自給粗飼料の生産をしましょう〔V〕

─ 普及が期待されるトウモロコシ、ソルガムの新品種 ─

大 同 久 明

はじめに

 サイレージ用トウモロコシは、作り易く多収で高いTDNを得ることができる高エネルギー飼料作物で、飼料畑における自給飼料生産の基幹作物です。青刈トウモロコシの栽培面積は昭和50年ごろから増えつづけ、平成2年には全国で12.6万haに達しましたが、その後漸減し、ここ数年は約10万haと横ばい状態で現在にいたっています。

 減少した要因としては、購入飼料の利用率が高まり牧草・飼料作物の作付け全体が漸減していることもありますが、トウモロコシの収穫作業では複数人での組み作業が必要で、労働強度が大きいことが要因の一つにあげられています。ロールベールサイレージ体系が普及したこともあり、自給飼料生産にかける労力を少しでも減らしたいということで、トウモロコシからロールベール利用が可能な牧草類へ転換したという事例が多いようです。しかしながら、乳牛の高能力化にともない、やはり高品質の自給飼料が必要ということで、多収で栄養価の高いトウモロコシの利用に戻る事例も出てきています。

 また、収穫労力の軽減化ということでは、最近になってトウモロコシ用のロールベール収穫体系の研究開発も行われてきていますので、ワンマンオペレーション収穫体系が実現すれば作付けも増え、今後の転作田での飼料作物生産の拡大とあわせて、トウモロコシの重要性はますます高まっていくものと思われます。

 一方、ソルガムは高い生産性と幅広い適応性を持ち、暖地・温暖地ではトウモロコシとともに重要な飼料作物です。栽培面積も暖地を中心に2.7万haとなっています。ソルガムの栄養価はトウモロコシには劣りますが、子実収量の多いものからスーダングラスに近いものまで幅広い品種のタイプがあり、いろいろな利用形態に対応できるという利点を持っています。

 トウモロコシ、ソルガムにはたくさんの品種があります。各都道府県で奨励品種等に指定されている品種をリストアップするだけでも、トウモロコシが約150品種、ソルガムが約80品種あります。これらのなかにはすでに種子が入手できなくなっている品種も含まれていますが、奨励品種等に指定されていない品種も流通していますので、いずれにせよ品種数は相当数にのぼります。したがって、これらのなかから、それぞれの地域や経営形態に適合する品種を選ぶということが重要になってきます。

 このように多くの市販品種が乱立しているわけですが、これらの品種のほとんどは外国からの導入品種です。国の試験研究機関や国の指定試験地で育成されたいわゆる公的育成品種の普及シェアは、現在ではきわめて低くなっています。機械収穫の普及により品種の特性として耐倒伏性が重要になり、当時の公的育成品種が外国品種に比べて倒伏しやすかったことがシェアを低下させたおもな要因とされています。

 しかしながら、最近育成されている公的育成品種はいずれも品種の能力は高く、外国品種に優るとも劣らないものになっています。

1.最近の国産トウモロコシ、ソルガム品種の特徴

 前にも述べましたように、わが国で市販されている品種は導入品種がほとんどですが、これらの品種は必ずしも日本向けに品種改良されたものではありませんので、わが国で多発する病害への抵抗性が劣るものがあるなどの問題があります。また、外国からの導入品種は、種子の生産が突然中止されるというような、外国の供給先の都合で品種の改廃が行われることがあったり、植物防疫上の問題で、急に種子が輸入できなくなったりする事例もあると聞きます。優良な品種を安定供給するためにも、わが国の栽培環境や利用条件への適応性の高い、国産優良品種に対しては強い要望があります。

 トウモコシは、日本には約400年前にポルトガル人によって持込まれました。それ以来栽培されるようになり、西日本から順次北上し東北南部まで広がり、各地のいろいろな条件に適応した在来品種が形成されてきました。戦後、これらの在来種は国の研究機関によって組織的に収集されました。特性が調査され、さらに草地試験場を中心に育種素材としての改良が進められてきました。現在では、F1品種の親として使用できる、在来種由来の優秀な親系統が育成されてきています。

 トウモロコシではいくつかの品種群が分化していますが、これらの日本の在来種はカリビア型フリントという群に属しています。研究の結果、日本在来のカリビア型フリント種とアメリカのデント種という由来の異なる親系統を使ってF1を作ると、非常に優れたものができることがわかっています。また、フリント種はデント種と比べると茎葉の消化性が優れる傾向がありますので、フリント種を親に使用することで茎葉の消化性の高い品種育成が期待できます。このようなことから、これら日本の気候条件への適応性をもった在来フリント由来の親系統と、導入デント由来の親系統を組合わせることによって、F1を作るというのが国産トウモロコシ品種の開発の基本となっています。この2、3年の間にこのようなタイプの国産優良品種が育成されてきています。

 一方、ソルガムでは、茎葉の繊維を構成するリグニンの含量を減らす突然変異遺伝子が見つかっており、この遺伝子を交配によって取込むと茎葉の消化性が高まることがわかりました。草地試験場でこの遺伝子を持った育種素材が育成されました。最近、この育種素材を使った高消化性品種が育成されてきています。

 以下ここでは、最近の公的育成品種のうち、普及が期待される品種を紹介します。

2.普及が期待されるトウモロコシ新品種

1) 暖地向き高消化性・極多収品種「ゆめそだち」

 平成9年に九州農業試験場で育成された中生品種で、暖地向き品種では現在ナンバーワンの品種ではないかと思います。前項で述べました在来フリント種由来の親系統とデント種由来親系統とのF1品種です。

 「ゆめそだち」の特徴は、耐倒伏性が強いこと、雌穂の割合が高く極多収であること、茎葉の消化性が高いこと、ごま葉枯病にきわめて強いことなどです。

 九州・四国地域において絹糸が出る時期は、多くの県で奨励品種になっている中生の「P3358」より1日遅い程度で、RM(相対熟度)でいえば、125クラスにあたります。

 草型は立葉のアップライト型で、草丈や茎の太さもやや大型で安定感のある形態を示し、耐倒伏性も「P3358」並みの強〜極強です。

 「ゆめそだち」は極多収品種です。九州・四国地域での試験成績では、雌穂の割合が高いという特徴も貢献して、TDN(可消化養分総量)収量で「P3358」よりも12%多収になりました(図−1)。ただ、ここでいうTDN収量は茎葉と雌穂のTDN含量は、それぞれ一定として雌穂の割合の多さによって換算した収量の数字です。「ゆめそだち」は茎葉の消化性が高い特徴を持っていますので、茎葉部のTDN含量は高くなり、実際の栄養収量は12%よりもさらに多収になることになります。

図−1 九州・四国地域における「ゆめそだち」のTDN収量(「P3358」を100とした比率)

 適応地域は九州・四国地域で、現在、九州の4県で奨励品種に指定されています。関東・東山地域でも多収性を発揮しますが、熟期がやや遅れる傾向があります。

2) 茎葉高消化性早生品種「ナスホマレ」

 平成8年に草地試験場で育成された早生品種です。「ナスホマレ」以前の国内育成品種は、海外から導入した親系統を両親または片親に使っていましたが、「ナスホマレ」は国内育成の親系統を両親に使用した初めての品種です。また、前項で述べました在来フリント種由来の親系統と、導入デント種由来の親系統による組合せとしても初めての品種です。

 「ナスホマレ」の特徴は、初期成育がよく、多収で茎葉の消化性が高いことです(写真−1)。

写真−1 「ナスホマレ」の初期生育の様子(左:ナスホマレ、右:対照品種)

 「ナスホマレ」の熟期は、本州の極早生品種の「P3732」より、絹糸が出る時期が3日程度遅く、早生品種の「P3352」より2日早いということから、早生品種に属し、RMでいえば115クラスです。

 「ナスホマレ」は早生品種としては多収で、適応地域での試験成績では熟期を考慮すると「P3732」「P3352」に比べて平均で8%高いTDN収量を示しました(表−1)。また、「ナスホマレ」も前に紹介しました「ゆめそだち」と同様に茎葉の消化性が高いので、実際の栄養収量はさらに高くなります(表−2)。

表−1 「ナスホマレ」のP3732、P3352に対する収量性

  東 北 関 東 東 山 東 海 九州・四国 全地域 適 地
乾物収量 109 106 97 115 110 107 108
TDN収量 108 106 96 114 105 106 108
注) 「ナスホマレ」はP3732とP3352の中間の熟期にあたるので、P3732とP3352の収量から算出した「ナスホマレ」の熟期にあたる収量を100として比較した。

表−2 「ナスホマレ」の茎葉の飼料成分
(1993〜1995年の平均、酵素分析法による)

品種 OCC OCW Oa Ob OCC+Oa
ナスホマレ 23.7 69.1 11.5 57.6 35.2
P3732 20.4 71.8 12.1 59.7 32.5
P3352 17.1 74.8 12.0 62.8 29.1
P3358 18.9 73.5 11.5 62.0 30.4
注) OCC:細胞内容物、 OCW:細胞壁物質、
   Oa:高消化性繊維、 Ob:低消化性繊維

 「ナスホマレ」はごま葉枯病にも強く、耐倒伏性も実用レベルに達しています。

 適応地域は、東北、関東、東海地域ですが、初期生育が優れる早生品種で早播きで高い能力を示すという特徴から、東北地方での利用に適しており、現在、岩手県で奨励品種に指定されています(写真−1)。

3) 「はたゆたか」

 平成8年に九州農業試験場で育成された品種で、これはデント種由来親系統どうしによるF1品種です。

 熟期は「P3358」よりも3日程度遅く、中生品種のうちの遅い方に属します。RMでいえば127クラスです。

 「はたゆたか」の特徴は安定多収性でごま葉枯病に強いことです。

 適応地域の九州・四国地域での試験結果ではいずれの県でも多収性を発揮し、とくに雨が多く日照も少ない年に、収量の低下程度が他の品種よりも小さく、気象変動に対して安定しています(図−2)。

図−2 九州・四国地域におけるTDN収量の年次変動

注:1993年は多雨・低日照年

 ごま葉枯病に対してはきわめて強く、耐倒伏性も「P3358」並みのレベルです。

4) 「タチタカネ」

 平成9年に長野県中信農業試験場(農林水産省指定試験地)で育成された品種です。

 熟期は「P3472」並みかやや早い晩生で、RMでいえば125クラスにあたります。

 「タチタカネ」の特徴は耐倒伏性が強いこと、黒穂病抵抗性が強いことなどです。

 耐倒伏性は「P3358」より並みかやや強く、ごま葉枯病抵抗性も「P3358」並みです。黒穂病抵抗性は「P3358」や「P3472」より強く、極強です。

 TDN収量は、「P3358」よりも2〜7%高く、「P3472」並みと多収を示します。

 適応地域は東北南部、関東・東山で、現在、福島県と長野県で奨励品種に指定されています。

3.普及が期待されるソルガム新品種

1)高消化性兼用型品種「葉月(はづき)」

 平成10年に長野県畜産試験場(農林水産省指定試験地)で育成された兼用型早生品種です。

 特徴は何といっても茎葉の高消化性です。両親は、いずれも高消化性遺伝子を持っています。収量性は、流通しているホールクロップサイレージ用品種のなかでは中程度ですが、家畜を使った消化試験では「スズホ」に比べ12.7%高い消化率を示しましたので、高い栄養収量を得ることができます(図−3)。また、サイレージにしたときの家畜の嗜好性も優れています。

図−3 ソルガム品種「葉月」の糊熟期および開花期 における第1胃乾物消失率

 耐倒伏性も優れており、兼用型ではありますが、スーダングラスに準じたロールベールサイレージ利用が可能です。従来のソルガム品種とは違った新しいタイプの品種として、新たな利用方法も期待できます。

2) スーダン型多収品種「グリーンA(グリーンエース)」

 平成5年に広島県立農業技術センター(農林水産省指定試験地)で育成されたスーダン型の品種です。

 熟期は早生の「P988」より広島で6日遅く、中生品種に属します。

 「グリーンA」の特徴は多収であること、すす紋病に強いことなどです。

 4年間の収量試験の結果、「グリーンA」は「P988」に比べ、平均で10%多収を示しました。

 適応地域は関東以西の暖地・温暖地で、5月下旬までに播種すれば暖地では出穂期刈りで、温暖地では草丈160cm刈りで3回の刈取りが可能です。

おわりに

 各都道府県では奨励品種や準奨励品種などの優良品種の選定試験が行われています。ここで選定される優良品種は、これまでの主要な奨励品種との3年間の比較試験の結果、それらの品種より優秀であるということが認められたものです。

 公的育成品種については、系統適応性検定試験という複数の県における同様の試験結果、優秀性が認められて農林登録品種となったものです。

 品種選定は、各都道府県で奨励品種や準奨励品種に指定されている品種を使うことが基本です。ただ、公的育成品種は農林登録されてから奨励品種選定試験に供試される場合がありますので、これまで紹介してた品種は県によってはまだ奨励品種には選定されていないということがあります。上で述べましたように、公的育成品種は一定の試験をクリアしてきたものですので、最寄りの試験研究機関等から情報を集め、適応地域に入っている場合はぜひ試作してみることをお勧めします。

(筆者:農水省草地試験場育種部・ヘテロシス育種研究室長)