最近の養豚飼養管理技術(1)

──養豚の基礎知識「歴史を振り返って」──

伊 東 正 吾

はじめに

 今回から5回にわたり、養豚の飼養管理に関する基礎的な事項と最近の話題について述べたいと思います。日常養豚に携わっている方には先刻承知の内容も含まれますが、この機会に、現在まで発展した日本の近代養豚を振返り、今後の方向性について思いを馳せていただける機会になることを祈りながら連載したいと思います。

1. 養豚の飼養管理における最近の一般状況

1)わが国養豚産業の変遷

 わが国において豚が産業的に飼育され始めたのは、政府が養豚事業として奨励し始めた明治時代の半ば以降であるとされていました。それ以来、欧米文化の輸入にともない、養豚は国民に対する動物蛋白質食料の供給という点において、きわめて重要な役割を果たしてきました。大正時代に大ヨークシャー、ハンプシャー、デュロックなどの大型品種が輸入されたものの、一般にあまり普及せず、中ヨークシャー種とバークシャー種が主に飼養されていました。昭和35年に伊勢湾台風の見舞いとして、アメリカ合衆国アイオワ州から山梨県にランドレース種、ハンプシャー種、ミネソタ2号が送られたのを契機に、その発育性や産肉性の優秀なことが判明し、とくにランドレース種を中心として著しい普及性を示しました。それ以降、行政的には養豚団地造成事業などにより多頭化が推進され、社会背景にも後押しされ、急速な規模拡大が進行しました。

 その後一時的な価格の暴落期も経験しましたが、逆に厳密な経営管理と合理化の重要性を認識する機会ともなり、現在は畜産公害等の課題も抱えながら、多頭飼養技術体系を確立した近代養豚産業として、安定成長展開期を迎えようとしているともいえます。

2)豚の品種と改良

 豚の原種がイノシシであることに、異論は見当たりません。

 現在世界各地で利用されている豚の品種は、原種であるイノシシから産肉性を重視して改良され、とくに中躯と後躯の産肉性が改良されたタイプの豚として存在しています(図−1)。その中でも、発育性と産肉性の点から主要な地位を保っている品種として、ランドレース(L)種、大ヨークシャー(W)種、デュロック(D)種、ハンプシャー(H)種があげられます。また、雑種強勢(ヘテローシス)効果を最大限に利用するため、一代雑種と三元雑種が主に利用されています(図−2)。

図−1 豚の改良の過程を示す模式図


(イノシシ)
(中国在来種など)
(中ヨークシャーなど)
(ランドレースなど)

図−2 ヘテローシス(雑種強勢)効果

 一代雑種は、両親が純粋種ですから分娩時の繁殖性にはヘテローシス効果は期待できませんが、その子豚自身の強健性と初期発育に効果があることから、2品種間の欠点を補い合う、いわゆる形質補完効果を目的とした交配方式といえます。通常は、一代雑種(F1)母豚として利用しますので、ランドレース種と大ヨークシャー種の交配により、産子数と泌乳性を主体とした繁殖性と、さらに高い産肉性を兼備した交配様式として考えられています。なお、豚では交配様式を表示する場合、が先で、が後に記載する約束ですので、Lの母豚にWの雄豚を交配して得られた子豚の品種はLWと表示します。従って、この逆はWLとなるわけです。

 三元雑種の交配方法は、母豚は上述した一代雑種であり、それに第三の品種を交配する方式です。この場合、産子に関する繁殖性と、産肉性に対するヘテローシス効果の発現が大いに期待できることから、第三の品種には、とくに屠体形質の優れたものを使うことがたいせつです。

 繁殖性と屠体成績を含めた産肉性を総合して検討した結果、基本的に、最も経済効率の良い交雑方法として母系はL×Wの繁殖能力、父系はDの産肉能力を重視した、LW×Dが良いとの報告があり、一般にもこの交配様式が主流となっています。

 なお、各々の品種には当然のことながら個体差がありますから、原則的には血液が育種学的に固定され、遺伝的能力が斉一化された系統豚を利用することが重要です。この方法により、飼養成績はもとより枝肉成績にもバラツキが少なくなるため、生産および販売効率が高まります。一般によぶハイブリッド豚とは、この範疇の豚を意味します。

 一方最近では、かつての日本養豚発展期における主要品種であった中ヨークシャー種とバークシャー種が注目されています。この2種類は中型種で、発育性では若干劣るものの、肉の嗜好性が高いことで知られています。とくにバークシャー種は、肉質に優れた品種として知られ、筋繊維が繊細で脂肪も適度に付着することから柔らかく、「黒豚肉」としてブランド化され、消費者からも好まれています。また中ヨークシャー種(写真−1)は、かつて日本の飼養豚の90%を超すほどの頭数が飼われていましたが、今ではほとんどみかけられません。しかし、ごく限られた地域では根強い人気も認められ、現在でも生産流通している事例があります。筆者の地元、長野県飯田市においても、中ヨークシャー種肉専門のレストランが生産者直営店として営業されており、その食後感として、「脂肪の旨味と香りが良い」と評判になっているようです。

写真−1 中ヨークシャー種(妊娠後期のため、腹部が下垂している)

3)銘柄豚と豚肉販売

 優れた遺伝能力をもち、発育性および産肉性が斉一である種豚の集団(系統)を利用することが、外国からの輸入豚肉およびハイブリッド豚に対抗するポイントです。このことは、生産時のメリットばかりでなく、流通加工業者も望んでおり、さらに消費者にアピールする場合にも大きな違いが生じます。

 銘柄豚とは、基本的には生産される子豚の成績がある程度一定して保障できる遺伝的素因を保有する原々種種豚集団(系統)を用い、一定の交配様式で生産される肉豚のことです。そこで、外国産ハイブリッド豚に対抗するため、国家的事業として国、県および民間が協力して雄系ならびに雌系の系統豚を育種学的手法により造成し、これを活用した銘柄豚作りを行っているのです。

 この流れの中で、最近最も一般に話題となった銘柄豚として「トウキョウX」があげられると思います。これは、東京都畜産試験場で造成された、日本で初めて育種・認定された合成種の系統豚です。育種素材となった品種は、「北京黒豚」と「バークシャー種」および「デュロック種」です。肉質を重視し、特徴ある豚肉として消費者に受け入れられたのです。

 同様に、純粋種でありますが、肉質が良いバークシャー種による「黒豚肉」が一般の店頭で人気を集めています。とくに、鹿児島県畜産試験場で造成された「サツマ」および「ニューサツマ」は、「黒豚肉」生産の中核を占めているのは周知の事実です。

 この他、給与飼料に特徴をもたせることにより、肉質に特色を持たせた事例、さらには畜舎での飼養から、肥育期間を放牧場で飼育する「放牧養豚」の事例など、全国各地で生産者の努力が認められます。

 従来は、豚肉を生産することが経営の主力でしたが、現在の養豚経営は、出荷後の流通部門を視野に入れ、さらに最終的な消費者との接点を構築したうえで特色ある豚肉、すなわち「銘柄豚」の生産に従事することが必要不可欠な要素となっているといえましょう。

4)加工品用原料豚肉の生産

 また一方、わが国には豚肉が平成10年度には54万tを超える量が輸入されており、そのうち40万t程度が加工原料仕向豚肉として搬入されています。

 加工用豚肉として輸入肉に頼る理由には、単価が安いこともありますが、加工仕向として重要な、枝肉にバラツキが少なく、加工製品の量産に利用しやすいことがポイントのようです。

 わが国における平成10年度の年間豚肉生産量が約90万t(屠畜数1708万頭)であること、そしてハム、ソーセージなど加工豚肉製品に対する需要が安定していることを考えると、いかに国内生産豚肉の斉一性を高めることが、国産豚肉流通シェアの安定確保に大きな影響を持っているか、うかがい知ることができると思います。

2. 用途別飼養管理方法の概況

 前段で、長々と日本養豚の流れについて述べましたが、ここからは本題である養豚の飼養管理における最近の一般状況について、各々の種類別に記述したいと思います。なお、今回は概論的内容にとどめ、次回から各論に入りたいと思います。

1)種雄豚の管理

 種雄豚の管理方法としては、その性格上、独房飼育管理が一般的です。ただし、かつては運動場が併設された豚房であることが基本でしたが、最近の豚舎構造からは、運動場スペースはほとんどなくなり、種雄豚舎の個々の豚房に繋養されるか、繁殖豚舎の片隅に、若干余裕のあるスペースを与えられて飼養されることが多くなりました。なお稀に、群飼雌豚の中に雄を同居させる飼育方式もみられます。この場合、種雄豚の運動スペースが多くなることと、発情発見と交配を種雄豚が自ら行うため、省力方法としてのメリットもありますが、雄側の管理からいえば、時々その精液性状を検査し、正常であることを確認しないと、受胎率ならびに産子数において大きな落とし穴に陥る場合がある事を、常に頭の隅に入れておく必要があるでしょう。

 種雄豚の飼養頭数は、人工授精が今後さらに普及し、現在より少なくなることが想定されますが、牛のように畜舎からいなくなることはないと思われます。なぜならば、雌豚によい発情を誘起させるために、その試情行為または柵越し接触が効果的であるからです。また、受精時期の確認、自農場での精液採取による人工授精の実施など、また時には自然交配が必要になったりと、飼養管理上重要な仕事が残されているからです。

 このように、ほとんどの農場で種雄豚を飼養することが想定されますので、まず第一に危険防止に努めなければなりません。第二に、夏季を中心とした暑熱対策を取る必要があります(写真−2)。

写真−2 ブドウ棚による種雄豚舎運動場の防暑対策(棚の日陰で気持ち良く眠る雄豚)

 なお、当然のこととして、日本脳炎の予防接種はたいせつな管理作業の一つです。さらに、種雄豚の廃用の大きな理由として運動器の障害があげられますので、肢蹄のしっかりした豚を選抜し、育成時にはじゅうぶんに運動をさせ、さらには豚房床構造にも注意し、畜舎内においても極力運動の機会を与えることが重要と思われます。

2)繁殖雌豚の管理

(1)飼養形態

 繁殖雌豚の基本的な飼養形態は、かつては単飼豚舎か給餌枠場を有する群飼豚舎で飼養されていました。しかし現在では、ほとんどの場合ストールで飼育され、ストールから出る場合は、分娩時期に分娩ストールに移動した時と、離乳後交配が終了するまで群飼で飼養されている時期のみであることが一般的です。

 動物愛護運動が盛んなヨーロッパでは、最近、ストール飼いが動物虐待にあたるとして、分娩時の短期間を除いて、それ以外の全期間をフリーストールで飼育することがさけばれています。実際にイギリスでは、本年1月11日から、ストール飼いを法律で規制し始めたと聞いています。また、デンマークなどでもフリーストール飼養管理が広がっているようです。アメリカ合衆国では、今のところフリーストール飼養について検討する様子はありませんし、わが国においてもそのような動きは認められませんが、フリーストール飼養技術について知識を蓄積しておくことは重要であると思います。

 現在、マイクロチップを利用したデータキャリアシステムという方法が検討されつつあります。詳しい説明は今回は割愛させていただきますが、コンピュータ管理が進む畜産経営において、21世紀には省力管理を推進するうえで、技術革新が進む分野の一つではないかと思われます。簡単に説明すると、管理用のコンピュータがあり、豚には耳標や首輪に個体情報が収められたマイクロチップが装着され、フリーストール豚舎には給餌器(フィードステーション:写真−3)が設置されています。フィードステーションでは、ステージごとの規定量がコンピュータ制御により自動的に給与されます。フィードステーションが進化すれば、体重測定はもとより、発情発見や妊娠診断なども同時に個体情報として得られるようになるかも知れません。

写真−3 データキャリアシステムによるフィードステーション

(2)繁殖および栄養管理

 発情発見方法は、基本的には試情または経験に頼っている場合が多いのですが、最近の企業養豚では、離乳時期にホルモン処置を行い、一定の日時に人工授精を行う方式を取り入れている場合もあるようです。したがって、交配方法は、自然交配または人工授精か、両者を取り入れている場合もみかけられます。 妊娠診断は、多くは発情のノンリターン法による場合が多く、超音波診断器を使う場合もありますが、直腸検査法は比較的少ないように思われます。

 分娩豚房は、高床式分娩ストールが普及し、無看護分娩が定着してきています。授乳期間は、通常は、3〜4週間ですが、最近広まってきている分離早期離乳(SEW)方式を採用している場合には、分娩後16〜18日で行っています。

 栄養管理については、豚自体の能力が高まってきたこともあり、かつての給与量と比べると若干抑制されたレベルになってきています。具体的には、母豚の体重を目安にすると、かつては3産次で体重200kg以上になるようにしていましたが、現在では、5〜6産次で200kg程度とするのが合理的であると修正されてきています。

3)子豚の管理

 新生子豚は、保温にじゅうぶん注意して飼養することがたいせつです。また、早期に犬歯を切断し、母豚の乳頭を傷つけないようにし、またじゅうぶんに哺乳出来るようにすることが大切です。

 種豚の基本的能力が著しく高まり、さらにSPFやSEW方式による子豚生産が広まったこと、また人工乳など給与飼料の質が改善されたことなどにより、離乳子豚の発育性は大きく改善されました。しかし、これらの好材料も、基本的な子豚育成技術が確実に遂行された時、初めてその恩恵にあずかれるものである事を承知していただきたいと思います。

 生後8週齢の子豚の発育性のバラツキ発生に影響を及ぼす時期について、宮脇(1986)は、離乳直後の2週間の管理が重要であることを示唆しています。詳細は本シリーズの中で紹介しますが、いずれにしても、離乳は子豚にとって最大のストレスであることを肝に命じ、群の不揃いの原因を取り除くことが重要です(写真−4)。

写真−4 元気に発育している哺乳中の子豚

4)肥育豚の管理

 肥育豚は、基本的には腹単位で肥育することが、その群編成上ストレスを最小限に出来ることから有効でありますが、発育性などを総合すると、雌雄別飼とする群構成で飼育することが最も有効といえるようです。

 豚舎は、かつてはケージ豚舎や高床式豚舎がみられましたが、最近は施設費も安価なハウス豚舎による群飼も多くみられます(写真−5)。

写真−5 ハウス豚舎とウェットフィーディング(低コスト豚舎における適正な飼育が経営を助ける)

 飼料給与方法は、ウェットフィーダーの急速な普及により、飼料搬送ラインとフィーダーを組み合わせた不断給餌給与形態が主流になってきました。 また一部では、液状飼料によるリキッドフィーディングのシステムを実施している農場もみられます(写真−6)。

写真−6 未利用資源の乳清を給飼しているリキッドフィーディング

(筆者:長野県畜産試験場養豚部・主任研究員)