軌道に乗った養豚法人経営

高 橋 信 夫


はじめに
 日光猿軍団が菊地さんの農場の近くにやってきて営業を開始したのは、平成4年のことです。それにともない、おんぼろ豚舎の周辺には次から次へと観光客目当ての店が立ち並び、環境問題などから、もう養豚経営を継続することは無理だろう。そんな将来のことを考えていたのは、鬼怒川温泉のある町、藤原町に在住する菊地文夫さん(現在45歳)でした。

1. 共同経営の検討
 菊池さんは、栃木県開拓連の組合員です。組合員の指導にあたっていた開拓連の高木課長は、これら問題について菊地さんのみでなく地域全体の問題として対処しなければならないと考え、ある構想を持っていたのです。

 それは「養豚場の移転で解決することだけではなく、本格的な共同経営ができないだろうか」。

 実際に、そのころは「共同」という名の養豚経営は、県内にいくつかありましたが、敷地は一緒でも豚舎は個人という形態で、個人経営とそれほどかわらないものでした。

 養豚の個人経営は、牛肉の輸入自由化の影響による不安に加え、施設更新にともなう多額の投資、ふん尿処理にかかる過大な労力負担等、多くの問題を抱えていました。

 このような問題を解決する一つの手段として共同経営にこだわったわけで、養豚経営の近代化と収益性の向上という大きな目標を持っていました。

 高木課長が、最初に相談したのは栃木県畜産会でした。畜産会では、集団指導ということで対応することにし、非常勤コンサルタントの疋田(ひきた)先生にお願いして、何回か検討会を実施しました。「農協経営の法人化」というテーマで、高木課長の構想に興味を持たれた開拓連の組合員で養豚家6名が当初その検討会に参加しましたが、最後に残ったのは2名でした。

 検討会のなかでは、「有限会社」「農事組合法人」「その他の法人」の設立の基礎知識についての勉強や話合いがなされました。

 しかし、最も重要なことは参加する農家どうしが、うまくやっていけるかどうかということでした。

 したがって、設立までの話し合いは2年に及びました。

経営の実績・技術等の概要〈養豚経営〉
〈経営実績〉


2. 法人経営の設立
 設立は、農事組合法人「今市ファーム」の名称で3人の構成員で開始しました。代表理事には菊池文夫さんが就任し、永吉孝次さん(現在47歳)は「今市ファーム」の土地の地主であり、ここの隣接地でもともと養豚をやっておられた方です。そしてもう1人は、脱サラでまったく養豚経験のない池田公一さん(現在43歳)でした。菊地さんは鬼怒川から20分程度かけて通勤していますが、あとの2人は歩いて何分もかかりません。
 
「今市ファーム」全景   「今市ファーム」事務所入口

 3人で1000万円を出資して、平成6年9月に設立しました。畜舎と施設に投入した資金は、約3億7000万円ですが、完全屋内作業が可能な豚舎5棟の他、周辺環境への影響などにも配慮した最新技術スラリーストック方式を取入れたふん尿処理施設、管理棟などを整備しました。

 経営は一貫で、種豚の導入は平成7年4月から開始し、清浄豚(品種はLD×BとLW×B)生産を行っているので、衛生にはじゅうぶん気を使っています。

 豚舎に入るためには、管理棟を通っていくのですが、この管理棟では手荷物を紫外線消毒し、人間はシャワーを浴びて、備え付けの衣服に着替えなければなりません。

 ですから、普通は朝一度豚舎に入ると、夕方仕事が終るまで外には出ません。もちろん、昼食は弁当持参です。

 原則として部外者は、豚舎に入れません、コンサルタントの筆者は2度入りましたが、かなり神経を使いました。


3. 経営実績
 創業時の計画では、平成9年(1〜12月)で母豚300頭を飼育、肥育豚6840頭を特約販売として特定の消費者に安定供給し、2億1200万円の売上を目標にしていました。実績は別表の如く計画どおりです。


息もピッタリ「今市ファーム」の3人
(中央から菊地代表、右が永吉さん、左が池田さん)

 さらに、減価償却費負担が軽くなる平成11年以降は、1000万円〜1500万円の単年度経常利益を見込んでいましたが、すでに平成9年で1900万円の経常利益を達成したのです。

 農事組合法人にしたことで、ふん尿処理施設に国や県から2/3の補助がなされるなど、施設整備への多額の補助のお陰で、コストを低減、投資リスクも軽くなったわけです。固定資産税も免除され、交代で休日も取れ、後継者問題にも活路が開けるなど、企業感覚を持った経営になった以外にも、多くの利点が生まれました。

 菊地代表理事を含めた3人は、今「設立当初は、本当に不安でしたが、案ずるより生むが易しという諺の通りでした。やるべきことをしっかりやっていれば、自ずと成功の道が開けることを実感しました」と語っています。

 そして、この「今市ファーム」の設立に指導尽力された栃木県開拓連の高木課長は、まだ49歳ですが、昨年職場を円満退職して、県内の喜連川町というところに、同じようなタイプの養豚場「喜連川ファーム」の名称で、母豚600頭規模ですでに施設整備が完了し、種豚が続々と導入されています。遅くとも、平成12年4月には肥育豚出荷がはじまることができると思われます。


おわりに
 栃木県に限らず、全国的に養豚農家戸数は減少しており、わずかですが頭数までも減少傾向にあります。

 厳しい情勢下で、豚肉の国内自給率を高めるための1つの方策として、このような法人経営を育ててゆくことも考えられるのではないでしょうか。

 消費者に、安全でおいしい豚肉を供給するために、紹介した2つの養豚場が、ますます発展すると共に、他の養豚経営者にも参考となり勇気を奮い起こして養豚経営に励むことを願ってやみません。

 ガンバレ「今市ファーム」、ガンバレ「喜連川ファーム」。

(筆者:栃木県畜産会改良課長)