生産技術セミナ−

 

「個」から「群」へ、「群」から「個」へ(6)

 

原 田 英 雄

 

30.コンプリートフィードの養分濃度を高めると乳量は確実に増える

 前回まで、コンプリートフィードの基礎的な知見を述べました。今回は、実際にコンプリートフィード中の栄養濃度を切り替えると、泌乳量にどのように影響するかをみてみたいと思います。ここでは、筆者の勤務する農業大学校において、実際に飼料の切り替えを行った例を取りあげ、その場合の乳量の経時的変化をみながら、お話したいと思います。
 当校では、最近、乳量が伸び悩みという状態でした。伸び悩みというのは、飼育されている乳牛の多くは、潜在的に1万kgの泌乳能力をもっているという考えからきています。なぜなら、種雄牛はほとんど検定済みの優れたものばかり利用してきましたから。にもかかわらず、乳量は搾乳牛1頭当り20kgも出てはいませんでした。そこで何とかして乳量を高めようと(実際には収入予算を増やさなければならないという内部の事情があり)、飼料内容の改善を試みました。実のところ、切り替え前のコンプリートフィード中のTDNおよびCP濃度は初産牛および成牛のものとしては、やや低いものでした。そこで、このTDNおよびCP濃度を高めることを目的に、飼料配合の改善を試みたわけです。取組んだのは、今年の10月1日から41日間です。
 まず、表−23に、この切り替え前(A飼料)と後(B飼料)の飼料配合割合とその養分組成を示しました。切り替え前のTDNは乾物中70.8%、切り替え後は73%、CPについてはそれぞれ15.9%と16.8%で、ともに濃度を高くしました。粗繊維については17.7%、ADFは21.9%、NDFは35.1%、粗脂肪は4.7%、バイパス蛋白質はCPの中に32.5%となるようにしました。
 なお、当校の飼育管理はフリーストール・ミルキングパーラー方式をとっています。牛群は高泌乳群9頭と低泌乳牛群11頭の2群管理です。朝の搾乳は午前6時、午後の搾乳は3時となっており、作業はすべて学生の手によって行われています。飼料給与は、搾乳終了後、午前7時と午後4時の2回にわたって行われ、やや昼間の搾乳間隔が短くなっています。

 

図−21 高泌乳群の乳量の推移

 図−21をみていただきたいと思います。これは期間中の乳量の経時的変化を追ったものです。乳量が飼料の変更にともない、著しく伸びたことが窺われます。切り替え前に比べて、切り替え後は約30%増加したことになります。1頭当り約7kgです。それでは、その経過をもう少しきめ細かくみたいと思います。

表−23 愛知県立農業大学校におけるコンプリートフィード中の配合割合切り替え前と切り替え後

項   目

切り替え前
(A飼料)

切り替え後
(B飼料)

配合割合(原物%)
 トウモロコシ
 大  麦
 加熱大豆
 特殊フスマ
 大豆粕
 綿 実
 大豆皮
 ビートパルプ
 ビール粕(生)
 アルファルファ・ヘイキューブ
 スーダン乾草
 アルファルファ乾草
 食   塩
 第二リンカル
 ビタミン剤
 海草類等
 酸化マグネシウム
養分組成
 乾物    (%)
 TDN   (乾物%)
 C P   (乾物%)
 UIP/CP(乾物%)
 粗繊維率  (乾物%)
 ADF   (乾物%)
 NDF   (乾物%)
 粗脂肪   (乾物%)
 カルシウム (乾物%)
 リ  ン  (乾物%)
 単  価  (円/kg乾物)

 
12.1
12.1
2.0
6.0
4.0
3.0
3.0
8.0
8.0
8.0
20.1
12.1
0.4
0.6
0.3
0.1
0.2

82.9
70.8
15.9
32.8
18.9
23.2
37.2
3.7
0.6
0.4
53.9

 
12.1
12.1
2.1
6.4
4.3
6.4
3.2
4.3
12.8
4.3
16.2
12.8
0.4
0.6
0.3
0.1
0.2

80.1
73.0
16.8
32.5
17.7
21.9
35.1
4.7
0.5
0.4
55.4

 

表−24 コンプリートフィードの飼料内容の切り替えによる乳量・乾物摂取量および養分充足率の推移

項   目

I期

II期

III期

IV期

乳量    (kg/頭)

 23.7

 26.7

 29.8

 30.6

乾物摂取量 (kg/頭)

18.4

20.3

21.0

21.9

TDN摂取量(kg/頭)

13.0

14.9

15.8

16.0

C P摂取量(kg/頭)

2.9

3.4

3.6

3.7

TDN要求量(kg/頭)

13.5

14.6

15.8

16.0

C P要求量(kg/頭)

2.7

2.9

3.1

3.1

TDN充足率(%)

96

102

100

100

C P充足率(%)

108

118

117

117

(注)I期は1〜11日、II期は12〜23日、III期は24日〜35日、IV期は36〜41日

 

 表−24をみていただきたいと思います。これは、41日間の乳量、乾物摂取量、養分要求量、養分充足率を4期に分けて、その時のそれぞれの項目の平均的な動きを示したものです。1期(11日間)というのは切り替え前の飼料、すなわちA飼料を与えている期間です。実際はそれ以前からも与えているものですが、便宜的に切り替え後の乳量等の変化と比較するために11日間を1区分としました。次が2期(12日間)です。ここでは飼料をB飼料に切り替えたところです。すると、ここでは残飼が期間中わずかしかみられなくなりました。そこで、さらに給与量を増加しました。これが3期(12日間)です。そして、さらに6日間を追ってみました。これが4期(6日間)です。以上の各期は図−21に対応するものです。あわせてみていただきたいと思います。
 次に、飼料摂取量ですが、表−24にみられるように乾物についてはI期からII期にかけて1頭当り約2kg/1日増加しました。この乾物摂取量の増加とコンプリートフィード中の養分濃度が高くなったことにより、TDNとCP摂取量も増加しました。そのことが結果的に乳量を伸ばす引き金となったわけです。1〜2期にかけての乳量向上はこのコンプリートフィード中の養分濃度の改善効果として受け取れます。
 次に2〜3期にかけてですが、これは給与量の増加によります。乾物、TDN、CP摂取量のいずれも増加しています。そして、3〜4期にかけては乳量および飼料摂取量の伸びがやや緩慢になった状態となります。飼料を増やせばさらに乳量が増加するかもしれませんが。
 次に養分要求量の動きをみますと、これも飼料の切り替えにともない増加しています。乳量が増加したことが養分要求量の増加につながったものです。ですから、もっと飼料給与量を増やす必要があるということになります。2期、3期、4期のいずれもTDN充足率は100%となっています。飼料を与えて、乳量が伸びるようであれば、さらに与える必要があります。そうでないと、乳量も伸びないし、乳牛は養分不足に陥るからです。しかし、今回は給与量を乾物21kg程度で抑えることにしました。なぜなら、高泌乳牛群9頭のボディコンデションスコアと種付け具合から、これ以上給与を増やすわけにはいきません。なぜなら、個体の中で過肥への傾向がみられるものがいるからです。ボディーコンデションスコアは3.0から3.5の範囲に収まっています。

 

図−22 個体でとの乳量の推移

 他の理由は、図−22をみていただくと分かります。確かに83号、89号、95号のような乳牛では飼料の増給で乳量はさらに伸びるでしょう。しかし、92号、97号、98号、101号のような牛では乳量のさらなる増加への期待はできません。体重の増加が気になります。すなわち、コンプリートフィード中の養分濃度を高めると、泌乳前期の牛や高泌乳牛ではシャープに乳量への反応を示しますが、中後期の牛や低泌乳の牛では反応が鈍くなります。当校の高泌乳牛群ではこれらが混在しているので、ある線でコンプリートフィード中の養分濃度を抑えることや給与量そのものも抑えなければなりません。給与量と養分濃度を全体の牛群構成で判断せざるをえません。
 以上のことから、飼料の切り替えで重要なことは次の3点です。

 @ 切り替え前後の飼料摂取量と乳量の推移を追い、数値で確かめること。

 A 乳量が最高になったところで給与量を決定すること。

 B 残飼料がでるようであったら、それが全体の5%以内におさめるようにすること。

 C ボディコンデションスコアを掌握しておくこと(スコアが高ければ飼料を制限する)。

 要するに、乳量とボディコンディションスコアを睨みながら給与量を決定することが大事です。平均日乳量が40kg/1頭のような群であれば、TDN濃度やCP濃度を76%あるいは18%にすることができるかもしれません。

 

31.綿実は確実に乳脂率を高める、しかし、乳蛋白質率はやや低下する

 文献上あるいは雑誌の中で書かれたことをそのまま指導に使うことは、技術者には一種のためらいがあります。自分自身で確かめないと、今ひとつ自信がもてないからです。かつて、筆者はこんな経験をしたことがあります。10数年前の話です。経営専門の研究員が、県内のある酪農家を訪ねた際に、乳脂率があまりにも低くて困っていると相談を持ちかけられました。その時、その研究員から筆者に、何か特効薬みたいなものはないかと尋ねられました。筆者は、当時雑誌上で綿実が乳脂率を高めるのにきわめて効果が高いというのを読んでいました。そこで、ただちに1頭当り2kg程度の綿実給与を薦めることにしました。雑誌で読んでいただけなので、内心不安はありました。しかし、2〜3週間後に確かに乳脂率が高まったと喜びの報告を聞いて、ホットした経験があります。その時に取組んだ試験がコンプリートフィード中の綿実の配合割合の試験です。コンプリートフィード中にどの位まで配合できるのかということです。

表−25 コンプリートフィード中の綿実割合と養分組成

項    目

0 %区

6.6%区

13.2%区

配合割合(乾物%)
 トウモロコシ
 大  麦
 特殊フスマ
 大豆粕
 大豆皮
 ビートパルプ
 ビール粕(生)
 アルファルファ・ヘイキューブ
 綿  実

養分組成
 乾物    (%)
 TDN   (乾物%)
 C P   (乾物%)
 UIP/CP(乾物%)
 粗繊維率  (乾物%)
 ADF   (乾物%)
 NDF   (乾物%)
 粗脂肪   (乾物%)
 カルシウム (乾物%)
 リ  ン  (乾物%)
 単  価  (円/kg乾物)

 
10.1
10.1
10.1
5.0
7.6
7.6
11.3
38.4



69.2
71.1
18.1
32.6
18.7
23.1
35.2
3.8
0.7
0.4
49.2

 
8.8
8.8
8.8
4.3
6.6
6.6
11.2
38.3
6.6


69.5
71.5
18.4
31.6
19.7
24.4
36.4
4.9
0.7
0.4
51.6

 
7.5
7.5
7.5
3.7
5.6
5.6
11.2
38.1
13.2


69.7
71.9
18.7
30.5
20.7
25.7
37.6
6.0
0.7
0.4
54.0

 

 表−25をみていただきたいと思います。ここには、綿実が乾物中0%、6.6%および13.2%の3区を設定しました。この際の飼料構成はCP3水準(14、17、20%)の試験(本記事4回)場合とよく似ており、粗飼料はアルファルファ・ヘイキューブ(38%)だけ用いています。それ故に、乳脂率の低下がじゅうぶん予想されます。そんな条件下で、乾物中のTDN濃度は約71%、CP濃度は18%、ADFは24%前後です。粗脂肪濃度については綿実の増加にともない、3.8%から6.0%に増加しています。試験牛は泌乳中期の乳牛6頭を用い、ラテン方格法という実験方法で行ったものです。

図−23 コンプリートフィード中の綿実割合と乾物摂取量、乳量、乳成分およびルーメン内の低級脂肪酸との関係

 その結果は、図−23にみられるとおりです。乾物摂取量は、綿実割合の増加にともない、若干減少します。それを反映して、乳量も0%区に比べて13.2%区は、1頭当り約2kg程度少なくなっています。したがって、1日当りの体重変化も0.6kgと小さく、SCM/TDN比(TDNに対する無脂乳固形分補正乳の比率で生産エネルギー効率を示す)も低くなっています。生産効率については綿実の6.6%区の方が13.2%区よりもよい結果となっています。ところが、乳脂率については、綿実割合が0%から16.6%に増加すると、3.2%台から3.8%台に曲線的に増加します。一方、乳蛋白質率については0.1%ほど逆に低下しています。これをルーメン内の低級脂肪酸の変化からみてみると、酢酸のモル比率は曲線的に増加し、56%台から60%台に増加しています。一方、プロピオン酸のモル比率は26%台から曲線的に低下して23%台に低下します。前述したようにここで用いたコンプリートフィードは低乳脂率をもたらすような飼料構成です。それは、0%区のルーメン内の酢酸モル比率の低さとプロピオン酸比率の高さから理解できることです。ここから分かることは、綿実を増加させるとルーメン内の酢酸/プロピオン酸比が増加し、その結果、乳脂率が増加することです。ここでは13.2%まで増加させると乳脂率はそれに応じて高くなります。そして若干乳蛋白質率は低下することが明らかとなりました。綿実の周囲には綿糸があり、消化のよい繊維となっています。これが、ルーメン内で消化され酢酸の増加につながっているものと思われす。また、綿実内には脂肪が含まれ、これがルーメン内を素通りし、ルーメンバイパス性の脂肪として利用されているものと思われ、これも乳脂率の増加の要因ともなっています。
 以上のことからいえることは、綿実は13%まで増やすと乳脂率がそれにともない確実に増加するということです。

 

32.粗飼料の多い飼料でも綿実は乳脂率を高める

 ところで、泌乳試験の結果をそのまま、フィールドにおける牛群全体に応用した場合に、果たして同じような結果が得られるかというと、必ずしもそうとは限りません。それは、試験場における試験とフィールドの場合において、条件が同じでない場合が多いからです。牛群や飼料構成の違いはもちろんのこと、飼料施設や環境条件が異なることが大いにあるからです。
 そこで、前述の条件とは異なった飼料構成のもとで試験を行ってみました。それはアルファルファ・ヘイキューブ(ヘイキューブ)の代替としてイタリアンライグラス・サイレージ(サイレージ)を用いた場合に、前述と同じように綿実の効果があるのかどうかをみたものです。これは試験というよりも牛群全体の乳量および乳成分の変化を経時的に追ってみたものです。すなわち、コンプリートフィード中に綿実を加えた場合とそれを除去した場合に、牛群全体ではどんな反応を示すかということを、当然ここでは前述とは異なり、粗飼料はじゅうぶんすぎるくらいあるという条件の下です。

表−26 粗飼料としてイタリアンライグラスサイレージを用いたコンプリートフィード中の綿実の配合割合と養分組成

項    目

0 %区

14%区

配合割合(乾物%)
 トウモロコシ
 大  麦
 特殊フスマ
 大豆粕
 大豆皮
 ビートパルプ
 ビール粕(生)
 イタリアンライグラスサイレージ
綿  実
養分組成
 乾物    (%)
 TDN   (乾物%)
 C P   (乾物%)
 UIP/CP(乾物%)
 粗繊維率  (乾物%)
 ADF   (乾物%)
 NDF   (乾物%)
 粗脂肪   (乾物%)
 カルシウム (乾物%)
 リ  ン  (乾物%)
 単  価  (円/kg乾物)


5.6
5.6
5.6
2.8
4.2
4.2
25.0
47.0


31.5
68.1
16.2
45.1
23.3
27.2
48.5
4.9
0.4
0.4
45.7


2.8
2.8
2.8
1.4
2.1
2.1
25.0
47.0
14.0

31.6
68.8
16.8
42.2
25.4
30.0
51.1
7.3
0.4
0.4
50.8

 

 表−26に、その時のコンプリートフィード中の飼料配合割合と養分組成を示しました。綿実の配合割合は乾物中0%と14%です。濃厚飼料の他にビートパルプ、生ビール粕を積極的に使用し、粗飼料はサイレージ(47%)だけです。乾物中のTDN濃度は約68%で、泌乳中後期用として低めになっています。CPは16%台です。ADFは27〜30%と高めです。牛群の構成は泌乳中後期の牛15頭です。
 試験は1985年5月9日〜7月10日までの63日間で行いました。これを3期にわけ、最初の21日間を前期とし綿実給与、中期21日間は綿実を除去、そして後期21日間は再び綿実給与としています。そして、乳量、乳脂率および無脂固形分率の推移をみてみました。これを図−24に示しました。

図−24 慣行飼料から綿実を除去した場合の乳量、乳成分の変化


 乳量については日々の変動を繰り返しながら、牛群全体が泌乳中後期にあることから、22kg/1頭台から19kg/1頭台へと緩やかな下降傾向を示しています。なお、各期間内の乳量の平均値は前期20.9kg/1頭、中期20.7kg/1頭、後期20.1kg/1頭となっています。ここからは、綿実の影響はないといってもよいと思われます。
 次に、乳脂率については、前期では3.8%から4.1%へと高く推移し、中期になると3.8%から3.4%に低下します。その後、再び綿実を給与した後期では3.8%から4.2%台へと高く推移します。なお、前期、中期、後期のそれぞれの平均値は3.93%、3.62%、4.09%となっており、綿実によって0.3%乳脂率が高くなっています。コンプリートフィード中の乾物割合で綿実を14%入れると、粗飼料の多い状態でも乳脂率の向上が期待できることが明らかとなりました。
 一方、無脂固形分率についてはちょうど乳脂率とは反対の推移を示しています。すなわち、前期では相対的に低く、中期でやや高くなり、後期では再び低下します。それぞれの平均値は8.45%、8.56%、8.42%です。綿実を14%コンプリートフィード中へ入れることによって無脂固形分率は0.1%位低下します。
 なお、乳蛋白質率については、図のように毎日の変動をみてはいませんが、1週間間隔の測定値からみると、前期の平均値は3.15%、中期3.19%、後期3.17%です。乳蛋白質率も綿実を14%配合することによってほんのわずか減少しますが、乳脂率や無脂固形分率ほどの影響はありません。
 なお、綿実については古くなったものではゴシポール中毒の危険性もあることから新鮮なものを与えなければなりません。
 以上、綿実について筆者が行った試験例を二つ、少し長く紹介させてもらいました。なぜ長くかというとその理由の一つは、綿実は非常に反応が良く、理にかなった結果が得られたことです。多くの試験ではなかなか予想どおりの結果が得られないことがしばしばあり、またその解釈に苦慮することがしばしばありうることです。もちろん、そこには試験方法に問題がある場合もあったり、解析が不十分であったりする場合もありますが。
 もう一つの理由は、再現性が豊かであったことです。同じ試験を繰り返す場合、しばしば異なった結果が得られる場合があります。ところが、綿実では再現性が非常に高かったことです。多分、どの酪農家でも同じように綿実を給与すれば、乳脂率が増加する結果がきっと得られます。
 なお、ここでたいせつなことは、牛群全体の動きを飼料の切り替えをとおして、乳量だけでなく、乳成分もあわせて掌握するということです。そして、それが本当に飼料の影響であるかどうかを確認することです。確認できたら、それは飼料給与技術の自信につながります。

 

33.粗飼料成分を分析しよう

 ここではコンプリートフィードを調整する場合の、粗飼料についてとくに輸入のスーダンライグラス乾草(スーダン乾草)の若干の留意点を述べたいと思います。飼料成分、とりわけ粗飼料の成分は品種、刈り取り時期、刈り取り部位、土壌、天候、調整方法などによって大きく変動します。このような変動の大きい飼料を乳牛に与えると、乳牛の生産活動に大きく影響を与えます。当然、品質がよければ乳量は増え、悪ければ低下します。最近は自給飼料を作らずに、輸入乾草とりわけスーダンライグラス等を給与している農家が愛知県内では多くなってきました。ところが、品質についてはロットによって大きく異なります。

表−27 輸入スーダンライグラス乾草の化学成分       (n=72)

項   目

平均値

最大値

最小値

標準偏差

変動係数

水 分  (%)
粗灰分  (乾物%)
粗脂肪  (乾物%)
粗蛋白質 (乾物%)
ADF  (乾物%)
NDF  (乾物%)
TDN* (乾物%)
硝酸態窒素(ppm)

8.2 (12.3)
9.3 (10.1)
2.0 ( 1.5)
9.2 ( 9.4)
36.3 (38.0)
69.0 (62.1)
52.0 (54.7)
729

10.6
12.8
3.9
16.7
46.3
79.8
56.5
3568

5.1
5.7
0.9
3.9
29.0
48.4
47.2
  0

1.1 (1.1)
1.4 (2.4)
0.7 (0.3)
2.6 (1.9)
3.6 ( - )
4.5 ( - )
2.2 ( - )
1028

13.0
14.6
36.6
28.4
10.0
6.6
4.3
141


(注)( )内は日本標準飼料成分表(1995年)の数値
  TDN*は次の式によって求めたTDN=75.45−0.649*ADF


 表−27をみていただきたいと思います。ここには、筆者が1995〜1997年にかけて県内で使用されていたスーダンライグラス乾草を集め、実際に分析した値を示したものです。近赤外分光法(NIRS)での迅速簡易推定法を確立するために化学分析したものです。
 平均値からみると、水分は日本標準飼料成分表(1995年)のものに比べてやや低めになっています。しかし、他の成分については成分表の数値(表の( )内の数値)と比べて大差はありません。しかし、成分ごとにみてみると、最大値と最小値の間にはかなりの幅があること、すなわちバラツキが大きいことがわかります。たとえば粗灰分の最大値と最小値の差は7%、粗蛋白質は13%、ADFは17%、NDFは31%、TDNでは10%あります。これだけ変動幅が大きいと乳量等への影響はかなり大きなものと推察されます。したがって、分析の必要性がでてきます。給与量が少なければ、影響は少ないかもしれませんが、多い場合には乳量等への影響は大きくなります。筆者の知っている酪農家のうちで、1日1頭当り8kgも与えている例があります。この農家では、スーダン乾草が切り替わって新しいものになると、バルククーラーの乳量目盛りがかなり下がったことがあるといっています。乾草の質が低下したためです。たとえば、TDNが5%低下すれば、1頭当りのTDN量は0.4kg少なくなります。乳量が1日1頭当り1kg低下してもおかしくはありません。100頭規模の農家では100kgの乳量低下となります。
 また、輸入スーダン乾草の場合、その中に含まれている硝酸態窒素濃度も問題となってきます。筆者の調査では全体の10%ぐらいが3000ppmを越しています。これは、収穫前に肥料散布として窒素肥料を大量に投与したことによって起きたものと思われます。このことにより牧草が青緑鮮色になり、見栄えがよくなります。したがって、青緑鮮色のスーダン乾草については硝酸態窒素に注意を払う必要があります。
 表−27には、硝酸態窒素濃度の分析値も示しています。これは、高速液体クロマトグラフィーで測定した値です。平均値は729ppmで、最大値は3568ppmとなっています。
 ところで、硝酸態窒素も試料分析の結果、CPに含有されるものとして取扱われます。そこで、CP含量と硝酸態窒素濃度との関係をみることにします。図−25はこの関係を図示したものです。両者の間には相関関係は低いことがわかります。しかし、粗蛋白質含量が12%を越えるようなスーダン乾草では、硝酸態窒素濃度は2000ppm(乾物中0.2%)を越えていることがわかります。すなわち、CP含量が高いもの、とりわけ12%を越えるようなものでは硝酸態窒素に注意を払わなければなりません。こういう意味でも、飼料分析はますます重要となってきます。

 

図−25 輸入スーダンライグラス乾草の粗蛋白質含量と硝酸態窒素濃度との関係

 


 日本飼料標準(1994年)によれば、「硝酸塩の致死量は体重1kg当り500mgであり」「給与飼料中の硝酸塩濃度は0.5%では問題ないが、1〜2%では中毒、3%では危険である」とされています。また、「硝酸塩濃度の高い飼料の長期摂取により慢性的中毒の危険性」(同上)が指摘されています。約10年くらい前の話ですが、筆者自身、1日1頭当り8kgのスーダン乾草を与えていた農家で、実際に硝酸塩中毒症状を示していた農家を知っています。数頭が死亡したり、流産を起こしたり、種付けが悪いなど大きな被害を被ったという例です。
 このような障害を防ぐためには次の点に留意すべきです。

@ 飼料分析を必ず行う。

A 1種類の飼料を多量に用いない。少なくともスーダン乾草を1日1頭8kg給与するのは問題と考えられる。危険性を回避するために多給与しない。

B 数種類の粗飼料を組み合わせて用いる。
 この利点は飼料成分のバラツキが相殺される。全体として、より一層成分表の数値に近づき、平均的なものになりやすい。

C 粗飼料のロットが変わるごとに、注意深く乳牛の採食行動、乳量、乳成分、ふんの状態等を定期的にチェックすることです(この項続く、次回は濃厚飼料について)。

(筆者:愛知県立農業大学校畜産科長)