自給粗飼料の生産をしましょう〔IV〕

─ 立地条件に合った放牧と適草種の利用 ─

大 槻 和 夫

1.いま、放牧が注目されています

 放牧は、表−1に示しましたように、低コスト生産、ゆとりの創出、家畜の健康や福祉、国土の有効利用など多くの利点があります。それにもかかわらず、これまで放牧は伸び悩んできました。それは、技術的には土地生産性や放牧子牛の市場評価の低さ、ピロプラズマ病、高齢化、草地の維持年限等があげられます。また社会的には、濃厚飼料が容易に利用できること、飼料畑の生産性向上や貯蔵技術の普及、酪農での高泌乳化、肉用牛での血統や増体重視なども原因と考えられます。

表−1 放牧の長所


低コスト生産:施設費・飼料費・労働費の節減
ゆとりの創出:労働時間の短縮
環境問題対策:物質循環型の生産
家畜の強健性:粗飼料の利用性や耐用年数向上
国土の有効利用:傾斜地の利用が可能
食料自給率の向上:人類の食料と競合しない草で生産
中山間の活性化:産業の創出、ふれあい機能など

 しかし、最近再び放牧への関心が高まりつつあります。その背景には、上記の問題点を克服する技術が開発されてきたこととともに、畜産環境問題の深刻化やゆとり創出への期待が大きいものと考えられます。

2.日本型放牧技術の推進

 農林水産省では、今世紀中の確立をめざす10項目の技術、すなわちアグロキー21を平成8年に選定しましたが、その一つに「日本型放牧技術」があげられています。一般に放牧は粗放的で手間がかからないと考えられていますが、放牧する牛の種類や月齢、草地条件によってさまざまな放牧形態があります。「日本型放牧技術」は、わが国のさまざまな立地条件に適合した放牧技術を定着させていこうとする事業で、表−2に示した主な5つの技術からなっています。以下にこれらについて説明します。

表−2 日本型放牧技術

集約放牧技術
夏山と冬作イタリアングラス草地等を活用した周年放牧技術
遊休柵田の省力的放牧技術 低投入持続型放牧技術
マクロシードペレットを活用した放牧地簡易造成技術

1)集約放牧技術(スーパー放牧技術)

 草地の兼用利用等で季節生産性を調節するとともに、写真−1のように、電気牧柵等で区切った小区画の牧区を半日から1日の短期輪換放牧することで、草丈が低く栄養価の高い牧草を採食させます。栄養要求量の高い育成牛や搾乳牛に適しており、高い土地生産性が達成されます。


写真−1 搾乳牛の集約放牧(草地試験場)

 草地試験場の育成牛の集約放牧では、日増体量がホルスタイン種雌牛で0.7kg、同去勢牛で0.9kgと高く、しかも、単位面積当りの増体量も1ha当り1000kgと高い土地生産性が得られています。また、搾乳牛の集約放牧では、個体乳量が6500〜8000 kgで春分娩の乳牛を用い、1.1haに3頭の弱放牧圧区あるいは0.65haに3頭の強放牧圧区に放牧しました。その結果、必要栄養分量のうち前者では約80%、後者では約50%が草地から得られ、草由来の乳生産が1ha当り1万kgを達成しています。乳質が低下する時期があり、春に特有な繊維不足や夏季のエネルギー不足に対応する補助飼料の給与法について、さらに検討中です。

2)周年放牧技術

 周年放牧は、冬季の舎飼い施設が不要なため、低コストな飼養方式で、主に肉用繁殖牛を対象としていくつかの方式が試みられています。一つは熊本県下の夏山冬里放牧で、夏は山の公共草地や共同放牧地、冬は里の裏作イタリアンライグラス草地等で肉用繁殖牛を放牧する事例がみられます。面積は小さく小頭数向きです。

 また、九州、四国地域で試みられている夏山冬里放牧は、秋に草地の草を刈り取らず立毛の形で備蓄しておき、冬に放牧して採食させる方式です。四国ではトールフェスク草地で検討され、九州でもトールフェスクやオーチャードグラスの備蓄草地(ASP)での冬季放牧が実施されています。

 さらに、沖縄県の宮古、八重山諸島では、気候が温暖で冬でも牧草が成長量は小さいものの伸びるので、ジャイアントスターグラスなどを用いて、肉用繁殖牛の周年放牧が行われています。

3)遊休柵田の省力的放牧技術

 耕作放棄地や不作付け地となった柵田などに、シバやイタリアンライグラスを栽培し放牧地として活用する技術で、山口県や高知県などで、比較的小規模の肉用繁殖牛の放牧が行われています。山口県の例を写真−2に示しています。草地試験場の山地支場では、放牧牛を分散した小牧区間で移動するのに、トレーラーを用いる移動放牧の試みもなされています。


写真−2 遊休棚田での肉用繁殖牛の放牧(山口県)

4)低投入持続型草地

 シバは傾斜地に強い野草で、一度草地が完成すると定置放牧ができ、施肥もほとんど必要ありません。山地酪農や肉用繁殖牛の放牧に利用されています。シバ草地の造成に数年を要するので、いかに省力的にしかも安価に早く造成するかの研究が行われています。四国等で行われているほふく茎の移植法は、生育期間の短い地域では完成までに長期間を要するので、分けつの大量増殖技術に取組んでいます。また、シバの系統の比較や選抜も行われています。

5)シードペレットによる簡易造成・更新技術

 肥料などからなるペレットに種子を付着させて播種することで、牧草の初期生育や定着率の向上をはかる方法です。傾斜地や野草地の簡易造成・更新に活用できます。

3.放牧に適した草種・品種

 集約放牧では年に何度も輪換放牧しますので、頻繁な採食に対して再生力が強く、密度の高い草地を維持すること、嗜好性や栄養価が高いこと、環境耐性や永続性があることなどがあげられます。

 一方、傾斜地主体の低投入持続型草地では、生産性の高さよりも、管理の容易さや安定性、永続性などに重点がおかれます。ススキやササ類の野草地をそのまま利用したり、前述のようにシバ草地を人工的に造成したり、牧草地を緩効性肥料などを用いて省力的に利用する場合もあります。以下には、主な草種の特徴を説明します。

1)ペレニアルライグラス

 ペレニアルライグラスは、放牧期間を通じて栄養価や嗜好性の高い草種で、草地試験場の成績では、牧草生産量はオーチャードグラスと大差なく、育成牛の日増体量や単位面積当りの増体量は優れていたという結果が得られています。多回利用すれば密度が高まりますし、種子が大きく追播適性が高いため、集約放牧に適した草地です。しかし、夏季の暑さに弱く、東北南部以南では夏季の成育停滞や夏枯れが生じやすく、また土壌凍結にも弱いため、道東地域では越冬がむずかしい草種です。

 代表的な品種は「フレンド」ですが、北海道では「ファントム」や「トーブ」も導入され、北海道農試や道立天北農試では最近、品種育成が実施されています。一方、山梨県酪農試験場では暖地向きの「ヤツボク」や「ヤツナミ」などの品種が育成され、2倍体より4倍体のほうが広域適応性や夏季の病害、耐雪性に優れているという結果が得られています。

2)チモシー

 チモシーは耐寒性が極めて高く、北海道から本州の中部の高標高地帯まで広く利用されています。刈取り適期が広く、良質の乾草が得られるため、主に採草用として利用され、放牧では密度が低下しやすいといわれてきました。しかし、北海道農試では晩生品種の「ホクシュウ」を用い、集約放牧でも6〜7年間放牧利用できたという結果が得られています。密度を低下させないためには、入牧時に草丈を30cm程度とすること、1番草を刈取った後に放牧する兼用利用等が推奨されています。チモシーの乾物消化率は、春と秋に高く夏に低下する傾向を示しますが、草丈30cm程度で利用すると、高い栄養価が確保されます。品種は、集約放牧に最も適した「ホクシュウ」の他に、早生品種で兼用利用向きの「ノサップ」や中生品種で兼用利用向きの「キリタップ」などがあります。

3)オーチャードグラス

 オーチャードグラスは全国的に広く栽培されている牧草で、長草型草種です。耐暑性は弱く、夏枯れを起こしやすく永続性は劣っています。耐寒性は品種にもよりますがチモシーより弱く、土壌凍結により冬枯れを生じやすい草種です。放牧、採草ともに用いられますが、短草利用では衰退することがありますので、草高30cm程度での利用が推奨されます。

 北海道農試および草地試験場で、それぞれ北海道向きおよび都府県向きの品種育成が行われており、前者では多収で耐病性の高い早生品種「キタミドリ」や耐寒性や耐病性の高い早生品種「ワセミドリ」や放牧適性の高い「オカミドリ」があり、後者では多収で耐病性の高い極早生〜早生品種の「アキミドリ」や多収で耐病性の高い「マキバミドリ」があります。

4)メドウフェスク

 メドウフェスクは、ペレニアルライグラスに次いで消化率が高く、嗜好性も高い草種です。耐寒性が高いので、道東地域の集約放牧にも利用可能です。メドウフェスクとチモシーと混播草地は利用管理が難しく、どちらかが衰退することが多いので、シロクローバとの混播が推奨されています。品種としては、「トモサカエ」「バンディ」等があり、前者は多収で耐寒性も高い品種です。

5)トールフェスク

 トールフェスクは長草型草種ですが、地下茎があるため短草型利用では茎数密度が高まり、集約的な利用も可能な草種です。耐暑性、耐干性、耐病性が強く、適用範囲が広い草種です。寒地型牧草の夏枯れが顕著な西南暖地では、トールフェスクは重要な草種です。葉身が粗剛で、嗜好性や栄養価が低いのが難点です。

 北海道農試では、極晩生で消化性の高い「ホクリョウ」が育成され、九州農試では、早生で耐暑性の高い「ナンリョウ」が育成されました。

6)その他の草種

 四国や九州地域の低標高地帯では、暖地型牧草の利用が可能です。放牧には、バヒアグラス、ローズグラス、ジャイアントスターグラスなどが用いられます。

 また、草地試験場では、イタリアンライグラスの高栄養価とトールフェスクの広適応性を併せ持つ属間雑種フェストロリウムの育成が試みられ、西南暖地での活用が期待されます。

おわりに

 以上ご紹介しましたように、わが国の立地条件に応じていろいろな放牧が試みられるようになりました。また、放牧の障害となってきたさまざまな困難も、次第に技術的に克服されてきています。放牧を家畜生産の一部として上手に取り込むことで、低コスト生産をはじめとする放牧の長所が発揮できるものと思います。

(筆者:農水省草地試験場放牧利用部・放牧飼養研究室長)