農場再生! こうして経営困難を打開する〔4〕

村 上 明 弘


 
1. 最適への接近

 何かといったらすぐ調べたがるクセが多くの人にあります。まだ経験の浅い者が練習を積むためならいざ知らず、相当に経験年数を積んだ技術員にまでそういう傾向が顕著です。そんなことではいくら時間があっても経営再建の実際にかかわる余裕はでてきません。

 しかし、データはたくさんあっても有益でこそあれ、直接的な害にはなりません。誰がそれを作るかです。最終的には少しでも多く有効化されればよいのですから、その作業をするのに最も適した人に委ねればよいのです。だからといって無意味に近いものまで何でも調べればよいというわけではないでしょう。それでは、調査を依頼された人に仕事のおもしろさがでませんし、無益の積み重ねを強いることになります。

 必要最小限の調査・チェックで明日への生産性につながる最適の判断材料を得るようなやり方が肝要です。

 酪農経営が高い生産性を発揮するための最適な状態があるとします。その理想像を前号まで説明しました。技術改善やともなう経営改善は、どのようにしてその最適な状態に少しでも接近するか…ということに尽きます。

 いくら調査やチェックを長期にわたり広範、緻密に試みても、可能性はどこまであるのか、最適とはどういう状態なのか、どのような具体的手順で短期間に少しでも多くそこに接近するのか…が不明ではどうにもなりません。逆にそれを具体的にイメージできる力量があれば、必要最小限の調査やチェックで『わかっている最適状態に少しでも接近する』明日への技術構築を優先的にできます。

 諸関係機関においては、過去から現在にいたる膨大なデータを蓄積し、そこから多量の分類・分析表を作りだしたが、しかし、それ以上はどう手を打ってよいか闇の中…というのをよくみます。

 可能性があってもそれを信用せず、慣行の収支計画を繰り返したり、あわない単年度計画に無理やりあわせてデータ分析をないがしろにしたり…です。

 それらはすべて可能性に対する認知不足、最適状態に接近するための技術力に対する信頼不足…に起因します。技術に対する信用度が高まれば、また信頼できる技術員が活躍すれば、それらは霧消します。すなわち、必要最小限の情報で最善の具体的な対策(計画)がたてられ、その実現のために多くの時間を費やせるようになります。

 以下に価値が高いと思われるチェックや管理法の具体例をいくつか示します。
 
2. 産乳状況

 図−1にその一例を示します。

図−1 産乳状況

 コンピュータ万能の時代です。しかしまだまだ手作業でコツコツやる方が有益なこともあります。それは1〜数枚のシートに、時系列で、流れ、比較、予測を表現したいのですが、加える新データはわずかずつしかないような場合です。

 1回1回過去の全データをプリントアウトさせていたのでは、たった1行の新データのために多量のインク、用紙とわざわざ入力の手間を要します。熱帯雨林がいくらあってもたまりません、紙が無駄です。できれば1枚のシートに、価値ある情報をできるだけ多く、『誰にでも分かりやすく』表現して…毎回手書きするようにしたいものです。

 もっとも、1枚のシートに多種類のデータをビッシリ書くと、みにくいから駄目だという人がいます。しかし多くの場合それは間違いです。データの利用を本気で考えていない人の言葉です。ビッシリ書いてもみやすくする方法はあります。それは、縦も横もひとつの行列には1種類のデータしか入れない、価値の小さい数値単位まで表現しない、個体ナンバーなど頻繁に目をやる縦行は、両端や中央付近などデータから遠くないところに分けて入れる、同類の情報をグループ化する、1〜2行ごととか5行ごととかに区別できる行を入れる、記号化する…などで分かりやすくすればよいのです、後は慣れです。スキ間を多くし、字を大きくしても、ひとつひとつは分かりやすいかもしれませんが、シートを何枚も何枚もめくらされる不便さや、同系統の情報を探して目が回ってしまうようなことになるよりはるかにましです。それぞれの関係者は今使っている各種シートを再確認してみてください。悲しくなるような物がほとんどのはずです。

 産乳状況のシートも手書きが似合うタイプのひとつです。

 乳量や乳成分率などはあらゆる技術の最終結果をあらわしています。その現況を過去や計画や可能性との比較のなかでしっかりと捉えておきます。

 経営は収支と効率ですから、お金になった『出荷内容』を使って表現します。乳検成績を使う人もいますが、それは使用目的が違います。とくに経営困難な農場はシビアにしたいものです。

 経営の再生途上の場合、産乳状況の数値変動は農場や担当者に希望・期待・反省を直接的にみせてくれるもので大切なシートです。

・出荷伝票を使います。通常は旬ごとに、集荷日ごとの受け入れ乳量と旬に1回の成分等の検査結果がでます。月1回しか検査しないのもあります。

・1枚のシートに1年1年区切り、最少3年間は記入できるものを作ります。再建に関わり始めたときの1年くらい前からの過去のデータを記入し、その後丸2年間は記入できるようにします。

・それぞれの年・月・旬は横一線にします。

・(1)には該当年を入れ、月と旬の区分を入れます。月と旬は中央一列のみでもわかります。その場合、年は(7)のその他の枠のどこかに入れるとよいでしょう。月は、都合のよい時期に始めてもかまいません。そのために、枠内の隅の方に印刷字を入れます。このことは多くの場合にあてはまります。小さなことですがシート作りのプロになるためには、そんなことにまで気を使います。

・(2)の出荷乳量欄は簡単なようで難しいところです。ここはもっともたいせつなデータなので間違いは許されません。

 記入する数字は、各旬における1日分の平均出荷乳量です。1日分乳量の方が実感的だからです。旬ごとの合計量で表やグラフを作る人がよくいますが、それは同じ条件の比較になりません。何故なら、1・2・3・5・7・8・10・12月の下旬は10日間でないからです。

 上旬や中旬および4・6・9・11月の下旬は合計乳量を10分の1にすればよいので簡単です。しかしそれ以外の月の下旬は正確に出荷日数をだして計算しなければなりません。しかし、多くは1日おきの隔日集荷なので、奇数日数で割ってもだめです(もちろん毎日集荷の場合は下旬の日数分でオーケーです)。集荷日が奇数日か偶数日かで分母が違いますので、よく精査し計算してください。

 また、集荷の方法が途中で隔日から毎日に(又はその逆)変ることがよくあります。出荷内訳をよく確認して日数をだし割算してください。

 また牛乳廃棄などのため流れに合わない数字になることがありますが、そのまま記入します。これがめだつようでは、まずそこから技術改革を要します。搾乳時間の大幅で頻繁な変更、バルクコックの閉め忘れや電気の入れ忘れ、抗生物質の混入、乳房炎廃棄乳の多発…などです。かなりの経費と労力をかけて生産してから廃棄し、気にしないのでは最悪です。

 累計乳量の欄もあってよいでしょう。なお、スタートは暦年やJAなど組合との取引開始月にあわせるとよいでしょう。

・(3)には乳成分率を記入します。この数値と変動内容で技術水準や牛群の健康状態が結構読めます。

 小数点第2位まで記入するか、または四捨五入して第1位で記入するかにします。

 蛋白や乳糖もきわめて価値あるデータなので、なるべく記入します。

・(4)には衛生的乳質を記入します。搾乳技術や栄養状態あるいは生乳の管理水準などがみえます。体細胞数(SCC)や生菌数(細菌数)などです。体細胞は万、生菌数は千の単位で良いでしょう。

・(5)には乳中窒素を入れます。蛋白とエネルギーに関する利用状況がよく分かります。しかしまだどこの地区でも分析しているわけではないようです。

・(6)のその他の欄はできるだけ大きくします。月や旬の特記事項、日乳量や累計乳量の前年あるいは計画対比%、経産牛や搾乳牛の頭数、分娩頭数や乾乳頭数…など好みで記入します。しかし乳検をしている場合はこの欄にあまりいっぱい記入しても重複してしまいます。

・(7)その他の欄もできるだけ大きくします。年間の特記事項、年合計乳量、年間における1日平均乳量…など好みで記入します。 
3. 経営簡易チェック

 図−2にその一例を示します。

図−2 経営簡易チェック

 『今にできるだけ近い』経営実態がどうなっているかを『簡易で実感的に』表現します。1枚のシートに価値の高い(人により好みが入るが)項目を可能な限り入れます。それを時系列に、できるだけ多回数、正確に調べ計算し記入します。最低月1回、できれば各旬ごと、おもしろくなれば毎週でも記入します。

 この種のデータシートの利用は、その正確な記入が義務づけられると、あらゆる事を具体的に数字としてとらえるようになり、大きな意識改革がはかられます。

 経営実態がどちらの方向に向かっているのか、目的に対しどのくらい接近しているのか、技術との関係はどうなのか、次はどのような手を打てばよいのか…なれてくるとわずかな情報から、とても多くのことがみえてくるようになります。

 はじめは正確な数字をだすのに四苦八苦しますが、その内慣れて案外簡単にだせるようになります。

・記入欄は1枚のシートにできるだけ多くつくります。四半期ごととか切れ目のよいところでの途中集計にも使います。

・(1)には記入した月日を入れます。

・(2)には記入日に一番近い1日当りの『平均』出荷乳量を記入します。正確に1日分をだします。

 毎日の出荷乳量は、いろんな事情で案外不安定です。毎日集荷なら最近の3日分を合計し、3で割って1日分をだします。隔日集荷なら2回分すなわち4日分の出荷乳量を合計し4で割って1日分をだします。

 もし特殊事情で出荷乳量に異常があったら、その分のデータをはずした3日あるいは4日分の乳量で算出します。ともかく計算の一番基礎になる数字なので正確を期します。

・(3)〜(6)の各欄には記入日の頭数を記入します。

 (3)は経産牛、親牛すなわち子をお産したことのある牛すべてです。病気で出荷していないからとか、もうすぐ淘汰するからといって省くようなことはしません。経営の性能をみるのが目的なのですから…。

 (4)は搾乳牛、すなわち乳を搾っている牛すべてです。1日1回の搾乳でも入れます。

 (5)は初産牛です、1回だけお産をしたことのある牛すべてです。乾乳中のものはもちろん、明日2産目を迎える牛であっても初産牛です。

 (6)は妊娠鑑定プラスの育成牛です。できるだけ早めに妊鑑をします。あるいは、これから半年以内の分娩予定育成牛とする方が確かかもしれません。

・(7)〜(9)の欄には経産牛に対する各牛の比率を記入します。

 (7)の搾乳牛比率は(4)を(3)で割ったものです。1年1産で2ヵ月の乾乳ならば10÷12で83%、13ヵ月分娩間隔なら11÷13で85%が普通です。

 (8)の初産牛比率は(5)を(3)で割ったものです。牛群規模が安定的で、3.5産平均なら30%弱が普通です。

 (9)の育成妊鑑プラス牛比較は(6)を(3)で割ったものです。以後半年以内に分娩予定の孕み育成牛を計算した場合、(8)の30%の半分、すなわち15%が普通です。

 以上、普通と書きましたが正しいという意味ではありません。数値が大きいからだめとか、小さいからよいとか…一概にいえません。多くは経営目的(方針)とその実態との関係で判断するしかありません。

 このような説明をすべてにわたり詳しく記述すると、酪農技術のすべてを書かざるを得なくなります。切りのないページ数になりますので、深く多様な意味はそれぞれがじゅうぶんに勉強してください。以後も簡単な意味の説明にとどめます。

・(10)〜(13)の各欄は1頭当り乳量を1日と年間に分けて記入します。

 (10)は(2)を(3)で割ったものです。乾乳中の牛も含めた経産牛当りの成績が牛群の経済効率を案外に反映しますので、何時もこの数字を意識するようにします。19.2kgなら年7t、21.9kgなら8t、24.7kgなら9t、27.4kgなら10t、30.1kgなら11tの経産牛当り年間出荷乳量が予測できます。

 (11)は(2)を(4)で割ったものです。搾乳牛当りの成績は牛群の技術水準を比較的反映しています。普通の分娩状況なら300倍すれば経産牛当りの年間予測乳量になります。分娩状況が不調になると、(10)との数字が開き始めます。

 (12)は(10)を365倍したものです。もしこのまま一年を経過するならとの条件で、1頭当りの年間乳量を予測します。経営的にも感覚的にもきわめて重要な数字です。

 (13)は(11)を300倍したものです。(12)と(13)との差をみます。

・(14)〜(19)の各欄は乳質です。

 他のシートに記録されているなら記入しなくてもかまいません。要は乳代単価をだしやすくするのと、同じシートで検討しやすくするだけです。もし記入するなら、その日に一番近い、出荷伝票のデータを書きます。

・(20)と(21)は乳代の欄です。

 (20)は乳代単価です。その時点での計算方式に当てはめて、できるだけ正確にだします。

 (21)は1日分の乳代金です。(2)に(20)をかけて算出します。

・(22)〜(26)の各欄は『記入日前日』1日分の購入飼料代金です。

 1日分を正確に100円と違わないように算出します。正確に把握できませんので、飼料タンクの減り方や取引伝票の割出しなどでは計算しないようにします。

 エサの給与方法によって違いますが、飼料費算出のための計算表を、搾乳牛、乾乳牛、育成牛に分けて別に作成します。

 TMR給餌以外なら、それぞれの牛をさらに給与水準別に細分化し、それにそれぞれの飼料を各給与量単位で頭数分かけて算出します。あるいは、給餌車の単位で計る方法もあります。紙袋なら1日何袋とか1袋が何日間でなくなるとかで1日分を計算できますが、バラでの給与はそうはいきません。

 それぞれの飼料代を何とかして算出します。はじめは難しいけれど、慣れればどうということはありません。

 添加物など、わずかなものでも忘れずにだします。哺育牛も正しくだします。飼料単価も『正確に』確認します。入牧料金なども飼料費に入れます。ともかくお金をかけた食べ物はすべてを正確にだすよう心がけます。その気持ちが飼料取引に対するシビアな心構えを作り、経費のなかで最も影響の大きい分野の効率向上につながります。

 (22)は搾乳牛分のエサ代、(23)は乾乳牛分、(24)はその2つをたした経産牛分、(25)は育成牛分、(26)は(24)と(25)をたした全牛の分を記入します。

・(26)〜(28)の各欄は乳飼比、すなわち乳代金に占めるエサ代金の割合で、%で示します。

 (27)は搾乳牛分の乳飼比で、(22)を(21)で割ったものです。

 (28)は経産牛分の乳飼比で、(24)を(21)で割ったものです。

 (29)はすべての牛分の乳飼比で、(26)を(21)で割ったものです。

 乳飼比の数値は、経営と技術の関係で最も重要なエサ代差引き乳量や乳代金をだす基礎になります。

 乳飼比はその数値が大きいからだめとか小さいからよいとか、そういう基準はまったくありません。そりゃ、自給飼料がじゅうぶんにあるのに40%を超すとか、個体乳量を9t以上ださねば経営が成り立たないのに15%以下だとか、ほぼあり得ない数字の場合は良し悪しがいえます、しかし、普通は通念的な判断はあてはまりません。

 たとえば、個体当り10t出荷で乳飼比35%なら6.5tのエサ代差引き乳量が残ります。一方、同じ6.5tの差引き乳量を得ようとすれば、個体当り8tの出荷なら18.8%、7tなら7.1%の乳飼比でそれを達成せねばなりません。ちょっと不可能です。75円乳価なら、10tの35%は26万3000円、8tの18.8%は11万3000円、7tの7.1%は3万7000円の年間エサ代を意味します。年300日の搾乳日数で割っても、1日当りそれぞれ、877円、377円、123円になります。乾乳牛分も育成牛分も入っていますから、7tクラスはまったく不可能な技術を意味します。8tクラスでぎりぎり可能、10tクラスではとても877円は使いきれないし、粗飼料を相当量買えます。すなわち、もっと乳飼比を下げても10t産乳できることを意味します。要するに、数値の大小と生産性とはあまり関係ないのを分かってほしいわけです。

 また、経営の諸条件、すなわち牛群規模、負債圧の程度、労力、牛舎方式、飼料作付け面積、耕地転用の可能性や技術力…などでエサ代のかけ方は大幅に変わります。それによって乳飼比の経営に貢献する価値は千差万別なわけです。

 技術や経営を表現する数値で、乳飼比と同じような意味合いのものが多々あります。単純ではないことをじゅうぶんに理解し、一方的な価値観の押しつけによる対象農場からの可能性の芽を摘むようなことは避けたいものです。

・(30)〜(34)の各欄はエサ代差引き乳量と乳代です。

 経産牛を基本に算出します。必要なら搾乳牛のみや牛群全体もだしてみてください。この数字を便宜上『利ザヤ乳量』『利ザヤ乳代』とよんでいます。これらはエサ代の効率を具体的イメージで知るためにとても役立ちます。またこの数値はエサの購入や利用法の巧出のみでなく、乳牛の産乳性に関わる広範な技術力も反映しています。この数値やその上下や流れで、エサやその他技術の効率をかなり判断できるわけです。

 (30)は1日分の差引き乳量です。(10)に100引く(28)をかけて算出します。

 (31)は1年間の差引き乳量です。(12)に100引く(28)をかけて算出します。この数値に経産牛数をかければ、このまま1年続いた場合の年間利ザヤ総乳量になります。この数字は感覚的に分かりやすく利用価値の高いものです。

 (32)は1日分の差引き乳代です。(30)に(20)の乳代単価をかけて算出します。

 (33)は1年分の差引き乳代です。(31)に(20)をかけて算出します。

 (34)は全牛群の1年分の1頭当り差引き乳代です。(12)に(20)をかけた数値に100引く(29)をかけて算出します。すべての生産の原点は親牛(経産牛)ですから、哺育牛も含めた全牛のエサ代をそれにかぶせた効率が最重要です。

・(35)はその他欄です。

 B4用紙では記入できる項目も限られますが、特記事項や時々みたいデータなどがあればこの欄を活用します。

 たとえば、経営困難な農場の場合は、償還金と利息が大きな額になります。これを年度当初に確定し、365日で割って1日分をだしておきます。それを乳量分や乳負比(償還金と利息が乳代に占める割合)として表現し利用するとか・・・します。その他にもそのように利用できる項目はたくさんあります。

 この表はどのようにでも作り変えられます。担当者の個性や考え方に合わせて利用してみてください。

 次回は乳牛の資産価値をじゅうぶんに引き出すための総合管理表を説明します。 

(筆者:北海道十勝北部地区農業改良センター主査)