飼料イネの収穫調製機械の開発

 

浦 川 修 司

はじめに

 近年、わが国の大家畜生産は国際化への対応として低コスト、省力化を目的に生産性の向上が図られてきました。そのなかで多頭化傾向が進み、自己完結型の粗飼料生産が困難となり、飼料自給率が著しく低下し、ふん尿処理問題も深刻化しています。

 一方、耕種農家においては、転作割当面積の増加にともない、特に排水条件の悪い中山間地域では遊休地、耕作放棄田が増加傾向にあります。このような現状のなか、転作田を有効に利用した粗飼料の生産と流通体系を確立することは、畜産農家にとっては飼料自給率の向上(地域内自給率)、また耕種農家にとっては農地の保全の面からも重要な課題となっています。そこで水田の機能をそのまま利用し、水稲(飼料イネ)を栽培し、これをホールクロップサイレージとして収穫調製するための自走式ロールベーラとベールラッパを開発しました。今回は、これらの作業機械の紹介を中心に、飼料イネのロールベールサイレージ体系について取りまとめました。

1. 飼料イネの省力栽培

 水稲を飼料利用する場合、従来の稚苗移植栽培では多大な労力を要することが制約要因の一つです。特に飼料として利用する場合では、省力低コスト栽培が不可欠な条件です。現在、食用稲の分野でも省力栽培技術を目的として乾田直播、湛水直播、さらに不耕起直播栽培等に関する研究が進められており、栽培面では食用稲の栽培技術がベースとなります。ここでは、省力栽培技術の一つとして、湛水土壌中散播栽培法を紹介します。

 この栽培法は、まず鳩胸程度に浸種した催芽籾に過酸化石灰含有粉末(商品名:カルパー)をコーティングし、このペレット状種籾を背負式動力散粒機を用いて代掻き後の湛水田に畦畔から散播する方法です。本法で栽培した飼料イネの乾物収量は約100kg/a程度であり、当然、排水条件の良好な場合、トウモロコシやソルガム等の長大作物には収量面では劣りますが、水稲は排水不良田でも安定した収量が得られ、しかも、耕種農家でも従来の栽培技術がそのまま利用できるところにメリットがあります。今後、より低コスト化を図るためには、飼料利用を前提とした一層の省力的栽培技術の確立や超多収の専用品種の育成が望まれます。

2. 飼料イネの収穫調整機械

 水稲を家畜飼料として利用する場合、収穫時期に周囲の水田や水路の影響を受けにくく、大型機械の作業の可能な条件が得られる圃場では、従来の牧草用ハーベスタやロールベーラ等の作業体系で収穫調製を行うこともできます。しかし、飼料イネの導入圃場は、一般的に軟弱圃場が多く、従来の作業体系では収穫機械の走行性や作業性に問題があり、安定した作業を行うことができないのが現状です。過去にも飼料イネの研究は、何度か話題になりましたが、排水条件の悪い軟弱な圃場での収穫作業が制約要因となり、なかなか進展には至りませんでした。そこで、排水不良田でも安定した作業が行えるような飼料イネ用のカッティングロールベーラとベールラッパを開発しました。なお、本機の開発にあたっては、飼料イネの収穫やサイレージ調製は主に耕種農家が行い、これを畜産農家に流通することを考慮しました。

1) 飼料イネ用カッティングロールベーラ

 開発した飼料イネ用カッティングロールベーラは図−1に示したように、5条刈りの自脱型コンバインをベース機とし、自脱型コンバインの走行部、刈取部、搬送部をそのまま利用して、脱穀部を取外し、ディスクカッタ(排ワラ処理用カッタ)および直径1mの定形式ロールベーラのロール成形室(ベールチャンバ)を搭載したものです。つまり、本機は自脱型コンバインの脱穀部のかわりにロールベアタッチ(細断部と成形部)を搭載した自走式ダイレクトカット方式のロールベーラです。

図−1 飼料イネ用カッティングロールベーラの概略図

 本機の特徴の一つとして、良質サイレージ調製のための高密度梱包とロール解体時の省力化のため、材料イネと細断後ロール成形が可能なカッティング機構を組入れたことにあります。材料イネの刈取りから細断、ロール成形までの流れは図−2に示したように、まず、自脱型コンバインの刈取部で材料イネが収穫され、チェーンコンベアで搬送されてきます。ここまでは自脱型コンバインの作業の流れと全く同じです。搬送されてきたイネは、その後ロールアタッチ部に装着したチェーンコンベアに受渡され、チャンバ前部に取付けたディスクカッタで15cmに細断され、撹拌用オーガで均平にされながら、掻込みロータによりベールチャンバへ送込まれてロールを成形します。従来のロールベーラでは成形終了がブザーでオペレータに知らせますが、本機はブザーと同時に操作部側部のパトライト(回転灯)が点灯するようになっています。これはベーラのオペレータに視覚で成形終了を知らせる効果とともに、後述しますが、ベーラと組作業を行うベールラッパのオペレータにも知らせる効果があります。

図−2 材料イネの刈取りから梱包までの流れ

 このパトライトの点灯と同時にトワインによるロールの結束が始まり、結束中はパトライトが維持され、消灯とともに結束が終了します。成形された飼料イネのロールはチャンバを開けることにより強制的に放出されます。以上のように、飼料イネの刈取りからロール成形での作業の操作は、自脱型コンバインと同様な操作で行うことができ、耕種農家でも容易に操作ができます。また本機はディスクカッタにより材料イネを細断した後に成形するため梱包密度が向上し、良品質なサイレージ調製が行えるとともに、さらにトワインを取外すだけでロールが解体できるため、家畜への給与も容易に行うことができます。

 本機を用いて成形した飼料イネの梱包重量は、材料イネの水分や梱包密度の調整等により異なりますが、黄熟刈りの飼料イネ(水分60%前後)の場合では約250kg程度です。また、収穫作業における作業時間は、刈取りからロール成形まで10a当り約25分です。この作業時間には、従来のロールベーラと同様に、トワイン結束時間(停止時間)を含んでおり、この時間が全作業時間の25%程度を占めています(表−1)。今後、ネット巻き等に改良を加えることにより、作業能率は一層向上するとともに、材料イネの切断によるロスの低減も図られるものと考えます。

表−1 飼料イネ用カッティングロールベーラの作業能率

2)自走式ベールラッパ

 飼料イネを収穫する場合、軟弱圃場においても、前述のような飼料イネ用カッティング ロールベーラを利用することにより、安定した収穫・梱包作業が可能となりました。次に梱包されたロールベールをラップサイレージとして調製する場合、ベールラッパを利用しますが、この作業も収穫作業と同様に、ベールラッパを装着した大型機械が走行可能な圃場条件に限定されます。特に軟弱な水田での作業では、ロールベーラから梱包を一度圃場内に放出することは、ロール表面の濡れや土砂の混入を招き、良質サイレージ調製が困難になる恐れもあります。また、排水の良好な好条件の圃場でも水田では畦畔があるため、トラクタで牽引したベールラッパの積載機構で畦畔付近のロールをターンテーブル上に積載する作業は、熟練を要する作業です。そこで、特に軟弱な水田での高能率なロールベールの密封作業を行うことを前提として、走行装置にゴム履帯を利用した自走式ベールラッパを開発しました(図−3)。

図−3 自走式ベールラッパ(追従作業方式)の概略図

(1) ロールの積載作業

 本機の積載機構はグリップ式のリフトアームで行いますが、特徴としては、前向き作業でロールを積載できるようにリフトアームを機体前方に取付けたところです。これにより、従来の側方積載式のベールラッパがロールベーラの作業方向(ロール放出方向)に対して90°の方向に進入して積込作業を行う必要があるのに対して、本機ではロールベーラの作業方向と同一方向で作業が行えるため、ロールベーラの梱包作業に追従し連続して密封作業が行えます(図−4)。なお、本機は従来の牽引式ロールベーラで梱包されたロールの密封作業にも利用できます。

図−4 従来機(牽引式)と開発機(自走式)の作業体系の比較

 飼料イネのロールベールを密封する作業においては、まず排水条件の良好な圃場では、ロールベーラが放出したロールに前進で接近し、機体前部のリフトアームを上部から被せてからアームのグリップ部を引付けてロールを固定し、アームを上昇させることによりターンテーブル上にロールを積載します(図−5)。次に軟弱な圃場条件で、しかもロールベーラが圃場内にロールを放出するとロールが濡れたり土砂の混入等が懸念されるような場合の作業では、ロールベーラからロールを直接荷受け(ダイレクトキャッチ)することも可能です。この作業の場合では、ロールベーラの梱包作業が終了後、両作業機が接近し荷受体勢に入ります。この場合は、リフトアームのグリップ部を縮め、地面より若干浮かせた状態にしておき、このグリップ内にロールベーラがロールを直接放出します(図−6)。この作業によりロールを圃場内に落とすことなく、ターンテーブル上に積載することができるため、土砂の混入のない良質なサイレージを調製することができます。

図−5 圃場に分散したロールの拾上げ方式

図−6 ロールベーラからのダイレクトキャッチ方式

(2)密封後のロール荷降ろし作業

 次に、本機のもう一つの特徴としては、ターンテーブル部の下にテーブルリフトを装着し、荷降ろし作業の省力化を図ったことにあります。従来のロールベール体系では、ベールラッパで密封後のロールは圃場内に放出し、その後、ベールグリッパ等の専用作業機により、運搬車等へ積替え、保管場所まで輸送します。本機の場合は、密封後のロールをテーブルリフトにより運搬車の荷台の高さまで上昇させ、ターンテーブルを反転させて、グリップ部を伸ばすことによりロールを運搬車へ降ろすことができます。この機構を利用することにより、特に畦畔上に駐車してあるトラック等の運搬車にも直接降ろすことができます(図−7)。したがって、本機の利用により、ベールグリッパ等のハンドリング機械が不要になるだけでなく、フィルム被覆後のロールを圃場内へ降ろした場合の稲の切り株によるフィルムの破損防止にもつながります。

図−7 リフト機能を利用した畦畔上の運搬車へのロール荷降ろし方式

3. 組作業による飼料イネの収穫調整作業

 開発したロールベーラとベールラッパによる飼料イネの収穫調製作業の体系をまとめると次のようになります。まず、ロールベーラが飼料イネの刈取り、梱包作業を行い(写真−1)、梱包終了後はトワインで結束しながらベールラッパの近くまで移動してきます。この間、飼料イネ用ロールベーラのパトライトが点灯していますので、これを確認したベールラッパのオペレータも圃場内を移動してきます。結束終了後、好条件の圃場では圃場内に直接ロールを放出し、その後、ベールラッパがロールを拾込み(写真−2)、密封作業を行います。また、排水条件の悪い圃場では、両作業機がゆっくりと接近し、ロールのダイレクトキャッチを行います(写真−3)。何れの作業でも、ベールラッパはロールをターンテーブル上に積載後は密封作業を行いながら運搬車まで圃場内を移動し、直接荷降ろしを行います(写真−4)。ベールラッパの作業能率としては、圃場内に分散しているロールを拾込み、運搬車まで移動して荷降ろしを行った場合、10a当り約35分です(表−2)。開発した両作業機を用いた体系では、ロールベーラの作業とベールラッパの作業が、ほぼ同時に行うことができるため、飼料イネの刈取りから梱包(約25分/10a)、密封、さらに圃場外への搬出までの作業は10a当り35分程度で行うことができます。また、梱包作業と密封作業が連続して行えることから、ロールの密封遅延による品質の劣化も防げるものと思われます。

 
写真1 飼料イネ用カッティングロールベーラによる刈取り・梱包作業   写真2 自走式ベールラッパによる分散ロールの拾込み作業
     
 
写真3 両作業機の組作業によるロールの直接荷受け作業   写真4 リフト機構を利用した運搬車への荷降ろし作業

表−2 自走式ベールラッパの作業能率

 今回、紹介しました両作業機は平成12年度には実用化が予定されており、予定販売価格としては飼料イネ用カッティングロールベーラが約950万円、自走式ベールラッパが約250万円です。当然、自走式ベールラッパは、従来の牧草のロールベールの密封作業にも利用できます。また、飼料イネ用カッティング ロールベーラについては、今後、機械費の負担を低減するために、特に飼料ムギの刈取り、梱包作業にも活用していくことも検討する必要があります。このように、飼料イネ、飼料ムギ等を栽培し、両機の稼働率をあげるような作付体系を地域内で検討していくことが機械費の低減につながることと思われます。

おわりに

 平成10年から米の緊急生産調整推進対策として全国の約96万haの水田が転作され、今後も継続して生産調整は実施される現状において、水田の畜産的利用の受持つ役割は大きいものと考えます。一方、大家畜経営は自己完結型の粗飼料生産が一層困難となりつつあり、各地域において立地条件や経営条件に対応した水田の有効利用の検討が行われています。

 今後、飼料自給率の向上により畜産経営の安定化を図り、水田の保全と総合生産力の向上のためには、転作田を有効に利用した粗飼料生産技術を確立することが必要であり、さらに、粗飼料を地域内で流通させることも検討していく必要があると考えます。そのなかで水田地帯において、飼料イネは耕種農家と畜産農家を結付ける一つのキーワードとも考えられます。今後の方向の一つとして、米麦を中心とした作業受託組織等が、地域営農のなかで家畜堆肥の施用や水田における飼料生産に関わる作業も請負うことにより、水田が有効に活用され、そして水田を基盤とした畜産経営の安定化も図られるものと考えます。さらに今後、これらの組織を中心とした水田地帯での日本型コントラクタ組織へと発展することを期待します。

(筆者:三重県農業技術センター畜産部・主任研究員)