自給粗飼料の生産をしましょう〔I〕
─土地利用型畜産における自給飼料生産の意義─

吉 村 義 則

はじめに

 最近、新聞などを読んでおりますと自給率という言葉を、目にする機会がまた多くなりました。農林水産省が毎年まとめている食料需給表をみますと、最近のわが国の食料自給率は、供給熱量ベースで42%、主食用穀物ベースで63%となっています。しかし、食用と飼料用とを合わせた穀物自給率になりますと、29%と先進国諸国のなかでは際だって低い数値となっています。

表−1 わが国の食料自給率の推移

表−2 粗飼料輸入量の推移
(単位:千t)

「日本貿易月表」より

 そこで自給率向上のためには、飼料の自給率をもっとあげるべきだとの議論があるわけです。しかし、酪農経営や肉牛生産にとって、この自給率はどのような意味があるのでしょうか。わが国でさらに自給飼料生産を増やせば自給率は向上するわけですが、酪農経営や肉牛生産にとって、自給飼料生産とはいったい何なのでしょうか。そこで、ここでは大家畜生産にとって、自給飼料の生産とはどのような意味があるのかを概観したいと思います。

1.…家畜にとっての粗飼料給与の必要性

 いうまでもないことですが、牛は草食家畜です。4つの胃をもち、ドラム缶1本分にも相当する大きな第1胃(ルーメン)をもっています。第1胃のなかはルーメン液で満たされており、そこではバクテリアやプロトゾアなどの微生物が、飼料の分解や栄養分の合成を行っています。飼料中の繊維質やでんぷん質などは微生物に分解されて酢酸、酪酸、プロピオン酸などの物質に変わり、吸収されます。また、増殖をした微生物は菌体蛋白質として第4胃以降で消化、吸収されます。

 育成期の牛にとって適度の固さや粗さを有する粗飼料の給与は、第1胃の発達に不可欠で、成牛時の飼料の消化吸収を高め、家畜の健康増進や耐用年数を延長させます。粗飼料は、成牛になっても第1胃中の微生物活動環境の維持、改善にとって欠かせません。さらに、粗飼料の繊維質は乳脂肪率の向上に効果があります。このように、大家畜生産にとって粗飼料の給与は欠かせないものです。

2.…粗飼料の確保、経営の安定化

 それでは、わが国の大家畜生産における粗飼料の確保はどうなっているのでしょうか?

 大家畜の飼料需要量は、TDNベースで約1250万tです。このうち国内産粗飼料供給量は36%の約460万tと試算されます。一方、粗飼料輸入量は約130万tと試算されます。大家畜生産では飼料TDNベースで約600万tの粗飼料が利用されているわけですが、粗飼料の実に20%以上が輸入されていることになります。

 粗飼料輸入は、昭和60年頃から急増し、平成9年には現物重量ベースでヘイキューブが約62万t、乾草が152万t、稲ワラが27万tとなっています。

 粗飼料の輸入量増加は、飼養頭数を拡大するなかで、粗飼料生産の拡大がともなわなかったことによる購入飼料への依存が強まった結果と考えられますが、それには、

  1. まとまった量が連絡一つで牛舎まで届く利便性
  2. 円高に支えられた輸入粗飼料価格の割安感
  3. 最近続いている気候変動にともなう飼料作物生産の不安定さ
  4. 飼料生産に必要な土地条件等の制約

 などが大きく関係しているものと考えられます。

 しかし、大家畜生産における粗飼料の確保を輸入粗飼料に頼っていては、供給量や価格の変動が経営に直接影響してくるなどして、長期的には安定した大家畜生産を難しいものにします。とくに、全世界の生産量の約1割程度しか貿易量にあてられず、期末在庫量の変化で常に価格が大きく変動している輸入穀物飼料に、濃厚飼料原料のほとんどを依存している状況のなかでは、粗飼料をも輸入に依存した場合には、国際相場や為替レートの影響を経営がもろにかぶることになります。

図−1 トウモロコシのシカゴ相場の推移(期近物)

 このところ輸入粗飼料の価格は、円高傾向や穀物需給が緩んでいることから、比較的安価で推移しています。しかし、自給飼料の生産費と比べると依然として割高となっています。自給飼料の生産費は、経営の規模や地域、飼料作物の種類によって異なってきますが、TDNベースで70円/kg前後であり、北海道では50円/kgを切っています。それに対して、輸入粗飼料の価格は、ヘイキューブでは約80円/kg、乾草で約100円/kg、稲ワラで約120円/kgと割高となっています。

 自給飼料生産の労働費を地域の平均的な労賃単価でみるか、酪農での労働報酬相当にするかで、自給飼料生産と流通粗飼料購入を選択する際の価格水準は異なりますが、自給飼料生産の場合にはコストコントロールができるといわれています。借地を効果的に利用したり、放牧と組合わせたり、機械を共同利用することにより、自給飼料の生産費をさらに低減させている優良事例が数多くみられます。酪農の場合、牛乳生産費の約半分が飼料費でその約40%が粗飼料費といわれています。自給飼料生産により粗飼料費を安価に安定的に確保することが、経営にとってたいせつです。そのような意味で、地域に合った飼料作物を安定生産することが重要といえます。

表−3 酪農経営における優良事例

(北海道S氏/土壌診断を重視した集約放牧酪農)

畜産利用面積 飼料畑8.5ha、牧草地48.5ha
家畜飼養願数 経産牛65頭、育成牛50頭
成牛換算1頭当り飼料作物作付面積 64a
飼料の自給率(DM) 75%
      (TDN) 69%
飼料作物反収 放牧地4,820kg/10a
  採草地4,750kg/10a
飼料作物TDN1kg当り生産費 28.9円
飼料作物の調製・利用方法 サイレージおよび放牧
飼料作物10a当り労働時間 1.23時間
成牛1頭当り乳量 8,338kg
成牛1頭当り所得 166千円
所得率 24.5%

表−4 酪農経営における優良事例

(群馬県G氏/自給飼料による低コスト経営)

畜産利用面積 飼料畑6.1ha
家畜飼養願数 経産牛38頭、育成牛12頭
成牛換算1頭当り飼料作物作付面積 25a
飼料の自給率(DM) 40%
飼料作物反収 トウモロコシ6,500kg/10a
  ギニアグラス5,000kg/10a
  イタリアンライグラス5,300kg/10a
  エン麦2,200kg/10a
飼料作物TDN1kg当り生産費 26.5円
飼料作物の調製・利用方法 バンカーサイロ・地下式サイロ
飼料作物10a当り労働時間 5.7時間
成牛1頭当り乳量 8,000kg
成牛1頭当り所得 248千円
所得率 35.6%


3.…堆肥の還元利用

 家畜を飼えば、ふん尿処理の問題が常にともないます。家畜1頭から1日に50kg以上のふん尿が生じます。とくに、増頭に見合った自給飼料生産拡大がともなわない経営では、家畜ふん尿の処理に、苦慮するケースが顕在化しつつあります。堆肥化のための施設などを作り、家畜ふん尿を流通させるための何らかの対応が必要です。

 一方、自給飼料を生産している場合には、堆肥やスラリーでもって肥料成分を補う形で、有機物として圃場に還元できます。ふん尿を廃棄物としてではなく、資源として循環して使うことが可能です。つまり、土−草−家畜の系のなかで、循環させることが可能になります。

4.…資源循環型農業、環境保全型農業

 循環させることにより資源を有効に使うという点では、自給飼料生産は、農業生産のなかで最も優れた生産システムといえます。堆肥あるいはスラリーを窒素、リン酸、カリの肥料成分として圃場に還元して、ふたたび飼料作物生産に使うことができます。しかし、ここで注意しなければならないことは、前述したように、トータルでみた場合、大家畜生産における自給率はTDNベースで1/3強であり、残りの2/3弱は系外から持込まれている点です。

 個々の経営でみた場合でも、家畜ふん尿を自給飼料生産に全量投入した時には、濃厚飼料等の流通飼料分だけ、どうしても負荷が多くなります。たとえば、窒素についてみれば、土壌中の硝酸態窒素濃度の上昇による地下水汚染や、飼料作物中の硝酸態窒素濃度の増加による、飼料品質の劣化に常に注意しなければなりなせん。カリについても同様です。

 持続した生産を維持するためには、家畜飼養頭数と自給飼料生産とのバランスが必要です。そうすることで、その地域の環境に負荷をかけない生産の持続が可能になります。

 さらに、飼料作物の生産の過程では、最終生産物の牛乳等の安全性の観点から、農薬の使用が厳しく制限されています。使用できる殺虫剤は1種類のみです。しかも使用時期が厳しく限定されています。殺菌剤については、使用がまったく認められていません。このように飼料作物は他の作物にはない厳しい規制条件下でもって生産が行われており、自給飼料生産はまさに環境保全型農業といえます。

5.…地域農業への展開

 わが国の地形や気象などの自然条件は、地域によって大きく異なります。しかし、わが国の気象は湿潤で、飼料作物の成育にとってはたいへん適した条件にあるといわれています。自給飼料の利用も地域の条件にあったさまざまな方式が採られています。

 温暖な九州などでは、飼料畑や転換畑を有効に利用して、年3作体系の飼料生産が可能です。寒冷な地方では、他の作物が入らない地域でも、牧草の導入により自給飼料生産が可能です。また、中山間地域などでは、放牧により土地の有効利用を可能にしています。放牧も、給与という行為はともなわないのですが、自給飼料利用の一つとみることができます。

 そして自給飼料生産は土地利用をとおして、耕種農家などとの有機的結合により、地域農業の維持発展に寄与しています。また、採草地や放牧地は、その景観がいわゆる「ふれあい機能」として多面的機能が地域の活性化に貢献しています。

6.…わが国の自給飼料生産

 次に、わが国の最近の自給飼料生産を概観してみることにします。

表−5 飼料作物作付面積の推移
(単位:ha)

昭和40年
50
60
平成元年
3
5
8
9

牧草
297,700
 687,600
813,000
833,700
842,200
837,500
826,200
820,900
青刈りトウモロコシ
68,200
79,700
121,800
125,500
124,300
118,300
104,600
103,000
ソルガム
18,800
35,500
36,500
35,800
32,400
26,900
26,300
  〃 エン麦
30,000
16,300
15,100
13,800
12,800
11,800
9,760
9,220
  〃 ライ麦
10,000
4,370
3,410
2,750
2,400
1,870
1,480
1,370
  〃 その他麦
3,070
458
1,960
1,430
1,260
829
716
677
れんげ
73,500
13,600
3,770
2,180
2,010
1,290
763
503
飼料用かぶ
13,700
11,100
8,960
5,220
3,760
2,620
1,540
1,300
家畜用ビート
4,100
2,990
962
415
304
126
53
33
その他飼料用作物
5,830
4,620
14,400
24,100

22,000

8,290
2,626
2,313

合計
509,000
839,500
1,019,000
1,046,000
 1,047,000
 1,015,000
 974,700
 965,600

「作物統計」および「耕地および作付面積統計」より

 飼料作物の面積は約97万haで、平成3年の105万haをピークに、やや減少する傾向にあります。内訳けをみますと、牧草が82万haで飼料作物面積の多くを占めています。次に飼料用トウモロコシが約10万haと全体の約1割になっています。さらにソルガムの2.6万ha、飼料用麦類の1.1万haとなっています。

 地域別には、北海道が62万haと全体の64%を占め、ついで東北地域の13万ha、九州地域の11万ha、関東地域の5万haとなって、飼料作物生産は北と南に偏っています。

表−6 地域別にみた飼料作物作付面積
(単位:千ha)

昭和40年
50
60
平成元年
3
5
8
9

北海道
260.6
530.1
600.7
607.0
622.1
625.6
621.8
619.5
都府県
248.4
309.3
418.2
438.6
424.7
389.7
353.5
346.1
東 北
62.5
93.9
127.9
144.9
142.3
131.3
129.0
127.9
関 東
49.9
54.0
75.8
78.0
73.0
63.6
56.0
54.7
北 陸
7.4
6.5
9.4
11.3
9.7
6.8
5.6
5.5
東 海
10.3
9.6
14.2
13.9
12.9
11.2
9.2
8.8
近 畿
9.3
6.1
9.2
9.0
8.1
6.6
5.4
4.9
中国四国
54.6
38.5
43.1
42.8
41.1
36.5
28.9
27.2
九  州
54.5
99.5
133.3
132.4
131.5
128.5
114.7
112.1
沖  縄
1.1
5.3
6.3
6.1
5.2
4.7
4.9

合 計
509.0
 839.5
 1,019.0
1,046.0
 1,047.0
 1,015.0
 974.7
 965.6

「作物統計」および「耕地および作付面積統計」より

 これを、1頭当りの飼料作物作付面積でみますと、酪農経営の場合、北海道では45a、都府県では10aで、都府県で10a以上の地域は東北の22aだけとなっています。その結果、TDNベースでみた酪農経営の飼料自給率は、北海道で55%、都府県では20%と、土地に恵まれた北海道の大家畜生産の特徴が端的に表れています。

 自給飼料の生産様式は、それぞれの地域の条件に応じた体系が採られています。南の地域ほどその熱量を活かした作付体系が採られ、九州地方では10a当り年間で乾物収集量で3t以上の体系が作出されています。北になるほど作付体系は限られ、トウモロコシなどの夏作物とイタリアンライグラスなどの冬作物の年2作体系は、ほぼ東北地方までとなっています。北海道では牧草地が中心となります。

7.…今後の展開方向

 自給飼料生産では、その地域の立地条件に適した栽培体系で、経営に無理がない生産・利用法を選択することがたいせつです。酪農経営の場合についてみますと、労働時間の約半分近くが搾乳や牛乳処理にあてられ、自給飼料生産関係にさかれる労働時間は、年間1頭当り約12時間で全体の約9%となっています。自給飼料生産のための労働は、数値の上ではそれほど大きくない比率ですが、播種や収穫など特定の時期に集中します。そのため、これらの飼養頭数の拡大やゆとりのある経営をめざすうえでは、作業時間の平準化や省力化が望まれます。

表−7 酪農経営における飼養管理および 自給飼料生産の労働時間(9年度)

 

搾乳牛通年換算
1頭当り時間

  同構成比

飼料調整給与・給水
28.8
(23.1)
敷料搬入・堆肥搬出
14.9
(12.0)
飼育管理
12.1
(9.8)
搾乳および牛乳処理
53.8
(43.3)
きゅう肥の処理等
1.7
(1.4)
生産管理
1.5
(1.2)
自給飼料生産関係等
11.5
(9.2)

合計
124.2
(100.0)

「畜産物生産費調査」より

 また、自給飼料の生産拡大と低コスト化のためには、自給飼料多給型の家畜生産、自給飼料生産基盤の確保や整備、生産組織体制の改善などをはかることも、これからますますたいせつなこととなります。さらに、放牧と組合わせて効果的な自給飼料の利用を進めることも必要です。

 すでに述べましたように、わが国は草資源に恵まれた風土にあります。自給飼料生産や放牧により、その草資源を有効に利用して土地利用型畜産を展開することが、まさに資源循環型の持続的農業であり、環境保全型農業の推進になると考えます。

 次回以降、飼料作物の栽培・利用法、収穫・調製・貯蔵法、放牧用草種の利用管理法、そして飼料用トウモロコシ、ソルガム、牧草の最近の新品種についてみていくことにします。

(筆者:農水省草地試験場栽培生理研究室・室長)