農場再生! こうして経営困難を打開する(1)

村 上 明 弘
必然的な存在

 何時いかなる時代や場所であろうと経営の困難な農場は『必ず』あります。それは農業界に限ったことではありません。このことを『原則』として腹分かりすることです。
 新たな状況を求めて人が行動すれば、そこに必然的に変化(成長?)が生まれます。善し悪しは別にするなら、競争的な経済活動の社会において、その成果は新たな経済的局面をつくります。すなわち、物価を主にした新取引条件です。それに適合した人は利益を維持拡大し、でなければ経営を衰退させます。ある産業内で、それぞれの経営体が有利さ(生産効率)を求めて仕事をすれば、いずれはそれに呼応した新価格体系が成立します。何もしなければその産業は活力を失い、強いては国際的にも立ち行かなくなるでしょう。
 ということは、同一産業内における積極的な経営展開がその産業の維持発展を、一応保証するわけです。そのような集団は、経営的にはレベルの高い平均点と広い裾野のある分散を待ちます。すなわち、常に一方には、時代の波はあっても、その産業内には存続困難な経営体を抱え続けるわけです(図−1)。しかし、新方向に順応するのが難しい経営体を、そのままにし続けることはその産業全体に重石をかけることになります。かといって、次の収入の当てもなく野にだされるのでは、社会全体が歪みます。
 最善かどうかは分かりませんが、都合がよいのは以下のような状態です。まずその所属する産業全体が健全な成長を続けることです。そして次に他産業(社会)全体も豊かな発展をし、さらに新産業(職場)も着々と生みだされる必要があります。そんな地域社会の発展が持続されていればこそ、経営困難に陥った経営体もその産業内を条件の良いうちに撤退し、新職業を選択できるわけです。
 酪農業に関しても同じことがいえます。基本は地域の酪農産業が健全?に発展することです。つぎに地域全体も豊かに成長?していること。ならばこそ、酪農産業に不適合を来している農場も、『軽症』のうちに、胸を張って?転職し、しかも、知人や友人の多い地域社会に新境地を開けるわけです。
何故か歯痒い!

 しかし、現実の酪農界はどうでしょうか?私の目には酪農自身がまだまだ大きな可能性を残しているのに、中途半端な発展に終始しているようにみえます。合理的だけど地味な、そんな技術や経営法の中に豊かな成長を取り残してきているような気がします。
 さらに、経営が困難に陥るということは、確かに経営者自身にかなり責任はあります。もし、困難が軽いうちにそれを指摘し、コンサルしてくれる少し力量のある技術員が身近にいれば、すぐ困難が解消するはずです。しかし、現実は、ましてや気がついたときはあまりにも真っ赤で、その回復には多大な時間を要したり、あるいは惨めな離農を余儀なくされたり、さらには、資産の処分では追いつかず赤字体質のまま営農継続をせざるを得なかったり…が多々生じるようでは気が滅入ります。
 経営者の中には、相応に豊かな能力を持っている方もいます。うまくアドバイスできる人さえついていれば十二分に困難を回避できたはずです。仮に相当な困難に陥った農場でも、それを方向転換し支援できる組織や人がいれば、いかようにでもなる場合がいっぱいあります。
 どうしてここまでヒドイことになってしまうのだろうか? 何故この農場がここまでになってしまったのだろうか? それを多くの組織や人々が農場だけに非があったとどうしていえるのだろうか? 技術的にも経営の方法的にも相当な可能性があったか、まだ残っているのに…。極めて多くの農場が、実力ある人材と組織に恵まれれば甦ることができるのに…。あるいははじめからそうならなくて済んだのかもしれないのに…。
 それが歯痒いわけです、そうならない前に手を打てない悔しさ虚しさが残ります。
あきらめる

 その人の人生は何処に幸せがあるか、なかなか分からない。農場の経営だけに固執して泥沼化し職業選択のチャンスを減らすのもどうかと思います。
 その農場の再建が可能かどうか、確かな検討の結果、ほぼ決定することが最初にたいせつです。その検討のためには以下の条件を考えるとよいでしょう。
  1.  豊かな技術・経営・人間性に関する判断能力を持っている人か、それが不在なら相応の専門知識を持っている組織の人が各部門皆集まり判断します。後者の場合は、さらに専門的ではないが高い見識を持っている人の最終判断が必要です。
  2.  経営者や家族の資質を判断します。直接的には本人と経営の核心部分の取捨選択について意見交換します。資産の処分、労働(作業)の強化、家計費の圧縮、当分の間の自己判断の放棄、極端な経営や技術方法の提示などです。その反応内容でその人的可能性を計ります。
  3.  ほぼ絶対的限界を越えているかどうかを判断します。償還金と支払い利息の額は、負債総額は、農地等の土地資産価値は、乳牛資産の生産性価値は、日常的に必要な施設機械の性能は、労力の条件は等々、総合的に考えます。
  4.  農場と経済的な関係を持っている関係機関の積極性がじゅうぶんにあるだろうか。
  5.  高い総合能力を有している技術員が濃密に通い続けられるかどうか。
 以上をトータルに分析判断して、可能性の有無を明確に伝えます。可能性のある場合は、その理由と方法を具体的に説明し、前向きな気持ちを持っていただきます。
 しかし、ここで問題なのは可能性がまったくないときです。相手やその家族の気持ちをしんしゃくして、ズルズルと先延ばしすると深みにはまります。かといって、次の手がみえないうちにダメ宣言するのは、相手に大きな心の傷をつくりかねません。資産処分による次の生活の可能性や新たな職業を検討してからにするべきでしょう。
 しかし、たいせつなことは、ほぼ完全に再生困難なときは『あきらめる』その明確な意思表示です。相互にここのところの確固たる判断と行動がたいせつでしょう。

 さらに、もし資産処分では間に合わない農場に対しては、条件が整うまで経営の継続を伝え、赤字体質のままではあるが、その内容を少しでも軽減する方法を強化するしかない旨をはっきり知らせることがたいせつです。

再建の基本

 それはいうまでもなく利子・償還金・家計費を含めての支出に対して、収入が間に合うようにできるどうかに尽きます。書くのは簡単なのですが、実際にはこの可能性実現に対する高い能力が係わる人には必要です。この技能感性が不足しているために、まだある再建の可能性を無にしてしまう場合が多くあります。他の農業種に比べ酪農はまだこの可能性がとても豊かなのです。
 まずは、負債の総額、とくに短年度的な負債を極力小さくします。可能な限り、不必要なもの、あるいは他の方法で代替できる資産を適正に処分します。また利益よりも金を食う方が大きくなってしまうような資産も処理します。農地、機械、牛などよく考えると結構あります。
 次に、所得を増やす方法を考えます。それは以下のパターンに分けられます(図−2)。

図−2 利益増加のタイプと対策

 よって再建のために次のようなことを見直しましょう。

  1.  無駄な支出を減らす → 電気の付けっぱなし、エンジンの掛けっぱなし、水の出しっぱなし、何の効果もない添加物、管理不足や不注意による機械や施設の故障、等々…
  2.  同じ資材なら割安に購入する → すべての生産資材、とくに飼料や機械施設は…
  3.  生産物を駄目にしない → 雑草だらけの飼料作地、雨あたり霜あたり飼料、発熱発カビ飼料、ヌレ仔のヘイ死、コジレ育成牛、事故廃用牛、乳房炎乳、バルクの電気の入れ忘れ、コックの閉め忘れ、抗生物質混入乳、等々…
  4.  過剰投入を減らす → 肥料、種子、サイレージ添加物、精液、濃厚飼料、飼料添加物、洗剤、殺菌剤等々…
  5.  適正な投入をする → 機械施設の価値ある修理や更新、肥料や飼料の一律な投入をしない(対象の特徴に合わせた投入)、労働力の配分修正(後始末的な仕事の回避)、等々…
  6.  効率的な投入をする(今より支出が増えてもそれ以上の効果をだす)  特に飼料の給与量や組み合わせ、肥料の投入量、乳牛の購入、機械施設の更新購入、コントラクターの利用、雇用労力の利用、等々…
  7.  規模の縮小により高性能化する → 労力等が制限要因のための経営困難なら、規模縮小が功を奏する場合もある。それをより進めるならば、余剰労力を外部収入に向けることもできる。
  8.  規模の拡大により所得増をもくろむ → もちろん搾乳牛の規模拡大です。耕地や育成牛ではありません。しかしそれ相応に追加投資や資材(飼料)投入の高率化が起こります。作業性の大幅な向上も必要になります。しかし、基本的な条件さえ整えば、勝負を掛けるときには最大級の再建効果があります。
  9.  以上を部分的あるいは総合的に組み合わせる
再建の可能性

1. 収入に直接的な貢献をする生産母材がどの程度健全か?

乳 牛

 牛は生産の基本母材です。
 多くの経済困難な農場において、最もめだつのは、乳牛のあまりにも不健康な状態か、繁殖成績のひどい不振か、その両方かです。
 その次は育成牛の頭数が極めて不足か、近腹の孕み牛がほとんどいないか、いてもひどい発育不良かです。
 肢蹄に回復不能の変形や腫れのある牛がめだったり、3本乳や2本乳の牛が多くいたり、老齢牛の比率が高かったり、そんな牛群では、産乳量の飛躍的な向上は夢物語です。
 また、一見健康そうな牛群にみえても、経済的には死を迎えているような分娩間隔の遠すぎる牛が多くいる農場があります。これは大量の導入牛を必要とします。
 このように乳牛が目に余る状態なのに、経産牛1頭当りの負債が限界(乳価、経費率、短期返済額等で地域や農家に差がある)を超えて大きいときは、再建は宙に浮きます。
 乳牛が普通の状態で、もし技術的な変更をしっかりしてもらえるなら、経産牛1頭当りの年間所得を推定できます(現金的観点で)。その金額で、利子額を割って何頭分、償還金を割って何頭分、最少家計費を割って何頭分、もし増頭するならその経費増加で何頭分…だから合計で何頭の経産牛が必要です。というふうにして何となく具体的に技術・規模的な目安をつけてもらいます。

労働力

 働き手がどのような健康状態にあるかがとても重要です。経営困難に陥った場合、雇用とか省力化機械などの導入はまず無理だからです。そうなったら、通常、しばらくは精一杯の労力利用で切り抜けなければなりません。
 普通の両親と元気な後継者の三人以上とか、元気な者夫婦とその両親かそのどちらか一人以上の三〜四人とか、元気な経営者夫婦とじゅうぶんに手伝ってくれる父母や中学・高校生とか…等の場合はかなり労力依存の無理が効きます。しかしその労力水準からほど遠い場合、負債レベル次第では難しい話となるでしょう。
 一人当り24時間、365日、掛ける人数分しか労働力はありません。しかもその労働力には質的な差が結構あることも配慮しなければなりません。すなわち、限界のある労働力を最大級の効果を得るために何処に重点的に投入すべきか、ここが再建成否の大きな分岐点なわけです。

耕地および自給飼料

 収穫してしまった飼料は、通常利用しなければなりません。あまりにも不健康な耕地から、あまりにも不十分な収穫調整や貯蔵取り出し技術で得られた飼料が相当量あったなら…それはもう想像するのも辛い状況を招きます。それが何年か続くと牛はみるも悲しい姿になります。品質保証の飼料を購入したいくらいになります。ましてや、その粗悪飼料の多くを割高に借地した耕地で作っていたら…

 不十分な労働条件下での耕地の管理、とくに収穫調整の作業があると、そのしわ寄せは必ずどこかにかでます。まずいエサしかとれないか、牛の体調が狂うか、両方か。
 すべてをコントラクターに依頼する条件を画策するか、すべてかほとんどを貸地にして地代収入を得る方法を発想するか…思い切った手を打つ必要があります。それらの手の打ちようがないと、再建に黄信号となります。
 僅かな耕地しかない場合は、ふん尿処理対策をじゅうぶんにし貸地するのが得策でしょう。

2. 日常的に使う施設機械がどの程度健全か?

 毎日必ず使う機械や施設が不調で、遠からず大きな修理費や更新費がかかるようだと困ります。また、更新強化するほどでないにしても、それをあやして使うために労力や神経を振り回されるようでは意味がありません。
 搾乳システム、バーンクリーナー、バルククーラー、トップ(ボトム)アンローダー、飼料配給車、トラクター本機、ベーラーなど遠からず大きく出費せざるを得ない物はないだろうか。ほぼ絶対的に必要な物が故障つづきでは、如何ともしがたいものです。
 経営困難になると、これを間に合わせ修理で済ませているので、いよいよの時には大きな修理更新が必要になりやすいのです。

3. 牛舎機能は生産性の大幅アップを可能にできるか

 乳牛が安楽に過ごせる牛舎環境だろうか。また、作業のし易い構造になっているだろうか、またはそれが比較的容易に改造できるだろうか。
 一方、乳牛をスムーズにグループ分けできるような牛舎条件だろうか。あるいは、多頭化をコスト効率よくできるだろうか。
 経費が不安定な状態にある農場の多くは、乳牛の生活や人の作業が快適さからほど遠い状態になっています。極めてたいせつなことで、そして極めて地味に感じることですが、『人も牛も気分がよい!』ということがより多くの利益を生みだす原点なのです。
 ・体のあちこちにある傷、腫れ、変形、ふん尿の汚れ。ヤットの思いの寝起き行動。痛々しい寝姿。必死の姿の飲み食い行動。恐くて不安な変則姿勢や行動。これらは物理的行動や栄養あるいは人との心の関係がうまくいっていない証拠です。
 ・作業行動の多い割には進まない仕事。たとえば、行き止まりの飼槽通路。掃いても掃いてもきれいにならない飼槽。落としても落としても切りがないくらいのスノコ上のふん。これらは労働が効率よく使われていない証拠です。
 ・ヒドイ換気不良。滑らかさがなく汚れのめだつ飼槽。じゅうぶんに水量のない給水器。放置状態のカウトレーナーや尾の保定具。凸凹でよく滑る牛床や通路。牛の前後や上下の行動を強く制約しているつなぎ方。これらは牛舎構造が機能不足な証拠です。
 ・群分け飼養や入れ替え搾乳のための不十分な構造や配置。これらはスムーズな技術の流れや簡単な多頭化を制約します。
 このような状態が多いほど経営は難しくなっています。これらがたくさん重なるほど、人と牛を元気にして生産性を高める技術変更が困難になります。コスト効率の極めて良い方法でこれらを増改築できるようなら先が明るいでしょう。

4. コンサル(組織と人材)機能

 経営再建をじゅうぶんになしえる能力(知識、経験、技術や経営法の構築力、関係機関との調整力、人格)を備え、現場に一定期間通い続けられる、そんな技術者がおり、さらにそれを支える機能的な組織があるだろうか。

 これは第一級にたいせつなことです。しかし深くは説明しません。ただ、トータルな技術力は酪農業の発展や経営再建のために、極めつけでだいじです。そして、多くの人々はこの重要性を余りにも軽くみています。

 次回は経営再建のより具体的なポイントを説明します。

(筆者:北海道十勝北部地区農業改良普及センター主査)