良質牛肉生産のポイント〔IV〕

─ 肉用牛肥育(1) ─

宮 本 正 信

 北海道の黒毛和種は、牛肉輸入自由化を契機として、良質牛肉への需要が高まってきたことから、その飼養頭数がいっそう増加し、全国でも有数の産地になりました。これまでの繁殖基地(モト牛の供給)から肥育までの地域内一貫経営へ移行が進んでいます。今後はワンファーム体制(自己完結の繁殖+肥育)の一貫経営を「育種価成績の活用」により実践すべきです。しかし、現在道内で肥育された和牛肉の品質は、肥育の歴史が浅いことなどから、枝肉格付の「上位規格『4』以上」の割合が全国および先進県より大きく下回っています。このため、肥育技術のいっそうの向上と安定が求められています。表−1により北海道の実態を全国・先進地域と比較すると、3ヵ年の平均で上物率「4」以上の割合は北海道27.1%、全国48.5%、近畿が58.9%であり、全国または近畿と比較してかなりの隔たりが見受けられます。

表−1 過去3ヵ年和牛枝肉格付の推移(去勢) 単位:%(格付A・B・Cの計)

1.平成10営農年度の黒毛和手肥育の実態

 図−1は北海道内での平成10営農年度に肥育出荷された1頭当り生産費の実態です。まず概況は次のとおりです。

図−1 北海道黒毛和種(肥育牛)の販売価格と生産費(平成10年度)

○生産概況

・1戸当り販売頭数:18.7頭

・出荷体重:683kg

・出荷月齢:29.8ヵ月

・肥育期間:20.2ヵ月

・モ ト 牛:市場導入型

 生産費の主要経費の内訳としては、導入モト畜費39万5771円、飼料費20万7657円、物財費(償却費含む)2万4226円、その他経費3万0809円、計65万8463円であり、1頭当り出荷枝肉重量は416kg(H10年出荷牛、5151頭の平均)で、枝肉1kg生産に要する生産費(コスト)は1583円となります。生産費のなかに家族労働費9万8778円を加えた総生産費は75万7241円となり、同じく枝肉1kgの生産に要する生産費(コスト)は1820円となります。1頭当り販売価格は77万0745円ですから、販売枝肉1kg当り単価は1853円(推定)となり、それぞれの差額は270円、33円です。現状においてはなんとか赤字になっていませんが、よりいっそうの利幅を確保する経営戦略がたいせつです。そのポイントの一つとして「品質向上対策」、ポイント二つ目として「コスト低減対策」を考えた経営戦略を組立てて実践をしなければなりません(表−2)。

表−2 経営改善(産地形成)戦略

繁殖・肥育一貫経営の推進

2.先進県の試験肥育の優良事例(ポイント)

 和牛の育成においてたいせつなことは、重い病気をさせないことと、食込みの良い肥育モト牛を作ることです。従来、子牛市場において過肥が問題になりながら、まだ解決をみていない理由は、育成期の飼料給与の違いを、モト牛購入者である肥育農家が具体的に判断できないことや、育成期に濃厚飼料多給型、または粗飼料多給型のモト牛が肥育農家に渡ってからどのように発育したか、さらにそれらの肥育成績について資料が全くなかったのが現状でした。

 最近、兵庫県中央農業技術センターでは、父牛が同一である4ヵ月齢の黒毛和種雄子牛8頭を用い、表−3のように濃厚飼料多給区と粗飼料多給区に分けて、10ヵ月齢まで育成後、肥育期には両区とも同一のものを給与し、30ヵ月齢で同時に屠畜して表−4の枝肉成績を発表しました。脂肪交雑BMS No.は粗飼料多給区が8.8、濃厚飼料多給区が7.3と粗飼料多給区が高い傾向を示し、筋間脂肪厚は粗飼料多給区が7.8cm、濃厚飼料多給区は9.7cmと粗飼料多給区が有意に薄く、また、粗飼料多給区では皮下脂肪厚が薄い傾向を示し、歩留基準値は高い傾向を示しています。

表−3 子牛の飼料給与量 (単位:kg)

表−4 試験肥育牛枝肉成績

  濃厚飼料多給区 粗飼料多給区
枝肉重量(kg) 421.8±58.6 420.0±24.8
歩留基準値 72.9±0.8 73.7±0.8
脂肪交雑(BMS) 7.3±1.3 8.8±1.0
肉色(BCS) 3.8±0.5 4.0±0.0
ロース芯(しん)面積(cm2 53.8±8.8 53.3±3.1
筋間脂肪厚(cm) 9.7±0.9 7.8±0.8
皮下脂肪厚(cm) 3.2±1.0 2.5±0.9
(出典:兵庫県中央農業技術センター)

 このように育成期に粗飼料(乾牧草)を多給することにより、体重は軽いものの肥育末期には、特に枝肉重量はほとんど変わらなくなり、筋間脂肪の少ない高価な枝肉が生産されると紹介しています。繁殖農家は粗飼料の食込みの良いモト牛を肥育農家に供給し、肥育農家には粗飼料で育成されたモト牛を高く買ってほしいものです。

3.上質肉生産の基本的ポイント

 黒毛和種の北海道での肥育は歴史が浅く、府県・先進地を道内流にアレンジして現在に至っているのではないでしょうか。以下肥育農家の基本技術について「産肉生理」面よりポイントを述べたいと思います。

(1)産肉生理の原理

・良質な繊維は牛の健康の「源」です。      

 牛は草食動物であり→繊維が重要なポイントです。

(2)4つの胃袋を持つ反芻動物

・牛の第1胃は約180あります。        

 牛の第1胃はドラム缶1本分ぐらいの容量があり、微生物がたくさんいます。

(3)肉用牛の発育勾配

 肉用牛の発育は、

 (1)頭から頚、背、腰へと向かう強い発育勾配、

 (2)尻から体の前方へと向かう弱い発育の勾配、

 (3)四肢端から体の上部へと向う中程度の強さの発育の勾配、

と三つの発育勾配により体型が変化します。

なかでも、(1)と(2)は背と腰の境界で重なるので、この部分の状態を肉牛としての価値判断に用いることができます。

・栄養の差で発育にムラがでます。       

(4)体組織・肉質の発育時期

 長期肥育に耐える骨としっかりした内臓の牛を作りましょう。

 (1)骨は、生まれると同時に発育し、11ヵ月齢ごろまでに基礎づくりが終わります。

 (2)内臓、特に胃は3ヵ月齢から発育し13ヵ月齢ごろまでに基礎づくりが終わります。

 (3)脂肪交雑(サシ)の勝負は24〜25ヵ月齢までです。

 (4)牛の能力を見極めて肥育期間を設定することが重要です。

(5)牛舎内外の環境整備

 (あらゆるストレスを絶つ氏j
 (1)ゆとりある環境。
 (2)きれいな環境。
 (3)安らげる環境。
 (4)けんかをしない環境。

(6)産肉生理の実践活動

(1)飼養管理は実行が第一だよ。     

(2)記録・記帳が家宝だよ。

◎肥育開始後6ヵ月頃

(生後16ヵ月齢頃)

◎肥育開始後12ヵ月頃

(生後22ヵ月齢頃)

◎出荷時(18ヵ月頃)

(生後28ヵ月齢頃)

(3)牛を見る目を養うことがたいせつだよ。

(7)粗飼料とその働き

 粗飼料の働きは「粗剛性」「カサ」および「粗飼料の成分」により、消化器(特に第1胃)全体をじゅうぶんに発達させ長期間の肥育に耐えるものにします。その他の働きとして、

 (1)体格(骨格)を優先的に発達させ、理想の出荷体重(枝肉重量)に仕上げられる基礎体型を作ります。

 (2)早くから内臓に脂肪が付くのを防ぎ、内臓の働きを円滑にします。

 (3)第1胃発酵を円滑・活発・効率よく営ませます。粗飼料を給与すると、採食時および二度噛み時(反芻)に大量の唾液が分泌され、第1胃内でpH(酸度)を調整し、第1胃発酵を正常に保ちます。

 (4)食欲増進、健康維持など保健剤的な役割を果たします。

 (5)栄養的にはおもにビタミン・ミネラルを補給します。

◎牛が喜びます。       

(8)飼養管理の基本的ポイント

 次に、飼養管理のなかで飼い主(経営者)が牛の立場になって検討すべき16ヵ条を述べます。

(1)群を揃える。

・月齢・体重・系統でグループ分けしましよう。

(2)個体差の把握。

 (問題牛への注意)

・定期的に体重測定をしましよう。

(3)飼料給与は1日に2回。

(4)食べさせる努力。

・基準マニュアルと比較しましょう。

(5)固形塩の常置。

・塩分を取らないと水を飲まなくなり飼料の食込みも悪くなります。

(6)飼槽・水槽の清掃。

・清潔な器で食事をさせましょう。

(7)牛床は清潔に。

・敷料は豊富にしましょう、

 増体に大きく影響します。

(8)密飼い防止。

(9)防暑、防寒、防湿、換気対策。

(10)削蹄がたいせつ。

・肥育期間に最低2回行いましょう。

(11)観察の徹底。

・飼料の急変はなかったか?

・腹が冷えていないか?

・床はヨゴレていないか?

(12)牛の移動。

・牛を移動した場合、配合飼料を減らして、2〜3日してからじょじょに元の量にもどしましょう。

(13)記録・記帳。

・こまめに、しっかり行いましょう。

(14)太らせる努力。

(15)牛と話をする。

・牛が求めていることを分かるように努めましょう。

(16)愛 LOVE 牛。

・経済動物ですが牛の気持ちになって管理することです。

・牛は感謝して上物率が高くなります。

 今回述べさせていただいた産肉生理・生産のポイントは、肥育の基礎として本当に一読していただければ幸いです。特に枝肉成績が自分の考えているほど思わしくない方にお勧めしたいと思います。

(筆者:北海道渡島南部地区農業改良普及センター・所長)