最近の養豚飼養管理技術(3)

─ 子豚の発育生理の理解が効率的肉豚飼養技術確立への第一歩となる ─

伊 東 正 吾

 養豚経営において、生産された子豚の育成率を若干でも高めると、極めて大きな経済効果が得られると言うことはご承知のとおりです。

 今回は、子豚の発育に関する基礎知識と、その関連技術について述べたいと思います。

1. 新生子豚は未熟児の状態

 子豚を発育ステージ(体重)により区分すると、哺乳期(1〜5kg)、離乳期(5〜10kg)、そして育成期(10〜30kg)に分けることができます。当然のことですが、それ以降は肉豚管理の範疇になりますので来月号で解説する予定です。なお、繁殖育成豚は先月号で記述しましたので参照して下さい。

 新生子豚は、家畜のなかで最も生理的に未熟な状態で生まれることが知られています。その理由は、(1)消化管の消化吸収機能の未発達、(2)体温調節機能の未発達、(3)抗病性機構の変化する時期、(4)鉄欠乏を起こしやすい時期、(5)初乳を与えないと哺育が困難であるなどです。 これらの課題に対する哺育技術として、(1)人工乳の開発と給与法の確立、(2)分娩・哺育舎の保温対策、(3)感染症対策、(4)新生期における鉄剤投与、そして(5)出生直後の栄養管理方法などが検討されています。

1) 哺乳期の消化吸収機能

 哺乳子豚の消化管内の酸素活性は、発育に伴って急激に変化します(図−1)。

図−1 子豚の消化酵素活性の消長(ドーマン、1982)

 哺乳初期には、脂質を効率的に利用できるようにするための酵素活性が出生時より高くなり、また豚乳中の炭水化物(乳糖が主体)を消化吸収するための酵素(ラクターゼ)活性は、生後3週齢ころまで高く、その後次第に低下します。一方ラクターゼ以外の炭水化物やカゼイン以外の蛋白質の消化性は劣っていますが、5週齢ころになると良質の穀類や植物性蛋白質を消化利用できるようになります。

 
写真−1 分娩豚房の母豚と子豚、子豚はフロアヒーターと保温箱および保温灯(保温箱の上)により温度環境が整えられ、順調に発育する   写真−2 離乳後の子豚。保温灯の下、離乳ストレスを乗り越え発育する

 このことから、これらの消化酵素の活性がある程度高まり、消化吸収機能が充実し、固形飼料に対応できるようになる時期は5週齢以降といえます。なお最近、子豚の消化酵素活性には、日齢の影響以外に、離乳そのものが引き金になっていることも明らかにされています。

2) 新生豚は初乳から免疫機能を獲得する

 豚は、生後直ちに摂取する初乳から病気に対抗するための物質(抗体)を獲得し、これにより病原体から身体が守られます。

 初乳に含まれる免疫グロブリン(病原体に対して強い抵抗力を持つ蛋白質)は、生後24〜48時間の間に腸管から直接吸収されて血中に移行しますが、それ以降は腸管の透過性が低下し、吸収できなくなります。初乳を消化吸収する際、寒冷環境であると免疫抗体の血中移行機序が阻害されるので、新生子豚に対する保温管理は、母子免疫の点からも重要です。また、この移行抗体は、生後2週齢で急激に減少してしまいます(図−2)。

図−2 豚乳汁中の免疫グロブリンの消長(ポーターら、1970)

 一方、子豚の体内で抗体が除々に産生されて感染症に対抗できるようになるのは、移行抗体の消失より若干遅れるため、生後2〜3週齢の時が最も感染に対する抵抗力が低下する時期となります。

 これらのことから、新生子豚の管理として第一に重要なことは、初乳をじゅうぶんに摂取するとともに体内に吸収できる環境を整備することです。万一、母豚事故や虚弱などの理由により初乳がじゅうぶんに摂取できない場合には、牛の初乳、豚の血漿粉末や免疫グロブリン含有代用乳を与えることが有効です。

 最近、健康度の高い子豚を生産する目的で、米国の大規模生産農場を中心に普及した分離早期離乳(SEW)法が、日本でも広まりつつあります。この技術の概要は別の号で述べますが、基本的には、生後2〜3週齢の最も感染症に抵抗性の無い時期に離乳するのですから、上述したように、この時期の管理には特に気をつけなければなりません。

3) 子豚は貧血になりやすい

 新生子豚が初乳の吸飲を開始すると、赤血球値が急激に減少します。これは、吸収された初乳の成分が血中に入り、循環血漿量が増加するため、結果として血液が希釈されて貧血が生じます。この新生豚に発生する貧血を、人為的に制御できない生理的貧血と言います(図−3)。

図−3 子豚の貧血発生機序(古郡、1977)

 一方、哺育期子豚の発育速度は他の幼動物に比べて極めて速く、そのため、循環血液量の急速な増加に対応して血液中の赤血球数やヘモグロビン(血色素)量を正常な水準に維持し、全身の組織や臓器の生理機能の恒常性を保つためには、多量の鉄分が必要となります。

 豚は本来、土の上で生活し、土を始め草や木の根を食べて、鉄をはじめとする微量要素を摂取していました。しかし今日の経営では、閉鎖的な舎飼い方式により飼育されるため、乳汁中の鉄分が不足気味となり、その影響が哺乳子豚における鉄摂取量の低下に直結し、鉄欠乏性貧血に陥りやすい環境下となっているのです。

 最近では、母豚飼料や人工乳の成分も改良されていますが、哺育豚の生理的貧血と鉄欠乏性貧血の発生は、その後の発育低下に大きな影響を与えるので、その発生が現在の飼養環境下では容易に起こるのであるならば、管理技術として予防対策を確実に実施することが大切です。

 基本的な対応策としては、生後2〜3日でデキストラン鉄を筋肉内注射するか、経口投与により、硫酸鉄やフマール酸鉄を摂取させることが有効となります。

4) 新生子豚は温度管理が重要

 新生子豚は、体温調節機能が未発達の状態で生まれてくるため、その飼養管理にあたっては、じゅうぶんに注意する必要があります。

 その方法としては、分娩直後の適温は34〜35℃ですから、ガスプルーダー、保温箱、赤外線ランプ、保温マットなどを利用して加温します。これは、同居する母豚の適温と新生子豚の適温とが大きく異なる(表−1)ため、子豚の生活域のみを加温できるようにする用具となります。

表−1 豚の必要最適温度と湿度(Housing・Equipment, 1972)

 基本的には、子豚の環境適温(表−1)は、生後7日齢までは30℃以上であり、それ以後は1週間に2〜3℃ずつ下げ、4週後には22℃前後となるように管理します。毎日のチェック点としては、子豚が重なりあって寝ているようであれば、加温の必要があると思われます。また、すきま風があたらないようにすることも重要です。

5) 離乳に向けて餌付けは確実に行う

 授乳母豚の泌乳による体力損耗を軽減し、哺乳子豚が粉餌の摂取に慣れ、離乳が順調に行えるようにするため、生後7日齢ころから餌付けを開始します。ただし、子豚も最初は餌で遊ぶことが多いため、生後3〜4日目から一握りの粉餌をブロックなどの上や床に置いて慣れさせ、その後7日齢ころから本格給与を開始することが有効です。

 なお、豚乳は濃厚であり、さらに粉餌をじゅうぶんに摂取するためには、自由飲水ができることが重要です。哺乳子豚用の給水チートを設置するなど、あらかじめ配慮することが重要です。

写真−3 元気に発育する育成子豚

 子豚の犬歯切断は、その実施の可否について意見が少し分かれるようですが、犬歯の切断状態が良好であれば、母豚の乳頭を痛めることが少なく、子豚自体の損耗も少なくなり、有効であると思われます。

 肉子豚の去勢については、かつては離乳後一定期間が経過したのちおこなわれていましたが、現在では哺乳中に実施することが一般化しています。特に最近では、分娩直後に、犬歯を切断すると同時に去勢を実施しており、問題はないようです。

2. 子豚の離乳時期は早くなっている

 一般には、子豚の離乳は3〜4週齢で行われています。

 本来ならば、離乳は子豚の固形飼料に対する消化吸収機能が完全に発育する5週齢以降で行うべきですが、人工乳の開発や哺乳施設の改良と疾病対策などが飛躍的に向上したことと、母豚の高い生産効率が要求されていることから、次第に早期になってきました。最近では、米国を中心に普及した分離早期離乳(SEW)技術も広まりつつあり、2〜3週齢で離乳する方法がわが国でも認められます。

 離乳は、日齢を基準に機械的に実施されている場合がありますが、「離乳は子豚にとって最大のストレス」であることを常に肝に銘じ、意識することが大切です。

 離乳子豚育成上の技術的ポイントについて、筆者と同じ長野県畜産試験場養豚部(現所属は肉用牛部)の宮脇が示唆に富んだ報告をしていますので、「4.哺乳子豚の育成に及ぼす要因」の項で説明します。

 なお、この時期に給与する人工乳等飼料の開発は、近年極めて進み、その品質と給与法が確立されているので、メーカーの使用法を確認し、自農場の飼養体系にあった飼料を利用することが大切です。

3. 子豚の育成期

 育成期は、区分すると体重10〜15kgの時期を前期、15〜30kgを後期に分けることができます。

 前期は、環境適温が22〜26℃と後期より4℃ほど高いため、寒い時期には保温器による管理が必要となります。短い期間ではありますが、人工乳AからBへ、さらに子豚育成期用飼料への切替えを行います。

 飼育環境、飼料、群構成等の変化があるため、個々の状態にじゅうぶんな注意を払い、異常があれば素早い対応が必要となります。

4. 離乳子豚の育成に及ぼす要因

 宮脇(1985,1986)は、「離乳子豚の発育にバラツキが生ずる原因」と、「ヒネ豚の発生原因」について検討し、次のことを示唆しています。

 (1)群構成頭数が大きくなるにしたがい、生育のバラツキは大きくなり、逆に群内平均体重は小さくなる傾向にあることを認めています。

 (2)子豚が仕分けされる8週齢時を基準とし、その時期のバラツキが飼育時期のどの時期と最も相関性が高いかを検討し、バラツキの発生時期を推定しました。その結果は図−45に示したように、8週齢時のバラツキの約17%は生時体重のバラツキによって引起こされ、約29%は哺乳時期のバラツキによって説明ができることを示唆しています。さらに、離乳直後の2週間は、8週齢のバラツキが生ずる原因の約44%を占め、哺乳期以上の影響力を持つ時期であることがうかがえます。このことから、哺乳後2週間にあたる時期の管理がいかに重要な意味を持つか、理解できると思います。

図−4 8週齢CVを説明できる割合の週齢による変化(宮脇、1986)

図−5 8週齢CVに及ぼす各期の影響(宮脇、1982)

 (3)生時体重や哺乳期間の発育のバラツキには母豚間差が認められることから、種雌豚の選抜淘汰の重要なデータとして蓄積・活用することが重要なようです。

 (4)バラツキの大きな群ほど、その群の平均体重は小さい傾向にあることを認めています。このことから、子豚のバラツキを小さくして発育斉度を高めるには、哺乳期の給餌法や哺乳の実施などにより、発育不良子豚をいかに出さないかに主眼を置く必要があることを示唆しています。

 (5)30日齢において発育不良豚は、その血液検査の結果から、総蛋白質、血糖、総コレステロールが可良豚よりいずれも低く、栄養的に飢餓状態にあることが示唆されています。また尿素や窒素は高い値を示し、蛋白代謝の異常と腎機能の未発達が指摘されています。さらに蛋白分画では、γ−グロブリンが上昇していることから、感染症の影響も認められるとの所見です。

まとめ

 以上述べましたように、新生子豚は、動物一個体としては極めて未熟であること、また、哺乳および離乳期に至っても、その発育性は環境に大きく左右されることは明確です。 その点を認めながら、極めて高い育成率と生産効率を求められているのが現在の養豚飼養管理の実情であり、管理者の技術の見せ所とも言えるでしょう。

 良好な繁殖管理で生産された子豚が、ほとんど損耗することなく育成され、肥育段階に進むことは、最も経済的に効率の良い状態と言えましょう。

 最近普及しつつあるSEW方式においても、子豚の生理特性をじゅうぶんに理解した上で取組めば、より一層の効果が得られるものと思います。

(筆者:長野県畜産試験場養豚部・主任研究員)