生産技術セミナ−

環境保全に活躍する

スウェーデンのバイオガス・プラント(2)

八 重 樫 鐡 男

2.クリスチャンスタッド市のバイオガス・プラント

 前号で紹介しましたが、私がスウェーデンのバイオガス・プラントに興味をもって、スウェーデンに行ってみようと決めたのは、友人から送られてきた小さな新聞の切抜きでした。記事のタイトルは、ヒゲ顔の紳士ミスター・クリスター・ジョンソンがスウェーデン最大のバイオガス・プラントのボスになったという書き出しではじまり、説明には、昔何百人も働いていた製糖工場の跡地に、最新式のバイオガス・プラントが完成して、今ではジョンソン氏一人が働くことになったという紹介で、クリスチャンスタッド市が環境保全対策のすばらしい前進をとげて、家畜のふん尿や家庭の生ゴミからバイオガスを生産して、1000戸の家に暖房用の熱を供給しているといった内容の記事でした(図−4)。


図−4 クリスチャンスタッド・バイオガス・プラントの製造工程図

 スウェーデンの気候は大体北海道の気候と同じくらいで、以前はシュガービートの栽培が盛んでした。これは自国で消費する砂糖は自給しようという政府の方針だったようですが、現在はシュガビートの畑は見あたらなくなっていました。たぶん経済的な理由で輸入砂糖が使われるようになって、製糖工場も閉鎖されたのだと思います。
 新聞記事に紹介されていたバイオガス・プラントは、クリスチャンスタッド市の郊外の牧草地に囲まれた、大きな製糖工場の跡地の一角にありました。新しくてきれいなプラントの隣には大きなコンクリート建ての廃屋が残っていました。
 案内を担当してくれた、ラース・カールソン氏の説明では、このプラントは、100%市が出資している清掃会社が母体となって建設したとのことで、総工費は4300万スウェーデンクローネ、日本円で約7億円で、昨年(1997年)7月に完成したそうです。
 最大原料処理能力は、家畜のふん尿を一日に135t、鶏肉加工場からの廃棄物と工場排水を一日に35t、街から運び込まれるゴミが一日に30tで、これらの有機物から日量でバイオガスを8000〜9000k、熱量に換算して1.8〜1.9メガワット生産できるとのことです。
 生産されたバイオガス全量は、4km離れたところにある地域暖房の会社に、地下に埋蔵されている10インチのパイプで送られます。この地域暖房を行う会社は、大きなボイラーで大量の湯を沸かし、発砲スチロールで覆ったパイプで街中を循環させて、暑い湯を各家庭に備えられている熱交換器をとおして、熱を販売する会社で、各家庭が暖房器具を備えてオイルを炊いて暖をとっていた時と比較して、空気中に放出される硫化物や塵灰の量を5分の1に減らすことができて、たいへん環境保全に役立っているそうです。
 プラントで生産されたバイオガスは、地域暖房会社に直送されて、ボイラーの燃料に使われていますが、この会社では化石燃料はまったく使わないで、ほとんどバイオガスだけでクリスチャンスタッド市内の約1000戸の家の暖房熱源をまかなっているとのことでした(図−5)。


図−5 家庭に備えられた熱交換器熱源の回路図

 原料に使う生ゴミは、現在のところ6台のゴミ収集車で、約40km圏内の家庭・会社等から毎日10〜15t集めて、プラントの受け入れ槽にプラスチックの袋に入ったまま投げ入れられていました。原料には生ゴミのほかに近くにある鶏を屠畜して加工する工場からでる廃棄物(羽毛・内臓等)とプラントの周囲30km圏内にある畜産農家からの家畜のふん尿も使われています。

写真−5 ふん尿運搬の18tのタンク・ローリー
写真−6 生ゴミ運搬コンベアーと
     ミックシング・タンクふん尿受入れ建屋

 このプラントの原料もチューブラ式熱交換機で、摂氏70℃で一時間保持の殺菌が行われていました。
 分解・発酵の終わった原料はバイオ肥料となりますが、8mmメッシュの濾過器でプラスティック等を取り除いて、肥料タンクに溜めてタンクローリーで農家に還元されていました。このバイオ肥料は殺菌されているので雑草の種や病菌が死滅していて、臭気も少なく、農家では好評だということです。
 現在のところ、プラントは生産量100%の稼働にはいたってはいませんでしたが、将来フル生産になったら、自動車の燃料にも活用する計画だとのことでした。

おわりに

 前項で紹介したスウェーデンのバイオガス・プラントは、近代的な装置を備えた大型プラントで、設備投資も億単位になります。それで、リンショッピング市でもクリスチャンスタッド市でも、自治体が中心になって、プラントの建設・運営を行っています。
 けれども、バイオガスを造るのには、何も大型プラントに頼る必要はないわけです。
 昔は、日本の農村でも家畜のふん尿をタンクに溜めて、屋根で覆っただけの設備で、自然発生したメタンガスを煮炊きに利用していた例が多くありました。ただ自然条件を頼りに発酵・分解を行う場合には、当然のことですが、ガスの発生率は気温に左右されて、安定供給は望めないわけです。こんなことが原因で、便利になった現在では、ほとんどメタンガスの活用がみられなくなったと思われます。
 スウェーデンのバイオガス・プラントをみて感じたことですが、今日のように、化石燃料の大量消費のため、環境に対しての悪影響がはっきりしてきて、地球温暖化防止対策が求められてきていますので、昔の人が利用していたメタンガスをエネルギー源として活用する技術が、改めて見直されたら良いと思いました。

スウェーデン語の新聞切抜き:
 クリスチャンスタッド市の
 バイオガス・プラントの
 完成を報じている。
   (1997年6月20日付)

 今回の旅行では、残念ながら小型プラントをみることはできませんでしたが、たまたまスウェーデン滞在中に、オランダの養鶏場で造ったバイオガス・プラントの報告書を入手しましたので、その内容を紹介します。
 報告書の題は、「鶏ふんからバイオガスを再生して電力と熱を生産」(Biogas Recovery from Chicken Manure for Electricity and Heat Production)で、プラントの規模は日本の農村でも造れそうな大きさなので、参考になると思います。
 この養鶏場はオランダのニステルロードにあるルュカース養鶏場で、約4万5000羽の鶏を飼育しています。この鶏からでる鶏ふん、スラッジを鶏舎の後ろにある容量800kの密閉タンクにためて、ここでポンプで発酵・分解タンクに送れるように水や発酵タンクからの戻り液などを加えます。発生するガスの量は、仕込む原料の混合割合で違ってきますが、最高の発生率が得られたのは、一日の仕込み量として、鶏ふん6.1kと豚のふん尿を薄めたもの2.3k、鶏舎からのやわらかいスラッジ1.9k、戻りの発酵液2.3kを混ぜた時だったと報告されていました。
 このプラントで一年間に使ったふん量は、鶏ふん1970k、豚のふん尿742k、鶏舎からのやわらかいスラッジ614k、総計3326kで、これらの原料からバイオガス23.6〜29.5k生産しています。できたバイオガスは全量小型発電機の動力源に使用して、自家用に使った電力のあまりは電力会社に販売しています。
 このバイオガス・プラントの建設費用は43.3ダッチギルダ、日本円にして約2730万円になります。
 オランダの電気代は1kw時0.14ギルダ(約8.80円)だそうで、プラントの利益が約 480万円だそうなので、単純計算すると、設備投資額は5.9年で償却できると報告されていました。
 日本の電力会社が電力を購入する場合には1kw時11円50銭〜11円70銭なので、もし、このプラントを日本で運転して同じような成果が得られたとすると、4年半くらいで償却できることになります。
 この報告書を読んで感じたことは、バイオガス・プラントの活用は、環境保全の問題ばかりでなく、事業としても魅力があるわけではないかということです。

(筆者:酪農学園関東同窓会会長)