生産技術セミナー
 

「個」から「群」へ、「群」から「個」へ(4)

 

原 田 英 雄

 

 ここに忘れることのできない一冊の本があります。それは「明治の文化」。歴史家色川大吉さんによって1970年に書かれたものです。卒業を間近に控えた筆者はその中の一章に大きな衝撃を受けました。「放浪の求道者」千葉卓三郎について書かれたところです。明治の初期、武蔵国の一山村で、現在の「日本国憲法」に照らしてみても決して劣らない、日本最初の憲法草案(後に「五日市憲法草案」として世に知られます)がつくられていた事実です。そこには、「国民の基本的人権はいかなる国家といえども、これを遵守しなければならない」、「地方自治を尊重しなければならない」、「行政府は時々悪いことをするかもしれないから国会はこれを監視しなければならない」、「死刑は廃止すべし」、「戸主が女性の場合参政権を与えるべし」などというようなことが謳われています。仮に、今の時代にあてはめても、決しておかしくはありません。中には今よりも進んだところもあります。それが、今から約120年前に創られていた事実です。この憲法草案がいかに先見性に優れたものであるのかがわかります。驚くべきは、千葉卓三郎というまったく無名の青年によって書かれたことです。植木枝盛らといったエリートたちによって書かれたものではないこと。もし、この憲法草案がそのまま歴史の舞台に躍り上がることがあったとすれば、それ以降の侵略戦争を引き起こさずにすんだかもしれないし、アメリカからの押し付け民主主義を受け入れなくてすんだかもしれません。
 なぜ、ここにこのようなことを述べたかといいますと、残念でならない事実があるからです。今から、40年も昔、私の記憶では1950年代になりますが、多くの農家では「ドブ飼い」というコンプリートフィード(今流では「TMR」という言い方がナウイとなります)を乳牛や役牛に与えていたという事実です。
 稲ワラを押し切りで刻み、それを桶に入れ、その上にフスマと若干の配合飼料を加え、水を入れてよく掻き混ぜ、牛に与える給餌技術です。日本全国でそうであっかどうかはわかりませんが、少なくとも私の住んでいる愛知県安城市周辺ではそのようにやっていました。決して、アメリカやヨーロッパなどから導入した新技術といった類のものではありません。農民みずからが合理的だと考え、知恵を絞ったやり方です。ただ、「コンプリートフィード給与」といった技術名はなかったことです。俗称「ドブ飼い」。もし仮にその当時、このやり方に対して目が向けられ、科学的メスが加えられ、発展させられたならば、それは世界に誇ることのできる日本の酪農技術の一つとなったといえます。そうではなく、逆に欧米から新技術として導入されたかのような錯覚が酪農家の中に広がったことが、日本の酪農技術の悲劇であることです。ある意味では我々酪農技術者が怠慢であったことであり、反省させられるべきでしょう。
 ここでは、コンプリートフィードの基本に返り、その考えを整理して話を進めたいと思います。
 


20.コンプリートフィード給与技術の開発研究の背景

 日本におけるコンプリートフィード給与技術の開発は、愛知県農業総合試験場畜産研究所、栃木県酪農試験場、山梨県酪農試験場、群馬県畜産試験場、千葉県酪農試験場、東京都畜産試験場、長野県畜産試験場の7試験場の協定研究によって、1978年秋から着手されました。
 正確にいえば、筆者が勤務していた愛知県畜産研究所が同研究に参加したのは1980年からです。同成果には「乳牛の自由採食飼養法に関する試験成績書」(1982年)および「高泌乳牛飼料給与技術の体系化に関する試験成績書」(1987年)に詳細にまとめられています。今読んでもその内容の意義の深さは、決して色あせてはいません。関心のある人には是非読んでいただきたい2冊です。ここでは、その成果の一部を引用しながら、コンプリートフィードの基本を考えていきたいと思います。
 それでは、なぜその時期にコンプリートフィードの自由採食法の開発に取組んだのか。それには時代的な背景があったからです。実は、筆者は1976年、東京で行われるある会議に向かう途中、新幹線の中ででたばかりの「畜産の研究(19769号)」に目をとおしながら大きなショックを覚えました。それは、日本の研究者がアメリカのある研究者と座談している中で、アメリカの乳量水準は8000kgが普通だという記事です。当時、筆者は県内の高泌乳牛の農家を調査していましたが、最も高い水準でも7000kgに達していない状況でした。それが、それよりも1000kg以上も多いのが普通だというのですから驚きました。現在では県平均でもようやく7500kgに達しました。
 この記事はやがて、日本の酪農技術者や酪農家に大きなセンセーションを巻き起こすことになりました。そして、高泌乳牛の時代へと向かっていきます。それは同時に、アメリカ酪農は日本よりも優位だ、酪農技術もすばらしいものだ、アメリカを真似なければ、というふうにアメリカ一辺倒(こういう連中のことをアメションとよぶ表現があるそうです)の時代になっていきます。用語までカタカナ用語。チャレンジフィーディング、リードフィーディング、カーフハッチ、バイパス蛋白質、ボディコンディション。最近ではクローズアップ、イオンバランスなどカタカナ用語が酪農技術を支配するようになっています。それはまたアメリカ酪農情報をバラまく「情報屋」が大手を振る時代への契機ともなったわけです。「情報屋」がバラまく技術は当然、アメリカの穀類であり、品質の良いとするアメリカ乾草(アルファルファ乾草)であり、日本的な飼料(オカラ、牧草サイレージ、稲ワラ、在来野草)では高泌乳牛には向かないというものです。しかし、実際にはそうでないやり方で、1万kgの搾乳をやっていたり、アメリカ酪農に背を向けて独自の日本的酪農で頑張っている酪農家も数多くいるのも事実です。残念ながら、現在そういった酪農家は評価されてはいません。このことについてはまた、別の機会に述べたいと思います。


21.混合給与は分離給与よりも優れている

 試験の主眼はあくまでも乳牛に対して1kgでも多くの乾物を摂取させ、1kgでも多くの乳量をださせることにあります。一連の試験の底流にはこの精神が貫いています。
 協定研究では第一段階として、混合飼料(コンプリートフィード)を調整する場合に、まずその栄養濃度はどの程度がよいかということから始めました。そのために採った最初の方法は、配合飼料を制限給与し、その後に乾牧草を自由採食させる。そして得られた結果をもとに、コンプリートフィードの栄養濃度を決定するというものでした。これが第一期試験です。
 表−13を見ていただきたいと思います。この試験結果の一部が表に示してあります。高能力牛の泌乳前期の欄をみてください。濃厚飼料を制限給与し、その後に乾牧草を自由採食させます。すると、濃厚飼料(配合飼料)を13.6kg/頭、乾牧草を9.2kg/頭、乾物全体で20.0kg/頭摂取しました。そして、その結果、25kg/頭の乳量がでました。そして、その場合の乾物中におけるTDN濃度は68.8%となります。このことから、高能力牛の泌乳前期のコンプリートフィード中のTDN濃度は68%としました。
 同様に、低能力牛においても濃厚飼料を制限給与し、乾牧草を自由採食させると、乾物を16.6kg/頭摂取し、乳量は16.1kg/頭をだしました。その場合のTDN濃度は66.2%となりました。しかし、低能力牛の泌乳前期にとってはTDN濃度66.2%はあまりにも高すぎるとされ、その条件で給与すると過肥牛になる可能性も考えられた。結局、TDN濃度を57%にしました。
 そこで第二段階として、一期試験で決定されたTDN濃度のコンプリートフィードを高能力牛と低能力牛の泌乳前期にそれぞれ給与しました。これが二期試験です。その結果は、表−13の混合給与の欄に示しました。すなわち、高能力牛の泌乳前期にTDN濃度69.2%のコンプリートフィードを与えると、乾物は 2.6kg/頭ほど分離給与に比べて多く摂取し、乳量も1.8kg/頭ほど増加しました。同様に、低能力牛にTDN濃度59.4%のものを与えると、飼料中のTDN濃度は低いにもかかわらず、分離給与に比べ、乾物を3.1kg/頭ほど多く摂取し、乳量は2.3kg/頭多くでました。
 以上の二回の試験から、分離給与よりも混合給与の方が、乳牛は飼料を多く摂取し、乳量も多く、優れていることが明らかとなりました。
 しかし、ここで乳量が意外に伸びなかったことが問題となりました。これではTDN濃度は低すぎるのではないかと。そこで、さらにTDN濃度の高いコンプリートフィードの試験に取組むことになります。これが、三期試験です。


22.コンプリートフィードのTDN濃度は75%が最適

 三期試験では、とくに泌乳の前期に力を入れ試験を行いました。コンプリートフィード中のTDN濃度を二次試験の68%とそれよりも7%高い75%の2区を設定しました。また、蛋白質の供給源としては、性質の異なるアルファルファ・ヘイキューブと大豆粕の2種類を比較設定しました。
 表−14を見ていただきたいと思います。飼料構成はいたって簡単にできています。ヘイキューブ、稲ワラ、ビートパルプ、大豆粕、それと市販配合飼料(TDN濃度が75%と63%のもの)を組み合わせただけです。その組み合わせによって、TDN75%・ヘイキューブ区、TDN75%・大豆粕区、TDN68%・ヘイキューブ区、TDN68%・大豆粕区の4試験区をつくりました。毎日、飼料を給与する前に、それぞれの試験区の飼料を水で加水し、よく攪拌してコンプリートフィードをつくりあげます。いわゆる「ドブ飼い」と同じものです。
 その結果を図−16に示しました。乾物摂取量は、TDN75%区と68%区は両者ともに約22kg/頭でほとんど差はありません。しかし、乳量については75%区が33.3kg/頭で、68%区は31.3kg/頭、前者の方が明らかに多くなっています。これは、前者の方がエネルギーをすなわちTDNを多く摂取したためで、後者の方が少なかったためです。乳牛には乾物摂取量に限界があるので、多く食べさせようとするならば、エネルギー濃度の高いものを与えなければならないということです。
 なお、ヘイキューブ区と大豆粕区を比較すると、大豆粕の方が乾物摂取量も乳量も多くなっています。大豆粕に比べてヘイキューブの方がその蛋白質の性格からいって、本来ルーメン内でバイパスする蛋白質の量が多く、その産乳効果が大きいはずです。しかし、ここではそうではなく、飼料蛋白質としては分解性の高い大豆粕の方が乾物摂取量も乳量も多く、優れた結果となっています。その理由はヘイキューブに比べ、大豆粕の方が嗜好性が優れているためだと思われ、このことが飼料摂取量や乳量の増加につながったと解釈されます。バイパス蛋白質の話は後にしたいと思います。なお、「日本飼養標準(乳牛)」(中央畜産会、1994年)に、高泌乳時の給与飼料中のエネルギー濃度の目安としてTDN濃度が75%と記されていますが、このような成果が根拠になっています。
 以上の3試験によって、分離給与よりも混合給与の方が優れていること、泌乳前期のコンプリートフィードの中の適切なエネルギー濃度は乾物中TDNが75%であること、蛋白質飼料として給与するにはヘイキューブよりも大豆粕の方が優れていることの3点が明らかとなりました。具体的にいえば、高能力牛の泌乳前期に大豆粕を含んだTDN75%のコンプリートフィードを与えることです。そうすると、高泌乳が得られることになります。
 ところで、ここで注意しなければいけないことはコンプリートフィードのTDN濃度を75%までに高める場合、粗繊維率が低下しやすいということです。試験では表−14にみられるように、15%台まで低下(13%を下回るようであれば牛の生理に問題を起こします)しています。そのことは、ルーメン内の酢酸/プロピオン酸比にも影響し、個体によっては酢酸が60%を割るようなものもでてきます。この場合には潜在的なルーメンアシドーシスや低乳脂率を起こします。この試験では、TDN濃度75%の区では酢酸のモル比率は60%を上回り、その影響は少ないといえます。しかし、TDN濃度68%のものに比べてやはり酢酸/プロピオン酸比は低いものと言わなければなりません。そして、このことは体重変化にも影響し、75%区の方が体重増加が大きくなっています。なお、TDN75%・ヘイキューブ区で乳脂率が3.1%台となっていますが、これは遺伝的に乳脂率の低い個体が入っているためと思われます。
 なお、愛知県内では60%の酪農家(コンプリートフィーダーの販売台数で推定できる)がコンプリートフィードを給与していますが、その飼料構成は表−14にほとんど近いものです。すなわち、濃厚飼料と輸入乾草のスーダン乾草、ヘイキューブ、ビートパルプなどに水を加えて、それを乳牛に給与する(写真−1)というきわめて簡単なものです。自給飼料のサイレージを用いたコンプリートフィードを与えている酪農家を探すのは、老人が針に糸を通すぐらいきわめて困難です。ある研究者を本県に招いて、その現場をみてもらった時、その表情は驚きに満ちたものでした。それが、愛知の特色です。
 
表─13 分離給与と混合給与の泌乳前期における飼料摂取量および乳量の比較(一期および二期試験)
項 目
高能力牛
低能力牛
分離給与
(一期試験)
混合給与
(二期試験)
分離給与
(一期試験)
混合給与
(二期試験)
原物摂取量(風乾物)
 濃厚飼料(kg/頭)
 乾牧草 (kg/頭)
乾物摂取量(kg/頭)
 DCP摂取量(kg/頭)
 TDN摂取量(kg/頭)
 乾物/体重(%)
 TDN充足率(%)
 TDN濃度(%)
 粗繊維(%)
 乳 量(kg/頭)
 
13.6 
9.2 
20.0 
2.0 
13.8 
3.21
113   
68.8 
18.8 
25.5 
 
14.2*  
10.3***
22.6   
2.4   
15.7   
3.66  
120     
69.2   
18.6   
27.3   
 
9.6 
9.3 
16.6 
1.5 
10.4 
2.81
117   
66.2 
21.6 
16.1 
 
7.2** 
14.4***
19.7   
1.9   
11.7   
3.42  
118     
59.4   
25.2   
18.4   
(関東東海7都県畜産試験場の協定研究からの抜粋、1982

(注)*   TDN70%の配合飼料とピートパルプの合計
   **  TDN60%の配合飼料
   *** 稲ワラのアルファルファ・ヘイキューブ

 

 

表─14 高能力牛の泌乳前期における供試飼料の混合割合(風乾物比)と養分濃度、乾物摂取量、産乳性および第一胃液性状との関係(三期試験)
TDN濃度
蛋白質の種類

飼料名

75%
68%
ヘイキューブ区
大豆粕区
ヘイキューブ区
大豆粕区
混合割合(風乾物)
 ヘイキューブ (%)
 稲ワラ    (%)
 ビートパルプ (%)
 大豆粕    (%)
 配合75    (%)
 配合63    (%)
養分濃度(乾物)
 TDN    (%)
 DCP    (%)
 CP*    (%)
 粗繊維    (%)
養分摂取量
 乾物     (kg/頭)
 TDN充足率 (%)
 DCP充足率 (%)
 体重変化   (kg/日)
産乳性
 乳量     (kg/頭)
 乳脂率    (%)
 無脂乳固形分率(%)
第一胃液性状
 酢酸     (mol%)
 プロピオン酸 (mol%)
 酪酸     (mol%)
 
22
7
15
0
56
0
 
74.7
10.1
15.5
15.8
 
21.6
116
125
0.66
 
32.4
3.18
8.5
 
65.1
21.8
10.5
 
8
15
15
12
50
0
 
75.5
12.8
19.7
15.5
 
23.6
120
162
0.58
 
34.4
3.46
8.54
 
62.8
23.2
11.3
 
21
17
17
0
0
55
 
67.7
8.9
13.7
19.4
 
22.7
113
122
0.02
 
29.3
3.7
8.68
 
68
19
10.8
 
11
4
4
11
0
60
 
67.8
12.1
18.6
17.8
 
22.9
107
154
0.4
 
33.3
3.36
8.61
 
67.2
19.2
11.2
(関東東海7都県畜産試験場の協定研究からの抜粋、1982
(注)*CPはDCPに0.65を係数として換算したもの
 
写真─1
スーダン乾草を主体としたコンプリートフィード。その他濃厚飼料と水を加え、単純化して給与している
 
図─16 TDN濃度と蛋白質の種類との組み合わせによる飼料摂取量・乳量の比較

23.コンプリートフィードの粗蛋白質含量は17%が最適

 上記3回の試験で、コンプリートフィード中のエネルギー濃度はどの程度が良いか分かりましたが、粗蛋白質についてはわかりません。ヘイキューブよりも大豆粕がよいというだけ。ところで、従来蛋白質の評価はDCP(可消化粗蛋白質)という概念で行ってきました。しかし、その評価には問題があります。たとえば、尿素などを乳牛に給与すると、牛はルーメン内で微生物が尿素を利用するので、消化試験を行うと過小評価することになります。また、稲ワラなどの蛋白質はほとんど利用されないので、それは過大評価となります。そのために、CP(粗蛋白質)という概念の方が便利ではないかということで、最近ではCP評価が主になりました。実際、乳牛の飼料計算を行うと、DCP充足率が 100%を下回ることはめったにありません。たいてい120%から150%前後になります。むしろ、充足しているにもかかわらず、少ないといった場面に直面します。  そこで、ここで取りあげる試験は、コンプリートフィードの中のCPは何%にしたら乳牛にとって適切であるかということで行ったものです。なお、この試験は筆者にとっては忘れられないものでした。各試験場が一様に低乳脂率を予期せずに発生させたからです。あたかも低乳脂を起こさせるような試験に取組んだかのような。しかし、このことは、試験設計に当って、全く予期しなかった事実です。  まず、表−15をみていただきたいと思います。CP水準を20%、17%および14%の3水準に設定しました。試験牛は5000kg以上の泌乳が期待されるものを用い、分娩後から15週間にわたって試験を行いました。その飼料構成は表のとおりです。粗飼料はヘイキューブだけ。CP水準は大豆粕で調整しました。それぞれの区の養分濃度は、TDNは乾物中72%、粗繊維率は17%と統一しました。そして、CP水準に応じてCP含量を201714%としました。給与に当っては前回と異なり、加水は行わず、風乾物のまま給与しました。試験飼料は同一工場で製造したものです。  その結果は表−15のとおりとなります。乾物摂取量はCP水準20%区が多く、次いで14%区、17%区となりました。また、いずれの区もTDN、CPは充足しました。体重については過去3回の試験とは異なり、分娩後の増加はそれほど大きくはありません。1日当り、0.10.25kgの範囲です。一方、乳量は表−17にみられるようにCP17%区が33.8kg14%区は30.0kg20%区は28.7kgで、17%が最も多いものとなりました。しかし、乳脂率、乳蛋白質率はよい成績とはいえず、全体としてのエネルギー出力のSCM(固形分補正乳)量も20%区の方が優れたものとなっています。ただし、飼料に対する泌乳効率、すなわち粗効率(注)は17%区が最も優れていました。そのことの裏付けとして、体重の増加が低かったことです。分娩後から15週までに17%区ではたったの16kgしか体重が回復していません。摂取した飼料が牛乳に効率良く転換したものといえます。  ここでは、とくに乳量の多い点と飼料効率の良さを認め、高能力牛の泌乳前期のコンプリートフィード中のCP含量は17%が優れているとしました。「日本飼料標準(乳牛)」(中央畜産会、1994年)において、高泌乳時の乾物中のCP含量の推奨値は17%としていますが、それもここからの由来です。なお、この試験からはCP含量の増加は、ルーメン内のアンモニア態窒素濃度を高め、さらにそれを反映し血中の尿素態窒素濃度も高めることが明らかとなっています。ただし、血中のグルコースへは影響していません。また、飼料中のCP含量を高めても、牛乳中の蛋白質含量を高めることができないこともかわりました。  筆者は、この協定研究の結果から飼料中の蛋白質以外の多くのことを学びました。それは、粗繊維率が17%であっても(従来乾物中に17%あればじゅうぶんだとされてきたし、前回の試験でも15%台でもそれほど乳脂率は低下しなかった)、乳脂率が低下することもあること。すなわち、粗繊維の形態が本試験で用いたヘイキューブのように短いものだけだと、粗繊維が17%あっても乳脂率は低下することです。  繊維が短いためにルーメン内でその物理的機能が失われ、ルーメンの働きが低下する。その結果、唾液の分泌が減少し、ルーメン内のpHが低下したのではないかということです。そして、表に見られるように酢酸のモル比が60%を下回り、また、酢酸/プロピオン酸比は2.5以下に低下するという事態になったことです。このことが結局、乳脂率を3%以下に追いやったことになります。このような状態においては飼料効率が極めて良いこと(粗効率が35%以上になる)にもなります。なぜなら、乳生産のためにはプロピオン酸がある程度多い方がよいからです。ここで得た試験の副産物は、その後の炭水化物の試験に引き継がれることになります。(この項次号につづく) (注)粗効率…摂取した飼料エネルギーが牛乳エネルギーとして出力した場合の転換効率。一般的に「ブローディーの粗効率」が用いられる。粗効率が高いほど、飼料は効率よく牛乳になる。

表─15 コンプリートフィード中の粗蛋白質水準とその飼料構成、養分濃度、飼料摂取量、第一胃液性状、血液性状および産乳性との関係
項 目
CP20
CP17
CP14
飼料構成
 トウモロコシ(%)
 タロー   (%)
 大豆粕   (%)
 糖 蜜   (%)
 アマニ粕  (%)
 脱脂米糠  (%)
 ヘイキューブ(%)
 ビートパルプ(%)
 リン酸二石灰(%)
 ビタミン  (%)
 食 塩   (%)
養分濃度
 TDN   (%)
 C P   (%)
 DCP   (%)
 粗繊維   (%)
飼料摂取量
 乾 物   (kg/頭)
 TDN充足率(%)
 C P充足率(%)
体重変化   (kg/日)
第一胃液性状
 酢 酸   (mol%)
 プロピオン酸(mol%)
 酪 酸   (mol%)
 アンモニア態窒素(mgdl
血液性状
 グルコース (mgdl
 尿素態窒素 (mgdl
産乳性
 乳量    (kg/頭)
 乳脂率   (%)
 乳蛋白質率 (%)
 SCM量  (kg/頭)
 粗効率   (%)
 
13
0.4
11.5
0.9
1.6
5
41
25.3
0.4
0.2
0.5
 
72
20
15.7
17
 
20
105
149
0.29
 
60.7
23.7
12.4
4.2
 
65.9
17.8
 
28.7
2.95
2.99
27.3
35.5
 
18.8
0.2
5
1
0.9
5
40.6
27.2
0.4
0.2
0.5
 
72
17
12.8
17
 
18.6
100
118
0.19
 
58.7
26.4
11.6
2.3
 
66.2
13.9
 
33.8
2.59
2.91
26.7
37.4
 
21.5
0.1
0.1
3
0.1
4.4
39.5
30
0.4
0.2
0.5
 
72
14.4
10.2
17
 
19.5
110
113
0.23
 
58.9
26.5
11
1.2
 
66.1
9.8
 
30
2.92
3.07
25.4
33.3
(関東東海7都県畜産試験場の協定研究からの抜粋、1982
 
図─17 粗蛋白質水準と乳量および粗効率との関係
 

(筆者:愛知県立農業大学校畜産科長)

生産技術セミナー【総目次】