良い堆肥生産のポイント(1)

─ 堆肥の利用目的とよい堆肥 ─

藤原 俊 六 郎

  畜産農家は「良い堆肥を作っても耕種農家が引取ってくれない」という悩みを持ち、耕種農家は「畜産農家から良い堆肥が出てこない」という問題意識をもっています。これは、両者の良い堆肥に対する考えが異なるためです。

 一般に、畜産サイドは、よく乾燥し不潔感のないものが良い堆肥と感じる場合が多く、耕種サイドは、高品質の農作物が安定して栽培できる堆肥を望みます。いいかえれば、畜産農家は外観品質に気を使い、耕種農家は内容品質に気を使っていると言えます。

 このような誤解があっては、せっかくの有益な農業資源である家畜ふん堆肥の活用が進みません。畜産農家と耕種農家が互いに相手の考えを理解し、家畜ふんを農業生産上有効な資源として活用することが、今、強く望まれています。

 そのために、この紙面を借りて、耕種農家の立場に立って、望ましい堆肥のありかたを紹介してゆきます。ここでは、農耕地の地力維持対策としての堆肥の利用の意味について考えてみたいと思います。

1. 地力の構成要素と改良対策

 「堆肥は土づくりの基本」とか「じゅうぶん堆肥を入れた畑は健康になる」とか言われ、堆肥は土づくりには欠かせない資材になっており、「土づくり=堆肥」になっています。なぜ、このように堆肥が重宝がられるのでしょうか? 堆肥ならどんなものでも良いのでしょうか?この答えを出すためには、堆肥が土壌や作物生産に寄与する役割を知らなければなりません。

(1)地力とは

 農産物の生産を安定して行うためには、土壌を肥沃にすることが必要です。これを「地力」と呼んでいます。この地力を高めるためには、さまざまな改良対策がとられます。地力の構成要素と改良対策の関係を表−1に示しました。地力構成要素は化学性、物理性、生物性に分けて考えることができます。

 化学性は、養分供給力、保肥力の向上、pHの改善などがあげられます。養分供給力とは、窒素、リン酸、カリなどの多量要素(10a当り数kg以上の多量に必要な成分)以外にマンガンやホウ素のような微量要素(10a当り100g以下の少量でよいもの)の供給です。保肥力の向上は、土壌の持つ陽イオン交換能(CEC)を向上させ、土壌の緩衝能を高め、肥料の効果が長期間にわたってゆっくりと表れるようにすることです。pHの改善は、作物の生育に適した弱酸性土壌(pH6程度)に保つことで、緩衝能の増大とも密な関連があります。

 物理性は、保水力や透水性や通気性、易耕性などがあげられます。保水力は、作物に必要な水を保持することのできる力で、空気を通す力を通気性といいます。透水性は水はけのことで、過剰な水を速やかに除くことで、通気性とも極めて密な関係にあります。水持ちがよく通気性がよい土壌は、土壌粒子の団粒化によってつくることができます。団粒化が進んだ土壌は、保水性や通気性が優れているばかりでなく、耕しやすくなります。これを易耕性と言います。

 生物性は微生物性とされることも多いのですが、土の中のミミズや虫類も地力維持に役だっているので、生物性と呼びます。生物性は、有用な生物や微生物(有用菌)が土壌中に増加することが基本です。有用菌はいろいろな働きを持つ菌が含まれますが、有機物を分解して肥料成分を提供できる有機物分解菌や、窒素の有効化に活用する根粒菌や硝酸化成菌、リン酸を供給するVA菌など、植物病原菌を殺して農作物の病害や虫害を抑制してくれる拮抗菌などがあります。

(2)地力向上対策

 安定した農作物の生産をするためには、土壌の改良を行うことが必要です。その方法として表−1には、化学肥料、無機改良資材、客土・深耕、輪作、堆肥施用をあげています。

表−1 地力構成要素と地力維持対策の関係

 化学肥料は、作物に必要な栄養分を供給するために開発したものですから、養分供給には大きな効果がありますが、それ以外の要素には関係しません。

 無機質の土壌改良資材には、石灰質資材のようにpHを改良するもの、ゼオライトのように保肥力や保水性を改善するもの、バーミキュライトのように物理性を改善するものなどいろいろあります。このため、種類を選べば、かなり多様な効果があります。

 客土や深耕は、土壌の化学性や物理性が悪化したときに行う工法ですが、物理性改善効果とともに、化学性の改善効果もあります。また、新しい土を入れたり混合することにより病虫害も抑制できる可能性があります。

 輪作は、同じ種類の作物を連続して栽培すると化学性や微生物性が悪化し、農作物が生育不良になることがあり、これを連作障害といいます。連作障害を防ぐためには異なった種類の作物を栽培することが必要で、これを輪作といいます。輪作は、有用微生物の増加による病害の抑止に効果があります。

 これに対し、堆肥の効果をみますと、すべての項目に効果がみられます。いわば、堆肥は土壌の万能薬のような働きをします。このことから、農作物の栽培に、いかに堆肥の施用が重要であるか理解できると思います。

(3)堆肥の効果

 耕種農家が堆肥の効果をあげるとき、作物の増収効果や品質向上効果とともに安定した生産の維持をあげます。この効果を具体的に考察すると次のようになります。

 「農作物の増収効果」は生育促進効果と同じであり、肥料効果が主となります。肥料成分の供給は、多量要素だけでなく、微量要素の適正供給にも効果があります。増収効果は、化学性改良効果とも言えますが、これ以外に、堆肥から出るホルモン様物質による生育促進効果もあります。このホルモン効果については、現在まだじゅうぶんな解明が行われていません。

 「農作物の品質向上」は、肥料成分(主として窒素)と水分の適切なコントロールにあると言われます。根のまわりの環境条件(根圏環境)を良好にし、土壌の緩衝能を増大させることが重要です。このためには、土壌を団粒化促進により軟らかくし、作物根がじゅうぶんに伸び、根圏土壌の養水分保持力を増大させることが必要です。これは、土壌物理性改良と言いかえることもできます。

 「農作物の安定生産」は漠然とした表現ですが、永続的農業生産を意図した表現といえます。これは、土壌環境の改善により作物が栽培しやすくなるとともに、安定生産を阻害する要因である連作障害の回避も重要な要因です。連作障害は土壌微生物によることが多く、生産安定のためには土壌生物性の改良が重要な要因と言えます。

 このように、農業において堆肥に期待する効果の、「増収」、「品質向上」、「生産安定」は、土壌の化学性、物理性、生物性の改良と言いかえることができます。

2. 地力構成要素からみた良い堆肥

  「堆肥は土づくりのために使うので肥料分はないほうが良い」とか「肥料効果がなければ堆肥ではない」とか、使用者によって、良い堆肥のイメージが違います。ここでは、地力構成要素からみた良い堆肥について考えてみます。

(1)化学性改善に良い堆肥

 化学性の改善効果は、主として肥料成分(窒素、リン酸、カリ)の供給です。家畜ふんはこれらの肥料成分が多く含まれているため、家畜ふん堆肥は化学性の改善効果には優れています。しかし、家畜ふんの種類によって肥料成分に違いがあります。このことに注意して使用しないとかえって作物生育に悪い環境をつくることになります。

 家畜ふん堆肥に含まれる養分の事例を図−1に示しました。この図−1は、中段に家畜ふん尿を主体にした堆肥(従来きゅう肥と呼ばれていたもの)を、下段には水分調節のためにオガクズ等の木質を混合したものについて示しています。また、参考として古くから使われてきた稲ワラ堆肥を上段に示しています。

図−1 堆肥の種類別品質特性

 牛ふん堆肥は、乾物含量で窒素、リン酸、カリともに2%程度あります。この量は乾物のため現物量に換算すると、現物(含水率66%)1t当たり、窒素、リン酸、カリが約7kg含まれていることになります。

 豚ぷん堆肥では養分が多く、乾物含量で窒素2.9%、リン酸4.0%、カリ2.2%です。この量を現物量換算すると、現物(含水率53%)1t当り、窒素、リン酸、カリがともに10kg以上含まれています。

 鶏ふん堆肥ではリン酸と石灰が多くなります。乾物含量で窒素2.9%、リン酸5.1%、カリ2.7%です。この量は、現物(含水率39%)1t当り、窒素8kg、リン酸15kg、カリ8kg、石灰33kgに相当します。

 このように、肥料成分は、鶏ふん>豚ぷん>牛ふんであるため、土壌の化学性改良効果には、鶏ふんが最もよいことになります。しかし、採卵鶏では石灰が多く含まれているので、施用するときに注意が必要です。

(2)物理性改善に良い堆肥

 物理性の改善は、粗大有機物を含み、肥料効果の少ないものが適しています。図−1では全炭素(T-C)と炭素率(C/N)が大きいものが、物理性の改良に効果があります。鶏ふんに比較すると牛ふんでははるかに大きな値となり、オガクズの混合の有無で比較すると、オガクズを混合することによって全炭素が1割、炭素率が5割増加しています。

 このように、牛ふんやオガクズのように繊維質的な堆肥が物理性の改善効果に優れていますが、炭素率が小さい堆肥でも、連用していると、有機物分解に関わる土壌微生物が増殖し、微生物の生産する粘質物によって土壌が団粒化し、物理性を改善することができます。

 また、堆肥が土壌中で急激に分解するのではなく、ゆっくりと長期間にわたって分解することも物理性の改善に役立ちます。このような観点からみると、物理性の改善には、牛ふん堆肥やオガクズ混合堆肥が優れていると言えます。

(3)生物性改善に良い堆肥

 生物性の改善は、土壌中に有用微生物を増加させることが基本です。土壌中には非常に多種類の微生物が数多く存在しています。その数は、土壌1g中に約1億個の微生物が存在すると言われています。これらの微生物は、養分の少ない土壌中では、活動を停止して休んでいますが、一度、堆肥などの微生物の餌になる物質が入ってくると、それから栄養をとり、急激に増殖します。このためには、栄養分の多い堆肥が微生物を増やすのに役立ちます。

 微生物の栄養分は、窒素、リン酸、カリなどの肥料成分だけでなく、炭素も影響します。

 これは、植物は炭素を空気中の二酸化炭素から取るのに対し、微生物は餌となる有機化合物から炭素を取るためです。図−1をみると、豚ぷん堆肥は全炭素も肥料成分も多く含まれていますので、微生物活性力の増加と言う点では、このような堆肥が優れています。

3. 地力を向上させる堆肥とは

 いままで紹介したなかで、地力は、土壌の化学性、物理性、生物性に区分して考えることができること、それぞれの改良に適した堆肥の種類を紹介しました。これをみると、化学性の改良のためには鶏ふん堆肥、物理性改良のためには牛ふん堆肥、生物性改良のためには豚ぷん堆肥とそれぞれが分かれてしまいました。

 これは、目的によって適した堆肥の種類が異なることを示しています。このことが、良い堆肥のイメージの固定を困難にしている要因です。化学性、物理性、生物性の改良について、それぞれの平均的な点がとれるのが牛ふん堆肥です。だからこそ、牛ふんが堆肥原料の基本になっているのです。しかし、用途を限定すれば、他の資材の方が良いことがわかります。このように、良い堆肥とは、使用目的によって異なってくるものなのです。

(筆者:神奈川県環境農政部農業振興課 専門技術員・課長代理)