良い堆肥生産のポイント(3)

─ 堆肥の腐熟度の評価法 ─

藤原 俊 六 郎

 はじめに

 堆肥を施用するのは、作物生産の向上が目的であり、施用によって作物生育や土壌環境に障害があってはいけません。しかし、堆肥化が不十分な場合は、堆肥の施用により作物生育が阻害されることがあります。これは、堆肥の原料由来、または分解中間代謝物やガスが、作物の発芽や根の生育に異常を起こす原因となっています。このようなことを防ぐため、堆肥化過程における有機物の分解程度(腐熟度)を把握し、評価することが必要になります。

 一般に、堆肥の腐熟度は、堆積期間、色、香り、手触りなどから経験的に判断しています。しかし、これでは正確な判断ができず、統一した基準化ができないため、なんらかの指標が必要です。腐熟度評価の方法としては、できるだけ迅速かつ簡易で汎用性のある方法が望ましいのですが、現在のところ、作物栽培以外に適切な方法はありません1)。ここでは、各種の腐熟度評価法の中から、お勧めできるものを選び、その方法を説明します。

 1. 現場で行う評価法

(1)評点法

 外観上の性状や堆積状態からみた腐熟の程度を評点で表し、基準化するものです。生産現場で経験的に行われていることを数値化するもので、地域により色々な方法が行われていますが、ここでは原田2)がまとめたものを紹介します。

ア.必要な器具類

 なし

イ.方 法

 堆肥の状態を現場で評価する基準を表−1に示しました。この基準にしたがって採点します。

表−1 現地における腐熟度判定基準(原田:1983)

黄〜黄褐色(2)、褐色(5)、黒褐色〜黒色(10)
形   状 現物の形状をとどめる(2)、かなりくずれる(5)、ほとんど認めない(10)
臭   気

ふん尿臭強い(2)、ふん尿臭弱い(5)、堆肥臭(10)

水   分 強く握ると指の間からしたたる…70%以上(2)、強く握ると手のひらにかなりつく…60%前後(5)、強く握っても手のひらにあまりつかない…50%前後(10)
堆積中の最高温度 50℃以下(2)、50〜60℃(10)、60〜70℃(15)、70℃以上(20)
堆積期間 家畜ふんだけ…………20日以内(2)、20日〜2ヵ月(10)、2ヵ月以上(20)
作物収集残渣との混合物…20日以内(2)、20日〜3ヵ月(10)、3ヵ月以上(20)
木質物との混合物…………20日以内(2)、20日〜6ヵ月(10)、6ヵ月以上(20)
切返し回数 2回以下(2)、3〜6回(5)、7回以上(10)
強制通気 なし(0)、あり(10)
注:( )内は点数を示す
これらの点数を合計し、未熟(30点以下)、中熟(31〜80点)、完熟(81点以上)とする

ウ.腐熟の評価

 合計点が30点以下は未熟、31〜80点は中熟、81点以上は完熟と評価します。各項目を適切に評価できれば、信頼のおける結果が得られます。

(2)品温評価法

 堆肥化の過程では、堆積発酵中に温度が上昇した後低下しますが、切返しを行えば再び上昇します。この傾向は、腐熟がすすむにつれて変化が小さくなります。この現象を利用して評価する方法です。

ア.用意するもの

 温度計(深さ50cm程度まで測れるもの。電気式自記記録方式が良いが、棒状温度計のときは、周囲を金属で覆い破壊防止加工のなされているものを使用します)

イ.測定方法

 堆積している山の、上部(20〜30cm)と下部(50〜60cm)の2ヵ所について、毎日測定し、記録します。自記記録方式温度計の使用が便利です。

ウ.腐熟の基準

 測定例を図−1に示しました。切返しをしても温度の上昇がみられなくなると、完熟状態になっていると考えられます。しかし、切返しの時に、水分含量の過湿や乾燥があった場合や、堆積の規模を小さくしたりした場合は、温度上昇が妨げられるので注意が必要です。

図−1 牛ふんの堆肥化過程における温度変化(原田:1983)

(3)硝酸検出法

 堆肥化の過程において、初期は有機物分解に伴うアンモニアが発生しますが、発酵のすすんだ後期にはアンモニアが微生物により硝酸に変化します。この硝酸の発現を検出する方法です。

ア.必要な器具類

 容量200mlのポリビン、硝酸イオン試験紙(メルコクワント製等)、純水

 ポリビンに純水100mlを入れた所と、それに堆肥50gを入れた所に線を引いておくと、水と試料をその都度測定しなくても良いので、現場での測定では便利です。

イ.測定方法

 (1)100mlの純水を入れてあるポリビンに、生堆肥50gを加えます。

 (2)手で数回振動し、10分ほど静置します。

 (3)上澄み液に硝酸イオン試験紙を浸し、発色をみます。

ウ.腐熟の基準

 完熟すれば硝酸の生成がみられます。硝酸の生成がみられなければ未熟です。堆肥原料によって硝酸の生成量は異なるので、一概に評価できませんが、抽出液の中に数mg/lあれば完熟と言えます。

(4)ミミズ試験法

 ミミズは腐熟した栄養分の多い堆肥に生息しますが、未熟な未分解有機物の中に含まれるフェノール類やアンモニア等のガスを嫌う傾向があります。このミミズの行動を観察することにより堆積物の腐熟度をみる方法3)です。

ア.必要な器具類

 容器(プラスチック製の透明でないコップがよい)、黒い布(遮光用)、ミミズ数匹(体長50mm以上のシマミミズが望ましい)

イ.測定方法

 (1)堆積物をコップに1/3程度入れる。水分条件は60〜70%程度(手で強く握ると水を感じる程度)とします。

 (2)ミミズをコップの中に落した直後、および1日後のミミズの行動、色調の変化を観察します。

 (3)容器を黒布で被覆するか、または遮光した室内で試験します。室温は20〜25℃が適当です。

ウ.腐熟の基準

 未熟:入れた直後に逃亡しようとする。1日後死滅する。

 中熟:入れた直後、多少いやがる。1日後、色が変化したり動きが悪くなる。

 完熟:入れた直後、すぐもぐる。1日後も変化なく、元気でいる。

 ミミズは、過剰気味に湿った堆肥に放たれると、その瞬間、これを降雨と間違えて、はい出そうとすることがありますので水分条件には注意します。また、ミミズは中性〜弱酸性を好むので腐熟度とは別に試験紙等でpHを記録しておきます。

 試験しようとする堆肥が、ミミズのもとの生息環境と酷似している場合には、未熟物であってもミミズはそれを好むことがあるため、できればあらかじめ人工培土で飼育し、一定の生息環境にならしてから使用するとよいでしょう。

2. 植物を用いる評価測定方法

(1)幼植物試験法

 作物の種子を利用する方法には、ハツカダイコンやキュウリ、ハクサイの発芽率や生育量を調査する方法があります。しかし、これらは土と混合して栽培試験を実施しているため、汚染した土を使うと立枯れ病などが起きることがあります。熱水抽出法4)は、簡易で病害の心配がありません。

ア.必要な器具類

 コマツナ種子、シャーレ、容量200mlの三角フラスコ、ビーカ、ろ紙、ガーゼ、アルミホイル、熱湯、物差し、低倍率の光学顕微鏡

イ.測定方法

 生試料10g(乾燥試料は5g)を容量200mlの三角フラスコにとり、沸騰水100mlを加え、アルミホイルでふたをします。1時間放置後、ガーゼ2枚を重ねてろ過します。このろ液10mlを、あらかじめろ紙2枚を敷いてあるシャーレに分注し、その上からコマツナ30〜50粒を播きます。このとき対照区として、水10mlをいれたものを用意しておきます。このシャーレにふたをして室温に保持し、3〜6日後に発芽率と根の状態を観察します。

 抽出に熱水を用いる理由は、抽出しやすくするとともに殺菌効果を持たせることです。

 抽出液に含まれる有害物だけでなく、抽出液の塩濃度が高いと根に障害を生じます。抽出液のEC(電気伝導率)を測定し、5mS/cmを超える場合は、2mS程度に希釈した液についてもあわせて試験を実施します。

ウ.腐熟の基準

 調査は、発芽率と根の長さを物差しで測定し、水で栽培した対照区に対する比率(%)で表示します。その例を図−2に示しました。

図−2 堆積に伴う幼植物検定結果と抽出液ECの変化(藤原:1988)

 発芽率が80%以上になることが必要ですが、発芽率が100%近くになっても根に異常がみられることがあります。根に障害を及ぼす物質があれば根は褐変します。また、未熟で易分解性物質が多い時は、根の周囲に褐色のゼリー状物質ができ、その周囲に細菌が多量に分布することがあります。

 さらに詳しい情報を得たい場合は、根を切取りLact Phenol Cotton blue液等の色素で染色し、50〜100倍の光学顕微鏡で、細根の状態を観察します。微弱でも障害を受けていれば、主根は伸びても細根の伸びが悪くなり、小さな障害も検定できます。

コマツナの状態(5日目)

(2)ポット栽培試験法

 堆肥の腐熟度や効果を評価するには、時間はかかりますが、作物栽培試験が最も適しています。畑やポットにおける様々な栽培方法がありますが、ここでは肥料の効果の評価方法として用いられている農林水産省5)の方法を紹介します。

ア.必要な器具類

 ノイバウエルポット、土壌(2mm目のふるいを通した風乾土)、コマツナ種子

イ.測定方法

 (1)土壌は、2mm目のふるいを通した風乾土を用い、ノイバウエルポット当り500ml使用します。土壌水分は、最大容水量の50〜60%となるよう水を加えます。

 (2)堆肥の使用量が少ないので、できるだけ細かく砕き、均質化します。

 (3)堆肥使用量は、乾物当りの窒素量が2%以下の資材では乾物換算で5g、2%以上の資材では窒素(N)として100mgを標準施用量とし、この量の2倍量、3倍量、4倍量の区を設定します。なお、これらの全区について、窒素(N)、リン酸(P2O5)、カリ(K2O)として、それぞれ25mgに相当する硫酸アンモニア、過リン酸石灰、塩化カリをそれぞれのポットに施用します。

 対照区として、窒素(N)、リン酸(P2O5)、カリ(K2O)、それぞれ25mgに相当する硫酸アンモニア、過りん酸石灰、塩化カリを施用した区を設けます。

 (4)資材および肥料は、容器内で均一に混合します。

 (5)コマツナ種子を、1ポット当り20粒または25粒を播種します。播種は、種子が等間隔となるようます目状にピンセット等を用いて行い、播種後、風乾土で種子が隠れる程度に覆います。

 (6)水分は、播種後10日間は初期に設定した量(最大容水量の50〜60%)を保持し、その後は作物生育に応じて、適宜給水します。

 (7)栽培温度は、原則として15〜25℃に保ち、3週間栽培します。

ウ.腐熟の評価

 発芽率、葉長、生体重、生育状態の異常の有無について調査し、対照区と比較します。未熟であれば作物に生育阻害がみられ、作物生育が対照区と同等またはそれ以上であれば完熟していると言えます。

 

参考文献

1)有機質資源化推進会議編:有機廃棄物資源化大事典、農文協、p31〜86、1997

2)原田靖生(1983):家畜ふん堆肥の腐熟度についての考え方、畜産の研究、37,1079〜1086

3)吉野実(1979):家畜糞尿堆肥類の簡易腐熟度判定法、農業及び園芸、54,755〜758

4)藤原俊六郎(1985):シャーレを使った簡易腐熟度検定法、土肥誌、56,251〜252

5)農林水産省園芸局長通達第1943号(1984)

(筆者:神奈川県農政部農業技術課専門技術員・課長代理)