農場再生 こうして経営困難を打開する〔5〕

村 上 明 弘

1. 乳牛の資産価値

 資産価値を多種多様に所有しているのが酪農場の大きな特徴です。その価値を個別にあるいは系(部門)として、さらには経営や生活全体として、じゅうぶんに引出せないままひたすら多頭化や装置化に向かっているのがおおかたの現状です。本気になって農場の資産的なものを洗い出して、整理検討し再構築してみてはどうでしょう。思わぬ価値観の発見と経営や生活方針の転換がはかられるかもしれません。

 酪農場資産の中核は乳牛です。乳牛の資産価値を個体と牛群との兼ね合いで運用し、農場独自の経営成果を得るのが酪農経営です。その価値の引出し方を直接的に左右しているのが人や施設や機械であり、間接的に影響するのが育成牛や農地です。

 この絶対的な中心資産の乳牛が「個体」あるいは「牛群」として、その価値を「経営目的」に相応し発揮させてもらっているだろうか、現実は「?」です。とくに経営困難な農場では、多くの場合、その価値の引出し水準が無茶苦茶に低い状況です、何故でしょう。

  1. 乳牛を「絶対的な資産」と位地づける意識がないか薄い。
  2. 「超複雑」な技術背景なのでどう「総合」管理すればよいか分からない。
  3. 「日常的」に「記録・判定・対応」することを仕事と思えない。
  4. そのための「有効」な総合管理シートシステムの開発普及が遅れている。
  5. それを「現場」で実践的に説明できる人が少なすぎる。

 以下に私が利用している総合管理シートを解説しますのでご参考にして下さい。

2. 資産価値を有効化する直接的な要因

 同時点における乳牛の資産価値は個体ごとにバラバラです。時の市況によっても価値付けが変化します。乳牛個々が持っている価値条件を常に客観的に把握し、それに見合った生産条件や淘汰のタイミングを意図的に管理しなくてはなりません。

 本来は、今現在持っている乳牛個々の資産価値を、トータルにできるだけ多く引出す考え方と管理方法が大事です。それは飼料給与を中心とした、乳牛を取り巻くあらゆる技術を最適化してゆくことと同義です。しかし、それを説明しだすと酪農の総論になってしまうでしょう。

 そこで、最も直接的に最大価値の引出し化を導く、「繁殖、乳期、淘汰」に関わる総合管理の技術力をまず高めることにします。この単純そうでなかなか厄介な管理にうとくて、経営困難を招き、さらに悪化させていることが多いのです。

 表−1が総合管理表と具体例です。そして図−1がそれを考えるときの要因です。とてもたくさんあります。勿論、この要因にもそれぞれに、影響の多い少ないは大きくあります。しかし、どう管理するか決めるとき、かなり広範に配慮せざるを得ないことは確かです。やはり簡単に高い判断能力が身に付くわけにはゆきません。それでも練習を積めばそんなに難しいものでもありません。今より少しでも向上することがたいせつなのですから、コツコツ現場で実践することが一番です。生産者の方も、このような総合管理の意味と技術をじゅうぶん身につけてから、コンピュータやその他の管理道具に興味を持っていただければよいのですが…。

表−1 表乳牛資産の価値引き出し総合管理表

図−1 管理を考える要因

3. 総合管理表の持つべき条件

(1)1枚のシートにできるだけ多くの頭数と時間経過が記入できること。

 一般の酪農場なら、最低50から60頭以上で2年間(24ヵ月)以上。できるだけ1枚で間に合わせる。大きな牛群はそのシートを増やす。

(2)汚れや水気に強いこと。

 プラスチック素材の紙、水気に溶けない油性の筆記具を使う。

(3)記入しやすく、何時でも誰でも見やすく、汚れにくい場所におく。

 壁面に滑らか硬板を使い、シートの上に透明ビニールを垂らす農場もある。

(4)できるだけ多くの情報を分かりやすく記号化して記入する。

(5)横と縦の目線ラインを見やすくする。

(6)下の横線ラインで時系列のデータを記入・集計しやすくする。

 ※タイミングよく作り替える。

4. 情報記号化の例

 表−1の下に記号の例を示します。白黒なので少しみにくいのですが、実際は各種カラーを多く使えるので、もっとシンプルで分かり易くできます。各自で工夫して下さい。

・記号の周辺の数字は日付です。

・分娩は落ちるイメージなので下への矢印で、予定は点線、確定は実線にします。通常は予定の点線の上に確定時点で実線を引きます。確定日が月代わりだったり大きくずれた場合は点線からずらして実線を記入します。以下、乾乳や淘汰の予定と確定に関しても同じです。

・流産や早産・遅産・死産などの異常産も記入します。

・乾乳はあげるというので上向き矢印にします。乾乳期間は横の実線です。期間が伸縮した場合は実線を延ばしたり、短縮部分に小さな×印を入れます。

・子宮清浄化(洗浄?)の処置は細い縦の枠にします。カラーなら青が清浄化イメージかもしれません。
 分娩後無発情牛処置は、分娩後の一定期間、発情が分からなかった場合に診察を開始するマークです。細い縦のギザギサ線にします、普通は45日です。

・種付け開始OKは右横向きの長方形矢印にします。長さは随意でよいでしょう。たとえば開始の部分だけにしたり、年1産の分娩後85日までとか、100日までとか…。

・発情は英語ではヒートですからHとします。その他ちょっと日本語的な意味も込めてます?

・発情予定はHを目立つ色で塗ったり囲ったりします。たとえばここでは紙面が白黒なので楕円で囲みました。Hのマークでなくても、単なる赤丸や黄色塗りの方がきれいで分かり易いかもしれません。ともかく発情予定は極めつけで大事な情報ですからじゅうぶんに目立つようにしてください。

・種付け(授精)は精子を入れるので小丸に尾をつけた精子マークにしています。

・妊娠鑑定の予定は丸にします。鑑定がプラスなら丸内に+印を、マイナスなら−印を記入します。

・獣医の診察はVマークで英語の頭文字です。・販売額は@マークで単位は千円です。

・農済廃用は済を丸で囲みます。

・娩出仔の性はのマークを分娩マークの付近に記入します。双子ならその分だけマークを入れます。

・クロースアップ期の特別管理は分娩予定前の一定期間を横長の枠矢印にしてます。例は中を網かけにしてますが、実際はカラーにしたりします。

・淘汰を前提にした管理の開始は、横長枠の矢印内にトータ予定と記入します。

・淘汰ですが搾乳しながら肥育する場合はトータ(搾肥)を矢印枠内に記入します。

・淘汰予定時期は斜めの点線で、確定したら実線にします。淘汰後の各月枠は斜め実線を入れ、その牛がいないことを明示します。

・育成中は各月枠内に×線を分娩まで入れます。

・PGはプロスタグランジンの使用の記号です。

・SCCは体細胞数で万の単位で、異常値のみ記入します。

・Mは乳量、Fは乳脂率、Pは乳蛋白率、Lは乳糖率、MUNは乳中窒素です。このうち乳量は検定ごとに各月枠の一定場所に記入するとかなり役立ちます。乳成分率は特別な数値の時にのみ記入するのがよいでしょう。

・BCSはボディコンディションスコアーです。

・病名は短縮言葉で直接記入します。

・その他、さまざま楽しんで考えてみて下さい。

5. 表の作成法

■横列の作り方

(1):牛の名号を記入する枠で、フルネームを書きたい場合長めに枠取りしますが、愛称のみで短くしてもよいでしょう。農場独自のNo.や乳検No.のみで個体の表示をする場合は名号枠は不要です。しかし、名号やNo.や記事の枠に、フルネーム・生年月日・産次・農済番号などをしっかり記入しておくと、調査や営農計画決算や納税対策などに有効です。牛が多くなると名号では覚えられないのでNo.で処理し、個体識別をしっかりさせます。

(2):個体No.です。農場独自のNo.でもかまいません。乳検に加入しているならそのNo.が最適です。要は、分かりやすければよいです。二つ以上書いてもいいですが、その場合代表的No.は枠内の一定の場所に目立つように書いて下さい。記録したり情報検索したりするとき、No.表示は最もたいせつです。(6)の当りに小さく目立つように表示しておくと便利です。

(3):牛の特徴などを記入する枠で、管理表を利用し始める時点で、その牛の特質を簡略に書きます。生産性や作業性に直結しそうなことは全部書きます。右上隅にでも、産次数を入れておくと便利です。

(4):最新のデータを記入する枠で、とくに管理表を利用し始める以前の最新情報を書きます。最終分娩日と最終授精日は欠かせません。最新の繁殖に関わることなども書きます。種付けマークの所に種付け回数を記入しておくのも役立ちます。

(5):これ以降は年月別枠です。分娩以後4〜8ヵ月以内くらいに情報がいっぱい重なります。ひとつの枠に縦2cm横3cmくらいの大きさは最低必要です。ひとつの枠は左1/3を上旬、中央部分を中旬、右1/3を下旬という意識で書き込みます。

■縦列の作り方

・牛の並べ方は通常年齢の多い順か、乳検に入っているならその番号順が適切です。何故なら、上から順に淘汰される方がみやすいからです。

・5あるいは10頭おきに太線を入れ、頭数確認をしやすくします。

・20あるいは30頭おきくらいに月の記入欄を作り何月か分かりやすくします。

・最下段の1〜3枠は旬あるいは月ごとの計画や実績を好みで記入します。

6. 実例解説

※この管理表の今現在を7月上旬と仮定します。
※1999(H11)年1月から記入し始めたことにします。

No.56牛の場合

 No.がかなり古くかつ8産も重ねている老齢牛です。乳頭は3本になっており、左足も日常的に腫脹している状態です。繁殖も分娩(9/12/5)後7ヵ月近くかかり、5回の授精でやっと受胎(10/6/30)しています。乳量は12月検定で13kg(M13)、1月で12kgと、分娩後1年以上経ているとはいえ、泌乳性能はかなり落ちています。

 分娩予定は4月4日で、そこから割出した乾乳予定は普通は2ヵ月前の2月4日ですが、受胎が遅れ泌乳量の少ない状態も長く、既にかなり体調は回復しているはずなので老齢・不健康を配慮しても乾乳期間は55日の2月9日でじゅうぶんでしょう。

 乾乳期間はこのような条件付けで決めます。しかし、実際は1月上旬(何時の検定かは確認する)の乳検乳量が12kgと予想以上に低く、余りにも低いと乳房炎の危険や盗食による過肥を招くので、予定より10日も早い1月30日に乾乳しました。この場合予定の9日の数字は分かるようにして、線で消しておきます。以下予定が変更になったときは全て同じ方法です。消しても数字は読めるようにしておきます。

 この農場は分娩前の特別管理(クロースアップ)をするので、分娩予定日4月4日の3週間前の3月14日から開始する予定を記入しました。しかし、5日か旬ごとにまとめて作業をしたいので、実際は3月10日に開始しました。

 実際の分娩した日は6日でが1頭生れました。しかし乳熱を発症し7日に獣医の初診を受けましたが、その甲斐なく18日農済廃用になり、後日22万円の共済金を得ました。4月18日以降は牛がいないので淘汰マークの斜め線を入れました。

No.63牛の場合

 10年1月10日に7産めを分娩、10年4月10日の4回目の授精で受胎し、8産目を11年1月15日に分娩する予定でした。結果は3日早く12日に仔を出産しましたが、後産停滞になりました。

◆ここで少し繁殖技術の話をします。

 年1産の繁殖成績を得ようとするなら、分娩後なるべく早い時から種付けを開始する(できる)牛が相当数いなければなりません。種の早付け技術といいます。異常がなければ分娩後45日(1ヵ月半)過ぎたら授精を開始します。

 何故かというと、通常は分娩後45日頃から65日頃までの間が最もよい受胎率を示すからです。その後、70日から95日過ぎくらいまでは今度は極度に受胎成績が低下する期間になります。さらにその後は一転して成績が向上するようになりますが、はじめの頃にはとてもかないません。

 また、分娩時における過肥状態牛は、さらにその受胎の難しい期間が前後に拡大します。逆に過痩状態牛は、最初から発情がないか弱く、その低受胎期間が早く始まり短期間に終ります。

 紙面の都合で詳しい理由を説明できませんが、要は以下の原則があるからです。

 卵巣に発生した原始卵胞は、個体差はあるがその後75日間くらいかけて発育し排卵します。原始卵胞は頻繁にできていますが、発育途中でフルイにかけられ、約21日周期で排卵します。大事なことは、その原始卵胞が発生したときに、乳牛がストレスを受けていると、それが強いほど、将来の排卵に際し「積極的に受精するな」と指示されれているらしいということです。ストレスには種々ありますが、見えやすく最大級のものは1日当りの大きな体重減少(1日1kg以上)です。分娩前後から20日間くらいが減少の大きい期間です。太りすぎは体重減をさらに大きくし、かつ受精までしにくい期間を延ばします。

 一方、分娩1週間前くらいまでの乾乳期間は、普通の飼い方なら、大きな体重減少は考えられません。ですから、分娩後70日近くまでの発情は強く、とても受精能の高い卵子なのです。逆に分娩後1ヵ月以上過ぎても良い発情が回帰しないのは、たいてい乾乳中の管理が問題だからです。 ならば、このとても受精能の高いときに種付けすればよいのですが、話はそう単純ではありません。

 分娩間隔が縮まることによる乾乳期間の取り方の課題や、子宮汚染(内膜炎)回復期間と種付けタイミングとの兼ね合いの課題などがあります。何でも早付けすればよいというものではありません、とくに後者は避けて通れません。いくら良い卵でも子宮が炎症を起こしているのでは、卵も精子も受精卵もたまったものではありません。

 子宮が最も細菌侵入を受けやすいのは分娩とその後の数日間です。以下のような場合、感染度合と回復遅れの可能性が高まります。もしひとつでも当てはまる場合は、子宮清浄化の処置を獣医さんに依頼すべきでしょう。分娩後45〜50日頃から授精開始したいなら、その3日前のさらに21日前の後の数日間に、もし可能なら、プロスタグランジンF2α(PG)で処置してくれるように獣医さんとよく相談してみて下さい。タイミングが良ければ子宮の清浄化と発情の予測ができます。

 もっとも、何でもそうすればいいわけではないようです。体調が不十分すぎる牛などは他の方法がよい場合もあるそうです。獣医さんとよく検討して下さい。

 また種付け開始を45日とか50日に決めたなら、それより1日早くても授精をしないことが肝要です。どこまでも早まってしまう人がいますので…。

子宮清浄化処置のサイン

 牛の体調がじゅうぶんかどうかは次の点を記録しておくべきです。

  1. 分娩が予定より10日以上、早かったり、遅かったりした。
  2. 双子を産んだ。
  3. 過肥だった。
  4. 乳房があまり張らないままお産をした。
  5. 乳房浮腫になった。
  6. 流産・難産した。
  7. 後産停滞した。
  8. 悪露が長くでた。
  9. 分娩後に乳房炎になった。
  10. 分娩後体温が1℃以上あがった(産褥熱)。
  11. 体重減少が激しかった。
  12. 代謝病など、その他疾病は全て。

閑話休題

 というわけで、No.63牛は後産停滞が上記に該当します。この牛は歳の割にはまあ元気な部類で、分娩後1ヵ月目(2月)の乳量は47kg出たが、その時の乳蛋白率が2.8%とかなり低下しており、授精を遅らせると止まりにくいことが目にみえています。そこで分娩後45日の3月3日から種付けを開始することにしました。

 しかし、子宮がそんなに早く清浄化しないことも明白なので、分娩後27日目頃の2月8日に子宮清浄化処置を予定しました。実際には2月10日にPG処置をしてもらいました。3日後の13日に発情をみました。そこで、その日から21日後の3月6日とさらにその21日後の3月27日に発情予定を記入しました。

 発情予定は2回分書くのがたいせつです。それは2回飛んだ後の妊鑑が一般技術なのと、通って記入を助言する人が、月1回しか訪問しないなら、2回分ないと困るからです。であることからです。

 実際は3月8日に発情がきたので授精しました。その日を基点に3月29日と4月19日の2回分の発情予定を記入します。

 発情が1回以上飛んだ時点で妊娠鑑定の予定を○印で記入します。通常は2回飛んで10日くらい後です。遅すぎかと思いますが…仕方ありません。4月29日を予定しましたが、実際は30日に妊鑑しました。受胎が確認されたので○印の中に+印を入れました。

 そこで最終種付け日から計算して分娩予定日を割出します。通常の妊娠期間より2〜3日早めの予定日を入れます。その方が早めに分娩に気を使うからです。12月13日が分娩予定日です。

 この牛は高能力で、老齢にもかかわらずかなり早く受胎したので、体の回復を考え普通より10日多い70日間の乾乳期間を予定し、10月3日を乾乳予定日にしました。

 クロースアップの開始は通常どおり分娩の3週前からとし11月22日を予定しました。

 また、6月末には乳房炎になり25日に獣医さんに治療してもらいました。7月はじめの乳検では体細胞数が80万個とまだ回復していないらしく要注意です。

No.72牛の場合

 昨年の9月分娩で12月25日にやっと2回目の授精をしてます。その後1月7日と2月10日に授精してます。それ以降発情がこないので妊鑑予定を4月5日頃としましたが、結果はマイナスでした。同時に獣医さんの診察でPGの処置を受けました。結局、発情誘起がなかったので×印を入れました。

 この牛は5産次で蹄形がひどく、さらに慢性的な乳房炎気配(高SCC)があり、あげくに産乳能力的にも低く(乳量が低位安定的に下がり続けている)、もし5月以降に受胎しても、ほとんど産乳のないまま長期の乾乳期間となり、大損をすることになります。そこで淘汰を予定することにしました。

 多くの困難農場において、利益からほど遠い繁殖障害牛を、ついに受胎したからといって飼い続ける人が目立ちます。経験では繁殖障害で不利益を被っている多くの理由は以下のとおりです。

  1. 見つけない発情は止めようがない。
  2. 付けない種は止まらない。
  3. 何時かは止まるという安心感。
  4. 止まると淘汰することがもったいないという気持ち。

 この牛は5月はじめに仮に止まったとしても、12〜13kgの乳量を後3ヵ月搾れれば精一杯です。しかし、その後、次の分娩までまだ6ヵ月以上も残ります。当然必要な乾乳期間の2ヵ月を引いても、4ヵ月以上収入と関係なく飼養せざるを得ません。

 牛舎のベットに余裕があるならまだしも、満杯状態なら、少しの利益しか残らない泌乳末期3ヵ月と無駄飼養の4ヵ月は考えものです。2ヵ月後に産む初任牛を早めに購入した方が、その資産価値や3ヵ月のうちの1ヵ月分の産乳効率や4ヵ月分の飼養費や廃用時の販売金…などを計算すると、損得勘定は明白なのですが...。

 タイミングの良い淘汰はとてもたいせつな経営センスです。淘汰の強化は繁殖成績を向上させる意欲にもつながります。以下の基準的な数字を参考にして下さい(北海道の場合)。

 低能力牛で6ヵ月(ピーク乳量で40kg以下、初産は6〜7kg落としで以下同じ)、中能力牛なら8ヵ月(40から45kg強)、高能力牛なら10ヵ月(50kg前後)、スーパー牛なら12ヵ月(55kg以上)…の期間、未受胎なら「諦める」すなわちその後は経済的に合わなくなった時点で「必ず」淘汰するようにします。

 この牛は産次も進み、体調も低いし、最近は肉値も安いので…搾乳中肥育をしないで、乳量が経済的に合わない10kg以下になる6月下旬を目途に淘汰することにしました。しかし実際の淘汰販売は7月5日に行い4万5000円でした。

No.73牛の場合

 昨年末の12月10日にを分娩し、ヌレ仔は1万円でした。調子が良く子宮清浄化の処置は不要でした。1ヵ月後の乳量検定で50kgを記録し、普通の体格にしてはかなりの高能力牛といえます。その後の乳量の増減もきれいで、よく採食もし能力を満度に発揮しています。

 健康であり、種付け開始は普通どおり分娩後45日の1月24日からの予定にします。発情は1月21日に発現しました。種付け開始オーケーの僅か3日前ですが、我慢して付けませんでした。その後ほぼ予定どおり2月12日に発情がきたので授精しました。一発で止まり、4月5日の妊鑑はプラスでした。そこで分娩予定日を計算し11月17日にマークしました。高能力と早い受胎を配慮し、内臓のじゅうぶんな回復を期待して乾乳期間は70日間とり9月7日に予定しました。クロースアップ期間も3週間より少し多めにとりました。

No.82牛の場合

 10年10月1日に難産しました。その後発情をみせず12月10日に診察を受けPG処置をしたがだめでした。1月4日にやっと発情があり種付けしました。その後、嚢腫などを発症しながらが授精を何回も繰返し、4月14と15日には連続授精も試みたのですが、ついに妊娠に至りませんでした。

 産乳能力的にも低く、日常的に体細胞も多いので7ヵ月以降種付けせず、淘汰を決めました。しかし、まだ2産目と若く体調も良くなっているので、搾乳しながら肥育することにしました。特別な場所につなぎ、特別なエサを給与し、5ヵ月以上肥育する計画にしました。肥育にはいると通常あまり乳量が落ちません。それでも乳量が10kgを大きく割ったら出荷します。5月末から肥育をし始め、10月下旬頃出荷する予定です。

No.87牛の場合

 初産牛で2月26日が分娩予定日です、未経産牛なのでそれまでの月の枠内を×線にしておきます。乳房浮腫の状態で23日に分娩しました。

 初産で、体格も小柄で、分娩後も不調だったので、種付け開始は分娩後2ヵ月間の余裕を持ち4月24日からにしました。分娩時に乳房浮腫が強かったので子宮の清浄化処置を3月20日頃することにしました。

 分娩後45日まで発情が分からなかったら検診を受けるマークを4月9日の所に付けました。その日に実際に診察しましたが処置はしませんでした。4月15日発情をみましたが種付けはしませんでした。5月6日に種付けしましたが、5月29日に再発したのでまた種付けしました。その後、発情が無く7月20日頃妊鑑予定です。

No.育20牛の場合

 育成牛も月齢順、妊娠が確定した順、さらに枠に余裕があれば種付け中の順に、記入します。

 この牛は体格等を配慮し2月25日頃から種付けを開始することにしました。育成牛の場合は少しくらい予定より早く授精してもかまいません。

 種付け開始予定の2ヵ月前くらいから発情をチェックします。そして当てはまった3月1日の発情で種付けをし、4月20日の妊鑑はプラスでした。分娩予定は12月6日です。クロースアップは初産目なので1ヵ月間とり11月7日頃から始めます。

最下段枠

 月々あるいは旬ごとの計画や実績の数字を、集計的に使うと便利です。頭数、出荷乳量、乳成分率、分娩数、個体販売数など…さまざまな利用法があります。だいたい上中下旬に分かれているので、縦列で集計しやすい長所もあります。

※その他にも多くの使い方がありますので、各人が考えて下さい。

終わりに

 少し長い連載でした。経営再生のためには、繁殖と分娩前後移行期の管理技術がきわめてたいせつなことを、初めの頃に述べました。しかし連載回数に限界がありますので、繁殖については今回サワリ程度を解説しました。移行期管理については、分娩を挟んだ20〜40日間の技術が生産性の65〜80%を占めるくらい重要です。そして、ここにもやはり、複雑なことを簡明に技術化するガイドラインとチェック法があります。

 多種多様な出回っている情報を「そのまま真に受けないで」、そして「自前のものに切り替えて」繁殖と移行期の管理を検討してみて下さい。機会があればこの二つの技術やその他の周辺技術を解説したいと思います。

 酪農経営には、幅広く奥深い可能性がまだまだ大きくあります。さらに経営困難な農場の再建にも、多くの人が思っている以上の豊富な可能性があります。しかし、それを気分良く手中にするためには、『現場に強い人』がたくさん登場せねばなりません。この連載がその一助になれば幸いです。

 

(筆者:北海道十勝北部地区農業改良センター主査)