「捨てるから使う」「作るから売る」へ
〜半歩先行く酪農経営〜

藤 井 真 次


はじめに
 香川県高松市から国道193号線を徳島方面に45分、塩江温泉郷に入ると「しおのえふじかわ牧場」(写真−1)という大きな看板が立っている「道の駅・しおのえ」があります。「道の駅」とは道路際にたてられた道路利用者のための「休憩・情報交流・地域連携」の3つの機能を併せ持つ休憩施設です。


写真−1 道の駅でのソフトクリーム販売所

 休日になると、「道の駅」の売店前には小型トラックに乗った子牛がおめみえし、ソフトクリームを手にした親子連れがのぞきこむ姿も見られます。そしてソフトクリームの販売をしているのが、(有)藤川牧場(藤川弘幸代表取締役)です。

 当牧場は、ソフトクリーム販売のほかに、土壌菌を利用した堆肥処理システムやケナフ栽培等、話題満載の酪農経営です。

 今回は、藤川牧場の現在に至るまでの経緯を紹介します。

図−1 牧場位置


1. 農業法人化
 父親から経営移譲をうけた昭和45年から15年あまり、緑豊かな自然環境の中で、増頭による規模拡大をはかってきましたが、昭和63年の「経営の法人化」が最初の転換点でした。法人化により、酪農という夢を追いながら、リスクとリターン(採算性)も考慮した企業としての酪農経営の基本スタンスの確立ができました。

 当時、この地域に農業法人はなく、手探りでのスタートでしたが、以前から実施していた青色申告以上に、税務対策面でのメリットが多くありました。


2. 臭気問題解決のため資源化システム導入
 牛舎の眼下には高松市の水がめ内場池が広がり(写真−2)、香川県でも古くから有名な塩江温泉郷でもある現地は、昭和60年頃から周辺にホテルが立ちリゾート客が多く訪れるようになりました。


写真−2 内場池から見た牛舎全景

 経営規模も増頭により100頭規模になり、ふん尿処理に伴う臭いで、ペンションに遊びにきた人が、牛舎の前を通るたびに、鼻をつまんでいく姿が見られました。

 また、周辺の地理的状況から、堆肥を還元できる飼料畑の拡大も思うように進みませんでした。

 このような状況の中、経営継続のため、ふん尿処理方式を模索していた平成2年に、内水理論による土壌菌を活用した自然循環システムを実践して効果をあげていた酪農仲間の施設を視察して、藤川牧場でも県単事業の畜産資源化システム事業の中でこのシステムに取組みました。

 システムの低コスト化をはかるために、水槽には酒屋の中古樽(8m3)が利用されています。総額で約630万円、うち自己資金は約200万円強で作りあげました。現在、ランニングコストは、電気代として月9300円程度かかっています。

図−2 藤川牧場ふん尿資源化システムフローチャート

 また、図−2のフローチャートにあるように、閉鎖システムになっており、尿や汚水のダムへの流れ込みもありません(写真−3)。


写真−3 資源化システム

 培養槽には軽石(桂酸塩)と腐植土がつるされており、一定量の液肥を調整槽や曝気槽に還元しています。調整槽や曝気槽は1日4回強制的に攪拌並びに曝気しており、槽周辺での尿の臭いは感じられません。曝気槽をオーバーフローした液は、貯留槽に溜められ液肥として利用されています。

 現在、飼養頭数が70頭で総排水量が減っていることと、曝気をしていることからか、液肥がなかなか貯留槽に溜まらず、夏には水を補充することもあります。

 先日、「フリーバーン方式の牛舎で、このシステムはうまく稼動しないのでは」と質問したところ、「パーラーからの処理水や近郊酪農家の尿を利用すれば大丈夫です」との答えでした。


3. 尿から液肥へ(捨てるから使うへ)
 このシステムを導入したことにより、当初の期待以上に、臭気対策に効果がみられました。また、フェノール系土壌菌の活性化した液肥は、大腸菌や腐敗菌を抑制する機能を発揮し、これにより、経営のお荷物であった尿が必要不可欠の資源に変身しました。

 たとえば、ふん処理において、牛舎から出されたふんに育成舎の半乾燥のふんを混合し、水分調整を行った後に液肥を散布することにより、臭いの減少や堆肥周りのハエが少なくなりました。

 堆肥販売の上でも土壌菌による活性化のためか、野菜農家(根菜類)を中心に好評です。


4. 牛の体質改善
 土壌菌活用自然循環システムの試験として飲水処理装置を作り、飲水に利用している山水に土壌菌処理方法を利用したところ、10日ほどで牛舎内の臭いが少なくなりました。この結果から資源化システム導入を決断する要因ともなりました。臭いの減少の原因をたずねたところ「牛の体質改善が行われ、体内ペーハー値が変化して、弱アルカリ性となり、ふん自体の臭いが軽減されたのでは」との話でした。

 体質改善により、乳量は1頭当り年間7600kl から1000kl 増加、乳成分も安定(乳脂率3.7%)し、体細胞数も1桁台になりました。加えて、乳房炎の発生も大きく減少し、収益の向上・衛生コスト低減という、経済効果も得られました。

 しかし、当初導入牛が一週間位軟便になったり、乳房炎の治療に使用していた薬剤を止めることには、決断が必要であったそうです。

 一言「当然ではあるが、システムの導入には、常に清潔な牛舎を心掛けて作業を行うことが前提です」と、聞いたとたんに自分の机の中を思い出し、私には耳の痛い話でもありました。


5. ソフトクリーム販売(作るから売るへ)
 ふん尿処理にもめどがつき、次のステップとして、生産物にいかに付加価値をつけて販売するかという観点から、収益性の高い、交雑哺育育成を開始、肥育農家のニーズに合わせるため、指定交配や受精卵移植にも積極的に取組みました。しかし、販売価格差が大きく、収益の安定には結びつきませんでした。

 平成6年には長男が就農、労働力にも余裕ができたこともあり、牛舎を増設して、牛舎ごとに担当を決めて150頭規模に増頭を計画、先進酪農家の視察、牛舎の低コスト化のために電柱も確保、資金計画も行い、最終判断の協議を家族内で行いました。

 協議の結果、頭数を倍にはできても生産調整枠を広げるのが困難、国際競争の中で乳価も流動的であるなど「乳を搾るだけでは伸びる余地の少ない酪農からの脱却」との方向性で今後の経営方針を再検討しました。

 まず、経営資源の絞り込みを行うため、交雑哺育育成を中止、多頭化も一時凍結、自信を持っている良質な牛乳を軸に経営を再構築することにしました。

 その際に、長男の「乳製品販売による付加価値の創出」という案から、以前考えていたアイスクリームの製造販売を計画しましたが、施設への資金面がネックとなり頓挫。しかし、わが家の牛乳の風味を直接消費者に届けたく、ソフトクリームを製造、町内に設置予定の「道の駅」での販売に取組みました。それから1年あまり、試作を繰り返し、多くの人に試食をしてもらい、製品が完成しました。この時、一番参考になったのは地元の小学生の素直な意見だったそうです。

 シンボルマークも登録、これを機に次男も勤めを辞めて就農、9年4月に道の駅に最初の店舗をオープンし、「牧場生まれのソフトクリーム」として、1個250円で販売を始めました。

 販売については、手探り状態でしたが、当初の心配とは裏腹に、牛のことを知ってほしいと、毎週土・日曜日には道の駅に子牛をトラックで連れて行ったり(写真−4)、町主催の桜祭りや紅葉祭りなどの4大祭りには、牛乳の無料試飲コーナーを提供して、牛乳本来のおいしさを多くの人に知ってもらうなど、地域に密着した経営をめざしています。


写真−4 車に乗せた移動牛舎


6. 現 状
 現在、藤川牧場では、乳牛70頭を飼育、年間の搾乳量は53万kl、その85〜90%をJA香川経済連に出荷しています。そして、残りがソフトクリーム生産に向けられています。ソフトクリームの販売は、香川・徳島両県の8店舗で販売されており、夏場の多いときには1日1500個近くの売上げがありました。

 また、昨年から牧場の周辺に、地球温暖化と森林保護に役立つと注目されている、ケナフを植えています(写真−5)。ケナフとはアフリカ産の単年草で、高さは3m以上に伸び、生育中に二酸化炭素を多く吸収する植物としても知られています。今後は、牧場に訪れる地元小学生とケナフを使った和紙作り体験コーナーや、ケナフの粗飼料利用も検討しています。


写真−5 ケナフの栽培地での藤川さん

 現在の飼料体系は、粗飼料生産コストと飼料生産基盤の問題から、流通飼料による牧場指定設計のTMR飼料をメーカーで配合しています。また、商品を広く知ってもらうために、ミルククラブの主催する全国スタンプラリーに参加、長男のコンピューター会社勤務経験を生かして、ホームページも開設しています。(URL: www.netwave.or.jp/~fujifarm/

写真−6 ホームページ表紙


7. 今後の展望
 平成11年からは国並びに県のバックアップのもと、藤川牧場のほか2軒の農家と共同で「しおのえミルククラブ」を結成、念願であったアイスクリームの製造販売に着手する予定です。

 最初は、本物・新鮮・安全をモットーに「原料となる牛乳の味を生かした、アイスクリーム」を販売して、道の駅で味わったソフトクリームのおいしさを、さらにお土産として持ち帰って味わってもらい、将来的には、地元塩江町にたくさんあるユズ、イチゴ、お茶等の地元農産物を利用したアイスクリームを販売して地域活性化に役立てばと抱負を語ってくれました。反面、性急に品数を増やさず、内容を吟味充実させ、リピーターを増やしたいとの慎重さもかいまみられました。


おわりに
 藤川さんの持論である、(1)おいしい牛乳からおいしいソフトクリームやアイスクリームができる、(2)おいしい牛乳の乳質とは脂肪率へのこだわりではない、(3)おいしい牛乳をだすためには、牛が健康でなければならないのもと、藤川牧場は藤川さんを中心として、長男が販売部門、次男が生産製造部門と経営の両輪となり、家族の和を大事にバランスのとれた経営を築いていくことと思います。

 また、労働力に余裕があるうちに、ぜひ酪農先進国を視察して肌で感じてもらい、今後の香川県酪農の一方向性を示してもらうことを願って、紹介を終わります。

(筆者:香川県畜産会畜産 コンサルタント・ 主任主査)