良質牛肉生産のポイント〔I〕

─ 北海道内における黒毛和種・経営改善の方向 ─
(産地形成は経営者・指導者の意識改革から)

宮 本 正 信

1.育種価を活用した改良・産地形成をしよう

 これまでの黒毛和種の改良は血統・外貌・データの実測値・経験と勘などによって行われてきましたが、現在は枝肉成績をアニマルモデルという分析手法により「育種価を評価し、これを基に育種改良・経営改善・産地形成」を進めることが指導者の「基本的」考えになっています。

(1)育種価とは

 図−1のとおり、親から子に遺伝する能力を数字で表したもので、父牛、母牛からそれぞれ1/2ずつ子牛に伝えられます。黒毛和種では、産肉能力に関する枝肉重量、ロース芯面積、バラの厚さ、皮下脂肪の厚さ、歩留基準値の6形質について育種価が評価されます。

図−1 アニマルモデルによる計算

(2)育種価成績の活用着眼点

 育種価成績の活用には経営者と指導者の感性が重要です。簡単に箇条書にすると、

  1. 育種価によって種雄牛や繁殖雌牛の産肉能力を科学的に評価できる。
  2. 育種価を使って繁殖牛群のなかから淘汰すべき牛、または残すべき牛を決める。
  3. 改良目標にあわせて交配計画を立てる場合に活用できる。
  4. 生産農家および産地として、レベルの高い育種的改良ができ、ブリーダーの産地になれる。
  5. 安定した繁殖+肥育経営・産地を確立することができる。
2.道内における「育種価」による生産子牛の肥育成績の事例

(1) 全国的に有名な「ふくはた3の5号」 について

 道内の生産者ならだれでも知っている「ふくはたファミリー」(勇払郡厚真町:岩田文一さん生産)の成績、図−2には驚異を感じます。鹿児島県で「神高福号」を作出したスーパーカウの母牛・「めぐみ号」に勝るとも劣らない名牛です。「ふくはた3の5号」は、枝肉重量に富み、ロース芯が大きく、特に優れた遺伝能力を持つ雌牛で、繁殖能力においても、繁殖成績をみてわかるように連産性に富み、種畜能力が非常に優れています。また、この一族ファミリーをみても遺伝能力の確実さがうかがえ、これ程、遺伝能力が確実に高く、産肉能力形質の育種価のバランスがとれた雌牛は、全国的にみても希ではないかと思います(注:ふくはた3の5号は、北気高号、北福安号の種雄牛の母方として受精卵で種雄牛が造成されたものです)。

図−2 華麗なる『ふくはた3の5号』のファミリー

(2)全体分析の結果より

 島根県と北海道の最近のデータによる育種価(BMS)の高い母牛38頭から生まれ、全国各地で肥育された89頭の枝肉成績が収集されています。6月21日現在のその概略を紹介しますと、

○枝肉格付の部では、次表のとおりです。

 <考察として>

ア、交配種雄牛、モト牛生産市町村(産地)、生産者および肥育産地(肥育者)によりバラツキがある。

イ、育成期の飼養管理、肥育技術によりバラツキがある。

(3)個体分析の結果より

 ここでは一歩前に進んで、「良い事例」と「検討を要する事例」を紹介します。

 <良い事例>

○母牛名「ふくはた3の5号」

 ふくはた3の5号の産子の肥育成績を表−1に示しました。生産者は北海道の厚真町で繁殖+肥育のワンファーム一貫経営をしている方で、道内の第一人者です。

表−1 産子の肥育成績

次に

 <検討を要する事例>

○母牛名「みゆき号」

 ゆきみ号の産子(ゆきみ号をドナー牛として活用しましたのですべて受精卵)の肥育成績を表−2に示しました。A・B・C各農家が育成から肥育まで実施しました。

表−2 産子の肥育成績

 <考察として>

 2つの分析事例から大ざっぱに考えられることは、

ア、交配種雄牛の能力差も検討を要する。

イ、生産者・産地の育成技術・肥育技術が平準化されていない。

ウ、結果として、対象牛の能力を最大限発揮させる飼養管理技術を獲得しなければならない。それは対象牛の責任ではなく飼う側の経営者の責任である。

3.産地形成の確立に向けて

 北海道には現在30地区に黒毛和種改良組合が設立され、(1)地域内の和牛の改良、(2)農家経営の安定、(3)産地形成を目指して、当初から今日まで活動しています。

 筆者は、かねてから将来を見据えて、「和牛改良の後進地域となっている北海道では、育種的改良に取組む産地形成が必要だ」と力説しているところです。北海道は、昭和29年白老町が島根県より黒毛和種の繁殖基礎雌牛を導入し、紆余曲折ののち、現在、北海道でNo.1の産地になっています。白老町に続いて全道各地の産地でも島根県、岡山県、鳥取県、広島県、兵庫県より繁殖基礎雌牛を産地形成のために導入しており、北海道の現状は上記先進県の黒毛和種の系統が混住(ミックス)され、あたかも黒毛和種の動物園の様相を呈しています。

 現在の北海道の黒毛和種生産の位置づけは、しっかり粗飼料を食込ませ、フレーム、胃袋のできた肥育モト牛を、本州のコマーシャル的肥育産地に供給する使命を考えれば、おのずから、農家肉牛経営・地域の産地形成は今後に向けてどう理論武装し、何から実践活動をしなければならないかがおのずから必然的に出てくると思います。図−3は筆者の現地普及活動で取組んでいる「産地形成」の理論戦略です。全道各地でそれぞれの立場の指導者が生産者・産地と一緒に日夜努力していることと思います。農家経済と言いますか、地域経済といっても良いと思いますが、国際競争・国内産地間競争に打勝つためには、トータル的な2つの大きな要素があると思います。

図−3 〜○○町黒毛和種産地形成〜<国際競争力に勝ち抜く経営戦略>

ET・受精卵広域産地形成へ

 1つは生産効率の向上、繁殖成績の向上、事故率の低減、発育性の向上。

 2つ目は経済効率の向上で、生産コスト低減の推進、複合経営の確立(経営内、地域内)、計数管理の徹底(生産費調査、青色申告)であると思います。 21世紀に向けての企業的肉牛経営者は、無理・斑・無駄を省く経営の「精密管理」を行い、利幅を高める努力を怠ってはなりません。

(筆者:北海道渡島南部地区農業改良普及 センター・所長)