生産技術セミナ−

 

「個」から「群」へ、「群」から「個」へ(5)

 

原 田 英 雄

 ある意味で、日本酪農はアメリカ酪農よりも、30年遅れているかもしれません。たとえば、飼養標準よりも多くの飼料を給与すると、より多くの乳量がでることに気づいたのは、アメリカでは1950年代のことです。高泌乳時代への幕開けです。そして、規模拡大が始まったのは1960年代からです。フリーストール、ミルキングパーラーなど大規模化に向けた施設・機械・設備などが開発され、酪農家の間でも導入されはじめました。あわせて、生産効率、すなわち一人当り何頭飼養できるか、乳牛1頭当りの搾乳時間は、一人当りの売上げはいくらか、利益はどうであっらよいのかなどの考えがでてきました。また、ここでは、家族経営を離れ、雇用を導入した企業的経営の考えも生まれてきました。日本でも、最近では酪農ヘルパーを雇うよりも雇用を導入する農家が増えてきました。それもパートタイマーではなくて、正規従業員としてです。
 「新農業基本法」が近いうちに制定されます。この中で、条件付きながらも農業の株式会社化が載せられるものと思われます。そこには、農業が国際競争力に打ち勝つためにという背景があります。はたして、アメリカ酪農に追いつき、追い越すことができるのか。カロリーベースで40数%の自給率を50%以上にすることは可能か。これを乗り越えるには、自給飼料の生産拡大を行わなければなりません。その基盤が日本の将来にあるのかどうか。また、一方では環境保全を行わなければなりません。規模拡大にともなう大量のふん尿処理は全国的な課題です。その解決の糸口は一部の農家にあっても、全国のすべての農家にあてはまるものは今のところなさそうです。技術的にも、システム的にも問題は多そうです。「アクセル」を右足でおもいっきり踏みながら、「ブレーキ」を左足で踏み込む。21世紀を間近にして、そんな酪農の姿が浮かんできます。

 

24.高泌乳牛にはバイパス蛋白質が必要である

 前回、高泌乳牛に対するコンプリートフィード中の粗蛋白質(CP)含量について述べました。そして、その適正値は17%であることを。しかし、近年、乳牛に対する飼料蛋白質は量的なものだけでなく、質的なものも重要であることがわかってきました。
 乳牛が栄養素として利用する蛋白質には二つのものがあります。一つは、原生動物や細菌などの微生物由来の蛋白質です。牛は飼料から蛋白質類(尿素などの非蛋白態窒素を含む)を摂取します。これは一旦ルーメン内で微生物によって分解されます。そこからアンモニアやアミノ酸が生産されます。このアンモニアやアミノ酸は微生物によって、ルーメン内で生産されるエネルギーを利用し、微生物蛋白質を合成します。これが、第4胃以降の下部消化管で単胃動物と同じように消化され、アミノ酸として吸収され、乳牛の栄養となります。
 他の一つは、ルーメン内で微生物による分解を免れた飼料蛋白質(「ルーメンバイパス蛋白質」といわれます)です。これはルーメン内で分解されずにルーメンを素通りし、下部消化管で消化吸収されます。
 この2種類の蛋白質を乳牛は常時利用していますが、日乳量が25kg以下(4000kg/年以下)の低泌乳牛であれば、必要な蛋白質はルーメン内で生産される微生物蛋白質だけでじゅうぶん足ります。しかし、日乳量が30kgを越えるような(現在では40kgを越える乳牛も珍しくない)高泌乳牛では、それだけではじゅうぶんではありません。なぜなら、ルーメン内で微生物蛋白質として生産される蛋白質には限界があるからです。そこで、高泌乳牛に対しては蛋白質の補給として、バイパス蛋白質を与えなくてはなりません。

 

25.分解率の高い蛋白質と低い蛋白質

 ところで、飼料蛋白質は一般的に70%がルーメン内で分解されるといわれています。しかし、それは飼料の種類によって異なります。飼料中の蛋白質のうちルーメン内で分解されない蛋白質の割合、すなわち非分解率(ルーメンバイパス率)を表−16に示しました。ここには、日本飼養標準(1994年)および新得畜産試験場の分析値をもとに、便宜的に非分解率の低いもの(40%以下)、中位のもの(40〜70%)、高いもの(70%以上)の3分類を行ったものです。普段、蛋白質飼料として用いられている大豆粕の非分解率は20%前後と低いけれども、これを加熱したものでは80%以上となります。同じ牧草でもサイレージよりも乾燥の方が高くなっています。ビートパルプやビール粕などの食品製造粕では中位のものとなります。また、同じ食品製造粕でもコーングルテンミールの場合には非分解率が80%以上と高くなっています。

表―16 飼料中の蛋白質の非分解率

飼料名

非分解率

飼料名

非分解率

飼料名

非分解率

低いもの(〜40%)

中位のもの(40〜70%)

高いもの(70%〜)

大麦
ライ麦
エン麦
大豆
大豆粕
ナタネ粕
サフラワー粕
ヒマワリ粕
ラッカセイ粕
アマニ粕
綿実
フスマ
脱脂米ヌカ
ミカンジュース粕
コーングルテンフィード
トウモロコシサイレージ
アルファルファ乾草
アルファルファサイレージ
アルファルファヘイキューブ
イタリアン乾草
イタリアンサイレージ
チモシー乾草
チモシーサイレージ
オーチャード乾草
オーチャードサイレージ
スーダングラス乾草
バーミューダ乾草

27-30
20-43
16-21
26-38
15-28
23-29
24
16-24
25-30
22-35
17
15-29
34
36
25
27-31
18-28
14-23
22-30
31-45
22
27
21
27
23
31
34

大豆粕(加熱 120度)
綿実粕
ビートパルプ
ビール粕
ウイスキー粕
ヤシ粕
パーム核粕
コーンジャームミール
ジスチラースソリブル
ジスチラースグレイン
アルファルファーミール(デハイ)
トウモロコシ
グレインソルガム
醤油粕*
大豆皮*

59
43-45
45
53
44
63
66
68
47
54
59
49-65
54-61
35
44

大豆粕(加熱 140度)
コーングルテンミール
血粉
魚粉
羽毛粉
肉粉

82
55-86
77-82
48-72
71
76

(日本飼養標準・乳牛(1994年)および新得畜産試験場の成績からの抜粋)

 そこで、協定研究では引続き、これら分解率の異なる蛋白質飼料について、すなわち非分解率の低い大豆粕と高いコーングルテンミール(CGM)について、産乳性への比較試験を行いました。用いた試験飼料の配合割合と養分組成を表−17に示します。なお、試験期間は前回同様に分娩後から15週目までです。大豆粕とCGMをそれぞれの区に対して12%と8.7%配合します。その場合の養分組成はTDN、CPともに同等とし、乾物中73%および17%としました。試験飼料の中のUIP(バイパス蛋白質)は前者が36%、後者は49%となり、明らかに後者はバイパス蛋白質の高い飼料となります。
 その結果は表−17にみられるとおりです。乾物摂取量は大豆粕区の方が1kg多い21.0kgで、CGM区は20.0kgでした。しかし、乳量については両者間に統計的な違いはありませんでした。したがって、当初バイパス蛋白質の効果をねらったCGM区には、乳量増加の期待が得られませんでした。そして、乳成分への影響として、乳蛋白質率の違いもありませんでした。ただしCGM区の方が、乳脂率が0.2%ほど高かったけれども、この理由はわかりません。

表−17 大豆粕とコーングルテンミール(CGM)の比較試験

項       目

大豆粕区

CGM区

配合割合
 チモシー乾草
 ヘイキューブ
 ビートパルプ
 大麦
 大豆粕 
 コーングルテンミール
 ミネラル等
養分組成
 TDN
 C P
 UIP*
乾物摂取量
産乳性
 乳 量
 乳脂率
 乳蛋白質率
ルーメン内アンモニア
BUN**


(%)

(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)

(%)
(%)
(%)
(kg/頭)

(kg/頭)
(%)
(%)
(mg/dl)
(mg/dl)


30.00
14.50
7.20
35.00
12.00

1.50

72.80
17.20
36.00
21.00

29.80
3.47
3.16
7.40
15.90 


30.00
15.10
9.80
35.00

8.70
1.40

72.80
17.80
49.00
20.00

29.10
3.67
3.15
4.60
14.90 

(関東東海7都県畜産試験場の協定研究からの抜粋、1987)
(注)*UIPはバイパス蛋白質の略で、粗蛋白質中の非分解性蛋白質の割合を示す。
  **BUNは尿素態窒素

 図−18にその場合の乳量の経時的な変化を示しています。泌乳初期には、確かに乳量の伸びは大豆粕区に比べて、CGM区はよくありません。しかし、泌乳期が進むのにしたがって乳量は多くなりました。泌乳初期に乳量の立ちあがりが弱い理由の一つに、ルーメン内のアンモニアが少ないことがあげられます。微生物が自らの蛋白質を合成するのには、一定量のアンモニアとエネルギーが必要です。表に示されるルーメン内アンモニア態窒素濃度は4.6mg/dlです。この量では微生物活性には不足であることが考えられます。ルーメン内にどれだけのアンモニア態窒素が必要かということですが、研究者によれば5mg/dlは必要だとしています。表に示されているCGM区のアンモニア態窒素濃度は4.6mg/dlです。この値はあくまでも試験牛の平均値です。そして、その標準偏差は2.92mg/dlです。したがって、試験牛の中にはそれよりも低い牛もおれば、高い牛もいます。すなわち、1〜2mg/dlの低い牛もいるということです。このような低い牛であれば、ルーメン内の微生物合成が抑えられることがじゅうぶんに考えられます。その場合には、明らかにルーメン内のアンモニアは不足です。乳牛に対して微生物蛋白質不足です。これでは乳量はでないことになります。
 
 

図−18 大豆粕(SBM)区とコーングルテンミール(CGM)区の乳量の経時的変化の比較


 


 他の要因の一つとして、嗜好性があげられます。大豆粕の嗜好性がよいことは周知の事実です。しかし、コーングルテンミールはあまりよくありません。そのために、飼料摂取量が抑えられたことが考えられます。
 その他の要因としては、CGMから供給されるアミノ酸組成に偏りがあることも考えられます。しかし、いずれにしてもこの試験結果からいえることは、大豆粕とCGMの比較では、蛋白質分解率の高い前者が優れており、低い後者が劣っている事実です。
 協定研究では、この大豆粕とCGMの比較について、さらにCP濃度を14%と17%に変化させ、それぞれを組合わせた試験を行いました。その結果、CP濃度が14%においてもまた17%においても、ともに大豆粕の方がコーングルテンミールに比べて乳量が多いことが分かりました。この時の泌乳量の推移を図−19に示します。上述のこれらの二つの試験を通じて、蛋白質の分解率だけでは、すなわちバイパス蛋白質が多いからといって、乳量の増加につながるとは限らないことがわかります。



図−19 粗蛋白質濃度(14%と17%)と蛋白質の質(大豆粕とCGM)が異なる飼料の組合せによる乳量推移


 

 

26.飼料蛋白質を加熱変性させるとバイパス蛋白質効果が高まる

 前回の試験では、大豆粕とコーングルテンミールとではアミノ酸に違いがあることが予想されます。その場合には、蛋白質の分解率の違いだけでなく、アミノ酸組成の違いも考慮しなければなりません。
 そこで、協定研究では、飼料蛋白質の種類を同一(アミノ酸組成を同一にするのが目的)にし、蛋白質の分解率の違いと産乳性との関係を比較することにしました。この場合には大豆とそれを加熱した大豆(黄粉と同じ)を比較に用います。試験における飼料配合割合と養分組成および産乳性との関係を表−18に示しました。

表−18 大豆と加熱大豆の違いが飼料摂取量、産乳性、
   ルーメン性状ならびに血液性状に及ぼす影響

項       目

大豆区

加熱大豆区

配合割合
 ビートパルプ
 チモシー乾草
 ヘイキューブ
 トウモロコシ
 大麦
 コーンコブ
 フスマ
 糖蜜
 大豆
 加熱大豆
 ビタミン・ミネラル
 食塩
 リン酸三石灰
養分組成
 乾 物 
 TDN
 C P
 粗繊維
乾物摂取量
産乳性
 乳 量
 乳脂率
 乳蛋白質率
 粗効率
ルーメン内性状
 アンモニア態窒素
血液性状
 尿素態窒素


(%)

(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
 
(%)
(%)
(%)
(%)
(kg/頭)

(kg/頭)
(%)
(%)
(%)
(mg/dl)
(mg/dl)
 

(mg/dl) 


16.60
16.00
16.00
9.90
10.10
5.00
9.10
1.90
13.80

0.70
0.50
0.60
 

87.70
74.20
16.50
17.20
22.30
 

34.00
3.71
3.11
36.90
 

7.50
 

13.20


15.10
16.00
16.10
9.10
9.20
6.00
11.90
2.10

12.60
0.70
0.50
0.60
 

86.60
74.30
16.50
17.20
21.50
 

35.50
3.53
2.91
39.00
 

5.50
 

12.50

(関東東海7都県畜産試験場の協定研究からの抜粋、1987)

 大豆区には大豆を13.8%、加熱大豆区には加熱大豆を12.6%配合し、乾物中のTDN濃度は74%、CPは16.5%、粗繊維率は17%にそろえました。試験期間は分娩後から15週目までとしました。その結果、乾物摂取量は大豆区の方が0.8kg/頭ほど多かったけれども、乳量は加熱大豆区の方が1.5kg/頭多くでる結果となりました。乳量の経時的変化については図−20に示すように、試験期間中、加熱大豆区の方が大豆区より高く推移しました。大豆粕とコーングルテンミールの比較の場合とは異なり、加熱大豆では分娩後から試験終了時の15週までずうっと乳量が高く推移しました。乳量の多いことはそのまま飼料効率、すなわちこの場合は、粗効率になりますが、これも加熱大豆区の方が2.1%ほど良くなりました。ただし、乳脂率および乳蛋白質率は加熱大豆区よりも大豆区の方が高い値となりました。ルーメン内のアンモニア態窒素濃度や血漿中のBUNは、大豆のルーメン内での分解率を反映し、大豆区に比べて加熱大豆区の方が低くなっています。これは明らかに、加熱大豆がルーメン内で分解されにくかったこと、すなわちルーメンバイパスされたことを意味します。ルーメン内のアンモニア態窒素濃度が低いことは血漿中のBUNも低くさせます。
 
 

−20 大豆(SB)区と加熱大豆(HSB)区の乳量の経時的変化の比較


 


 したがって、この試験では蛋白質のアミノ酸組成が同一であるならば、飼料蛋白質を熱変成させることによって、ルーメン内分解率を低下させ(ルーメンバイパスを高め)、泌乳効果を高めることができると証明されました。飼料蛋白質のルーメンバイパスを考える時には、蛋白質の分解率だけでなく、アミノ酸組成までも考えなければならないことに飼料蛋白質の複雑さがあります。

27.飼料中の蛋白質が高いと繁殖成績が下がる

 多くの試験結果から、一般的に飼料蛋白質濃度を高めると乳量が増加することが明らかとなっています。しかし、高ければ高いほど良いというものではありません。飼料中の蛋白質の濃度を高めると、すなわちコンプリートフィード中の蛋白質濃度を高めると繁殖成績の低下が考えられます。表−19をみてもらいたいと思います。これは飼料中の蛋白質濃度は繁殖成績との関係をみたものです。ファーガソンという研究者が9つの試験をまとめたものです。蛋白質濃度が17〜20%程度に高くなると種付け回数が概して多くなります。しかし、分娩後の受胎するまでの期間(空胎期間)についてはあまり差はないようです。このように、蛋白質濃度を高めると繁殖成績に悪影響がでそうなことから(高くしても悪くない場合もあります)、高くても17%程度に抑えておくことが妥当だと思われます。

表−19 飼料中の蛋白質濃度が繁殖性に与える影響

研究者

粗飼料蛋白質濃度

12〜13%

15〜16%

17〜20%

受胎に要した種付け回数
 エドワード
 フォールマン
 ジョルドン
 カイム
 ピアトウスキ
 ヒューバー
 アルセット
 チャンドラー
 キャロル
 平均値
空胎期間(日)
 エドワード
 フォールマン
 ジョルドン
 ピアトウスキ
 ヒューバー
 アルセット
 チャンドラー
 キャロル
 平均値


2.3

1.5


2.1

2.4
1.5
2.0

123.0

71.0

124.0

140.0
72.0
106.0


2.6
1.8
1.9
1.8
2.0
1.9
1.5
2.1

2.0
 

141.0
96.0
98.0
82.0
107.0
82.0
130.0

105.0


2.7
2.3
2.6
2.4
2.8
1.9
1.7

1.8
2.3
 

140.0
100.0
108.0
127.0
121.0
80.0

81.0
108.0

(ファーガソン、1989年)

(注)平均値は筆者が便宜的に設けたもの、原著では蛋白質濃度15〜16%の数値を基準値 1.0として比較している。

 トウフ粕は蛋白質を多く含んでいます。それを多給すると、種付けが悪くなるということを多くの酪農家は経験的には知っています。しかし、トウフ粕の場合には蛋白質が多いということだけでなく、そこに含まれているエストロジェンというホルモンが繁殖に悪影響を及ぼしているのではないかともいわれています。しかし、その確証は今のところありません。
 このように、蛋白質飼料を多給する時に、蛋白質含量だけでなく、その飼料のもつ特性もあわせて知っておくことは大切です。

 

28.ビール粕とビートパルプの産乳性の比較

 ビール粕とかビートパルプは、愛知県内でよく用いられている食品製造副産物です。そこで、筆者はかつて蛋白質含量の異なる生ビール粕とビートパルプについて、産乳性への比較試験を行いました。蛋白質の非分解率は、表−16でみられるように、ビール粕の方が若干高い値を示しています。したがって、蛋白質含量の高いビール粕の方が、乳量は多くでるのではないかと期待して試験を行いました。
 その時のコンプリートフィード中の配合割合を表−20に示します。ビール粕、ビートパルプともに乾物中20%としました。他は乳牛用配合飼料とイタリアンライグラスサイレージだけです。両試験区ともに乾物中のTDN濃度は75%前後、粗繊維率は16〜17%でした。CP濃度はビール粕区では21%、ビートパルプ区は16%。前者は高泌乳牛のCP濃度としてはかなり高いものです。試験牛は初産牛と2産以上のものを6頭づつ用いました。そして、分娩後から13週間目まで試験を実施しました。その結果は表−21にみられるとおりです。

表−20 ビール粕またはビートパルプを用いた
  コンプリトフィードの比較試験

項    目

ビール粕区

ビートパルプ区

乾物

原物

乾物

原物

配合割合
 乳牛配合
 ビール粕
 ビールパルブ
 イタリアンライグラスサイレージ
養分組成
 TDN
 DCP
 C P
 粗繊維


(%)
(%)
(%)
(%)

(%)
(%)
(%)
(%)


50.0
20.0

30.0

74.9
13.7
21.1
16.1


22.5
31.0

46.5

28.5
5.2
8.0
6.1


50.0

20.0
30.0

76.3
10.6
16.3
17.0 


28.9

11.3
59.8

37.4
5.2
8.0
8.3

(原田、1982)

 

表−21 ビール粕又はビートパルプを用いたコンプリトフィードの比較試験

項    目

初産牛

成牛(2産以上)

ビール粕

ビートパルプ

ビール粕

ビートパルプ

頭 数
養分摂取
 乾 物
 DCP
 C P
 TDN
 乾物/体重
 DCP充足率
 TDN充足率
産乳性
 乳 量
 乳脂率
 乳蛋白質率 
繁殖成績
 空胎期間
 授精回数



(kg/頭)
(kg/頭)
(kg/頭)
(kg/頭)
(%)
(%)
(%)

(kg/頭)
(%)
(%)

(日)

17.8
2.4
3.7
13.1
2.9
176.0
106.0

25.1
3.6
3.5

121.0
1.7

17.1
1.8
2.8
12.7
2.7
131.0
105.0

24.8
3.4
3.4

64.0
1.0

18.0
2.4
3.7
13.1
2.9
167.0
103.0

27.9
3.3
3.3

90.0
2.0

18.9
1.9
2.9
14.1
3.0
127.0
107.0

29.1
3.3
3.4

93.0
3.5

(原田、1982年)

 

 乾物摂取量は初産牛では、ビール粕区の方が若干多く、2産以上の成牛ではビートパルプ区の方が多く、両者間に特定の傾向はみられません。しかし、初産牛、2産以上ともにビール粕区の方がCP摂取量が多く、DCP充足率も高いものです。乳成分では、両者
間には差はありません。初産牛では若干ビール粕区の方が乳脂率が高い傾向にありました。
 ところが、乳量については図−21にみられるように、初産牛では両者間に差はないものの、2産以上の牛ではビール粕に比べて、ビートパルプ区の方が高い推移を示しました。このことは、蛋白質濃度を高めると逆に乳量を抑制することを示唆するものです。前回お話した、CP濃度の3水準(14、17、20%)の比較試験でも20%区の乳量は17%区よりも少なかったわけですが、これとも共通しています。飼料中の蛋白質濃度が高くなると、ルーメン内のアンモニア濃度が高くなり、さらに血液中の尿素態窒素濃度も高くなります。そこで、乳牛はそれを尿として排泄するために、多大なエネルギーを用いるといいます。このために、エネルギーロスが生じ、乳量の低下につながると考えられます。 

 

図−21 コンプリートフィード中にビール粕(生)またはビートパルプを加えた産乳性への比較


 また、繁殖性についてみると、種付け回数は初産では1.7回とビートパルプ区の1回よりも多く、空胎期間も121日と長く、悪くなっています。
 この試験からいえることは、コンプリートフィード中にビール粕を乾物で20%混合することは多すぎるかもしれないということです。せいぜい15%程度に抑えることが望まれます。筆者らは、別のビール粕給与試験で生ビール粕の給与量の適正量を1日1頭当り16kgとしています。ビール粕は安価でかつ蛋白質に富み、蛋白質の供給源としてはバイパス性もあり、有益なものですが、多給を行ってはいけません。
 そこで、参考として表−22に種々の蛋白質飼料の栄養成分と1日1頭当りの最高給与量を示します。これは、コンプリートフィードとして給与するものではなありません。1頭づつトップドレス給与する場合の給与量の範囲です。しかし、一つの配合目安として役立つものと思われます。表に示された給与量を上回ると健康、繁殖あるいは乳量低下を招くかもしれません。たとえば大豆粕は2.5〜3.0kg/頭/日、綿実ならば2.0〜3.0kg/頭/日、生ビール粕は7.0〜13.0kg/頭/日程度といえます。なお、これらに共通していえることはカルシウムに比較してリンが多いことです。使用する時に注意してほしい点です。

表−22 種々の蛋白質飼料の成分と最高給与量

飼料名

乾物

CP

TDN

粗繊維

ADF

Ca

最高給与量

 

乾物%

原物(kg/頭)

44%大豆粕
48%大豆粕
全粒大豆
綿 実
42%コーングルテンミール
61%コーングルテンミール
乾燥ビール粕
乾燥コーングルテンフィード
生ビール粕
生コーングルテンフィード

89.0
89.0
89.0
92.0
91.0
91.0
91.0
91.0
24.0
44.0

49.4
53.9
42.7
25.0
45.1
67.0
26.5
23.5
27.0
24.5

81.0
83.0
92.0
92.5
84.0
86.0
67.0
82.0
67.0
82.0

6.7
4.1
5.7
19.8
5.5
4.2
16.6
8.8
16.4
7.6

8.3
5.1
7.0
24.5
6.8
5.2
20.5
10.9
20.3
9.4

0.34
0.32
0.37
0.15
0.16
0.18
0.29
0.11
0.33
0.03

0.58
0.64
0.68
0.73
0.51
0.52
0.55
0.83
0.56
0.90

2.5〜3.0 
2.5〜3.0 
2.5〜3.5*
2.0〜3.0*
1.5〜2.0 
1.5〜2.0 
3.0〜3.5 
3.5〜4.0 
7.0〜13.0*
9.0〜13.0*

(ドロッポ、1990年)

(注)*この範囲を超えた場合には、健康、乳量及び繁殖に問題が起きるかもしれない

 ところで、最近では、牛乳中の尿素態窒素を測定し、繁殖との関係を試みる研究が行われています。飼料中に蛋白質が多いとルーメン内で多量のアンモニアが発生し、これが血液中の尿素態窒素(BUN)を高めます。すると血液からBUNが乳腺に運ばれ、牛乳中にBUNが増加します。これがいわゆる牛乳尿素態窒素(MUN)といわれるものです。血液中のBUNは20mg/dlを越えると繁殖性が低下するといわれます。MUNも同様に20mg/dlを越えると繁殖性が低下することが指摘されています。なぜ、繁殖性が悪いかというといくつかの理由があげられます。それは、@生殖器内において尿素やアンモニア濃度変化が生殖細胞や胚にて悪影響を及ぼすこと、A子宮内分泌系への悪影響^肝臓において、生産された多量のアンモニアの無毒化のために多大なエネルギーが用いられること(乳量の低下を招く)などが考えられています。もちろん、MUNが低すぎても繁殖にはよくありません。12mg/dlを下回るようであれば飼料蛋白質が少ないといえます。12〜18mg/dlであれば、ほぼ適切であると考えられます。

 

29.飼料蛋白質の研究は発展途上にある

 最近、ヒューバーとサントスという研究者が、大豆粕とその代替蛋白質飼料との比較をした一連の研究例を取りまとめました。そこではルーメン内で分解率の低い血粉、ビール粕、フェザーミール、魚粉あるいはこれらの混合物などが取り扱われています。これらの試験は1985〜1994年までに発表された泌乳試験を含む97例です。この97例のうち19%の試験例では大豆粕よりも乳量が多かったとしています。しかし、73%の試験例は大豆粕と同等で、9%の試験例ではかえって大豆粕よりも乳量が少なかったとしています。そして、これらの研究目標は蛋白質栄養にあったのですが、乳蛋白質率には反映されていませんでした。なぜなら、これらのほとんどの試験において、乳蛋白質率は変化がないか減少していたからです。ただし、魚粉についての試験例のうちでは、そのうち46%までが魚粉によって乳量が増加したとしています。
 これらのことと、上述の協定研究における大豆粕とコーングルテンミールの試験結果をあわせ考えると、バイパス蛋白質の効果が今ひとつ分かりにくいことです。すなわち、UIPとDIP(分解性蛋白質)システムを成功させるためには、さらに多くの注意すべき点(アミノ酸組成を考慮すること、とくにメチオニンやリジンなど)を含んでいることを意味します。同時に蛋白質の分解率を簡易迅速に測定できる方法も確立されなければなりません。大方は、バラツキの大きい文献値を用いなければなりませんから。
 ルーメン内で生産される微生物蛋白質は、牛乳合成のためには、極めて良質のアミノ酸を多く含んでいます。そのため、ルーメン微生物の成長を最大にすることは泌乳量の増大につながるものです。それでは、ルーメン微生物の成長を最大にするにはどうしたらよいのか。これは今後の大きな課題です。

 筆者は、かつてルーメン内のアンモニア濃度を低下させるために(飼料蛋白質の供給量を減らすのではなく、微生物に有効利用させることを目的とする)、ビートバルプが有効であることを発見しました。それでは、なぜアンモニア濃度を下げる必要があるのか。それは、ルーメン内のアンモニア濃度を低下させるということは、微生物によるアンモニア利用を促進することを意味します。このアンモニアとある物質(筆者の予想ではキシランと思われます)が変化を受けて、微生物体蛋白質に転換することが期待できるからです。しかし、この研究はこの段階で中断しました。
 筆者自身、近年流行している「何でも(蛋白質、脂肪、炭水化物等)ルーメンをバイパスさせる」というやり方には反対です。ルーメン微生物を最大限利用してこそ反芻家畜の意義があるからです。
 なお、今回のまとめとして次のことに留意していただきたいと思います。
 コンプリートフィード中のCP濃度は35kg以上の高泌乳牛では乾物中17%程度であること。その場合TDN濃度は75%がよい。それ以下の乳量ではCP濃度は14〜16%を目安に。蛋白質の供給源としては大豆粕が優れている。ルーメン内の蛋白質の分解率が気になるのであれば、血液中の尿素態窒素濃度あるいは牛乳中の尿素態窒素濃度を測定すること、20mg/dlを越えるようであったら分解率の低い蛋白質飼料に置き換えること。また、10mg/dlを下回るようであれば、分解率の高い蛋白質飼料に置き換えること。もし、UIPを考えるならば、CPのうちUIPを35〜40%とすることです。(次回はコンプリートフィード給与の実際をお話します)

(筆者:愛知県立農業大学校畜産科長)