自給粗飼料の生産をしましょう〔VI〕

─ 牧草育種家がおすすめする牧草品種 ─

杉 田 紳 一

 牧草類の育種がわが国で開始されて約40年以上がたちました。早いものでは3代目の品種が育成されており、育成品種の特性は海外からの導入品種より明らかに優れています。ここ5年間に限っても全草種で合計17と多数の品種が育成されており、今回は主として本州以南向けのイネ科牧草に限って、公的育種の概要とおすすめしたい育成品種の特性を紹介することとします。

1.オーチャードグラス

 北海道農業試験場(札幌:年平均気温7.0℃)および草地試験場(栃木:年平均気温12.2℃)でそれぞれ北海道向けおよび都府県向けの品種育成が行われており、現在までの品種育成の概要は図−1のとおりです。双方の試験場における育成品種の適応地域の境界は年平均気温9℃程度です。しかし、府県の多雪地では寒害が軽減されるため、より低温地域でも温暖地向け品種を利用した方が良いでしょう(青森県では標高400mまでは温暖地向け品種が奨励されています)。都府県において耐寒性を重視して、北海道向け品種を導入している所がありますが、東北以南で耐寒性向上による安定多収効果が発揮されるのは、東北や中部地域の少雪高標高地に限られます。その他の地域では、耐寒性品種のもつ、夏以降低収で年間収量が低いと言う特性のみが現れるので北海道向け品種の導入は注意すべきです。

図−1 オーチャードグラスの品種育成の概要

 極早生品種「アキミドリII」:平成7年育成・登録された早生品種より4日程度出穂の早い最新品種で、種子増殖が順調にいけば平成12年には市販される見込みです。現在流通している「アキミドリ」は越夏性、黒さび病抵抗性および秋期の伸長性が優れた温暖地向け最多収品種です。しかし、現在全国的に常発するうどんこ病には弱いという欠点があります。「アキミドリII」はこの点を改良した品種で、現在流通している早生品種「ナツミドリ」や「ポトマック」よりも抵抗性が優れており、病害による1番草の消化性の低下が少なくなっています(図−2)。また、青森〜大分県までの8ヵ所の試験結果では、年平均気温が高い試験場ほど収量比が大きいことから、越夏性も向上していることが明らかになりました(図−3)。耐雪性は「アキミドリ」と同程度の「中」で、適地は青森県の中標高地〜九州の高冷地と判断されます。

図−2 うどんこ病抵抗性と乾物消化率との関係(1番草)   図−3 試験場の年平均気温と収量比の関係
 

 中性品種「マキバミドリ」:昭和56年に育成・登録された古い品種ですが、現在も最も優れた温暖地向け中性品種の地位を保っています。育成当時「フロード」、「フロンティア」および「オカミドリ」との比較試験において東北以南で最も良い成績を示しました。その後に新たな育成、導入品種はなく、温暖地の3年目の収量は今も種子が入手できる「フロンティア」や「オカミドリ」が115〜120%とその永続性が明らかに優れています。通年適期刈りを行った場合は、出穂が早い品種ほど多収が得られますので、極早生、早生品種と組合わせた大規模草地では、刈取適期の分散やスプリングフラッシュが小さいなどから特性を生かした放牧利用を今までおすすめしてきました。現在、現場では栽培管理の省力化が進み、刈取り回数は多くても梅雨前、梅雨明け後および秋の3回となっているようです。このような場合、早生品種の1番草の適期刈りでは、2番草の生育期間の過大による裸地増大をもたらし、これを避けての1番草の遅刈りは、大きな品質低下をもたらします。早生品種より10日出穂の遅い中生品種の方が、このような場面にマッチしていると思われます。

2.山梨育成ペレニアルライグラス新品種

 山梨県酪農業試験場(年平均気温11.8℃、標高700m)で、国の委託事業として、温暖地向けの越夏性を主目標とした品種育成が行われています。当初は2倍体と4倍体双方の育種が行われましたが、北海道から九州高冷地までの多場所における育成系統評価の結果では、4倍体の方が広域適応性、夏期病害および耐雪性も優れることが判明しました。それ以降は4倍体を主体に実用品種の育成が進められており、その具体的成果は図−4に示すとおりです。

図−4 ペレニアルライグラスの品質育成の概要

 表−1に山梨での育成4品種と府県で最も利用の多い「フレンド」の諸特性を示しました。山梨で育成された中生、晩生品種は東北〜九州の平均で、「フレンド」より多収を示します。これは夏期収量比で見るように、越夏性など温暖地適応性が優れているためです。「フレンド」は北海道で選抜育成されたことを考えればこれは必然の結果でしょう。

表−1 主要な4倍体ペレニアルライグラス品種の特性

形  質
ヤツカゼ
ヤツユタカ
ヤツナミ
ヤツボク
フレンド
備    考
耐寒性
耐雪性
出穂期
春の草勢
秋の草勢
再生
永続性
冠さび病抵抗性
葉腐病抵抗性
夏期乾物収量比
年間乾物収量
同フレンド比
5
8
5.16
7
7
8
7
8
7
116
109.9
114
5
8
6.7
7
7
8
7
8
7
118
106.8
111
5
7
6.6
7
6
8
6
8
7
112
106.1
111
5
8
5.15
7
6
7
6
8
6
104
100.7
105
5
8
6.3
7
6
7
6
7
5
100
96.0
100
1:極不良〜9:極良
1:極不良〜9:極良
(月、日:山梨)
1:極不良〜9:極良
1:極不良〜9:極良
1:極不良〜9:極良
1:極不良〜9:極良
1:極弱〜9:極強
1:極弱〜9:極強
対フレンド百分比
本州以南平均(9場所)

 ところで一般的には4倍体品種は2倍体品種より耐寒性が劣るのが欠点ですが、温暖地向け4倍体品種は、年平均気温8℃程度の少雪高冷地帯までは、じゅうぶんな永続性を示すことが確認されています。適地からはずれるのは、北上山系や中部山岳地の高標高地と思われます。また、多雪地の奥羽山系では北海道での試験結果から見て、温暖地向け品種でも実用的な永続性があると推測され、4倍体品種と多雪地帯の双方の条件がそろえば、年平均気温8℃以下の地域でも温暖地向け品種が利用できるでしょう。

 最新品種の「ヤツカゼ」および「ヤツユタカ」は、それぞれ平成10年および11年に育成・登録され、種子が市販されるのは数年先になると見込まれ、それまでは「ヤツボク」「ヤツナミ」をご利用ください。

3.トールフェスク「ホクリョウ」、「ナンリョウ」

 当初は北海道農業試験場で育種が開始され、当時北海道から九州まで広く栽培されていたアメリカ育成の中生品種「ケンタッキー31」より収量や越冬性に優れた「ホクリョウ」、「ヤマナミ」の2品種が育成されました。その後「ヤマナミ」の九州における耐暑性がなお不十分であったことから九州農業試験場(熊本:年平均気温15.5℃)で耐暑性の向上を主目標に育種が開始され、多収品種「ナンリョウ」が育成されました。

表−2 トールフェスク品種の地域別3年間収量   表−3 トールフェスク品種の地域別3年間収量
品種 北海道 東北・北陸 関東 四国・九州
ホクリョウ 120 120 94 99
ヤマナミ 109 110 107 11
注)対ケンタッキー31百分比(%)
 
品種 南東北 関東〜中国 四国・九州
ナンリョウ 110 113 120
ホクリョウ 101 87 92
注)対ヤマナミ百分比(%)

 表−23の地域別収量にみられるように「ヤマナミ」は、北海道南部から九州までをカバーできる広域適応性品種ですが、「ホクリョウ」は耐暑性が劣り、適地は北海道と東北・北陸の多雪地までです。表−4に示したように消化性は「ナンリョウ」、「ヤマナミ」が従来品種並であるのに対し、「ホクリョウ」はかなり優れ、極晩生で放牧向けということもあり、適地の北海道では、収量性も優れていることから、表−5に示すように放牧試験でもオーチャードグラス(キタミドリ)より良好な増体が得られております。気象条件が許せばできる限り「ホクリョウ」を利用し、耐暑性に問題のある地域では「ナンリョウ」を利用するといった使い分けがよく、具体的な境界線は年平均気温11℃程度でしょう。

表−4 トールフェスク品種の乾物消化率

品種
ナンリョウ 65.2 57.1 65.1
ヤマナミ 65.2 55.6 63.1
ホクリョウ 70.3 60.4 66.1
注)3年間の平均値

表−5 草種別の家畜生産性

年次 草種 絶食時体重 期間
増体重
(kg)
日増
体重
(g/日)
放牧
日数
(日)
放牧
頭数
(頭/ha/日)
面積当り
総増体重
(kg/ha)
開始時
(kg)
終了時
(kg)
1980 トールフェスク
オーチャードグラス
292
286
382
362
90
75

675
564

130
130
5.1
4.9
446
359
1981 トールフェスク
オーチャードグラス
250
251
341
327
91
76
634
531
131
131
5.8
5.7
478
397
注)川崎ら(1982年)、北海道立新得畜産試験場

4.イタリアンライグラスの最新品種

 北陸農業試験場、茨城県畜産試験場、山口県農業試験場で品種育成が行われています。イタリアンライグラスには多数の品種がありますが、利用形態から次の5つの利用型に区分されます。

1)年内利用型:沖縄では10月始、関東では9月中旬播種で年内出穂する超極早生品種群で、平成9年に育成・登録された「シワスアオバ」が唯一の品種です。耐寒性、耐雪性は劣るので、栽培は西南暖地の低標高地に限られます。在圃期間が極めて短く、圃場残根量も極少ないので、2毛作体系での年内収量重視の冬作や、暖地型永年草地へのオーバーシーディングによる冬期収量確保のために利用が期待されます。

2)極短期利用型:桜の開花時期に出穂に達する極早生品種群で、早期水稲や早播き夏作との組合せ利用に適しています。各種苗業者から多数の品種が販売されていますが、平成5年北陸農試で育成・登録された「ウヅキアオバ」が最新の品種で、耐雪性が「ミナミアオバ」や「サクラワセ」より明らかに優れ、根雪日数60日まで栽培できる唯一の極早生品種です。南東北〜南九州の16場所平均収量はミナミアオバ比117(106〜176)%と広い範囲で多収であるが、冠さび病とイモチ病には弱いので、極端な早播きはさける方がよいでしょう。

3)短期利用型:極早生種より出穂が10日〜2週間遅い早生〜さらに10日ほど遅い中生の品種群で早生の「ワカアオバ」「ワセユタカ」、中生の「ナガハヒカリ」がこれに属します。気温が高くなるまでの春1〜2回の刈取利用に向くタイプで、平成7年育成・登録の「ニオウダチ」が最新の早生品種です。耐倒伏性は流通品種の中で最強であり「タチワセ」や「タチマサリ」より優れています(表−6)。乾物収量は関東〜南九州の9場所平均で「タチワセ」比94%で「タチワセ」「タチマサリ」よりやや劣ります。しかし、機械収穫の場合倒伏するとその程度に応じて、20〜60%の収穫ロスが生じるとされており、実際場面ではこの程度の収量差は、耐倒伏性が強いことにより十分カバーできるし、逆転することも多いと思われます。

表−6 イタリアンライグラスの早生品種の倒伏程度差異(1991〜1993年播種)

品種・系統名 1991 1992 1993 平均
草地試 茨城 宮崎 草地試 神奈川 山口 草地試 茨城 宮崎

ニオウダチ
ワセアオバ
タチワセ
タチマサリ

2.2
7.2
5.0
4.0
5.5
5.8
2.3
6.4
3.0
1.5
6.8
4.9
4.0
1.0
6.0
1.0
2.3

6.8
8.0
9.0
9.0

1.0
6.3
2.5
1.3
1.0
7.5
3.5
4.0

2.3
6.5
4.4
3.4

2.5
6.7
4.3
4.0
注)1=微〜9=甚、表中の数値は「ワセアオバ」に5以上の倒伏が発生した時の平均値

4)長期利用型:関東では7月まで、九州では6月末までの数回の刈取利用に適した品種群です。出穂期は晩生で、ほとんどの品種は4倍体で植物体は大型です。「ヒタチアオバ」や「マンモスB」がこの品種群に属します。茨城県畜産試験場で平成7年育成・登録された「ヒタチヒカリ」が最新品種で、唯一の耐倒伏性晩生品種です(表−7)。収量での「ヒタチアオバ」比は東北〜九州の12場所で平均104(99〜110)%、マンモスB比107(96〜119)と広い地域でやや多収を示しますが、耐雪性は弱いので積雪地帯での栽培には適しません。長期利用上重要な冠さび病抵抗性は、「ヒタチアオバ」「マンモスB」より1ランク強くなっています。「ヒタチアオバ」や「マンモスB」と異なり春播きの場合にはほとんど出穂しませんので、春播き栽培には適しません。

表−7 「ヒタチヒカリ」の耐倒伏性

品 種 全国平均 育成地平均
1番草 2番草 1番草 2番草
ヒタチヒカリ 2.5 2.0 2.8 1.8
ヒタチアオバ 4.7 3.9 7.2 4.6
マンモスB 5.3 3.5 7.0 4.4
注)全国平均は24試験の平均(関東〜九州)
 育成地平均は6試験(茨城)の平均

5)極長期利用型:秋播きして2年目の春〜夏前まで栽培利用できる晩生品種群で「フタハル」「エース」などがこの品種群に属します。このような利用が可能なのは年平均気温が12℃までの地域となります。平成5年に茨城県畜産試験場で育成された「アキアオバ」が最新品種で、利用適地の平均収量は利用2年目夏前までの合計で「フタハル」比および「エース」比とも105%とやや多収を示します。時期別にみると利用1年目の夏以降合計で「フタハル」比118%、「エース」比115%と大幅に多収を示し、越夏性が向上していることが明らかです。極長期利用では夏期の雑草侵入を、いかに抑えるかがポイントであり、越夏性の優れる「アキアオバ」はこの点で有利です。

5.ローズグラス「アサツユ」

 鹿児島県農業試験場で育種が行われており、国産の第1号品「ハツナツ」にかわる2代目の品種「アサツユ」が平成7年に育成・登録されました。暖地型牧草に共通して初期草勢(低温期の生育)の良いことが良好なスタンド(草地造成初期に播種後牧草が定着して草地となること)の確立に重要ですが、「アサツユ」はこの点に関して最も優れています(表−8)。そのため南関東〜沖縄まで多収性を示しますが、特に沖縄の低温期、南関東〜九州の1番草や最終刈りが特に多収となっています。

表−8 ローズグラス「アサツユ」の特性(収量はハツナツ比%)

6.シバ「朝駆(あさがけ)」

 シバは放牧用草種として、特に寒地型牧草もバヒアグラスも適さない地域で重要ですが、造成に時間と労力を要するためなかなか広まっていません。そのため、草地試験場で早期被覆性の高い「朝駆」が平成11年に育成・登録されました。

 全国から収集した1000以上の自生系統のなかでは最もほふく茎の伸長が早く、比較品種中で最も伸長が早い「みやこ」に比較して、3ヵ月後で1.7倍、1年1ヵ月後では2.4倍と日を追うごとにその差が拡大しました(表−9)。放牧試験はこれから実施されますが、出穂数が極端に少ないことから、採食性が優れるものと期待されます。草地試験場での越冬性、越夏性は特に問題なく、少なくとも年平均気温12℃以上の地域ではじゅうぶん利用できるでしょう。

表−9 シバ新品種「朝駆」の特性

形質/品種名 朝駆 エメラルド メイヤー みやこ
ほふく茎長(3ヵ月後)
ほふく茎長(1年1ヵ月後)
ほふく茎の密度
ほふく茎の太さ
初期生育
春秋の出穂の有無
緑化の早晩
紅葉の早晩
62.9cm
146.7cm
やや密
2.0mm
やや良
春・秋不出穂

18.6cm
28.8cm

1.0mm
やや不良
春のみ出穂
やや晩
10.0cm
19.7cm
やや疎
1.1mm

春のみ出穂

36.8cm
60.1cm
やや密
1.4mm
やや良
春も秋も出穂

(筆者:農水省草地試験場育種部・牧草育種研究室長)