生産技術セミナー

環境保全に活躍する

   スウェーデンのバイオガス・プラント(1)

 

八 重 樫 鐡 男

はじめに

 昨年(1997)の秋、スウェーデンの友人ミスター・ブルーステンから新聞の切り抜きが送られてきました。内容説明には「自宅近くにできた、バイオガスのプラントのことだ」とあるだけでした。長年つきあった友人なので、私の興味をもちそうなことは想像がついたのでしょうが、私がスウェーデン語を読めないことを知らなかったようで、英訳もつけないで送ってくれたのでした。
 当時の私は、バイオガスという言葉くらいは聞いたことがありましたけれど、これが何で新聞記事になるのかは、想像もつきませんでした。そこで、早速バイオガス関連の資料をかき集めて調べてみました。
 そもそも、バイオ(Bio)という言葉は、生物を表す英語ですが、バイオガスを辞書で引いて調べてみましたが、どうやら新しい言葉らしく、持っていた古い辞書にはのっていませんでした。そこで集めた文献や記事を読みあさって、やっと次のような実態がわかってきました。
 
図─1 スウェーデンの略図
写真─1
リンショッピング・バイオガス・プラント、1998年8月完成
 

 バイオガスとは、有機物を微生物が、酸素のない状態下で発酵・分解するときに発生するガスで、成分の大半はメタンと炭酸ガスで少量の硫化水素とか窒素を含んでいる、いわゆる昔からいわれているメタンガスのことでした。このガスは可燃性の良質のガスで、燃焼時には、ほぼ都市ガスと同じくらいのカロリーをだすこともわかりました。また、ガスを発生するのに使う原料には、畜産農家からのふん尿と家庭からのゴミ等、有機物なら何でも活用できて、しかも発酵・分解の終わった原料には、豊富な肥料分を含んでいて、しかも病原菌や寄生虫、雑草の種等もなく、悪臭もほとんどなく、良質の液肥になるとのことで、近年、ヨーロッパの国々で、エネルギー問題解決の一助としてとか、環境保全の観点から見直されて、盛んにバイオガス・プラントの建設が進んでいることもわかりました。
 だいぶバイオガスの基礎知識を得た頃、友人ブルーステン氏からたのんでおいた新聞記事の英訳と新しい情報がとどきました。それによると、スウェーデンではここ数年、主として環境問題解決の観点から、大型のバイオガス・プラントが建設されて、ある都市では、バイオガスをガソリンのような化石燃料のかわりにバスやタクシーの燃料につかいはじめて、排気ガスや騒音対策に効果をあげているとの情報でした。
 この報を得た時点で、私は、実情を自分の目で確かめたくなったことから、今年の2月にスウェーデンのバイオガス調査旅行を決心した次第です。
 短期間の旅行でしたが、バイオガスに関しての詳しい資料が入手できただけでなく、スウェーデンの人達の環境保全に対する考え方やエネルギー問題に対する施策等、多くのことを学ぶことができましたので、小旅行記にまとめてみました。


1.リンショッピング市のバイオガス・プラント

 スウェーデンは北ヨーロッパの一国で、酪農国で有名なデンマークの隣にあります(図−1)。デンマークの首都コペンハーゲンからスウェーデンの南部の都市マルモまでは、高速フェリーで30分くらいの距離です。現在、この狭い海峡をつなぐ、明石海峡大橋みたいな橋を建設中でスウェーデンも近々ヨーロッパ大陸と陸路でつながるとのことでした。
 国土面積は、日本の約1.2倍ありますが、人口は僅か870万人なので、東京都の人口よりも少なく、大半の人は首都ストックホルムの南寄りに住んでいます。国土の北寄り1/5くらいは北極圏に属するほど、緯度の高いところに位置していて、たくさんの湖と森に覆われた美しい国です。農地は国土の8%弱しかありません。
 このような国なので、人口一億以上の日本の現状と比べると、非常に恵まれていて、環境問題が起こるのが不思議なくらいですが、人々の環境に対する意識は高く、排気ガス対策、騒音対策、ゴミ処理対策等に対して、政府・国民一体となって、問題解決に取組んでいる様子がうかがえました。
 これから紹介するリンショッピング市のバイオガス・プラント建設は、その一例です。首都ストックホルムから南に200kmのところに、人口約13万人のリンショッピングという小都市があります。この街には、日本の自衛隊の戦闘機の候補にあがったこともある優秀な迎撃用ジット戦闘機やターボエンジン装備の乗用車の製造で有名なSAABがあります。
 この街の郊外に昨年(1997年)8月に近代的な大型バイオガス・プラントが建設されました(写真−1)。友人ブルーステン氏に約束をとっておいてもらってプラントを訪問すると、プラント建設のプロジェクト・マネージャーのヨーラン・ダーマン氏がプラントの概要と建設決定にいたった経過を説明してくれました。
 このバイオガス・プラント建設決定の原動力となったのは、市民からの声が発端だったとのことでした。市街地には約7万人が住んでいますが、この人達から「市内の排気ガスによる大気汚染や騒音・煤煙を減らしてほしい」という要望がだされたために、官民一体のリンショッピング・クリーンエアー・プロジェクトが結成されたそうです。
 ダーマン氏の話によると、先頃、日本の自動車メーカーの人が見学に来たとき、この話をしたら「こんなにきれいな空気の街にクリーンエアー・プロジェクトが必要だったんですか?」と聞かれたと笑っていました。なるほど、私がみてもまったく同感なほど、街の空気はきれいでした。
 プロジェクトには各分野の専門家、大学からの学者、自動車メーカーからの技術者、屠畜場廃棄物処理の専門家、農民代表等が参画していろいろな角度から検討が行われたようです。まず解決しなければならない問題は、市内を走行している約80台のバスの燃料をガソリンからバイオガスに切り替えられるかということでした。プラントで造るバイオガスは普通のメタンガスで、成分はメタンが約65%、二酸化炭素と微量の他のガス約35%のガスですが、このようなガスはコンロで燃やして煮炊に使うのには非常に適していますが、自動車の燃料としては使えません。このためプラントの工程にガス純化装置を入れてメタンの含有量を少なくても95%以上にして、ガス圧力を200〜250気圧にあげることをきめたそうです。また安全面では、バスの燃料タンクをカーボンファイバー製にして、 600気圧の耐圧力性をもつものにして、バスの屋根のうえに装着すること、燃料タンクにガスを満杯にしたときの走行距離を300〜 400kmにすること等、あらゆることが事前に検討されたようです。
 プラントの建設は1996年の3月に開始されて、その年の12月に完成して試運転が行われた後に、1997年の8月に受け渡しが行われました。総工費は8000万スウェーデンクローネ、日本円に換算すると約14億円です。

(1)プラントの概要と製造工程

 このプラントでバイオガスを発生させる方法は、昔から日本の農村でも中国でも東南アジアの国々でも行われていた方法と基本的には同じで、決して先端技術ではありません。けれども、最新式のこのプラントでは最終的に、バス40〜60台と乗用車500台分の燃料を生産しなければならないので、いろいろな工夫が採用されています(図−2・3)。たとえば、悪臭の公害を防ぐために、全工程を完全密閉式にして、プラント内の空気はバイオ・フィルターを通して放出するとか、運転をコンピュータで集中管理して、一年中ほとんど無人で運転可能にしたこと等です。
 プラントの心臓部は、もちろん分解・発酵タンクで、マネージャーの説明によるとエナメルタンクといっていましたが、これはどうやらホーロー引き内装のタンクらしいのですが、直径10m以上あるような、巨大な美しいタンクが二基建っていました。タンクの容量は3700m3でコストは5300万スウェーデンクローネ、日本円で約九億円ということで、建設費の半分以上をしめています。
 この巨大なタンクに、原料の有機物をつぎつぎとポンプで送り込んで、大量のバイオガスを製造しているのです。このプラントで使用している原料は、病死した家畜専門の屠畜場から送られてくる家畜丸ごとを粉砕したものが年間1万6000t、近くの食肉加工場から地下に埋められたパイプで送られてくる。家畜の血とか内蔵等の廃棄物と工場排水の混ざったものが年1万3000tと近郊酪農家からタンクローリーで運び込む家畜のふん尿が年間2万5000tです。病死家畜の屠畜廃棄物は、以前は危険物扱に属する廃棄物で、おそらく費用をかけて焼却していたやっかい物だったらしいのですが、プラントが稼働してからは、安全にしかも有効に処理できるようになってよかったとのことです。この原料は発酵タンクに送り込む前に、3気圧下で摂氏133℃、20分保持の加圧滅菌をしております。他の原料の工場廃棄物とかふん尿は摂氏70℃で一時間保持して殺菌した後に発酵タンクに送り込んでいます。このような滅菌・殺菌処理を行うのは、新しく造られるバイオガス発生装置に備えられるよい一例といえるかも知れません。
 滅菌・殺菌の終わった、二系統の原料は一系統にまとめられて、発酵タンクにポンプで送り込まれて攪拌しながら、摂氏37℃で25日間分解・発酵を続けて、大量のバイオガスを発生させるのです(写真−2)。発生したガスは、その後、低圧コンプレッサーで4気圧に圧縮されて約4km離れたところにあるバスの夜間駐車場に、地下埋蔵のパイプで圧送されます(写真−3・4)。
 前に述べたように、このプラントで生産されたバイオガスは、全量自動車の燃料になります。このために、ガス純化装置をとおしてメタンの含有量を最低でも95%以上に純化して、高圧コンプレッサーでガス圧を200〜250 気圧に圧縮して、最終的に自動車の燃料になります。
 このバス夜間駐車場には、45台のバスに同時にガスチャージできる低速ガス充填装置が備えられていて、ガスは夜間にゆっくりとタンクにつめられます。約5分で満タンにすることのできる高速ガス充填装置も一基ありましたが、この型の装置は、将来、市内にバイオガス販売スタンドを造る時に利用するとのことでした。

 

図─2 リンショッピング・バイオガス・プラントの製造行程略図

 

図─3 製造行程フローダイヤグラム

 

(2)バイオガスの利点

 プラントが実用・稼働してから一年にも満たない実績しかありませんが、すでにさまざまの利点が確認されていました。
 当然のことですが、輸入に頼っていた化石燃料のガソリンを使わないので、外貨を節約できることがあげられますが、それよりも、当初の目的だった市街地のクリーンエアー化が達成されたことです。一台のバスだけで、年間排気ガスの中から1.2tの窒素酸化物と90t の二酸化炭素を減らすことができて、騒音も非常に低くなったとのことです。農場に還元されるバイオ肥料は、家畜のふん尿に付加価値を与えて有効利用の道が開けたことがあげられますが、次のようなさまざまな利点も確認されています。

@ 滅菌・殺菌されている安全な有機肥料を土壌に還元できるようになった。

A 悪臭がなく、取扱いが楽になって、環境に対する悪影響も減らせた。

B 土壌細菌の活性化がはかられた。

C 危険物として処理していた屠場廃棄物を安全に処理することができるようになって、しかもこれが肥効分の高い有機肥料になった。

 次回は、スウェーデン・クリスチャンスタッド市のバイオガス・プラントについて述べたいと思います。

 

写真─2 分解・発酵タンク(3700m3)と脱臭用の   

     バイオ・フィルター(314m3) 

写真─3 バイオガスを圧送(4気圧)する地下のパイプ   

    と加工場からの排水を送る地下のパイプライン 

写真─4 夜間駐車場でバイオガス燃料をゆっくりと   

     チャージする

 
 

(筆者:酪農学園関東同窓会会長)

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