自給粗飼料の生産をしましょう〔III〕

─自給飼料生産の原点、乾草調製と提言 ─

市 戸 万 丈

はじめに

 飼料の生産技術の基本は乾草づくりです。後で詳しく述べますが、現在の日本では酪農用飼料費に占める国内産乾草は6%にすぎません。しかしこの6%の乾草が、「土→草→家畜」と表現され、人間が直接には食料にできない「草」を利用できる、資源が循環するなかではじめて可能な体系の基本なのです。たしかに日本の気象条件は乾草生産よりもサイレージ生産が向いていますが、しかし、牧草を対象とするサイレージ調製においても、乾草づくりの技術の裏付けが必要なのです。

 今回は少し話がくどくなりますが、機械・作業技術の側面から乾草生産を中心とした解説と提言を行います。「明日からすぐ役立つ」中身になりませんけれど、自給飼料生産について、「原点を見直す」という意味で、考え方の整理になればと思います。

1.承前・課題の整理

 この連載では、4月号で「土地利用型畜産における自給飼料生産の意義」、5月号では「主な飼料作物の栽培・利用特性」として、現在のわが国における自給飼料生産の抱える課題の整理が行われています。結論からいえば、わが国の飼料生産は停滞しています。狭い国土が有効利用されていない現状は、現在の景気の善し悪しとは別の側面で、将来に対して、子孫に対してツケを回していることになります。ほんの300年ほど前の江戸時代のことをいえば、「借金は徳政令で解消できるが、森林と国土の保全には徳政令があり得ない」として、じゅうぶんな保護措置が施されたと伝えられています。われわれはその発想に学ぶ必要があるのではないでしょうか。

 やや脱線しました。現在わが国でも自給飼料生産に対して、食料自給率向上と資源循環型農業への期待が高まるなかで、これまで述べられた課題として、(1) TDN評価で20%を越す輸入粗飼料の増加、(2) 増頭にみあったふん尿還元農地が確保されない、(3) 農家の減少にともなう耕作放棄地の拡大、(4) 外来雑草の蔓延、(5) トウモロコシ収穫作業の軽労化の必要性、などが示されています。これらについては、農家が自力で解決する課題・部分と、国の政策、また、私たちの研究課題として考えるべき部分に分けて整理する必要があります。

 私はここでさらに(6)「粗」飼料という言葉の字面がよくない、粗悪・粗忽・粗雑・粗末・粗野……「濃厚」に対比する用語として定着していますが、「粗」という漢字の使用が、その重要性の認識を損ねていないか、と思えてならないのです。後述しますが、これは牛にとっての「生命維持基本物材」です。「粗飼料」ではなく「素飼料」というべきではないか(以下本論では「素飼料」を用います)、(7) 問題の根元は自給飼料の生産費の算定が低く過ぎる、ということを付け加えたいと思います。追加部分の詳しい解説と主張は別の機会にゆずりますが、今回、私は「自給飼料生産技術の基本は乾草づくりです」というテーマを強調して、この困難な状況に立ち向かうための素材を提供したい、と考えています。

2.「乾草」の価値と位置づけ

 ほんの15年ほど前、「もうすぐやってくる『コンピュータ時代』は『ペーパーレス時代』になる」といわれました。実際に、私たち研究機関ではパソコンを言葉の意味どおり使うようになりましたが、決して「ペーパーレス」にはなっていません。似たような現象として、「サイレージの普及による『乾草レス時代』」も、想定されたとおりには(想定したのは一部の行政・研究機関だけかもしれませんが)やってきそうにありません。

 牛の口に入れる形態としての自給飼料生産は、ごく大雑把にいって、生草時代→乾草時代→サイレージ時代と発展してきたといえます。通年サイレージ給与が提唱され、その技術が乳量の安定化を促して、昭和40年代からサイレージが自給素飼料に占める割合が増加し、50年代には乾草との地位を逆転しました。その後60年代・平成になってからのベールラッパによるロールベールサイレージの普及が追い風となり、自給素飼料に占めるサイレージの割合が増加しています。これは飼養規模の拡大と酪農専業化への過程と連動しています。

 図−1〜3にわが国における搾乳牛に対する飼料構成を示しています。図−1は、「価額」基準による「全国単純平均搾乳牛1頭当り年間飼料構成」です。外円が品目別で、それらの自給飼料と購入飼料という区別を中円、素飼料・濃厚飼料という区別を内円で示しています。「価額」は自給飼料についても一定の基準により価格換算したもので、この換算基準そのものが低すぎる、というのが私の主張です。

図−1 価額基準による飼料の構成

 図−1で確認したいのは、(1) 飼料費の半数以上は濃厚飼料であって、自給飼料は価額でいえば1/3を下回っていること、(2) 一部国産を含むが、多くが輸入物である購入乾草(約1/3はヘイキューブ)がサイレージに迫っていること、の2点です。この「価額」表示のグラフは、「TDN」での表示に類似したものになります。つまりTDNを基準に、自給飼料の生産費の算定が行われていることを示しています。

 なお、図−1についての留意点として、(1) 比較的多くみられる「粕類」の80%はビートパルプで、国内産のビール粕・トウフ粕等の利用は低迷していること、(2) これは全国単純平均であって、実際にこのような飼料構成の酪農家はおそらく存在しないこと、などがあります。ここに示すとおり、飼料費・TDNでみれば、なお乾草はサイレージに匹敵しているのです。

 次に図−2に示すのは、まったく同じ内容を重量で表示したものです。乾草とサイレージの差が最も大きく表現される図となります。サイレージは含水率が高いので当然のことといえます。

 次に図−3に示すのは給与時の取扱い量としての飼料、すなわち同じ物理量でも、質量を容積に換算したもので、容積でいえば75%が自給飼料です。ここでの換算はサイレージ・乾草ともサイロ内や梱包状態でなく、TRM(広義・混合飼料)調製・給飼時の乾草も細断された状態での「みかけ密度」を採用しています。この容積ベースでの比率が、実際の現場での取り扱い作業量を表現していて、実際の酪農家ではこのような比率を基準に、飼槽の大きさにはじまって、機械・設備投資や作業計画が成立しているのです。

図−2 質量基準による飼料の構成   図−3 容積基準による飼料の構成
 

 また、これは搾乳牛での飼料構成であって、育成牛や乾乳牛では配合飼料が減少し、さらに乾草を利用する割合が高くなります。

 次に、乾草の利点を、主にサイレージと比較して示しておきます。(1) 要するに乾燥させられればよいので、草種、番草により変動する糖分含量の心配がいらない、(2) 二次発酵の心配がいらない、(3) 含水率が低いので軽く、給与量と給与成分が変動する心配がいらない、(4) ロールベールサイレージに必要な貯蔵中の気配りがいらない、(5) 臭気がない、(6) サイロが不要で貯蔵にともなうコストが低い、(7) 乾草としての仕上がりが目でみられて、手で触れられて確認できる……分かりきったことを並べてしまいました。

 しかし、わが国の気象条件下では、これがなかなか大変であり、地域にもよりますが、圃場乾草だけでは安定した乾草生産が不可能に近いことです。これは現在でもそのとおりです。

3.「乾草作り」の技術のポイントと歴史

 次にジャイロレーキによる集草作業(写真)と、図−4に素飼料収穫調製・貯蔵作業のフローチャートを示しました。「牧草収穫用機械」とは、圃場での細断作業機であるフォレージハーベスタを別にして、(1) 刈取り、(2) 転草、(3) 集草、(4) 拾い上げ・梱包、(5) 運搬、(6) 貯蔵という「乾草生産用機械」として考案され発展してきました。そして、日本では圃場乾燥だけでは安定した乾草生産は不可能に近いことから、人工仕上げ乾燥技術の研究が進んだのです。

集草作業: トラクタの高出力化、作業機の改良も進んで作業は楽に、早くなっていますが、オペレータの技術が第一です。

 人工乾燥の研究は、昭和20年代、農業技術研究所鴻巣試験場から発展・独立して「農事試験場」となった後、当時、農機具部といわれた部(後に農業機械化研究所として独立、現在の生研機構の前身)の研究室を中心に進みました。その中身としては、(1) 乾燥とは周囲の空気と水分のやりとりであって、とにかく空気を上手に通すことが必要、(2) 乾燥されるべき材料の量、それも水分に対して、どの程度の量の風を送らなければならないか(これを「風量水分比」といいます)、(3) さらにいくら風を送っても、風の性質、おもに湿度によって含水率が低下させられない限界があること(この時の含水率を「平衡含水率」といいます)、(4) また、一度乾燥した牧草であっても、周囲の湿度が高ければまた吸湿する現象の解析、(5) 目にみえない風の量などを、どのように簡易に把握するか、といった概念をつくり整理して、それらを正確な手法・数字として表しました。

図−4 素飼料収穫・調製・貯蔵作業体系

 現在、米のほとんどは、人工仕上げ乾燥により、商品となっていますが、その米を乾燥させる基本技術は牧草用の乾燥技術を応用したものなのです。

 そういった概念・乾燥理論の提供を受けて、(1) 高温風の方が早く乾くが、その品質を損なわない限界温度の研究、(2) 草種ごとの乾燥経過の特性、(3) 実際の乾燥施設の構造の研究など、多くの人工仕上げ乾燥の研究が行われ、また施設が工夫され、ある程度の普及をみてきました。そして最大の課題が、(4) コスト低減のため、投入エネルギーの効率を向上させる研究にいき着くのです。そのすべてを紹介するのは不可能に近いのですが、図−5に示したのはエネルギー投入量を基準とした乾草生産方式の分類です。

図−5 エネルギー投入量からみた乾燥方法の分類

 さらにこの間、「人工乾燥生産理論」は、米のみならず、麦・お茶といった農産物の乾燥方法に広く応用されるようになりました。

 しかし、理論を生み出した本家の牧草については、材料がどのような状態で乾燥されるか、の課題に行きあたり、やや行き詰まっています。つまり乾燥させる対象が細断牧草なのか、長いままなのか、梱包にしたものなのかで方式・効率がまるで異なるのです。当初は飼養頭数が少なかったこともあり、おもに「長いまま」からスタートしたものですから、梱包となると、「空気をうまく通す」ことがなかなか厄介になるのです。また梱包と一口にいっても、初期はルースベールであり、そしてロールベールの人工仕上げ乾燥も試みられました。単純に乾燥効率を考えれば、最も効率が高いのがヘイキューブをつくるための超高温短時間乾燥ですが、大がかりな施設となり酪農家が個人で用いるのは困難です。

4.使う乾草と作る乾草の課題

 現状の日本における乾草とは、「使う乾草」と「作る乾草」の乖離が進んでいるといえます。飼料作物の作付け面積自体も減少しており、これは小規模農家の離農に際して牛は引取られても、その生産基盤を引取るのは困難なことが最大の原因です。

 このことは冒頭に示した土(圃場・国土)→草(トウモロコシ等飼料作物を含む)→家畜(反芻胃を持つ家畜、日本ではおもに乳牛)をいう、人間が直接には食料とすることのできない「草」を利用する、資源が循環するなかではじめて可能な体系の基本が崩れてきている憂慮すべき事態といえます。

 現在、「使う乾草」として乾草は輸入した方が安くて便利である、という地域があるのは事実です。しかし、素飼料はその容積故に流通経費がバカになりません。輸入乾草は、その国内輸送費として製品1kg当り国内陸地を100km走ると約10円高くなります。急増している輸入乾草は、茨城県鹿島・鹿児島県志布志といったコンテナ接岸港周辺の農家を潤していて、コンテナで庭先に持ってこれるところが安いのであって、いわゆる中山間酪農はその恩恵を受けていません。輸入乾草はアメリカの農場→日本(の港)への場合、輸送費が製品1kg当り約5円といわれています。これが、ある北海道農場→神奈川への場合、輸送費が製品1kg当り約10円といいますから困ったものです。

 私は、米・生乳・生鮮野菜など基本食料、それに血液・臓器までを含む「生命維持基本物材」の自給が、独立国の条件と考え、主張しています。悲しむべきことに日本全体がその条件を逸脱している現状にあります。

 このことを畜産の飼料で考えれば、「生命維持基本物材」とは素飼料のことです。濃厚飼料に代替物は多いが、素飼料は素飼料として一定量を確保しなければなりません。釈迦に説法とはこのことでしょうが、良い草から仕上げられた良い乾草は、それだけで牛が乳を生産して生きていけますが、逆はなりたちません。「購入乾草」はやむを得ないが、「輸入乾草」は独立国の条件の逸脱と思えるのです。日本全体がその条件を逸脱している現状で、農業だけが責任を強調されるのは納得できないかもしれませんが。

5.乾草づくりの技術を確保・伝承しよう

 私の危惧の一つに「乾草を作れる人がいなくなるのではないか」ということがあります。その技術を伝承しておきたいものです。地域により輸入乾草の利用も否定はできませんが、輸入に依存するのはあるべき姿ではありません。

 繰返しになりますが、しっかりした乾草づくりの技術があって、はじめてサイレージも良い物が調製できます。現在、牧草サイレージの主流となったロールベールサイレージについても、それまで施設型サイロを用いていた人よりも、乾草づくりを得意とする人のロールベールサイレージの方がうまくできています。刈取り・転草・集草・水分推定など、乾草づくりの技術の経験と蓄積があってのロールベールサイレージづくりです。最近、北海道ではロールベールサイレージでも、流通利用も考慮して、より含水率の低い(含水率30%程度)状態で調製し、「ラップ乾草」と称していますが、これが乾草生産への予備軍と位置づけることもでき、私は高く評価されるべきだと考えています。

 さらに小規模農家の離農に際して、その生産基盤を引取るのは個別農家だけではなかなか困難ですが、ここで考えられているのが、コントラクタです。そしてコントラクタを成立させるのは価格です。そのためにも、自給素飼料の生産費をいま少し高く設定する必要があります。農家のみならずコントラクタも含め、乾草づくりの技術を確保・伝承したいというのが私の願いと提言です。

(筆者:農水省草地試験場飼料生産利用部・ 調製工学研究室長)