「ケンブリッジファーム」

 

高 橋  功


はじめに
 宮城県には2つの村がありますが、そのうちの1つ大衡村(おおひら)は仙台から北へ約25kmの位置にあります。

 昭和61年12月から大衡村および隣接する大和町、大郷町、富谷町、仙台市の1市4町村を地域としてテクノポリスの指定を受け、「東北を世界に開く技術と文化のまちづくり」を目指して建設が進められています。

 なかでも大衡村は、構想の主要事業である「仙台北部中核工業団地の整備」「仙台北部中核都市の建設」などの開発区に位置づけられています。

 総面積60km2、人口6000人、丘陵地と農耕地の多い自然に恵まれた豊かな村です。

 昭和30年4月6日に第6回全国植樹際が開催され昭和天皇、同皇后両陛下ご隣席のもと約6000人の人々が集い記念植樹が行われました。この場所は大衡村役場の北側の丘陵地にあり、御手植の松を含め一帯22.65haが「昭和万葉の森」として公園に整備されています。森の中には昭和天皇御製の歌碑が樹齢40年の松林の中にあり、次のように歌われています。

  「日影うけてたちかがよひぬ春の雪

   きえし山辺に植えたる松は」

  「茂れとし山べの森をそだてゆく

   人のいたつき尊くもあるか」


初めまして、私も高橋です
 高橋牧場を訪ねた時の最初の挨拶です。

 高橋賢一氏、45歳、高橋牧場「ケンブリッジ」のご主人です。

 初対面の時「ケンブリッジ?イギリスのケンブリッジと何かご関係でも?」との私のぶしつけな質問に「いえ、関係はありません、私の名前が賢一で『ケン』、高橋の橋で『ブリッジ』合わせると『ケンブリッジ』さ」の答えが返って来ました。なかなか洒落た方とお見受けいたしました。

 体格はガッシリしたスポーツマンタイプ。もっともご本人は県内でも有数のスキーヤーで、現在は現役を退いていますが、全日本指導員、公認パトロールの資格を持ち、県スキー連盟理事、スキーパトロール技術員を歴任し、スキーパトロール連盟チリ大会やスゥエーデン大会に日本代表として出場した経歴を持つスポーツマンなのです。

 スキーとの付合いは高校卒業後からとのことで意外でしたが、高校時代は陸上の中長距離選手として多くの大会に出場し駅伝にも参加しています。この間、培った優れた運動能力と基礎体力がスキーヤーとしての技術習得につながったのだと思います。また、競技を通じて数多くの人々との巡り合いの中で、学び取った事も多かったのではないかと思います。

 現在もスキーとの関係は続いており、毎年冬は大衡村の西方にある奥羽山脈の船形山(標高1,500m)の山麓に、船形スキー山岳会が開設しているスキー場に、オーナー兼世話役兼指導員としてボランティア活動をしていて、日曜・祭日の開設の日はリフトの点検やら圧雪機の運転等、忙しく、また楽しく活動されてます。

 スキーの来場者は多い時で200名にも達し、技術の指導が受けられることはもちろんのこと、アフターに飲めるケンちゃん牛乳(タダ)や焼肉・豚汁が大好評で、仙台近郊の隠れた穴場のスキー場として知る人ぞ知る所となっています。

 これらの原材料も牧場仲間、畜産仲間の連携で肉類の仕入れもお手のもの、野菜類は自家産を格安に提供しています。

 ケンちゃん牧場長は、「スキーが好きで集って来る人は多種多様、職種も様々だけど好きな事をやっている人たちの顔は素晴らしい。特にアフターの時、鍋を囲んでの談笑、交流は色々なことで勉強になる。皆の喜ぶ顔を見ると止められないね。畜産農家?、うん、来てるよ」とさらりと返事をしてくれましたが、「スキーの仕事も畜産も楽しくやらなきゃ」の信念を実践しているようです。


思い悩むより行動、しかも楽しく
 経営は水稲と酪農の複合経営ですが、家族全員がそれぞれの部分を受け持っています。

 当場主夫妻の担当は搾取牛30頭の酪農、4haの稲作、その他に1.7haの受託水田と5.5haの転作を含めた牧草飼料作です。

 その他に奥さんは野菜および野菜苗、花苗づくり、父親の担当は野菜販売、タケノコ加工販売、椎茸、なめこの生産、家事は母親の担当とそれぞれが得意技で分担しています。

 経営が今日に至るまではもちろん曲折がありました。

 父から酪農経営を任されたとき酪農は厳しいと聞かされましたが、「オレは清潔な環境で楽しく仕事をやりたい」と考えました。

 きれいな仕事場で楽しく仕事をすれば能率も上がるし、牛たちもストレスがなく能力をじゅうぶんに出してくれるとの信念は今も変わっていません。

 そんなわけで乳牛舎等を新しくしたわけですが、当然資金は融資を利用しました。

 頭数規模は飼料の自給面積や労力から考え30頭と設定し、能力の向上による生産増を目標としました。融資も返済期間を短縮した方が良いと考え、一時は年間の償還額が700万円を超える返済を行い苦しい時期もあったのです。後継牛の能力、特に乳量、乳成分の向上のために重点的に交配種雄牛を選択し、乳牛導入にあたっては優良な系統を吟味して行ってきました。

 繋養牛の更新期間は平均2.7産ですが、後継牛は自家育成50%、導入牛(北海道)50%と自家育成を重視しています。

 その結果、牛群の平均乳量が4年連続して1万kgを超え、県内でもトップクラスの高能力牛群をつくり上げました。このことは融資の償還を早い時期に済ますことに結び付き、融資に二の足を踏んでいた友人たちを悔しがらせています。


後継者の教育方針
 牧場の牛には小さな小学生のオーナーがいます。それは子供たちがお小遣いを貯めて、後継牛を導入する時、一緒に購入した子供たちが所有する牛です。

 今では生産に参加するようになり子供たちは、2頭目、3頭目の導入を目指しているところです。

 牧場長曰く、「畜産農家の子供は学校でも少なくなってきている。学校で先生や友達に牛のことを聞かれたとき、『ボク、知らないよ』ではあまりにも悲しい。オレは先生や友達に牛について教えることができる子供に育てたい。先生だって牛のことをよく知っている人は少ないのだから」。

 また続ける、「子供たちの牛の世話は子供たちに手伝わせる。当然乳代は子供たちのものだ、経費を差引いても毎月の貯金が増えてゆく、子供は喜んでいるし、牛飼いのノウハウも自然に覚える。後継者になるかどうかは子供の考えもあるので強制はできないが、子供の時から慣れ親しんだものは生涯身に付いているものだ」。

 高橋さんの次世代を担う子供たちへの思いいれはまだまだ続く、数年前のこと小学校の先生から、「牛の写生をしたいのだが……」と相談があった。「イガス!(仙台弁)、ヨッシャ」とばかりに、おとなしい牛にシャンプーをかけ、輸送費は自前で学校に持ち込んだ、学校は大騒ぎで授業にならなくなり、全校の先生・生徒が牛を見る会となってしまった。中には乳牛を初めて見た生徒もいて、間近に見る牛の大きさに驚き、牛の足が4本で大きな乳房に乳頭が4本あること、そして牛の体に触れ『暖ったけえ!』と感動していたようです、後で生徒1人1人から手紙をもらったことが忘れられないと話していました。

 それ以来、牧場は小学校、幼稚園、保育所の見学、遠足の場所として毎年600人もの来訪者があります。


牧場の環境美化が好印象
 現在は中央酪農会議のスタンプラリーに参加しホームページを開設しており、仙台近郊という地の利もあって家族連れの来客も年々増えています。

 来客の多い牧場の景観づくりを演出しているのが奥さんです。

 新鮮な野菜など食材にした生活を望んでいたこと、花が好きなこともあって野菜づくり花壇づくりは奥さんの一人舞台です。一年中花を絶やしたくないとの思いから、早春2月から花苗や野菜苗の育苗が始まります。もちろんハウス育苗ですが、これ等の苗類も販売用に出して農業収入の1つの部門となっています。

 年中花いっぱいの考えから花期の長いマリーゴールド、サルビア、ペチュニア、パンジーを主体に栽培しており冬季間でもパンジーの花盛りとなっています。


手をかければウンが幸運を呼ぶ
 畜産経営の悩みの1つにふん尿の処理があります。

 家畜ふん尿は農耕地には貴重な有機質資源と言いますが、臭いもあり形がドロドロ、ベタベタ、色からして汚物感を感じない人はいません。

 高橋牧場ではこのふん尿を見事に良いたい肥に変身させています。

 処理方法はたい肥盤での切返しのみです。ユンボを使い定期的に年6回切返す方法でたい肥化しています。たい肥盤は牧草地の一角に設置し、現在屋根はなく雨水を防ぐシートを掛けていますが、今年度中に屋根を設置する計画です。ユンボによる年6回の切返しで、発酵促進を行い良質たい肥を作り、製品は注文販売で年間約80台(1台で約3t)販売しています。

 販売先は野菜および園芸農家が多く、全量を売り尽くし注文を断ることもあります。価格は1台当り8000〜1万円で、この価格なら経費(手間賃)分にはなるとの話です。

 たい肥の作物への効果は今さら言うまでもありませんが、高橋牧場では水稲作をはじめ野菜作り、野菜苗、花苗づくりに利用しており、その効果は実証済みです。牧場を訪れた人々が「きれいな花ですね、どの様に作るのですか?」「うづぐしい花だごだ、なじょに作んのっしゃ?(仙台弁)」と尋ねても、花の作り方とたい肥の効能を教えれば、たい肥の売上げも増えるというものです。

 平成11年の夏は宮城県も稀な猛暑でした。暑い夏に不作なしの例え通り水稲の収量は、平年を上回ったものの品質は低下しました。その中でたい肥をじゅうぶん入れている自作の水田と、たい肥とワラ交換をしている方の水稲の品質は良かったとの事で、猛暑の条件でも、安定した品質を確保できることが実証できました。


おわりに
 ケンブリッジファーム、高橋牧場は仙台近郊とはいえ水田や牧草地に囲まれた一軒家です。隣の家も見えるが、かなりの距離があります。さびしいと言えばさびしい、だがケンちゃん牧場長は違っていました。人が少なければ集めればいい。集るところに参加すれば良い。この人は常にプラス思考で行動しています。

 紙面の都合上ご紹介を省きましたが、社会奉仕活動に数多く参加しています。いろいろな事に前向きに取組む、幼稚園や保育所に子 供用臼を作って持参し、モチつき大会を27年間続けていることなどその典型でありましょう。最後に将来の目標として農業、酪農は楽しいことを体験してもらうことができると語ってくれました。

 今は施設がないが、いずれは滞在型の体験農場をやってみたいと、その構想は熟慮中なのだそうです。

(筆者:宮城県畜産会・総務経理課長)