暑熱対策を今のうちからはじめよう
─牛舎内の細霧のすすめ─

福 井 幸 昌

はじめに

 暑さに弱い乳牛は牛乳の需要期の夏になると体温が上昇し、その結果、採食量が減り乳量・乳質が著しく低下します。さらに、繁殖性の低下や疾病が発生し、死に至ることも多々あります。この問題に毎年直面する酪農家は、さまざまな暑熱対策を行っていますが、その効果には限界があり生産性が低下しているのが現状です。

 平成6年は記録的な猛暑に見舞われ、全国的に大きな被害がでました。しかし、乳量の低下は暑さの厳しい九州より関東、中部、北陸、関西が1kgも多かったのです(表−1)。そして、県別では福井県が4.8kgと最も多く低下しました。この原因は暑熱対策先進地の九州と後進地域間の意識と取組みの差にあると私は考えています。福井県でも平成7年以降、新たに換気扇を取付けたりするなど対策が進んでいますが、まだじゅうぶんなものとはいえません。

表−1 平成6年の地域別夏季乳量低下
(kg)
地域5・6月8月低下率
北海道
東 北
関 東
甲 信
北 陸
中 部
関 西
中 国
四 国
九 州
27.4
25.9
26.3
26.7
27.2
26.6
25.5
26.0
25.2
24.4
25.5
24.1
23.3
25.8
24.2
23.5
22.6
23.8
22.8
22.5
1.9
1.8
3.0
0.9
3.0
3.1
2.9
2.2
2.4
1.9
7%
7%
11%
3%
11%
12%
11%
8%
10%
8%
(乳用牛群能力検定成績を集計)

 当試験場も牛舎の構造上の問題から、暑熱の影響を大きく受けてきました。そこで、平成8年に細霧システムを導入し、従来の影響を補う効果がでています。細霧システムは積極的な暑熱対策として、九州など普及している地域もありますが、実際にどのような効果があるのか示した資料はありません。そこで、今回試験的な取組みではなく、現場と同様に細霧システムを使用した当場の結果について導入経緯とあわせて紹介します。

1. 細霧システム導入経験

(1)暑熱に弱い牛床環境
 当場の牛舎は昭和50年に建築された鉄骨2階建てで、壁面は牛床から1.5mの高さで厚さ20cmのコンクリートでできています。このため、放牧場からの夏季の南風は牛の頭上を素通りし、牛体に直接当たることはありません。また、対尻式ストールは搾乳操作を容易にするために可動する方式(ライホルムストール)のため、牛床幅が110cmと狭く横臥時には隣の牛と腹部や脚が触れ、熱を逃がすどころか互いの牛が熱源となっています(写真−1)。


写真−1 暑熱に弱い牛床環境

 このような暑熱に弱い牛床環境のため、平成6年は乳量の低下にとどまらず、乳房炎の多発、やむを得ない泌乳初期の搾乳停止、さらにヘイ死など、近隣の酪農家以上の被害を受けました。夜間放牧だけの対策では猛暑を乗りきれなかったのです。

 翌平成7年には、中央通路に直径100cmの換気扇を2台据え置き牛体に直接風を当て、濃厚飼料の給与回数を夜間を含めて6回にしました。しかし、乳量の低下、とくに夏期分娩牛の乳量が伸びず、またしても搾乳停止を余儀なくされた牛がでました。

 そこで、対策としてコンクリートの壁を壊し、牛舎を開放することを考えましたが、結局断念し舎内温度を下げる細霧システムを導入することになりました。しかし、ここで問題がありました。

(2)北陸では効果はないの?
 「北陸は湿度が高いから細霧は効果はないよ。反対に舎内の湿度を上げて牛に悪いのでは。以前導入した酪農家さんも牛床が濡れて、今は使っていないよ」と、ある技術者が私にいいました。そこで、平成6、7年の福井の気象を、浜松と熊本の2地点と比較しました。

 5月から7月の平均気温は、福井は約2℃低いものの、8月には差が小さくなり、平成6年には29.0℃と浜松より1.0℃高く、熊本とは0.4℃低いだけでした。そして問題の平均湿度は、8月に平成6年66%、7年69%と福井が最も低かったのです。冬のどんよりと湿度の多い印象が、夏も同じという間違ったイメージを生んでいたのです(図−1)。

図−1 福井、浜松、熊本の気象

 また、8月の1日の気象の変化を調べたところ、日中気温が上がるにともなって反対に湿度は下がり、15時の福井の湿度は平成6、7年とも浜松より約10%も低かったのです。福井の8月は、日中高温・低湿で細霧システムに適していることが分かったのです。地域の気象を正しく理解することは、暑熱対策の第一歩といえます(図−2)。

図−2 8月の日内気象変化

2. 細霧システムとは

 水が蒸発する際に、周りの熱(気化熱)を奪うことを利用するもので、畜舎内では2つの効果があります。ノズルから高圧の水を吹き出した細霧は、空気中を漂って舎内の熱を奪い温度を下げます。また、牛体に付着した細霧は体表の熱を奪い皮膚温度を下げます。この時、気化効率をあげ、湿度を抑えるために送風します。また、湿度を抑えるため噴霧と休止を繰返す間欠使用とし、さらに畜舎を開放します。温度が高くて、湿度の低い日中に効果があり、夜間は換気扇のみの使用になります。

3. 設置概要

 当場は舎内に牛が別れているため、ストールと分娩房にわけて設置しました(図−3、表−2)。一般牛舎では当然、飼料置き場以外の全面設置になります。ノズルは前通路と中央通路上の3列で高さ2.3m、ノズルの向きは前通路上は内側に、中央通路上は左右交互に2m間隔としました(写真2、3)。

図−3 細霧システム設置見取図

表−2 細霧システムの概要

 
写真−2 前通路上のノズルと換気扇 写真−3 細霧の発生状況

 換気扇の中心の高さは2.4mで、15度下向きに付けました。牛体に直接風をあてることは、噴霧中はもちろん、夜間でも気化効率をあげるための前提になります。換気扇の風量は、自動制御インバーターで温度に応じて調整しました。

 細霧設定は舎内温度が28℃未満では噴霧せず、28〜30℃で噴霧30秒・休止30秒(時間比1:1)、30℃以上で噴霧60秒・休止15秒(4:1)としました。換気扇の運転は回転率を20℃で30%、35℃で72%とした結果、風速は高さ50cmで約1m/s、140cmで2〜3m/sとなりました。

4. 牛床は涼しい

 図−4に1日の舎内の温度変化のパターンを示します。温度は舎外、細霧のない舎内、牛床(高さ50cm)の3ヵ所での測定結果です。牛床の温度は細霧がではじめて10〜15秒たつと下がりはじめ、噴霧が終わり10〜15秒後に最低温度になります。さらに次の細霧発生までの間に温度が上昇しました。この短時間内の温度変化は、間欠的に細霧を発生させたために生じました。このため、図には牛床の最高と最低温度を示し、実際の温度はこの間で上下しました。舎内温度と牛床最高温度との差が、最少温度低下、牛床最低温度との差が最大温度低下になります。

図−4 細霧システムによる牛床温度変化

 舎内温度は8:30には28℃を超え、センサーで噴霧を開始します。9:30には30℃を超え、噴霧・休止時間を手動で切り替えました。牛床温度は細霧中常に舎内温度より低くなりました。この日は舎外で33℃、舎内で32℃を超える暑い日でしたが、牛床温度の最高は31℃、最低は30℃以下で推移しました。30℃以上で噴霧時間を切り替えることで、舎内温度との差は大きくなりました。ひと夏を通じての最大温度低下は、舎内温度が28〜30℃で0.1〜1.0℃、30℃以上で1.5〜3.0℃となりました。一般に30℃を超える時間帯には、牛舎は無人であることが多いため、日中一度は牛舎に出向き温度変化に応じて噴霧時間を調整すると効果があがります。また、今後の装置の改良点として、温度変化に応じて噴霧・休止時間が自動的に変わることが望まれます。

 舎内温度が30℃を超えた日の、最高気温時の牛床温度を表−1に示しました。舎内温度は30〜34℃、牛床は28〜32℃で、最大温度低下は2.0〜2.9℃となりました(表−3)。

表−3 舎内温度が最高時の牛床温度(平成8年8月)
(℃)
月日舎外舎内牛床低下温度*
8. 1
8. 2
8. 3
8. 4
8. 8
8. 9
8.10
8.11
8.12
8.13
8.14
33.5
32.1
32.3
32.7
33.8
33.4
32.8
32.3
33.0
35.6
35.6
32.3
30.7
30.8
31.8
32.5
31.9
31.2
30.2
31.4
34.2
34.6
29.8
28.4
28.5
29.5
29.9
29.0
29.0
28.2
29.0
31.8
32.0
2.5
2.3
2.3
2.3
2.6
2.9
2.2
2.0
2.4
2.4
2.6
平均33.432.029.62.4

5. 少ない乳量・乳質の低下(夏期分娩牛をサポート)

 6月に30kg≦と、20〜30kgを産乳した牛の乳量変化を、中央通路に直径100cmの換気扇を2台据え付けた平成7年と比較しました(図−5)。2ヵ年の気温は、ともに30℃前後の最高気温が40日間続き同様の変化でした。

図−5 乳量の推移

 平成7年は、7月下旬以降の気温の上昇にともない乳量が落込み、この落込みは30kg≦で8kg(33→25kg)、20〜30kgで6.5kg(23→16.5kg)と大きなものでした。一方、細霧システムを使用した平成8年の乳量は、8月中旬以降の気温の上昇にともなわず徐々に低下しました。乳量低下は30kg≦で5kg(39→34kg)、20〜30kgで2.5kg(24.5→22kg)と平成7年より3〜4kg少なくなりました。

 6〜8月に分娩した牛の個体ごとの乳量変化を図−6に示しました。平成7年は4頭の分娩があり、分娩直後のKは順調に乳量を伸ばしましたが、ピーク時に高温となり大きく低下しました。FとGの初産牛も同様に、正常な泌乳曲線とならず、気温の低下した9月に乳量はもどっています。Mは分娩時の乳房炎が悪化し、餌も食べなくなったことから、分娩後1ヵ月で乾乳しました。一方、平成8年はBの初産牛、KとJの経産牛とも正常に乳量が増加しました。

図−6 夏季分娩牛の乳量推移

 当場では分娩前後2週間、牛を分娩房で飼養することから、分娩房にも細霧システムを設置しました。分娩前後は最も重要な期間のため、分娩房にも忘れずに設置する必要があります。

 バルク乳の乳質の推移を図−7に示しました。乳脂率、無脂固形分率とも平成7年は気温の上昇にともない急激に低下し、低下率は乳脂率0.3%(4.0→3.7%)、無脂固形分率0.6%(9.0→8.4%)と大きなものでした。一方、平成8年の低下は、乳脂率0.1%(4.0→3.9%)、無脂固形分率0.3%(9.0→8.7%)と小さく、夏期にも良質乳の生産が可能になりました。

図−7 バルク乳の乳質推移

6. 状態の変化

 平成7年以前の夏季の牛は体温の上昇、呼吸数の増加が顕著にみられ、飼料摂取が大きく落込み、牛は常に体からの放熱のために起立したままの状態でした。これは暑さを増幅させるような畜舎構造が原因で、夜間放牧や日中の木陰での休息などの対策では、とうてい暑熱ストレスを解消することはできなかったのです。

 細霧システム導入後の牛は、顕著な呼吸数の増加もなく飼料摂取も良好で、横臥して反芻するようになりました。乳量・乳質の良好な推移が示すように、当場のような環境でも細霧と送風の相乗効果により、暑熱ストレスを大きく軽減しました。

 当場の噴霧・休止時間の比率は、30℃以上で4:1と基本的な比率より噴霧の割合を長くしました。しかし、牛床が濡れることもなく不快感はありませんでした。これは、牛床のある畜舎の一部だけの噴霧のため、湿度が上がらなかったためと思われます。

 細霧の時間設定は表−4が基本となりますが、構造や換気扇の台数など条件が異なりますので、牛舎ごとに温度に応じた時間を設定することが大事になります。

表−4 細霧装置時間設定の基本
舎内温度噴霧時間休止時間時間比
32℃以下
32〜35℃
35℃以上
15秒
30秒
45秒
45秒
30秒
15秒
1:3
1:1
3:1

 30頭繋ぎ飼い牛舎の、細霧システム設備費の内訳を示しました(表−5)。設置形態は図−3の当場と同様の3列で、牛床数が30となる分ステンレスパイプが長くなり、ノズル数が増えます。費用は合計166万2000円となりますが、換気扇は設置ずみの牛舎が多いので、細霧装置だけの場合95万5000円になります。1日の水の使用量は図−4と同じ条件では、1.8m3となり水道代は220円(単価:120/m3)となります。

表−5 30頭繋ぎ飼い牛舎の細霧システム設備費内訳
装 置品  目金額(千円)内訳ほか
細霧









換気扇
本体ユニット
コンソールボックス
ノズル
ジョイント
ステンレスパイプ
ワンタッチカプラ
高圧ホース
その他
電気工事
小 計
換気扇371
自動制御インバーター
ノズルフィルター
電気工事
小 計
468
194
53
45
57
21
47
50
20
955
6台
241
35
60
707
1台
1台
30個
30個
27本
10個
30m
ステンレスワイヤー他



換気扇6台
細霧システム合 計1,662 

おわりに

 暑熱対策には日陰樹や遮光ネットによる外からの熱の遮断、屋根を反射率の高い白色にする熱の軽減や、換気扇の24時間使用による放熱の促進などの環境面、良質粗飼料の給与、エネルギーとビタミン・ミネラルの増給などの飼料給与面の対策があり、これらを組合わせて行うことが重要になります。細霧システムも対策の一つですが、他の対策より経費がかかり、しかも使用期間が福井では2ヵ月と短いためコスト高の印象があります。しかし、当場の結果では効果の方が高いと思われます。暑熱対策の組合わせは、気象条件や畜舎構造、飼料給与状態、各暑熱対策の効果の正しい理解のもとに行う必要があります。牛がへばる「暑い夏」は毎年必ずきます。春先の今から対策をたてて、5月中には準備を完了しましょう。

(筆者:福井県畜産試験場・研究員)