良い堆肥生産のポイント(2)

─ 微生物の働きを生かす堆肥の作り方 ─

藤原 俊 六 郎

 堆肥作りとは、家畜ふん等の有機物を微生物によって分解させ、作物生産に最も適した状態に変化させることです。この堆肥作りには、経験的に工夫されてきた巧妙な微生物管理技術が生かされています。ここでは、微生物の働きを最大限に生かし、良い堆肥を作るためのポイントを考えてみたいと思います。

1. 堆肥化のポイント

 微生物を働かせるためには、微生物の生存に適した環境を作ることがたいせつです。家畜ふんには微生物の必要な養分がバランスよく含まれていますので、炭素率と水分量、空気量のバランスを良くすれば、微生物は活発に活動してくれます。

(1)炭素率がたいせつ

 堆肥化で重要なことは、炭素率(C/N比とも言い、炭素量と窒素量との比率)と含水率です。炭素率は20〜30程度、含水率は60%程度が最も適しています。

 資材別の炭素率を表−1に示しました。牛ふんは適正な炭素率ですが、豚ぷんや鶏ふんは炭素率が低い傾向にあります。オガクズ等の敷料が多く含まれた家畜ふんでは炭素率は高くなり、尿が入れば炭素率は低くなります。

表−1 各種資材の全炭素・全窒素含量と炭素率

区分  有機質資材 全炭素 全窒素 C/N
  し尿汚泥
  下水汚泥
  製麺工場汚泥
  鶏ふん
  豚ぷん
  牛ふん
  コーヒー粕
  レンゲ
  イチョウ葉
  都市ごみ
  山野草
52.7
41.9
40.8
34.7
41.3
34.6
42.1
44.6
49.4
40.8
35.0
10.00
5.97
7.43
6.18
3.61
2.19
2.33
2.25
2.32
1.64
1.19
5.3
7.0
5.5
5.6
11.4
15.8
18.1
19.8
21.3
24.9
29.4
  ダイズ稈
  ピーナツから
  イチョウ枝
  桑残条
  モミガラ
  稲ワラ
  麦稈
48.5
48.0
52.2
44.3
40.1
38.0
44.6
1.03
0.95
0.75
0.63
0.54
0.49
0.38
47.0
50.5
69.6
70.3
74.3
77.6
117.4
  カラマツバーク
  スギ枝
  ウエスタンヘムロックバーク
  ラワンオガクズ
  スギオガクズ
  ダグラスファーバーク
  ダグラスファーオガクズ
  ウエスタンヘムロックオガクズ
54.4
53.2
53.9
48.0
50.9
54.0
51.0
49.7
0.40
0.34
0.26
0.11
0.08
0.11
0.07
0.04
123
157
207
436
636
491
728
1,244
(原田、1994

 炭素率が高すぎる場合には堆肥化が遅れますが、家畜ふんを主体とする堆肥ではこの心配はありません。逆に炭素率が低すぎる場合は、堆肥化の途中でアンモニアガスが発生し、悪臭が強くなります。豚ぷんや鶏ふん堆肥の悪臭が強いのはこのためです。ワラ堆肥や落葉堆肥を作るとほとんど悪臭がありませんが、これらの資材の炭素率は30以上と高いからです。家畜ふんに、オガクズを水分調節剤として加えれば炭素率を高くすることができます。

 馬ふんのように炭素率が高い物に敷料を多量に加えると炭素率が高くなりすぎます。炭素率を下げる必要のあるときは、窒素を添加します。硫安は硫酸イオンが残るので敬遠され、尿素がよく使われます。石灰窒素は多少異臭を発生させることがありますが、石灰が含まれておりアルカリ性を示すために、酸性化の原因となる硫安よりは適しています。また、尿には窒素とカリが多く含まれているため、尿をかけても炭素率を下げることができますが、尿には塩が多く含まれているので、良い堆肥にはなりません。

(2)水と空気の量に注意

 堆肥化で微生物を働かせるためには、水分と空気を適切に管理することがたいせつです。水分は含水率で表示し、60%程度が適していますが、これは手で硬く握りしめて、手に湿り気を感じるが指の間から水がでてこない程度です。含水率は、高すぎると腐敗しますし、低すぎると微生物が活動できません。

 家畜ふんの含水率は80%程度と高いので、含水率を低下させなければなりません。含水率を低下させるためには、(1)乾燥させる、(2)オガクズなどの水分調節材を加える、(3)戻し堆肥を混合する、などの対策が必要になります。

 水分調節剤としてオガクズを利用するときは、広葉樹のものを選ぶ方が安全ですが、広葉樹でもクリやサクラはフェノール類が多いので分解が遅れます。分解の遅い針葉樹のなかでもマツ類は分解が速いようです。また、キノコの廃培地の利用は、既にキノコによってリグニン分解が進んでいるため、非常に分解しやすいのですが、含水率が高いと言う欠点があります。他に、調節剤として鉱物質(エスカリュー等)を利用するときは、アルカリ成分(石灰やケイ酸)の過剰に注意することが必要です。

 たとえ含水率が適正でも、押しつぶされて空気がとおらないようでは微生物が働きません。微生物は呼吸していますので酸素が必要で、酸素の供給のためには、空気が流通できるすきまをつくることが必要です。容積比にすると、およそ固形物40%、水分30%、空気30%程度が適しているようです。このときの「みかけ比重」が、およそ0.5程度であり、このため堆肥化には比重がたいせつだということになります。

 繊維分の多い馬ふんや牛ふんでは小さなすきまがかなりあるのですが、豚ぷんや鶏ふんではすきまが少ないので空気がとおりにくくなります。空気のとおり道を作るためには、小さなすきまの多い資材を使うことが必要で、オガクズやモミガラのような粗大有機物の混合が適しています。

2. 堆肥化の微生物変化

 堆肥化は、微生物の活動により有機物を分解することであり、分解は糖分解期、繊維分解期、リグニン分解期の三段階に分かれます。堆肥化過程の微生物変化の模式図を図−1に示しましたが、どのような原料の有機物を使おうと、このような微生物の変化がみられます。

図−1 堆肥化過程における微生物の変化模式図

(1)糖分解期

 堆肥化の初期は、堆肥の原料である新鮮有機物に含まれる糖やアミノ酸などの易分解性物質が分解されます。分解は好気的に行われ、生育の早い糸状菌や好気細菌が主として活動し、この過程で活発に増殖する微生物の呼吸熱によって発熱が起こります。

(2)繊維分解期

 温度が高まるとセルロースやヘミセルロースが分解される繊維分解期となります。セルロースは、リグニンやへミセルロースで保護されており、なかでもへミセルロースは、セルロースとリグニンの結合組織的役割をもっているため、これを効率よく分解する必要があります。

 この時期は、堆肥の温度が60℃以上になり、他の一般の微生物は活動できず、ごく限られた種類の高温菌が働きます。高温性好気性の放線菌(サーモアクチノミセテス等)によってへミセルロースを分解し、セルロースをむきだしにします。このとき酸素を盛んに消費するため周囲が酸素不足となり、そこに嫌気性のセルロース分解菌(クロストリジウム等)の働く場ができます。このようにして好気性菌と嫌気性菌の役割分担が成り立ち、繊維質の分解が進みます。

(3)リグニン分解期

 堆肥の温度がゆっくりと下がってきます。このころからリグニンの分解が始まります。リグニン分解は主としてキノコ(担子菌)の仕事ですが、この時期は繊維成分の中間分解物があり、堆肥の品温も低下して他の微生物も生育しやすい環境となっているため、多種類の微生物が活動します。さらに、微生物が多くなると、それを食べる小動物が現われ、トビムシやミミズも見られるようになります。

 このように、易分解性物質から始まり、ヘミセルロース、セルロース、リグニンと順次分解されて、それに関与する微生物もそれぞれに適合したものに変化していきます。すなわち、微生物は単一種ではなく、多くの種類の微生物によって堆肥が作られます。そして、その菌は自然界に広く分布しているため、どんな堆肥でも似たような微生物変化が起こるのです。

3. 微生物活動の環境作り

 堆肥を作る最大のコツは、これらの微生物が発育しやすい条件を作ることです。そのために、炭素率や含水率、空気の流通を適切に設定し、適度な規模で堆積し、発酵に応じた切返しをすることです。これだけでじゅうぶんに微生物の働く場ができて、自然界に存在する微生物が働いてくれるわけです。しかし、これをより活性化させる資材もあります。

(1)微生物資材の利用

 有用微生物による有機物分解を促進し、堆肥化を容易にするための微生物資材が販売されています。しかし、微生物資材の効果については賛否両論があり、この効果は明確ではありません。現在流通している微生物資材の数は200近くになると考えられますが、この大部分が有機物分解の促進効果をうたっています。堆肥生産の場での使用を考えてみますと、農林水産省農研センターの調査では、約1/4の堆肥センターで使用しているという結果がでています。これは比較的規模の大きな堆肥センターの数字であり、一般農家での使用率はもっと低いと考えられます。

 有機物の分解を促進する資材には、二つの種類があります。一つは優良な数種の微生物を混合した微生物資材で、他の一つは二価鉄化合物やマンガン化合物などの無機化合物と鶏ふんや米ヌカを混合したものです。前者は有用菌の積極的持込みを、後者は微生物の良好な発育環境を作ることを意図したもので、正確には微生物活性化資材と言うべきものです。

 微生物資材のなかには、たしかに微生物が含まれていますが(写真−1)、これが堆肥の腐熟をはやめ、良質堆肥の生産に寄与するかと言えば疑問です。各種の資材について、現実の堆肥作りの場において多くの使用例がありますが、適用の場は限られているようで、万能的なものはないと思われます。次に、微生物資材の効果試験を行った事例を紹介しましょう。

写真−1 堆肥の上で増殖する微生物資材に含まれる細菌(走査型電子顕微鏡、10,000倍)

(2)密閉容器による微生物資材試験事例

 神奈川県農業総合研究所において、微生物資材の堆肥化促進効果を調査するため、密閉型発酵槽を用いてオカラを単独で堆肥化実験しました。密閉型発酵槽は、通風装置の付いた容量80Lの実験用発酵槽により、4種類の微生物資材を用いて堆肥化における有機物分解効果を検討した結果、80Lの小さい発酵槽にもかかわらず、一次発酵で70℃以上に品温が上昇しました。

 オカラの堆肥化における微生物資材の効果を、図−2に示しました。市販の微生物資材をそのまま混合した場合は、対照区(切戻し品混合)より効果が劣りましたが、それぞれの資材を混合して発酵した切戻し品(一次発酵物)を添加すると、資材BDを除いたすべての資材では効果が増大しました。特にこの傾向は資材NKと資材KRに強くみられ、対照区を上回る分解率を示しています。

図−2 密閉型発酵槽による微生物資材の効果 (原料:オカラ)
(出典:神奈川県農総研1994

 このように、連続して使用すると堆肥化に適した微生物が優先するため、より効果が高くなることが明らかになりました。このことから、微生物資材は常に新しいものを添加するのではなく、一度微生物資材を添加し、一次発酵を行った後、それを切戻し品として利用することが、堆肥化を促進する上では効果が高いと言えます。

(3)自然界の微生物の活用

 自然界では、有機物に多くの微生物が存在しています。とりわけ家畜ふんには多種類の微生物が含まれているため、それらが積極的に働く場を作ることがたいせつで、いくら良い微生物を利用しても、環境作りに手を抜いては意味がありません。

 また、有用菌を購入しなくても、有用菌を投入する方法があります。その一つは、落葉や米ヌカを堆肥の積込み時に混合することです。分解しかかっている落葉の表面には、糸状菌、放線菌、担子菌、その他の細菌などが多く存在しています。これらを堆肥に混合することにより、堆肥化に適した微生物を増殖させることができます。また、落葉を混合すると脱臭効果もあります。米ヌカには、微生物の生育に必要な多くの養分が含まれており、堆肥化を促進する役割もありますが、家畜ふんのみではあまり効果が期待できません。

 他の一つは、堆肥原料にほぼ等量の完成した堆肥を混合する方法です。これは戻し堆肥混合法とか連続堆肥化法と呼ばれますが、堆肥化過程で優先的に増殖した菌を原料に混合することになるとともに、乾燥した戻し堆肥を使用すると水分調節材の役割もあり、極めてよい方法と言えます。

 このような方法でも有用菌の積極的な投入が可能なわけです。堆肥化過程で働く微生物は単一ではなく、原料や環境条件が異なれば微生物の種類が異なってきます。堆肥化とは、それらの微生物の働く環境を上手に作ることにすぎないことを、じゅうぶん認識しておく必要があります。

(4)微生物資材利用の注意

 微生物資材の利用にあたっては限界があると考えられますが、使用上の注意をあげれば、次のとおりです。

(1)資材を利用しても悪影響はないので、積極的に利用してよいでしょう。しかし、米ヌカや堆肥を積極的に使用すれば、同等の効果が発揮できると考えられます。

(2)堆肥化における有機物分解促進のための微生物資材は、発酵槽を使用する方法では効果が高いが、切戻し品を種菌として利用するとより高い効果を発揮する場合があります。

(3)発酵槽を用いないで野積みによる堆積発酵を行う場合は、微生物資材の投入による効果はより小さいと考えられ、発酵初期の分解促進程度しか意味がないと考えられます。

(筆者:神奈川県環境農政部農業振興課 専門技術員・課長代理)