良質牛肉生産のポイント〔III〕

─ 肉用牛の子牛の哺育・育成 ─

宮 本 正 信

 昨今、肉専用種、特に黒毛和種では「上物率」を高めることが改良であり、また、そうすることが優れた肥育技術であるとする傾向が強いようです。そして、それが経営を有利に展開する手段であると一般的に農家等で考えられています。その背景には「高い値段で販売される子牛を肥育した場合は肉質が優秀であり、枝肉は高い価格で売れることから大きな利益をもたらす」という思い込みがあるように思われてならないのです。事実、そのとおりの結果になっている産地・経営者もいるでしょう。しかし、後進産地やその経営者は高い値段で買った子牛を地元に保留して肥育してみたら、意外に冴えない結果であったと言うような例や、また、その逆の例などが見受けられます。しかし、現在の肉専用種の生産(肥育)に求められることは、一定期間のなかで肥育して仕上げられる「量と質兼備」の考えが求められる時代になっています。

 次に北海道で生産される黒毛和種の子牛(肥育モト牛)は全国各地でどんな評価をされているか紹介したいと思います。

1.北海道産モト牛の道内と道外の肥育成績の比較

 表−1に北海道産モト牛の道内と道外の肥育成績の比較を示しました。北海道産モト牛は508頭で、うち道内肥育は182頭です。道外肥育は326頭で、地域別では近畿が169頭と多くを占めています。

表−1 

平成9年北海道産モト牛の地域別肥育成績
黒毛和種去勢若齢肥育成績

(1)モト牛取得

 北海道の取得時日齢は9.8ヵ月、取得時体重は295kgで関東とほぼ同じです。これは近畿よりも取得日齢が早く、体重も少ないのです。日齢増体量(D・G)は、北海道が1.007kgで都府県平均より良いのですが、近畿に次ぐ成績です。北海道の取得価格は38万4000円で、関東や近畿よりも安くなっています。生体1kg当り単価は、北海道の1311円に対し都府県の1508円の方が197円高いのです。

(2)肥育出荷

(1)北海道の出荷月齢は28.4ヵ月で、都府県の30.2ヵ月より1.8ヵ月早い、

(2)出荷体重は北海道の704kgに対し都府県の717kgより13kg少ない、

(3)肥育日数は北海道の568日に対し都府県は637日と69日間北海道の方が短い、

(4)D・Gは北海道の0.725kgに対し、都府県は0.681kgと北海道の方が0.044kg良い、

(5)1頭当り販売価格は、北海道が76万2000円で、都府県は81万2000円と5万円高く、特に関東が89万6000円と13万4000円高い、

(6)枝肉1kg当り単価は、北海道が1630円であるのに対し、都府県は1865円と235円も高く、特に関東は1965円と335円高い、

(7)1頭当り増加額は北海道が37万9000円で、都府県の38万9000円より1万円少なく、最も高い関東の49万2000円より11万8000円少ない。しかし、肥育日数が少ないので1日当りの増加額は北海道が668円と、都府県の619円より1日当り49円高くなっている。なかでも、関東の882円は北海道より214円高い、

(8)最後に枝肉格付では北海道はA・B−4以上クラスが49.5%、都府県は64.5%と15ポイント都府県が高い、

 このことは、高品質の牛肉は同じ北海道産の「モト牛」であっても、肥育技術の工夫により生産され、経営効率を高めている、と言える、

以上、最近の北海道の黒毛和種、肥育モト牛の素材の良さを紹介しましたが、以下繁殖+肥育一貫経営の技術を念頭におくと、

ポイント1 子牛は“胃袋”づくりから、もうけは“記録”から

ポイント2 子牛の出荷規格を統一し有利に販売しよう

をテーマに述べたいと思います。

2.哺育期の基本管理

 哺育期の基本的管理には大きな4つのポイントがあります。

(1)子牛の発育を定期的にチェックしよう!

(2)早期離乳や制限哺乳を活用して、固形飼料の摂取を早めよう!

(3)別飼い施設で飼料を適切に給与し、発育水準を高めよう!

(4)新鮮な空気・水の確保、乾燥した牛床づくりをしよう!

これが哺育環境の基本です。

(1)哺乳方式

 肉用牛の哺育方式には、

(1)6ヵ月齢程度で離乳する自然哺乳

(2)自然哺乳の期間を3〜4ヵ月に短縮する早期離乳

(3)分娩直後親子分離をし人工哺乳にする方式

(4)自然哺乳を行いながら、分娩後15〜28日間は親子を分離し、1日2回程度に哺乳回数を制限する制限哺乳方式

等があります。このうち自然哺乳は母乳を徹底して利用しようとする考えです。また、早期離乳は子牛の発育をさらに高めることをねらいとしています。最初からの人工哺乳は酪農家がETを利用するような場合に必要です。一方、制限哺乳は母牛の繁殖機能の早期回復と子牛の固形飼料採食を早めるねらいがあります。どの方式を取るかは、経営事情や戦略によって決定してください。

(2)子牛の発育

 哺乳子牛の発育は母牛の泌乳量に左右されます。このため、泌乳量の少ない母牛の場合 は図−1のとおり、どうしてもその子牛の発育が遅れます。日本飼養標準・肉用牛(1995年)が示している発育では、生時体重が雌28kg、雄30kg、4ヵ月齢体重で118.4kg、158.3kg、この時の体高が91.6cm、96.6cmとなっています。これを4ヵ月間のD・Gで示しますと雌は0.74kgで、雄は1.05kgの発育が必要になります。母乳の泌乳量が少ない場合には1ヵ月齢程度から、泌乳量がある程度あっても2〜3ヵ月齢頃から栄養が不足します。このため、発育を観察・記録しながら子牛に対する固形物の餌の給与を開始することが大切です。

図−1 母牛の乳量と子牛の発育

(3)子牛の別飼い

 子牛は生後1〜2週間で濃厚飼料や乾草の遊び食いを開始します。この固形飼料の刺激、特に早期では濃厚飼料が分解して生じる低級脂肪酸が反芻胃の発達を促します。別飼い飼料は濃厚飼料を体重の1.0〜1.3%、良質乾草を自然採食させるのが一般的です。濃厚飼料を早期からあまり多給すると、下痢・軟便を伴ないますし、化粧肉が付き市場では嫌われる原因になります。濃厚飼料の養分含量はTDN70%、CP15%程度が適当とされてきましたが、最近、蛋白含量を高める傾向にあります。スターターの養分含量はTDNが72〜74%、CPが16〜20%程度ですので、参考にしてください。この理論は濃厚飼料の高蛋白で骨格(フレーム)、乾牧草で胃袋の発達を促す考えです。別飼い飼料給与の開始月齢は、子牛の発達に応じて判断しますが、おおむね1ヵ月齢の後半が目安になります。

(4)早期離乳

 図−2はある先進府県における3ヵ月離乳の事例を示しました。この方式は6日間は親子同居、7日目から哺育柵による親子分離・1日2回哺乳(1回15分)、90日で親子完全分離とします。飼料給与で人工乳の給与量限度は去勢子牛の場合4kg、雌子牛の場合3.5kgとして不断給餌を行います。乾草は飽食給与、水は毎日交換して新鮮水を飲ませます。

図−2 ある先進府県における早期離乳事例

3.育成期の基本的管理

 育成期の基本的管理は大きな3つのポイントがあります。

(1)育成期の飼料給与は良質粗飼料の自由採食が基本

(2)過肥のモト牛は見た目には良いが肥育成績が低下するので注意

(3)去勢は新観血法でおおむね4〜5ヵ月齢で実施が最適

以上が望まれます。

(1)育成牛の発育

 離乳は早期で3ヵ月齢程度、自然で生後5〜6ヵ月齢で実施している場合が多くなっています。飼料給与は継続して濃厚飼料を体重の1.0〜1.3%を給与し、良質粗飼料(1番乾草)を自由採食させることが基本です。この時期は育成期の消化機能の発達を促すとともに、筋肉・骨をじゅうぶん発育させる飼養管理が重要となります。表−2に日本飼養標準に基づく発育の目安を示しました。

表−2 発育の目安

月 齢 4 5 6 7 8

9

(去勢)
体 重kg
体 高cm

138
095

166
099

193
103

220
107

248
110

275
114
( 雌 )
体 重kg
体 高cm

118
092

141
096

164
100

186
103

209
106

231
109
出典:日本飼養標準・肉用牛(1995)、去勢:雌・雄の中間値

(2)粗飼料の給与

 図−3に月齢の推移に伴う乾草摂取量を示しました。体重比2.4%の濃厚飼料を給与した子牛は乾草摂取量が伸びず、9ヵ月齢に達しても2kg以下に止まっています。これに対して、体重比1.2%と標準的な濃厚飼料を給与した子牛は安定的に乾草摂取量が増大し、9ヵ月齢で3.5kgに達しています。一方、子牛期の飼養型と肥育成績を表−3に示しました。これを見ますと舎飼・濃厚飼料中心の飼養型はモト牛体重が大きかったものの、出荷体重、肥育期D・G、枝肉単価、1日差益のそれぞれが低く、望ましい飼養方法とは言えません。やはり、北海道のすばらしい立地条件(特徴)を生かして、粗飼料(乾草)をじゅうぶん活用した育成方式が優れていますし、その取組みにより成果を上げなければなりません。東北・関東の先進県の多くの優秀な肥育農家が、過肥モト牛を避けて、粗飼料をじゅうぶんに食い込んだモト牛を北海道に求めている理由は前段でも述べましたが、輸送や馴致(飼い直し)のストレスが少ないことと、肥育期の増体が安定し肥育成績が優れている点にあります。

図−3 月齢の推移に伴う乾草摂取量

表−3 子牛期の飼養型と肥育成績

子牛期 モト牛体重 肥育日数 出荷体重 D・G 枝肉単価 1日差益
粗飼料多給 261kg 597日 707kg 0.75kg 2,081円 792円
放牧中心 210kg 639 696kg 0.75kg 1,948 751
舎飼中心 268kg 623 690kg 0.67kg 1,985 563
小沢.1993

(3)放牧利用の育成

 粗飼料の有効活用と言っても、広大で草勢の悪い放牧場に入れっぱなしにしておいても良いということにはなりません。当然、放牧条件が不良になるにつれて消費エネルギーが増大し、発育に回される栄養が不足し、発育成績が低下することになります。このため草勢の良い牧区の確保や、補給飼料の給与を行うことが大切で、母牛放牧の先行利用や小牧区の制限放牧、クリープフィーデング等の対応が望まれます。なお、放牧育成にはコスト低減や足腰の強い牛づくり、舎飼期での代償性発育が期待できる等の長所がある一方で、放牧疾病・事故、草地の利用性低下、気性が荒くなる等の短所があります。

(4)去勢は新観血法で4〜5ヵ月齢に実施

 去勢方法は、バルザック法、ゴムリング法、新観血法が一般的です。しかし、ゴムリング法、バルザック法は精系や血管を結窄して血液の流れを止めて、造精機能を退化させる方法のため、約1ヵ月間は局所が腫脹してストレスを与えます。観察では歩行を困難にし採食活動が低下する場合があります。このストレスを軽減するために北海道内の多くの地域で10年位前より新観血法による去勢が行われています。これは陰嚢の下部1/3をカッターナイフで切取り、睾丸を引抜く去勢法です。慣れると子牛を立たせたままで、1頭当り1〜2分間で実施できます。陰嚢下部が切断されているため、血液や分泌液を陰嚢内に貯留することがなく、外傷としての治癒を待つだけで、ストレスが少なく完全な去勢法と言えます。

 最近、集団で実施している例で2ヵ月齢程度でも作業の都合で一緒に実施してしまうことが多く、発育を低下させる一要因になっています。また、早期去勢は尿道の発育を阻害し、肥育に入ってから尿石症になりやすい例も見受けられます。一方では育成の初期は雄性を利用して発育水準を高め、胃や筋肉成長を促す方が有利なことや、直検(種雄牛を育成するための合否を直接検定する方法)落ち(12ヵ月齢)後に去勢肥育した枝肉のBMS(育種価)が高い事例があります。肉質の評価の良い兵庫の血液の割合が高い場合には6カ月齢去勢でも上物率が高い例があることを考えると、従来の去勢時期を若干遅らせて、4〜5ヵ月齢で実施をした方がよいように北海道の場合は思います。

 表−4に去勢時期と産肉性を調査した成績を示しました。この成績では230kg体重時の去勢牛の脂肪交雑が最も高く、増体、歩留りも優れていることを示しています。これより遅かったり、未去勢牛の場合BMSは明らかに低下しています。実際の去勢作業の場合危険性を考えると、月齢が進み、体を大きくすることは避けなければなりません。4〜5ヵ月齢が無難なところと考えられます。

表−4 去勢時の体重と肥育成績

  去勢時の体重(kg) 対象牛
未去勢
70 230 320 410
開始体重
終了体重
DG
枝肉重量
BMSスコア
歩留等級

221
487
1.30
302
5.0
2.7

222
484
1.28
300
5.4
3.0
227
468
1.18
290
4.2
2.6
223
482
1.26
299
4.0
2.5
222
513
1.42
318
3.5
2.3
注:1)188頭の子牛を5グループ
  2)屠畜14〜15カ月齢
  3)BMSスコア (9:非常に多い、1:痕跡)
  4)資料:Journal of Animal Science64:343, 1987

4.現地活動事例の紹介

 現在、北海道道南地方の中山間地の松前町では松前黒牛ブランドの確立のため、生産者と関係機関が一致協力して「子牛管理のポイント」を指導しているので紹介します。

 松前町営公共牧野は平成10年に造成しました。

 その概要は次のとおりです。

 ・放牧面積→205ha、32牧区

 ・飼養のポイント→夏山冬里

     (5月1日入牧〜11月中旬下牧)

 ・品種→黒毛和種186頭

     褐毛和種550頭

 ・飼養農家数→17戸

 ・特色は平成3年より島根県から優秀黒毛和種の基礎雌牛を導入し、褐毛和種より黒毛和種へ飼養変換・増頭を図っていることです。

 図−4は子牛の出産から市場販売(雌の部は保留増頭を考えて指定・計画交配)までの10ヵ月去勢販売を考え、子牛管理のポイントを示しています。各月齢の子牛の雌の体重・体高は日本飼養標準・肉用牛(1995年)の黒毛和種の発育値を、去勢の部の体重・体高は雌と雄の中間値を採用しています。

図−4 去勢子牛管理のポイント

(筆者:北海道渡島南部地区農業改良普及センター・所長)