酪農―その豊かな可能性(2)
―自分の技術や作業を見直してみよう―

村 上 明 弘
生活ビジョン:技術はその実現のためにある

 生きていることのすべて、その丸ごと全部を「生活している」といいます。ですから、生活の糧を得るための生産活動(労働、作業)も生活に内包(一体化)された一部分です。
 しかし、未だに、多くの人が生活と生産は車の両輪…などと分けて考えています。その考え方には、喰うための労働は生活のためにやらねばならぬもの、いやだけど仕方ないもの…との意識があります。

図-1 生産活動と生活

 しかし、その気持ちからは、仕事はなるべくしたくない、できるだけ早く終わらせたい、他者に押しつけたい……というような考え方しか生まれません。とどのつまりは、週何時間とか年何千何百時間とかの物理的な労働の発想に終始してしまいます。
 図−1のような考え方に転換してみましょう。生産活動も生活の一部なのだ!……と。人生や生活そのものを「できるだけ気分のよい」ものに……と望むのは至極当然と思います。ですから、生活の部分たる生産活動も、じゅうぶんに楽しめるようにするのが自然の流れのはずです。
 どういう生活をしたいのか。人により違いはあろうが、誰でも何らかの希望は抱いています。それが日々の生活における張りになっています。
 農場生活、中でもとくに酪農場生活には、きわめて多くの特異性があります。ことさら、その作業に関し、後で説明するような特殊性があります。
 そんな酪農生活であればこそ、なおさらに確かな生活ビジョンを描き、その実現のために、何をどのように計画し実践すればよいのか、熟考すべき……と思います。
 生活において最もたいせつなのは「ゆとり」でしょう。多様なゆとりの中でも、ほぼ絶対なのは「精神的(心)」なものです。その気持ちをつくりだすものに、以下があります。

  1. 経済的ゆとり……お金、資産 
  2. 健康的ゆとり……体調、体力 
  3. 空間的ゆとり……周辺環境、住宅、移動 
  4. 労働的ゆとり……作業量、質、代替性、安全性、快適性 
  5. 文化的ゆとり……教養、趣味、社会活動 
  6. 時間的ゆとり……自由時間の量と質 
  7. 主体的ゆとり……指導権、貢献、自由意志 
 いろいろあるでしょうが、私には表現し尽せません。個人の立場や意志により、重きを置く順序や内容に差異はあるでしょうが、どれもまったく欠くことはできないでしょう。それらの総合的な得点とバランスの中に、精神的ゆとりがあるのだと思います。
 自分がいつごろまでに、何をどんな状態で望むのか、換言すれば、短〜中〜長期にどんな生活ビジョンを描くのか、いつも念頭に置いていたいものです。
 中でも、生活の中の生産部門に直結するのが、経済と労働(仕事、作業)と時間に関するゆとりです。どのくらいの所得を、どのような労働の方法と時間のかけ方で手に入れればよいのか。そのための経営方法や技術の組み立てを生産ビジョン以下の技術ラインで考えるわけです。
生活ビジョンとその技術ライン

 何をするにも、物事には考える順番とその選択肢と既存の事情というものがあります。酪農を考える時も同じです。ひとつの手法を説明してみますので参考にして下さい。

図-2 経営方法や技術選択の流れ

 図−2をまずひととおりみて下さい。どうでしょう。何をいっているんだか!……というところでしょうか?書いている本人も境界不明、表現不明で苦心しました。内容の正確性はともかく、意味をじゅうぶんに考えてみて下さい。
 経営はすでに持ってしまった事情を引きずっています(しがらみ同伴)。その既存条件には膨大な持ってしまった特徴、長所、短所があります。さらに、新しく採用しうる新技術や方法にも、きわめて多数の長短所や特質があります。しかも、その選択肢は無数にあり、かつ連綿とつながっています。しかし、選択できるラインは少ししかありません。
 しかも、しがらみの長所を伸ばし短所を抑える形の上にしか、大抵の経営体は新手法や技術を乗せざるをえません。
 一度選択採用してしまうと、あとからその間違い、方向違いに気付いても、後の祭りです。選択する前に、思慮熟考することが肝要です。
 その取捨選択ラインをツボにはめるためにも、思考の順序と各項目の特徴(長短所)をじゅうぶんに理解しておかねばなりません。
 もちろん、単独でそれを学習し理解することは不可能です。大まかなラインの選定、その後の細部の技術の採択に際し、さまざまな情報の利用、とくに“有益な!?”人材の利用が物をいいます。
 図−2にもどります。
 まず「生活ビジョン」を確定します。そしてその重要な部分である「生産ビジョン」を決めます。その時、農場の事情(経営主の能力、家族の希望、経営状況、地域の実情と未来など)と、おのおのの技術の特徴をじゅうぶんに配慮するのはいわずもがなです。実現不可能な、失敗するのが目にみえている……そんなビジョンは単なる夢物語ですから……。
 生産ビジョンの決定には、結構な種類の項目があります。図の中には全部書いていませんが、その項目ごとによく特性を考えてみて下さい。その参考になるのが「戦略」項目です。どの項目も、経営のタイプや作業法など経営の核心部に直結することばかりです。どのタイプの戦略を選び組み合わせるかで、“やり方”が大幅に変化します。全て書けていませんがどの項目も大きく経営体質を決定づけるものなので、じゅうぶんにその本質的意味を考えてください。
 その戦略選定にかかわるのが、「戦術」です。多々項目があるでしょうが、かなりの部分、図には書いていません。選択したビジョンや戦略をより有効化するためにどんな戦術を採用すればよいか、その選択は相応に技術や作業のイメージや成果を変えます。各項目の特質や長短所を最も深々と理解しておかねばならない部分です。技術の流れの中心点に位置します。戦術項目の理解度が高ければ、図の左右の選択において、大きな間違いが減るでしょう。
 大事なことは、フリーストール牛舎といえども、全体の流れの中では、単なる戦術のひとつにすぎないということです。結構な資金とシステムの変更をともなうが、しかし単なる戦術のひとつなのです。フリーストール牛舎をつくること、そのことが人生や経営、目的を犯している方もいます。その辺はよくよく考え直してみる必要があります。
 次にあるのが「技術体系」です。きわめて多種類の技術システムがありますが、とても書ききれません。ひとつの戦術に対してどの技術体系を選ぶか、いくつもタイプがあって選択に苦慮するでしょう。しかし、その選択した内容が、その後の経営成果に大きな影響を与えるものも多くあり、ゆるがせにはできません。たとえば、ロ−ルサイレージ方式を選んだとします。するとそのロール、長草、重い……という特質が作業法から給与法、消化器病の発生具合まで、多岐多様な影響を与えます。項目によっては、広範に作用するものもあるのです。
 そして最終的に単品技術に行きつきます。あまりにも無限かと思われるくらい無数に項目があるので、想像するのも気が滅入ります。種子、肥料、飼料の種数別特徴から洗剤、殺菌剤、薬品の使い方まで……きりがありません。しかし、厳然と一品一品の技術には、おのおの固有の特徴や長所短所がかならずあります。その選択による影響(成果)が、どの位か?は測定不能(因果不鮮明)に近いのですが…かならずあります。ひとつひとつの選び方と活かし方の良し悪しが最終的に巨大なプラスかマイナスになって表面化します。
 以上、生活ビジョンからスタートして、生産ビジョン→戦略→戦術→技術体系→単品技術という、経営方法や技術手法の選択に関する一連の流れを紹介しました。酪農のような超迂回的な農業においては、この“流れ”というものが、経営的にも技術的にも、あらゆる局面において、“スムーズ”に“効率的”につながっていることがきわめてたいせつなのです。

 

酪農作業の特異性

 他の農業種に比べ、酪農業には作業的に際立つ特徴があります。この特異性をじゅうぶんに理解することが、酪農をおもしろくし、経営効率を高められることにつながります。
 一般的には、それは以下です。
  1. 毎日、かならず作業がある(搾乳、飼料給与、哺乳、除ふん……)─日常性、連続性 
  2. 朝夕、絶対やらねばならない作業がある(搾乳)─特殊時間帯性、定時刻性(時刻拘束性) 
  3. いつ起こるか分からない作業もある(分娩、発情、疾病)─突発性 
  4. 季節的に集中する作業がある(肥培管理、収穫調整)─集中性 
  5. 1人あるいは家族のみでできない作業が多い(搾乳、収穫)─協調性(協同性) 
  6. 経営外部と係る作業が多い(種付け、診療、購買、販売、入下牧等)─外注性 
  7. 危険(大動物、多種多様な機械施設、有毒ガス、ふん尿溜、高所作業等)、汚れ、湿気、ホコリ、滑る、臭気、寒暑等々─多K性(3K) 
  8. 生鮮食品(生乳)管理─衛生性 
 ……等々きりがないほどの作業的な特質があります。とくに@〜Bまでは異質中の異質な特徴です。「毎日毎日、ずーっと仕事がある」「一般の人は休んでいる早朝と夕方にかならず仕事がある」「夜中までも気と体を使う分娩介助などの仕事がある」……というのは、実はたいへんなことです。
 いかに仕事好きな人でも、それが毎日、365日、1年〜3年〜10年〜30年……と続くと思ったら、それだけで気が遠くなります。それがさらに、朝と夕、1日を12時間に分けた両端に搾乳という、普通はほぼ絶対やらねばならない、しかも大抵は複数で行わなければならない作業が、毎日あるというその連続性に重石をかけます。そしてさらに、いつも気をつけねばならない繁殖の仕事もあるとなると……それはもう!……。
 「だから、酪農ヘルパーがあるのでしょ!」という人がいます。しかし、よく考えて下さい。確かにそれは、冠婚葬祭や家族休日のためには“絶対”必要です。だがそれは、後に説明する日本人の大方が手にしている休日等の自由時間に比べると比較になりません。今までがゼロだった休日がヘルパーにより手に入るのですから、ゼロとの比較で丸々1〜2日の休みをあきらめていた酪農家にとっては、とても嬉しいものです。しかし、フト気づくと、「それだけ!」と思ってしまいます。どうしても、抜本的に、この酪農作業の特異性を「総合的」に対策せねばなりません。
 もう一つ、年間労働時間の短縮について記してみます。「年間1800時間以内」の労働にしよう……とか、仕事時間を短くすることに希望を持つ意見があります。しかし、それは、仕事は“辛いもの”という前提条件がそこにあります。大方はそうかもしれませんが、人や職種によっては、辛さからの少しでもの解放が幸せとは限りません。とくに酪農のように、毎日、朝夕に必ず仕事があるという「時間帯拘束性」は、かりに年間総労働時間が、“目標?”の1800時間をクリアしたとしても、それがズーッと続くのでは、大きな喜びになりません。だって考えてもみて下さい。真の自由時間は、どんなに手を抜いても?、施設や作業法の工夫をしたとしても、家族経営では、朝は9〜10時から夕の3〜4時まで、実にその間わずか6〜7時間以内なのです。夜だって、作業を終えてシャワーし着替え夕食をとって、サアー出掛けよう……と思ったときは7時半〜8時すぎです。では……と夕方の作業を早めると、その分、朝の作業を早くする皺寄せがでます。
 何を説明したいか……!ここの所を、酪農に係る人々すべてが深く分かるべきです。それは
  1. 仕事そのものをおもしろがる。楽しむ。 
  2. 真の“自由時間”を得る。 
 ……ということへの理解です。どうせ毎日仕事があるのなら、その仕事(作業)そのものを“おもしろがって楽しむ”ことが第一義的にたいせつです。どうすれば、そういう気持ちで取組めるか。それを考えねばなりません。その命題の基本は簡単です。
  1. 何のためにこの仕事をしているのか。作業の目的を分かっていてする。 
  2. その仕事の成果(目的にどのくらい接近したか)が日常的に分る。 
  3. 成果に見合った評価と報酬がある。 
 しかし、そうであっても、毎日ズーッと永久に作業があってはたまりません。そこに真の自由時間が必要になります。すなわち、1日あるいは週あるいは年間の“総”労働時間が短くなった……という物理的な解決のみ(それもたいせつですが)ではなく、もし仮に、その労働時間は、1日当りで伸びたり、連続的にあったり、年間“総”時間では増えてもいいから、以下に示すような、真の意味の自由時間をうまく組み合わせて確保できればじゅうぶん満足できるわけです。
  1. 1回あるいは1日の作業に時間的なケジメがある。

  2.  (2)週あるいは旬などの一定単位で、丸1〜2日の休日がある。
     (3)3ヵ月前後単位で2〜3日間くらいの連続した休日がある。
     (4)半年あるいは年に1〜2回、1週間から10日間以上の連続的な休日がとれる。
     (5)必要な時に家族そろって休日がとれる。
     (6)突発的なできごとがあった時、丸1日〜数ヵ月間の単位で対応できるシステムがある。
  3.  (5)と(6)が酪農ヘルパーが係わる部分です。しかし、多くの労働者が享受している(1)〜(4)の条件は、酪農ヘルパーでは対応不能です。
 この6つの真の自由時間、とくに(3)と(4)を確保することが、今後の日本国における「酪農生活」を楽しむためにきわめてたいせつなことといえます。
 酪農ヘルパーというのは、酪農家が自由時間を得るための「必要条件」ではあるが、決して「十分条件」でないことを意識したいものです。
 (1)〜(4)得るためにどうすればよいのか。酪農作業の日常性(連続性)や時刻拘束性、突発性や協調(同)性、多K性などをじゅうぶんに念頭に入れ、以下の事項について熟慮してみて下さい。
  1. 作業目的を明確にし、そのための技術構築をし、意識的に“その目的達成”のための仕事をする。マイナスあるいは無意味、さらには後始末的な作業は極力減らす。すなわち、目的合理的な作業をする。 
  2. 作業の量を減らし、質を軽くし、誰でもできる代替性を高める。この作業に関する基本理念をいつも意識する。 
  3. 小は牛舎等のミニ的な改造や増改築から、大は搾乳・給飼方式やフリーストールシステムまで、施設や機械の利用のあり方を、広く深く考える。 
  4. 協同、分業、請け負い、委託、協調、分担……の意味と組み合わせについて、考える。 
  5. 手伝い、ヘルパー制度、アルバイト、実習生、時々雇用、定期臨時雇用、1人完全雇用、複数完全雇用、夫婦完全雇用……について意味と価値と方法をよく考える。 
  6. 共同化とか法人化の意味を考える。 
 以上のようなことを、日常的に考察・配慮して、経営方法や技術システムの適する方向を探り続けることがたいせつかと思います。
 次回は経営困難農場の再生ポイントを紹介します。

(筆者:北海道十勝北部地区農業改良普及センター主査)