生産技術セミナ−

ストールバーン牛舎(酪農)の施設配置と働き方を見直してみよう

 

土 崎 俊 三

 島根県畜産会の行った、最近の酪農経営診断結果にも、同様な傾向がみられますが、平成8年度の、県下の搾乳牛1頭当り年間牛舎内労働時間は、表−1のようにほぼ同一頭数規模の、全国平均133.4時間に対し島根県平均は150.5時間で、かりにこの差の時間(17.1時間)を、搾乳牛25頭経営に置替えてみますと、年間に427.5時間(約53日)も多くなり、こうしたことが島根県の牛乳生産費を高くする原因の一つにもなっていると思われます。


1.島根県における牛舎内労働時間

 ところで、このように牛舎内労働時間は、以前から本県が、とくに多かったのかを調査してみました。その結果は表−1のように、今から10年前(昭和62年)の全国平均は 165.2時間で、これに対し島根県平均は144.8時間と、むしろ島根県平均の方が少なかったのです。しかしその後、全国平均の労働時間は年々減少し、平成8年には10年前のほぼ80%になっています。それに対し島根県平均は、逆に104%と増加したことになっています。
 そこで、本稿ではこうした牛舎内労働(作業時間・作業動線)を見直し、働き方を改善するため、最近、牛舎内労働時間調査を行ったSさんの協力を得て、主としてその調査方法や進め方、それに一部作業内容(飼料給与)を例に検討してみました。

 

表−1 昭和62年と平成8年の搾乳牛1頭当り年間牛舎内労働時間の変化

(単位:頭・時間)

年 次

飼養頭数
規模

合 計

飼料の調理
・給与

敷料の
搬出入

飼育管理

搾乳・
牛乳処理

牛乳運搬

昭和
62

全 国

1519

165.2

41.5

22.5

20.8

79

1.4

島 根

16.6

144.8

44.1

20

15.9

64.6

平成
8年

全 国

2030

133.4

34.34

17.94

15.58

64.67

0.84

島 根

20

150.5

44.63

24

11.05

69.32

1.51

(農林統計年報、牛乳生産費調査より)


2.調査にあたっての準備

 ごく最近新築された牛舎は別として、少し古い牛舎や増改築を重ねた牛舎については、専門書や先進酪農家の事例、あるいは視察などで得られた知識、情報などを参考に建築されたと思いますが、その場合でも、牛舎内での作業のための移動や、動線距離まで考えた牛舎は少ないと思います。したがって、それぞれの酪農家には、経営者の性格や年齢、家族構成や経験年数、あるいは、頭数や飼養方法などで、それぞれの農家の独特の作業方法や、作業に対するリズムがあって、それが酪農家個々の作業慣行になっているようです。

(1)労働時間調査表の作成

 一般的な労働時間調査の方法としては、次の2通りがありますが、ここでは調査表による調査について述べてみます。

@ テープレコーダーの利用

 作業員個人ごとに作業の進捗状況(時刻・作業内容・移動方向など)をテープレコーダーに録音し、後で再生して改善内容を検討する方法です。

A 調査表(方眼紙)の利用

 従来、労働時間の調査には、多くの場合、工業用作業分析表を手直しして利用していましたが、記入の方法が文字や記号でめんどうなうえ、記入に時間がかかるので、私は記入が簡単で手間のかからない、方眼紙を調査表(野帳)として使用しています。図−1は、その調査表の作り方と記入方法の例です。
 まず大型の方眼紙に、時刻を表現するための横線を、上下の線の間隔を4〜5cmとって、長さ3040cmの線を引きます。
 線の長さは作業終了までの分数を、1分間1cmで引きます。たとえば、作業所要時間が2時間30分(150分)の場合、30cmの線なら5本・40cmなら4本引きます。そして図のように、まず上段に開始時刻を記入し、さらに5分間隔ごとに点を入れ、10分間隔ごとに時刻を記入しておきます。この5分おきのしるしは、作業時刻記入途中での時刻の確認や、作業時間の計算に便利です。
 記入方法は図−1を参考にして記入してください。この調査表では作業が重なった場合、たとえばバーンクリーナーを運転しながら、飼料の調理準備をするとか、あるいは作業を種類別に、上段に搾乳牛乳処理作業を記入し、下段にその他作業をまとめて記入する、といったようなこともできます。また、野帳に作業時間を記入する場合、作業内容を少しくわしくメモしておくと、後で作業動線を作成するのに役立たせることができます。
 なお、調査者はこの作業時間調査野帳と作業動線図野帳をセットとして、作業員1名分を1人で記帳します。

図−1 調査票(方眼紙)野帳の作り方と記入例

 

 

(2)作業動線図(牛舎内見取図)の作成

 年間を通じ毎日定時にほぼ一定時間、労働を必要とする舎内労働では、牛舎内施設機械の配置が、大きく労働時間に影響してきます。そこで、あらかじめ牛舎内の施設や機械、器具の置き場所などの見取図を作成しておき、この図面に作業員の作業のために移動した動線を、図−6のように記入してください。
 なお、動線の正確度を補うため、最後に労働時刻調査表と照合してください。
 その他、最近は牛舎内労働に果す老人婦人の役割も大きくなっていますので、とくに作業の内容や機械器具の大きさや重さ、置き場所の高さなどに、無理がないかも確かめておくと良いと思います。

 

図−2 酪農家Sさんの夕作業の作業順

 


3.調査前の打合せ

 調査を順調に進めるために、あらかじめ作業員と打合せをしておきます。

(1)調査にあたっての注意事項

調査中作業員は、調査を意識して作業を付け加えたり作業を急いだり、調査者に話しかけたりせず、平常どおりの作業をしてください。また、調査者も作業全体が見易い場所を、移動しながら作業の邪魔にならないよう気をつけます。調査の途中不明なことがあっても、その場ではそのままとし、後で作業終了後補足調査をします。調査者は作業員に話しかけてはいけません。
 なお、例外的な労働(電話の対応、訪問者の対応等)も一応記録しますが、最終段階のまとめで除外します。

(2)牛舎内作業の作業手順

 調査にあたって、前もって作業員ごとに作業内容や作業手順などの概要を聞いておきます。図−2は今回協力いただいた酪農家Sさんの4月8日の夕作業の作業手順です。
 このように聞取りをしていないと、急に作業員が牛舎外にでたりすると大慌てとなります。作業手順がわかっていると、たとえ都合で作業手順が変っても、とまどいが少なく調査することができます。


4.調査事例(Sさんの場合)

(1)Sさんの経営概況

 Sさん(62歳)は昭和32年、島根県の山間部A町で酪農を始め、現在の経営概況は表−2のように、夫婦2人で経産牛23頭・育成牛3頭を飼養しています。
 牛舎も頭数の少なかった昭和30年代は、自宅での和牛繁殖牛舎を改造して使用していたが、昭和43年に現在の牛舎の基礎となる、図−3の……で囲まれた単列11頭牛舎を新築し、その後、53年に単列牛舎を複列とし、さらに同年バルククーラー、63年にパイプラインミルカー、65年にはバーンクリーナーを導入し、現在は、図−3のような牛舎および関連施設となっています。

表−2 酪農家Sさんの経営概況

家族数

(稼働)

酪農開始

牛舎建築

牛舎ストール

飼養頭数

飼料給与

形 態

搾乳・

処理法

ふん尿

搬 出

経産

育成

3人

(2)

32

新築 43

改築 53

23

23

3頭

セミTMR

パイプライン

バルククーラー

バーンクリーナー

分離機

 

表−3 Sさんの年間牛舎内労働時間(本人申告)

 

6:008:00

12:0012:50

17:0019:00

合 計

2時間

0.3時間

2時間

4.3

2 〃

-

2 〃

4.0

4 〃

0.3

4 〃

*8.3

(搾乳牛1頭当り年間労働時間 8.3時間×365日÷19頭=159時間)

 

図−3 牛舎および関連施設の位置図

 

 

(2)年間の牛舎内労働時間(本人申告)

 Sさんの1日の牛舎内労働時間は、申告によると表−3のように、搾乳牛1頭当り年間労働時間は159時間で、20頭規模の県平均( 150.5時間)とほぼ同様な時間となっていました。しかし、今回調査の実際の作業時間と申告時間では、調査日(4月8日)の夕作業のみで2人とも30分少なくなっていました。これは申告時間は家をでて仕事にかかり、家に帰るまでの時間で、実労働時間とは若干異なっていました。


5.主な調査結果と改善点

 調査を行った、4月8日夕方作業の調査結果は図−4のとおりで、夫婦2人で午後5時5分〜6時42分まで作業にあたり、途中7分間の休憩をとっていますが、2人の所要時間は180分で、普段より若干早く終わっています。
 また、作業時間の推移は図−4のとおりでした。

 

図−4 牛舎内労働時間調査票 (平成10年4月8日夕方作業Sさん夫婦)

 

主な作業内容別労働時間および歩行距離は、図−4のようで、時間的には搾乳牛乳処理時間が最も長く75分(全労働時間の41.7%)、次いで飼料の調理給与の68分(37.8%)でした。なお、敷料の搬出・飼育管理はそれぞれ1819分で10%でした。
 次に作業動線(作業のため移動した人・物の足取り)ですが、作業別動線距離は、図−5のようになっており、飼料の調理給与の距離が全体の約半分(49%)を占めていました。また飼料給与の前作業となる、飼槽の残飼集めと廃棄作業の動線まで入れますと、その距離は全体の66.3%にもなります。
 そこで、ここではとくに、この動線距離の長かった、飼料の調理給与の動線について、調査内容と改善点についてまとめてみました。その結果は図−6のとおりです。なお、図面の中に○印で改善事項を示しています。もともと飼料給与作業というのは、そのほとんどが運搬作業で、この作業をいかにスムーズに、移動距離を短く安全に行うかを検討します。

 

図−5 作業別の動線距離(平成10年4月8日夕作業 Sさん夫婦)

 

(1)作業動線の途中切れをなくす

 図−6にみられるように、飼料給与動線は粗飼料・濃厚飼料と、給与飼料の種類が多いため飼槽の前をそれぞれ行きは飼料、帰りは手ぶらで6回往復しています。コンプリートは1回の給与量が多く、配飼車も大きいので巡回はできませんが、サプリメント・トウモロコシは給与量も少ないので、できればこれを配合し、添加剤は別容器に必要量を入れて、サプリメント用配飼車で一巡給与ができないか、またそのためには通路の改修も必要となりますが、検討してみてください。
 なお、飼料給与については、全体的に飼料の種類・給与順序を含め、とくに残飼を減らす給与方法を考える必要があります。

(2)コンプリートの積替えと給与

 一日平均1.5〜2回、コンプリートの大袋( 300kg)をクレーン車で野外置場から積替場まで運び、手作業で配飼車へ積替えています。牛舎内での積替えは天井の高さが低くできないわけです。したがって、現状では野外置場を積替場の近くに移すことが考えられますが、この動線は風雪・雨などの天候に制約を受けやすく、作業の能率や安全性にも問題があります。改善点について、飼料の種類を含て飼料メーカーとの話し合いが必要です。
 なお、コンプリート給与にあたっては、一度に搬出する重量が重く、また、前側通路への上り口の勾配が急なので、コンプリート配飼車をエンジン付きにしたらどうかと思います。

(3)サプリメント置場の移転

 飼料など同一機能をもつものは、できるだけ近くに寄せた方がよく、サプリメント置場を飼料置場の近くに移します。

表−4 作業別労働時間と歩行距離(4月8日夕 Sさん夫婦)

作業名

労働時間(分)

歩行距離
(m)

主な作業内容

割合%

飼料の調理給与

45

23

68

37.8

542

コンプリート準備給与      27
サプリメント・トウモロコシ給与 
12
飼料添加剤給与         5分
乾草・稲ワラ給与        
24

敷料の搬出

18

18

10

98

牛ふんのかき落とし       9分
バーンクリーナー運転      7分
除ふん             2分

飼育管理

14

5

19

10.5

300

飼槽の残飼集めと廃液      14
乾草の掃き込み         3分
病牛のバケツ給水        2分

搾乳および牛乳処理

31

44

75

41.7

167

搾乳準備・ミルカー前洗浄    8分
搾乳(洗浄湯交換)       
60
後片付け            7分

90

90

180

100

1,107

 

 

(4)通路の改修・排水溝の設置

 前に述べたように古い牛舎の改造なので、無理な面もあると思いますが、飼料給与のための巡回通路、前側通路への入口の勾配の改修、サプリメント置場近くの牛舎内浸水に対する排水溝の設置など改善する必要があります。


まとめにかえて

 以上、Sさんの調査事例を参考にしながら、具体的に調査の方法や、一部改善点について述べてきましたが、要は時間短縮のみでなく、作業の内容にムリやムダなどがないかチェックし、さらに改善のためには、どこをどう改善したらよいか発見してください。自分の家の作業の長短所は、なかなか自分ではわかりません。また、作業時間もほぼ同一時間帯になりますので、グループや友人などで交互に調査し合って、作業の改善を行い余裕時間は個体観察など有効に利用してください。
 ところでまとめにあたって、最後にもう一度そのポイントを、箇条書きにまとめてみましたので参考にしてください。

@牛舎内施設の配置を適正にし、器具・備品を定位置に置き、移動距離を短くする。

 また、不用の機械器具は片付けておく。

A作業の順序は今のままでよいか、後戻りしている作業はないか。2人の作業で交錯する動線はできるだけ少なくする。

B現在の作業で、はぶける作業や一緒にできる作業はないか。

C資材の運搬作業は、無理のない量を最少回数で運ぶ。そのためには作業に適した運搬車を利用する。

D牛舎の入口や舎内の通路の幅・デコボコ・傾斜・滑りなどを整備し、作業能率や安全性を保つ。また、動線を風雨・雪にさらされないように工夫する。

図−6 飼料の調理給与作業の動線と改善点

(筆者:島根県畜産会畜産アドバイザー)

 

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