山間地での和牛振興に夢をのせて

 

佐 藤 功 憲


はじめに
 今回、ここに紹介する岸本さんの家族は、鳥取県の東部に位置する岡山県と兵庫県との県境の智頭町で和牛繁殖・肥育一貫経営を行っています。

 智頭町は、山間地で林業と農業を中心に栄えている町です。

 また、古くから肉用牛の飼育が盛んで因伯牛の産地としても知られている地域です。

岸本さん家族


1. 経営の概況
 経営者の真一郎さんは現在49歳で、家族構成は本人と奥さんの加代子さん、そして畜産の勉強をしている長男(研修中)、次男(高校生)、長女(高校生)と両親の7人家族です。

牛舎風景

 昭和48年に勤めていた国鉄をやめ、Uターンして、肉用牛経営を始めました。

 現在の経営規模は繁殖牛39頭、肥育牛32頭の繁殖・肥育一貫経営です。

 仕事の方はおもに夫婦で行っていますが、土・日曜日には長男も手伝っています。


2. 経営の歩み

 岸本さんの経営の歩みについては、表−1のとおりです。

表−1 経営の推移

年次 作目 頭数 経営および活動の推移




S48 肉用牛
繁 殖
07 神戸からUターン、自己資金で畜舎(130m2)を建設、農業後継者育成資金で繁殖モト牛(7頭)導入
S50 繁殖・
肥育一貫
10 02 肥育牛舎(116m2)、堆肥舎・飼料庫建設
S51   11 10 人工授精師免許取得
S55   20 24 繁殖牛舎増設(79m2)、転作促進対策特別事業でFRPサイロ・自走式多用途農作業車等の導入
S58   28 24 繁殖部門 畜産団地に移転
S59   25 26 肥育部門 畜産団地に移転
H8   32 28 生産組合(5人)の牛(精肉)を販売する「うしぶせファーム」設立
H9   35 30 「うしぶせファーム」地域の行事(祭り)に参加・協力
H10   39 39  

 岸本さんは昭和48まで国鉄で働いていましたが、自分の意志でやる仕事をしたいとの思いで、神戸よりUターンして鳥取に戻り肉用牛の飼育を始めました。

繁殖牛舎

 農業後継者育成資金を利用して、施設整備と繁殖モト牛7頭を導入しました。

 昭和50年には、肉牛価格の低迷など肉用牛をとりまく厳しい情勢のなかで、肉用牛経営を成功するためには、繁殖・肥育一貫経営しかないという信念に至りました。そこで肥育牛牛舎を建設し自分のところで繁殖から肥育まで行う経営に取組みました。

 加代子さんとの結婚は同じ年の50年で、幸せいっぱいの一貫経営のスタートとなりました。

奥さんの作業風景

 加代子さんは、結婚後も2年ぐらい勤めていましたが、将来のことを考えて勤めを辞め経営の手伝いを始めました。

 その後、2人で経営規模拡大を図り、昭和58年に町が建設した畜産団地に移転して、本格的な和牛繁殖・肥育一貫経営に取組み、繁殖部門はおもに加代子さんが受持ち、真一郎さんは肥育部門を担当しました。

 肥育成績が安定しない時期もありましたが、熱心な肥育技術の研究により経営は着実によい成績を収めています。

 平成8年には、畜産が低迷するなかでも、肉用牛経営は自分で良いものを生産しているにもかかわらず、なかなかそれだけでは食べることができない状況になりました。

 おいしい肉を自分で確かめ、それを消費者に食べてもらいたいと思うようになり、県の補助事業を活用して、肉の加工と販売施設を作り「うしぶせファーム」と名付け牛肉販売を始めました。代表はもちろん岸本さんです。名前は近くの牛臥山から取ってつけられたものです。

 年に5〜6回イベントなどを通じて牛肉を販売しており、お客さんは次第に増えてきています。

どうだん祭り参加風景

 智頭町で毎年5月に行われている「どうだん祭り」では、遠方から「毎年楽しみにしている」と、はるばるきてくれるお客さんもいます。

 今後は、長男が就業するときのことを考え、ゆとりを取入れた経営方法を考えています。

牛臥山


3. 経営の特徴
 次に経営の特徴について説明したいと思います。

(1)自家産牛を中心とした母牛群の改良による経営成果の向上

 一貫経営の有利性を活かして、自家産肥育牛のデータを基に優良繁殖牛を選抜保留し、母牛群能力の斉一化を図っています。

(2)低コスト生産への努力

 転作田や休耕田を借地としてとりまとめて自給飼料の生産を行い、また、地元の酒造会社の酒米ヌカ、トウフ工場のトウフ粕を中心にして自家配合を行い、低コスト化を図っています。

(3)付加価値を狙った牛肉販売への取組み

 地域の仲間同士で「うしぶせファーム」を結成し、「ちづの牛」と言う銘柄をつけ牛肉販売を手がけました。地域住民からは「牛肉は岸本さん以外からは購入しない」「とてもおいしくて他の肉は比べものにならない」などと喜ばれています。

(4)仲間づくり・後継者づくり

 老舗の牛どころ智頭のチームリーダーとして重責を果たしながら、地域での肉用牛振興に力を入れています。

 また、研修中の長男が就農する頃には、うしぶせファームの拡大を図り、生産から販売までの完全一貫経営を構想しています。

(5)地域のふれあい牧場

 毎年、地域の幼稚園児を牧場に招き、動物とのふれあい教育に協力しています。

 こどもたちは、牛と遊ぶのははじめてで怖がる子どももいますが、最後には大喜びで満足して帰って行きます。

(6)経営指導の活用

 安定した和牛経営を進めるために、徹底したコスト意識と、たえず経営検討が必要であることを認識し、当初から営農相談員、農業改良普及員等の指導を受け、経営改善を着実に実行しています。

 また、経営診断も率先して受けその指摘などは経営改善に活かし、外部支援、行政施策などは積極的に活用して健全な経営を目指しています。


4. 経営成果の概況
 経営実績については表−2のとおりとなっています。

表−2 経営実績・技術等の概要

期間 10年1〜12月 経営実績




労働力員数
(畜産)
家族 (人) 1.7
雇用 (人)
成雌牛平均飼養頭数 (頭) 39.0
飼料生産用地のべ面積 (a) 400

 

 

 

 

 

平均分娩間隔 (ヵ月) 12.7
受胎に要した種付け回数 (回) 2.9
雌子牛1頭当り販売・保有価格 (円) 271,294
雌子牛販売・保留時日数 (日) 251
雌子牛販売・保留時体重 (kg) 234
雌子牛日齢体重 (kg) 0.93
去勢子牛1頭当り販売・保有価格 (円) 354,375
去勢牛子牛販売・保留日数 (日) 260
去勢子牛販売・保留時体重 (kg) 234
去勢子牛日齢体重 (kg) 0.96


成雌牛1頭当り飼料生産のべ面積 (a) 10.3
借入地依存率 (%) 100
飼料TDN自給率 (%)
成雌牛1頭当り投下労働時間 (時間) 93.6







肥育牛1頭当り 出荷時月齢 (カ月) 28.2
出荷時生体重 (kg) 682
平均肥育日数 (日) 604
販売肥育牛1頭1日当り増体重(DG) (kg) 0.73
販売肉牛1頭当り販売価格 (円) 771,847
販売肉牛生体1kg当り販売価格 (円) 1,130
枝肉1kg当り販売価格 (円) 1,775
肉質等級4以上格付率 (%) 73






肥育牛1頭当り 出荷時月齢 (カ月) 26.7
出荷時生体重 (kg) 627
平均肥育日数 (日) 555
販売肥育牛1頭1日当り増体重(DG) (kg) 0.42
販売肉牛1頭当り販売価格 (円) 795,059
販売肉牛生体1kg当り販売価格 (円) 1,268
枝肉1kg当り販売価格 (円) 1,984
肉質等級4以上格付率 (%) 67

 年々収益性も技術成績も上がってきて、頼もしい経営となり、これから先が楽しみです。


5. 環境保全について
 家畜のふん尿処理には、畜産団地の堆肥舎で堆肥化し、自給飼料生産圃場に還元し、良質の飼料生産をしています。

 それ以外は稲作農家に稲ワラと交換で堆肥を供給したり、販売をしています。

 「自給飼料生産を経営の柱として考えているので、圃場で処理できる堆肥の量に見合った頭数しか飼わない」と言う岸本さんの考え方です。


6. 岸本さんの夢
 平成13年に長男の就農予定に合せて「新しい担い手確保対策」事業等を活用して、経営の規模拡大を行い、本人、妻、長男の労働力で経営分担(本人・妻は肥育・牛肉販売部門、長男は繁殖部門)を行い、また、長男が結婚した後は、本人、長男が農場経営の責任者となり、女性2人は「うしぶせファーム」の責任者として進めたいとの考えです。

 そして、地域の共働き家庭の夕食用に、牛肉のほか各種惣菜やローストビーフ、ビーフシチュー、ミンチコロッケなどの加工品を販売し、地域でよろこばれる「うしぶせファーム」にしたいと岸本さんは夢をもっています。


おわりに

 非常に長い期間を要する和牛の繁殖・肥育一貫経営もようやく完全な形に仕上がってきました。

 岸本さんは、ゼロからのスタートであったので、コスト意識、もうかる経営の思いは人一倍強く、高位平準化を念頭に努力されたので成果もあがりました。

 経営の安定性が優れ、さらに手がけている牛肉販売は、地域の人々に支えられ人気もあります。

 現在研修中の長男も近々就農予定で、就農とともに、牛肉販売の拡大を図り、生産から販売までの完全一貫経営を確立する予定です。

 それには、流通の中心である定時、定量、安定的品質などの課題に創意工夫が求められますが、経営の継続はもとより発展が大いに期待できるので、県内のモデル農家として注目されています。

 岸本さんの熱心な研究と家族の努力で、今後とも経営の発展と夢が実現されるよう祈っています。

(報告者:鳥取県畜産会畜産コンサルタント)