おらが故郷の経営自慢

 

『匠の技』をめざして

 

蔵 原 直 治

 

はじめに

大分県のフリーストール・ミルキングパーラーシステムの普及率は、全国的にも高く全飼養戸数の14%を越えています。
 今回紹介します大石牧場のある杵築市は、大分県酪農協の日出支所管内にあり、その酪農家戸数は60戸(県全体の約16%)、飼養頭数3060頭(県全体の約17%)で、県内でも指折りの酪農地帯となっています。
 大石さんとの出会いは、ついこの前のことです。平成9年度に本会で作成しました大分のフリーストール・パーラーシステム優良事例集の取材で、今年の始めにお邪魔したときからです。
 その時に、酪農に対する本人の考え方、また、指導者に対する厳しい意見もいただきました。
 とくに牛への思いといいますか、牛のことを熱心に勉強され、餌については、深く勉強・研究されており、酪農経営の理想を追求し実践されている姿に『匠の技』を感じました。
 この牧場は、労働力が夫婦2人で、子供さん3人は大学生です。
 なんと夫婦2人で、年商8000万円を越える売上のある牧場としても、是非紹介したいと思います。

 

写真─1

メカに大変強い大石秀男さんと奥さん

写真─2

95頭分/日の飼料調整が1回でできるTMRミキサー

 


これまでの大石牧場

 大石牧場は、昭和35年にお父さんが2頭の牛を導入したのが酪農の始まりです。
 本人が酪農に参加したのは、昭和42年で、19歳の時だったそうです。当時は、乳牛10頭と水田の複合経営で、合い間をみては、副業として、ダンプの運転手もやっていたとのことでした。
 昭和49年、国の補助事業(稲作転換事業)により、30頭牛舎(当時よりフリーバーン牛舎でパイプライン方式)を建設したのが酪農専業経営としての新たなスタートでした。
 その後、昭和51年にトラクター・コーンハーベスター、サイロ(250m3・5基)を導入・設置して通年サイレージ体系を確立し、年間の産乳量が250t、1頭当り平均8300kgの産乳量を確保し、この年(生産調整以前)には、大分県酪農協より生乳多量出荷農家の表彰も受けておられます。
 さらに、昭和62年には、苦労のすえ自力で牛舎を改造し、60頭へと規模の拡大をはかるとともに、定置式ミキサー(4m3)の導入や、ロータリー式発酵堆肥舎の建設も併せて行ったことで、「現在のフリーストール・ミルキングパーラー方式の基礎ができた」と当時を振り返っておられます。
 現在の経営状況は、平成3年に制度資金を利用して80頭のフリーストール・ミルキングパーラー、そして、8m3のTMRミキサーを導入しています。
 4年後の平成7年には、自己資金で堆肥舎(ブロアー方式)兼飼料倉庫(800万円)を建設し、また、前述したように労働力が夫婦2人ということもあり、平成9年には地域農業技術導入資金で、14m3のTMRミキサーの導入も行ったことで、とくに飼料給与にこだわる大石さんとすれば、これで『ほぼ理想とする酪農の姿』に近づいたといわれていましたが、できることなら『これから3年後の経営をみて記事にして欲しかったね。このボロ屋で必ずひかる牛(1万kg牛群)を飼う』という言葉がとても印象的でした。
 今回は、無理にお願いして、その経営内容を紹介するわけですが、私としては『話されることはとてもすばらしいが、本当に経営的に内容が伴っているのか』とつい疑ってしまい、技術や、経営内容を分析させて欲しいとお願いしたところ、ご本人曰く『本当は、今年よりも来年の方が自信あるのだがしかたがない』とご了承いただいた次第です。以下、9年の診断分析結果の一部を紹介しますとともに、ご本人が設計し仲間と一緒に建てられた自慢の低コスト牛舎も併せて紹介します(表−1〜5・図−1)

表─1 経営の概要

◆経営の規模
 経産牛  95頭
 未経産牛 15頭

◆自給飼料作付面積
 来年娘さんの大学卒業を待って自給飼料生産体制を本格的に始動させる(作付面積 600a)

◆主な利用機械
 ★サイレージ体系用一式 トラクター3台
 ★飼料調整用一式(TMR)

◆労働力
 家族労働 主人(50歳)・妻(45歳)
 雇  用 ヘルパー のべ24日


3年後、ボロ屋でひかる牛を飼う

 これは、大石さんの信念であり、目標でもあります。このひかる牛を作るには、育成が非常に大切だと考えておられます。
 では、前記しました経営分析数字の裏付けともなります大石哲学をお話しますと、本人曰く、『4本柱が揃ってはじめて酪農経営だ』と。その4本柱とは、

@ 牛にぴったり合ったわが家の飼料設計と給与。

A 飼料設計どおりに搾れる搾乳技術。

B 目標どおりに搾る牛を育てる牛舎環境。

C 牛にも地域にも配慮した確実な堆肥処理。

ということでした。

 まず、@の飼料設計についてですが、10年前(60頭規模)にTMRを導入し、焼酎粕を使いながら経産牛1頭当り8000kgのまずまずの乳量を確保していましたが、夏場に1〜2カ月間その飼料が手に入らなくなる状況が続き、これでは、一番大変な夏場に牛を悪くしてしまうので、年間変わりなく賄えるジュース粕(杵築市はみかんの産地でもある)に目をつけ、現在の飼料給与体系を作りあげたそうです。その飼料給与内容について、快く承諾してもらいましたので、ここに紹介します(表−6)。
 ご本人は、牛の状態(BCS)を毎日観察しながら、(突然おうかがいしても必ず牛舎におられます)乳房の色等で、DIP蛋白をはじめとして、飼料給与内容を調整されています。
 また、これらのことは、自分一人だけでなくみんなで儲かる酪農をやっていこうとする姿勢があり、以前より市の酪農青年部に『飼料設計・給与の検討会をやろう』と持ちかけ、飼料設計・給与技術がこれからの酪農経営にどれだけ重要なことかを話され、そのかいあってようやく今年の1月より、いつもの仲間と隣接市町村の農家を含めた8戸で、大石さんの尊敬されている滝口先生(隣町の獣医師・先生は、アメリカの大学等から最新情報を取り寄せて、検討会で皆さんに報告されている)を囲んで、月に2回程度勉強会を開催して仲間のレベルアップをはかっています。
 ご本人曰く『仲間がレベルアップするのなら私の知っていることは、全て教えます』と、まさしく、リーダー的存在の人らしい言葉です。

 次にAの搾乳についてです。これは、ミルキングパーラー導入当初から数年間、パルセーターの故障や、リザーブタンクからポンプまでの距離が離れすぎていたことなど、バイク好きでメカに強い大石さんも、パーラーにはいろいろと苦い経験をされたそうです。
 『やっぱりホルモン分泌が終わるまでに確実に搾りきれるパーラーと、搾乳技術でないと飼料設計どおりの乳量にはならないよ』とのことでした。今現在のパーラーシステムは、吸引の割合や、エアー配管の口径等いろいろと工夫し、ほぼ満足できるシステムになったそうです。
 つづいて、Bの牛舎環境については、まず、施設面で電柱の廃材を利用した低コスト牛舎を自分で勉強して設計し、地域の仲間で大半を建設したそうです。決して専門業者の建てた立派な施設ではありません。(これがボロ屋のことです)
 取材でお邪魔した時も、暑い午後にもかかわらず牛舎内は、堆肥処理もされて臭いもなく、牛達も砂の入ったストールに、気持ちよく横臥していました。砂の入ったストールは大変きれいで、私でも寝れる環境に感心しました。
 また、飼料の給与は、不断給餌方式で餌を食べている牛以外は、ゆったりとストールに横臥していました。この話しを大石さんにすると、『餌を食べた後に、牛達がゆっくりと寝るのがたいせつなんですよ。牛が寝ることで血液が体の中をよくかけめぐり乳を作ってくれるんです。これが飼料設計どおりに乳を出し、牛を健康にするポイントですよ。これがひかる牛です』とのことでした。
 最後に、Cの牛や地域社会を考えた堆肥処理ですが、私は、ここがまた一段とすばらしい所だと思います。優れた飼養管理技術をもっておられますが、私がはじめてフリーストール牛舎の取材でお邪魔したときも、一番強調されていたのがこの堆肥処理で、同行していた県畜産試験場の先生もよい堆肥処理技術だといわれていました。
 現在堆肥は、近くの稲作農家に実費程度で(2tダンプ1台で1,000円)運搬・散布をしてあげており、大変喜ばれているとのことでした。
 また、堆肥化する際に、臭いをなくすためオガコと米ヌカ(熱量をあげ発酵を促進させる)を入れて処理しており、今のところ臭いや蠅などの発生は見受けられません。
 ここで大石牧場のフリーストール牛舎でふん尿分離の簡易な方式が設置されていましたので紹介します。一言でいえば、道路側溝をそのまま設置したものです(図−2)。
 参考までに、今現在の成績をお話しますと、平成10年9月の平均乳量(日量)が、1頭当り32kgと猛暑にもかかわらず、昨年よりかなり伸びてきており、本人もがんばられているようです。10月中旬以降、気候がよくなれば、餌の食い込みもよくなり、34kg以上の期待もしているようです。(年間推定乳量1万kg達成可能)
 このことは、前述したように昨年の夏場以降満足のできるミルキーパーラーにできあがった点や、牛が寝起きするストールのパーティションをミシガンタイプに変更することで、牛体をぶつけたりせず、ストレスのかからない環境が整ったために成績の向上がはかられたものと思われます。

 

図─1 畜舎・パーラーの施設平面図

 

表−2 経営成績の要約

項  目

実  績

比較値
(調査結果)

農家経済(千円)
 収 入
 支 出
 収支差額
 (うち酪農部門)

 
83,547
59,064
24,483
24,483

 



酪農部門

規模

経産牛飼養頭数(頭)

飼料生産利用のべ面積(a)

81.9

(600a)

所得

総 額(千円)

経産牛1頭当り所得(円)

19,195

234,375

218,879

生産原価

牛乳100kg当り(円)

生産費用

8,262

8,825

総費用 

8,366

10,084

生産技術

総産乳量      (t)

経産牛1頭当り産乳量(kg)

平均乳脂率     (%)

平均無脂乳固形分率 (%)

平均乳価      (円)

平均分娩間隔    (月)

726.5

8,870

3.66

8.59

98.05

13.5

7,249

3.72

8.58

13.5

 

 

表−3 畜舎・パーラーの施設概要

畜  舎

ミルキングパーラー

建設年月

平成3年11月

パーラー方式

パラレル 8頭 w

飼養可能頭数

100頭

メーカー名

コーンズ・エージー
(サージ・ジャーマニア他)

ストール数

80頭

防暑対策

 扇風機16台(直下型)

 (細霧装置・有)

建設費

構 造

15,000千円(機械のみ)

鉄骨造

建設費

面 積

構 造

 13,500千円

 960u(46,478円/坪)

 種類 木造(古電柱)
 屋根 ポリカーポネイト波板

ホールディングエリア

グラウドゲート 無

スリップ防止  無

収容可能頭数  80頭

牛 床

 材質 コンクリート
 敷材 砂(20cm敷く)

 

表−4 飼料管理・ふん尿処理

飼養管理

ふん尿処理

飼養管理方法

搾乳牛1群管理

除ふん方式

ホイルローダー方式

搾乳回数

2回/日

処理方法

ふん尿混合

飼料給与と回数

混合給与(TMR):1回給与

堆肥処理方法

ロータリー式発酵槽・堆積式発酵槽
(送風装置・有)

 

表−5 畜舎・パーラーの特徴と問題点

低コスト建設のために工夫した点

その他

◆特徴

  • 空気の流れをよくし、夏を涼しくするため屋根を高く設計した。(軒高4.5m)
  • 自分で設計し直営方式で施工することで低コスト化をはかった。

◆問題点

  • 牛舎については自己資金で行ったため、ストール等鉄骨部分を亜鉛どぶづけにできず鉄骨が5年程しかもたなかった。
  • TMR給与に替えたため通路幅5m では1〜2m程せまい。

◆飼養管理面からの特徴

  • 高能力牛飼養のためには、理想的なミルキングパーラーと横臥率が高く、長く横臥できるベッドの設置および高能力に対応した飼料設計の三本柱がそろうことが必要である。
  • 地域農業との有機的連携を考えた堆肥のリサイクルが今後とくに重要である。

 

表−6 大石牧場の飼料給与内容(9月〜翌年6月までの給与内容/頭・日)

<濃厚飼料>

 メイズ圧ペン5.0kg
 大麦1.5kg
 綿実1.5kg
 大豆粕1.25kg
 バイパス大豆1.5kg
 ジュース粕6.0kg
 フスマ1.0kg
 第2リンカル200g
 タンカル100g
 ビタコーゲン200g

<粗飼料>

 ルーサン6.0kg
 ルーサンペレット0.6kg
 オーツヘイ5.0kg
 ビートパルプ0.8kg

<飼料添加剤>

 糖蜜300g

☆その他水を少し添加
☆メチオニンの使用を開始

DM(22.0kg/頭) TDN(73.0%) CP(17.0%)
DIP(63.0%)  NDF(35.0%)

 

写真─3

非常に通風の良い開放感のある牛舎内部
(ミシガンタイプのストールを自分で設置)

写真─4

品質のよい堆肥ができているロータリー式発酵堆肥舍

図─2 ふん尿分離施設


おわりに

 本会で作成しました大分のフリーストール・パーラーシステムの写真にもご夫婦で写っていますが、ご主人だけでなく経営をしっかりと支えておられる奥さんの力は、皆さんの認めるところです。経理はもとより繁殖管理から搾乳・哺育まで担当されています。
 まさしく、二人三脚で年商8000万円には頭の下がる思いです。
 3年後必ず、『匠の技』に磨きをかけて、ひかる牛を飼っておられることを確信しました。

(報告者:大分県畜産会畜産コンサルタント)

 

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