「牛・草・土づくり」
を経営理念とした都市近郊酪農

藤 井 重 治


はじめに
 埼玉県の畜産は、都市化の進展にともなう畜産環境問題、後継者不足、国際化の進展などたいへんに厳しい状況下にある一方、生産県であると同時に大消費県であるという優位性を生かし、生産量はほぼ横ばいで推移しています。

 このように、畜産経営を取巻く情勢が厳しくなった中でも、牛飼いの原点である「牛・草・土づくり」を経営理念として頑なまでに忠実に実行し、優秀な経営を営んでいる鈴木牧場を紹介します。なお、鈴木牧場は中央畜産会主催の平成10年度優秀畜産表彰等事業(全国優良畜産経営管理技術部門)に本県が推薦して参加した事例であり、優良賞を受賞している経営です。

鈴木牧場の全景 経営主の鈴木さん


1. 経営の概況
 鈴木牧場のある妻沼町は、県北部に位置し、利根川を渡れば群馬県、南は県北の中心都市熊谷市に隣接しています。利根川に沿う肥沃な平坦地は、古くから農業が開け、聖天山の門前町として宿場が栄えてきたことで有名です(今は聖天山より女子サッカーの甲子園とよばれている妻沼カップの主催の町としての方がはるかに有名)。

 現代では、農業基盤が整い、地の利を生かした首都近郊野菜生産の適地として、ニンジン・ネギ・ホウレンソウ・ヤマトイモなどの生産が盛んです。

 酪農戸数は約30戸、飼養頭数は1200頭と県内有数の酪農地帯で、町の農業の大きなウエイトを占めています。

 鈴木牧場は、夫婦2人と長男の3人で、経産牛40頭・育成牛25頭を飼養し、自給飼料7haを作付けする家族酪農経営です。


2. 経営の歩み
 鈴木牧場の経営の歩みについては、表−1のとおりですが、いくつかの経営のエピソードを紹介します。

表−1 経営の推移

年次 作目構成 経産牛
頭 数
経営及び活動の推移

経産牛1頭当り
産乳量

昭和43年 水田・酪農 10頭 農業高校在学中規模拡大をめざして養蚕小屋を改造する  
  44年 19頭 就農し、規模拡大をする 5,000kg
  48年 結婚 6,000kg
  49年 長男誕生  
  50年 20頭 第6回全日本ホルスタイン共進会出品  
  51年 全国酪農青年婦人会議全国発表大会に出場 6,400kg
  53年 共同による河川敷草地利用を開始する  
  55年 酪農専業 30頭 総合施設資金を借入牛舎を新築
長女誕生
7,000kg
  57年 35頭 麦作集団・露地野菜農家・酪農家の3者による堆肥流通補完システム体制の開始  
  63年 牛群検定事業に参加 8,000kg
平成 7年 長男が大学を卒業し就農  
   9年 40頭 育成・乾乳牛舎を新築し規模拡大 10,000kg
  10年 長男が結婚


(1)苦労は人間をそだてる!

 場主は小学生の時不幸にも父親を亡くし、それ以後母親を助けながら学生生活を送り、高校を卒業すると同時に就農しました(その苦労は大変なものだったと想像できます)。そんな苦労した所は微塵もみせず、農作業で忙しい時に突然訪問しても美人の奥さんとともにいつも笑顔で暖かく対応してくれます(やっぱり人間は苦労すると人ができるのかな?)。

(2)埼玉の中の蛙、全国を知る?

 就農して約10年、経営も順調に推移し、また私生活でも結婚・長男誕生と充実していた時、その成果が認められホルスタイン全共、全国酪農発表会に参加しました。

  県内ではある程度の自信があり、全国大会に参加したのですが、初めてそのレベルの高さを痛感しました。その思いが後の経営の発展につながった事はいうまでもありません。

(3)今年は若いお爺さんとなり悠々自適の生活か?

 平成7年、長男の就農と同時に、ある程度経営を任せ、長男が中心となり経営をしています。年齢としてはまだ若く引退する時期ではないのですが、場主自らの体験から、現在も実行していることでありますが、「労力は出すが口は出さない」の経営方針を貫いています(現実にはこれが一番たいせつで難しく、なかなか実行できている農家は少ないのです)。平成10年12月に長男がめでたく結婚したことで、今年の内には孫さんが誕生し「若いお爺さん」となるのかな?


3. 経営の特徴
(1)牛づくり

 筆者は、同牧場の自家育成牛の能力は、優良形質導入牛と遜色のないことを、酪農専業に移行した時点から、経営診断等を通じて認識していました。経営の基礎となった乳牛の登録、種雄牛の選定、さらには牛群検定事業の参加による個体成績の蓄積から判断して、現在、飼養している優良な自家育成牛は経営向上に役立つことがわかり自信を深めました。そして、育成方法は自給飼料の飽食と運動の徹底をはかり、将来の食い込みの良い牛づくりのため、月齢よりも体型づくりに努め、初産種け時期を体高128cm、推定体重350kg以上としています。

 また、規模拡大にともない育成運動場をはじめとする育成施設を増設および新設して、育成管理の環境設備を整えています。

 高泌乳量の確保のため、泌乳ステージに合った個体別の飼養管理に努め、リードフィディング方式を採用し、とくに泌乳前期の乾物摂取量に気を配り、泌乳後期のボディコンディション作りをたいせつにしています。

 また、ユニークな飼料給与方法として写真−2のとおり、飼槽前の通路の片側に1日分の飼料を置き、そこから数回に分けて給与しているという点です。濃厚飼料と粗飼料を混ぜながら給与するのでセミコンプリートになり、乳量の増加にもつながっています。

鈴木式セミコンプリート 牛舎通路に一日分を配餌

(2)草づくり

 鈴木さんは、酪農経営の安定化の近道は、自給飼料づくりと考え実践してきました。現在は畑作4haで大麦・ソルゴー等を作付けしサイレージとして給与しています。また、共同で河川敷草地4haにイタリアンライグラスを作り乾草とし、野草も乾草にして利用しています。そして、乳量・乳質の変動を少なくするために、自給飼料の成分分析を積極的に行い、よりよい草づくりに努力しています。

(3)土づくり

 昭和50年代には、露地野菜では連作障害が顕著化し、麦作では収穫時の麦ワラ焼却による煙害、家畜ふん尿の飼料畑等への過剰な投入による臭気や衛生害虫発生、硝酸態窒素の過剰など地域の問題となっていました。

 このようななかで、それぞれの課題解決に向け指導関係機関の支援のもとに、露地野菜組織、主穀作組織、酪農組織の三者の協議を重ね経営補完システムを構築し、それを協定として結び継続した取組みが今日まで続いています。

 具体的活動は、表−2のとおりで上根麦作集団の麦ワラを鈴木牧場と小島堆肥利用組合(露地野菜集団6戸)が収集し、それを乳牛の1年分の敷料として確保し、牛ふんと混合した堆肥を堆肥利用組合は鈴木牧場から搬出し、モミガラ・稲ワラ等を増量してそれぞれの堆肥盤に堆積し、再度発酵堆肥化をはかり利用しています。

表−2 鈴木牧場・露地野菜農家・麦作集団における3者の連携・補完関係

効果・利点

1. 酪農家
  (1)麦ワラを敷料として利用できる。
  (2)露地野菜農家が麦ワラ収集に出役してくれるので、短期間に収集ができる。
  (3)家畜ふんがスムーズに処理できる。

2. 露地野菜農家
  (1)良質堆肥が安価で利用できる。(3,000円/2tダンプ)(麦ワラ収集出役費と相殺)
  (2)連作障害もなくなり、高品質に大和芋が収穫できる。
  (3)土壌微生物が活性化して、病気に強くなった。

3. 麦作農家
  (1)麦ワラ焼却による煙害が解消した。
  (2)短期間に麦ワラ撤去ができるので、直ちに田植えが可能になった。

 

 堆肥利用組合の麦ワラ収集作業出役があるので堆肥販売価格は、3000円/2t(ダンプ)で低価格となっており、この利用協定は昭和57年から始まり16年に及んでいます。

(4)人づくり

 鈴木氏は小学生の時に父親を亡くした自分の体験をもとに、長男を小さい時から農作業時にも連れていきスキンシップをはかり、牛・草作りにふれさせ農業の良さを体験させてきました。大学在学中から乳牛飼養管理や酪農経営目標について親子の対話を繰返したことから、それまでの努力が実を結び、卒業と同時に就農しました。なお、就農に際して、家族間協定を家族内の話合いで、平成7年給料制の確立、その他条件を整え、体制を作りました。


4. 経営成果の概要
 経営の実績については表−3のとおりとなっています。

表−3 経営の実績・技術等の概要

 収益性・生産性・安全性ともにバランスのとれた健全優良経営です。


5. 今後の経営目標
 長年の目標であった個体乳量1万kgを達成しましたが、将来とも安定した乳量の確保と、酪農経営30年の経験を生かし、次の世代へ確実に経営継承をしていくめに、次のような経営目標をたてています。

(1) 経産牛45頭の経営規模で、現状の個体乳量を確保し、個体管理データに基づく少数精鋭の経営をめざしたい。

(2) 家族労働を基本としながら、1人当り年間労働時間1800時間、所得1000万円をめざした「ゆとりある酪農経営」を実現したい。

(3) 自給飼料を基本としたTMR給与による安定した乳量・乳質を確保したい。

(4) 今後とも「牛・草・土づくり」を経営理念として、地域で愛される酪農経営としたい。


おわりに
 乳価の低迷、乳廃用牛・子牛価格の下落、環境問題、後継者不足等近年の酪農業界は暗い話題ばかりがめだちます。でもこのような厳しい状況のなかでも、経営の足元をしっかりと固め、地域社会とともに歩んでいるのが鈴木さんの経営です。

 よく「経営は人なり」といわれていますが、まさに鈴木さんの経営を診断して実感しました。

 世間では、農家の嫁不足が問題になっていますが、昨年めでたく後継者の篤さんが結婚され、鈴木家はますます安泰です。長男篤さんもすばらしい人でやはり「結婚も人柄なり」といえるでしょう。

 後継者篤さんに、経営の主体を任せ、周囲からしっかりサポートしている鈴木牧場は、今後もどんな困難も乗越え、地域に根ざした優良経営者として発展していくことでしょう。

(筆者:埼玉県畜産会振興課長)