養豚経営を柱にした中山間地農業の取組み

花 田  充


はじめに
 今回、ここに紹介する島田福一(しまだよしかず)さんは、新潟県の最南端に位置する長野県との県境の町で、養豚一貫経営と畑作・稲作の複合経営を行っています。当地域は新潟県でも別格の豪雪地帯にあり、立地条件は極めて厳しい条件下にあります。島田さんは、この地域的悪条件を克服するべく種豚70頭の養豚経営を柱に稲作(魚沼米)、畑作(高原野菜)を組合わせて、高い農業収入を得ています。加えて、町内の養豚生産者と有機的つながりを持つ「農事組合法人・津南ファームサービス」を設立し、生産資材の共同購入、肉豚の共同出荷、ヘルパーの設置や活用による生産コストの低減等から、ゆとりある複合経営を確立しており、中山間地の悪条件下での小規模養豚農家経営の発展方向を示す事例であると思います。

豪雪にうもれている豚舎


1. 経営の概況
 島田さんは現在47歳で、家族構成は本人と奥さん、そして地元を離れて暮らす長男(大学生)、長女(中学生)の4人です。両親を比較的早くに亡くされ、若くして自立した経営を行っています。

経営者の島田さん

 現在の経営規模は水稲180a、畑作420a、種雌豚()73頭、種豚()4頭の一貫経営です。

畜舎全景(河岸段丘となっている。畜舎の下段に信濃川が流れている。)

 なお、地域の概況として津南町は人口が1万3000人で、町の基幹産業は農業が中心です。とくに新潟コシヒカリ米のなかでも最上級に位置づけられる「魚沼米」の産地でもあります。また、当地域は国営苗場山麓総合農地開発事業によって造成された畑地が多くあります。しかしながら、後継者不足、農業者の高齢化により農地の放棄が目立っています。こうしたなかで、当地域の畜産農家は畜産専業の道を選択せずに、畜産と畑作・稲作の複合経営の道を選ぶことで地域農業と融和し、活力ある地域農業の担い手となっている方もいて、島田さんもその1人です。養豚経営主体の彼らは、いずれも資本回転の早い養豚部門を拡充させながら、未利用の農地を借り入れて高原野菜ブランドとして食用トウモロコシ、ニンジンやダイコン等を作付けしながら収益確保に努めています。

島田さん夫婦


2. 経営の歩み
 島田さんの経営の歩みについては、表−1のとおりです。本人は昭和45年に地元の普通高校を卒業しています。当初大学への進学を希望したこともありましたが、家庭の事情もあり進学を断念しました。

表−1 経営の推移

年次 作目構成 頭(羽)数 経営および活動の推移
S.45 水稲140a   高校卒業し就農する。
農閑期に左官屋に勤める。
S.48 水稲140a 種豚()15頭 養豚経営を開始する。種豚()15頭の繁殖経営となり農業専業となる。
S.53 水稲140a 種豚()30頭 肥育豚舎(499m2)を建設し種豚()30頭の一貫経営となる。
S.54 水稲140a 種豚()30頭 結婚する。
S.60 水稲140a 種豚()45頭 種豚()45頭に増頭する。
S.63 水稲110a
畑作200a
種豚()50頭 種豚()50頭に増頭する。
畑作250aを借り入れ、食用トウモロコシの作付を開始する。
H. 3 水稲110a
畑作200a
種豚()60頭 2階建の子豚・堆肥舎を建設する。
種豚()60頭に増頭する。
H. 7 水稲 90a
畑作250a
種豚()70頭 種豚舎(34m2)を増築する。
種豚()70頭に増頭する。
H. 9 水稲180a
畑作300a
種豚()75頭 種豚()を75頭に増頭する。

 就農当時は稲作中心で経営規模も零細で、農閑期は出稼ぎに行かざるを得なく、地元の左官屋で修行を積みました。この経験がその後の畜舎建設や増改築に大いに役立っています。また当時、地域では同世代の仲間の多くが豚を飼い始め、仲間のすすめもあり、昭和48年に近代化資金を借り入れ、豚舎を建設し種雌豚()15頭の繁殖経営を開始しました。しかしながら、子取り経営では収益性の面で経営が安定しないこともあり、自然の成り行きとして、昭和53年に肥育豚舎(499m2)を建設し、種雌豚()30頭の一貫経営形態への転換と規模拡大を行いました。

 このように庭先養豚から開始して、資本の蓄積をはかっては経営規模の拡大を行うという手法を取りながら、無理のない経営の展開を行っています。

 昭和63年には第4次の規模拡大を行い、種豚50頭に増頭しました。この年に同部落の方より畑地250aを借入れ、食用トウモロコシの作付けを100a程度開始しました。当初はふん尿の土地還元のための利用が主な目的でしたが、全国的な店舗を展開する新潟市内の某有名デパートの、「高原野菜の産地直送システム」と契約することで、需要が飛躍的に増加しています。これを足掛かりに郵便局の「ふるさと小包便」との契約も行ったことで、食用トウモロコシの作付けは250aに増加しました。

 平成3年には第5次の規模拡大を行い、1階が堆肥舎、2階は子豚育成舎の機能を持つ畜舎を新築しました。このことで、子豚初期の過密飼いによる事故の減少がはかられ、肥育部門での飼養管理技術の向上につながっています。

廃物利用した種豚用飼料給餌器

 ちょうどこのころ、町内の養豚仲間と将来の人生設計や、農業経営のあり方について真剣に考え、また、中山間地の過疎化が進む地域において、小規模養豚農家が生き残っていくための方策について、突っ込んだ検討と議論を重ねています。これが平成5年に発足の「農事組合法人・津南ファームサービス」です。この組合の目的は、(1)ヘルパー事業、(2)肉豚の共同出荷・輸送、(3)生産資材等の共同購入が主な内容です。この組合の設立によるメリットは、小規模経営でも休日が取れること、生産資材の共同購入により生産コストが低減されること、ヘルパー利用により日常作業にメリハリができることで、生活にゆとりと計画性がもてる経営が実践可能となったことです。このことで、積極的な攻めの経営が可能となっています。平成7年には第6次の規模拡大を行い、豚舎(34m2)を増築し種雌豚70頭規模に増頭しています。これも、施設・装備の機械化による省力化もありますが、ヘルパー利用により「日常作業に追われない、ゆとりある経営」が根付いてきたことのあらわれと理解できます。

尿処理ラグーン(2糟にて曝気し液肥化する)


3. 経営の特徴
(1) 畑作・稲作との複合経営

 養豚経営が柱であるが、養豚経営から派生するふん尿を土地還元することで、畑作・稲作専業農家にじゅうぶん対抗できる作付け面積と所得が可能となっています。

(2) 良好な経営を継続する飼養管理技術

 繁殖成績、肥育成績がいずれも継続して高位安定していることから、毎年度の経営収支は良好であり財務内容も充実しています。

(3) 種豚()の自家育成による繁殖成績向上

 雌豚系統の作出にあたっては、繁殖成績向上のため、豚の能力が明確な精液を利用して、ほとんど人工授精による交配をしています。

(4) 経営管理のためのパソコン利用

 経営管理数値の整理・分析のためにパソコンを利用しています。とくに支出費用を把握しながら、コストの低減に努めています。

(5) 建物・施設・機械の保守管理の徹底による耐用年数の延長

 建物・施設の修理や修繕は、ほとんど自己完結で行っています。このことで法定耐用年数よりかなり長く利用しています。

(6) 地域ぐるみでの衛生対策

 新潟県内はオーエスキー病の発生はありません。しかしながら、津南町は隣県に群馬、長野と接していることもあり、防疫体制には細心の注意を払っています。管外からの導入豚については、すべて町内の養豚農家で維持・管理する隔離豚舎を利用することとしており、全戸の定期的な畜舎消毒の実施や衛生クリニックの受診等を行っています。

(7) 津南ファームサービスの利用

 地域の仲間とともに「農事組合法人・津南ファームサービス」を設立し、ヘルパーの利用、肉豚の共同出荷・運搬、生産資材の共同購入、廃物資材の相互利用等を行うことで、ゆとりと低コスト生産が可能となっています。


4. 経営成果の概要
 経営実績については表−2のとおりとなっています。収益性・生産性・安全性等いずれも良好でバランスの取れた健全経営といえます。

表−2 経営の実績・技術等の概要


5. 環境保全について
 現在の養豚環境を考えるならば、積極的な規模拡大を進めるのは極めて困難です。それは、家畜のふん尿処理が解決できなければ、やみくもに拡大できるものではありません。当然適正なふん尿処理のための投資は必要です。ふんについては堆肥化することで何とか解決できますが、尿処理は難しいのです。機械で浄化処理となると建設費並びにランニングコストが多く必要となります。ある一定の所得を確保しながら、ゆとりある養豚経営をするために、環境保全を考えずには前に進みません。島田さんの場合は畜舎内から発生するふん尿は固液分離し、ふんは堆肥化して利用します。尿については、ラグーンを2槽設置し曝気を行い液肥化しています。

 この液肥については、地元農協が管内の野菜農家に利用してもらうことで話が進んでいます。


おわりに
 ゆとりある養豚経営を構築するために、小規模な養豚農家が集まり、小さなヘルパー利用の組織を島田さんが中心となって作られました。ヘルパーを通年雇用するための財源確保を真剣に考えた結論は、肉豚出荷輸送業務を農協から委託を受けることで問題を解決しました。自分の経営をより発展・安定させるために考えついた仕組みは素晴らしいものです。「津南ファームサービス」の活用は、地域農業に刺激を与えています。数少ない養豚農家が仲間意識を結束させて、また一歩前進させています。地域の特性をうまく活用して新しい経営サポートシステムを構築し、自分の経営がこれまでより堅固になることで、厳しい養豚情勢を乗り越えていく、そして個人個人が力をつけて発展するとともに、管内全員の発展につながればすばらしいことです。

 中山間地という地理的悪条件や、日本でも有数の豪雪地帯に位置するという気象条件を克服し、広大な土地基盤を背景にふん尿の土地還元を積極的に行って、養豚を柱にした複合経営を確立しています。生き残りをかけた島田さんの夢は、今県外で学生生活を送っている長男が養豚経営に参画してくれることです。

 そのためにも、着実に施設・装備を整備しながらバトンタッチしたいと考えています。 今後とも地域の良き仲間とともに発展することを期待するものです。

(筆者:新潟県畜産会・事務局長)