくできない場合、分娩予定に近い1週間から10日の間、分娩牛を繋ぎ飼い牛舎の中の特別な牛床で飼う値打ちはあります。その場所にはまた、分娩から10日間くらいの産褥牛を一緒に繋いで管理すると、一段と技術的な価値がアップします。

 すべての牛の安楽性改善はすぐにできなくても、このわずか20日間分くらいの頭数の牛床は何とかなるはずです。連続水槽使用の繋ぎ方かニューヨークタイプ(1本マセン棒)の繋ぎ方、ゴムチップ入り敷布団か細かい砂のベット、飼槽面のツルツル仕上げ、送風ファンの特別配置の仕様にするわけです。

 分娩前後20日間分なら、分娩集中50%増しの改造牛床数を揃えても、50頭の経産牛規模なら、50頭×(20日÷365日)×1.5=4頭強です。体も重くて太いから隣が空きやすいように、分娩中の牛の分は特別広めに2頭分取ることにして、多めの準備をしても6頭分もあればじゅうぶんでしょう。

 その設計例を図−3に示しました。

図−3 繋ぎ飼い移行期牛の特別施設

 細目砂の利用は牛が泣いて喜ぶ位の気持ちのよい敷料なのですが、風に舞上がる、飼槽に入る、ミルカーが吸う、バーンクリーナがすり減る、吸水性がないのでふんがだらしなく広がる、たい肥処理に困難があるなどの弱点があり使われにくい面があります。しかし、無菌的、ベットメーキングのし易さ、特に牛がこよなく気持ちよくなる、入手や格納のし 易さは大きな魅力でもあります。わずかな頭数の分なら短所も大して気にならないでしょう。

 生理的激変などによる最大ストレスのかかるこの移行期を、砂の敷料や連続水槽などで最上級な安楽性の提供をし、じゅうぶんに保護したいものですネ!。

(筆者:北海道十勝北部地区農業改良普及センター・主査)