生産技術セミナー  

「個」から「群」へ、「群」から「個」へ(3)

 

原 田 英 雄

 

 フリーストールで飼育しているある酪農家を訪れて驚いたことがあります。100頭を越える飼育頭数なのに、年間廃用する乳牛は一桁台で事故はきわめて少ないと自慢しています。しかし、よく聞いてみると乳牛の1泌乳期が2年を越しているものが少なくないといっています。結局、乳量水準は年間7000kg前後です。要するに、種が付かずに、いつまでも同じ牛を搾乳しているわけです。1万4000kgの牛でも2年かけて搾乳すれば、7000kgに低下します。ただ、この一桁というのも、全牛群を外部からの導入に頼っているためで、年によっては大量の廃用牛がでるので、その年の更新率は著しく高くなります。
 筆者が調べた県内のフリーストール酪農家の廃用率は約30%です。そのうち種が付かないためによる淘汰は約50%です。つまり、牛群の15%が繁殖障害を理由に廃用牛となっているわけです。
 これをいかに減少させるかが、フリーストール飼養の最大の課題です。つまり、この改善によって、大きな経営的利益を得るからです。


12.繁殖成績に目標を持つ

 繁殖成績を改善しようとするならば、まず目標を設定することです。ただ、漠然と発情がくるのを待ち、種付けをするというのではなく、どうしたら受胎率を高め、分娩間隔を12カ月に近づけることができるのか、常に関心の的でなければなりません。
 一般的には、正確な記録をとり、その分析を行うことです。これは多くの人に語り継がれ、古典的ではあるけれども、いまだに有効な唯一の改善方法です。これから、ここで述べようとする多くはすでに語り尽くされたことでもあります。しかし、10年後も20年後にも必ず繰り返されることは間違いありません。基本的なことを理解することで、牛群の妊娠率(分娩後の一定期間内における妊娠している牛の数)はきっと10〜20%は向上します。
 表−5に繁殖成績の改善目標の例を示しました。目標から大きくはずれた場合には、なぜそれがはずれているのか、発情はきちんとおさえているのか、授精は大丈夫か、飼育管理に問題はないのか、あるとすればどこに問題があるのか、ここからスタートしなければなりません。もちろん、ここでは牛群検定を行っていれば、その改善目標も利用することができます。
 また、表−6をみて下さい。これは健康な乳牛の繁殖成績を示したものです。初回発情や初回授精までの日数は、初産次も2産以上のものも大差はありません。しかし、受胎率は初産次の方が10%ほど低く、空胎期間は10日ほど長くなっています。一方、淘汰率は高産次牛の方が高く、しかも繁殖傷害による淘汰率も高いことです。繁殖改良目標をたてる場合には、このように産次等他の違いも、あらかじめ考慮しなければなりません。もちろん、夏季には乳牛は暑熱ストレスを大きく受け、受胎率は著しく低下します。直腸温度が40℃を越えるような場合には受胎しません。したがって、より実用的な繁殖目標を立てる場合には、産次、季節を区分した目標値をたてるのが合理的です。


13.繁殖の基本を理解すること

 一般的に発情は21日サイクルで訪れます。そこで、発情と乳牛の行動との関係を経時的に示したものが図−13です。発情が最もよく示されるのは乳牛のスタンディングヒート(発情で乗り合う状態、一次的兆候)です。この持続時間は5〜18時間となります。その前、6〜24時間が二次的な発情兆候が表れる時間帯です。発情が再来しはじめると、牛は\他の牛に乗りかかったり、]そわそわしたり、^鳴いたり、_他の牛の尾根部分を鼻で嗅いでみたり、`尾根部をあごで押しつけたりします。また、a牛によっては乳量を減少させるものもあります。そして、スタンディングヒートが始まると、b気持ちよく他の牛を10〜30秒くらい乗せます。c粘液については発情開始から出血がみられるまで2〜3日続きます。d出血はスタンディングヒート終了後、12〜24時間後にみられます。しかし、出血のない場合もあります。
 それでは、授精適期はいつが良いかといいますと図−14をみてください。これはスタンディングヒート開始からの時間と受胎率との関係を示したコーネル大学の概念図です。最も受胎率が高いのはスタンディングヒート終了時の前後6時間です。約65%の受胎率となります。しかし、問題はスタンディングヒートの開始時です。これは誰にもわかりません。
 そこで、古くから紹介されている授精方法があります。それはAM−PMルールあるいはPM−AMルールといわれるものです。朝方にスタンディングヒートを発見したら、夕方に授精する。夕方にそれを発見したら朝方に授精するというものです。この図−14からみても、ステンディングヒート開始後、最適期間が12時間あることから、このルールによる方法がベストであることが理解できます。
 一番良い方法はもちろんスタンディングヒート終了直後ですが、これは先ほど述べたように誰にでも分かるものではありません。
表−5 繁殖成績の目標        (ムアレイ、1990)
 項 目
目 標
改善すべき場合
初回発情までの平均日数 
40日
50日以上
初回授精までの平均日数 
70日
80日以上
平均空胎期間 
100日
120日以上
平均分娩間隔 
12.5月
13月以上
1頭当りの平均授精回数 
1.7回
2.0回以上
1回の授精による受胎率 
60%
50%以上
繁殖成績に由来の乳牛の淘汰率 
5%
10%以上
初産種付け平均月齢 
15ヵ月
17ヵ月以上
 
表−6 健康な乳牛の繁殖成績   (オルテナク、1984)
 項 目
初産牛
2産次以上の乳牛
 例数 
69
134
初回発情までの日数 
50
55
初回授精までの日数 
68
70
初回授精による受胎率 
59
71
空胎期間 
95
84
受胎に要した種付け回数 
1.6
1.4
淘汰率 
4.4
11.2
繁殖成績不良による淘汰 
1.5
4.7
 


14.発情発見は観察回数で次第である

 繁殖成績を高めるには、発情発見を確実に行うことがまず基本です。多くの受胎の失敗は発情発見ができなかった場合におきています。アメリカの酪農場では、大規模のためか、発情であるのに50%の牛が発見されていないといわれています。本県においても規模が大きくなるほど受胎率は低下する傾向にあります。それは、発情発見の正確度とも関係しているように思われます。
 カルフォルニアの8農場の調査研究の中で、ある農場では32%の牛が発情でもないのに人工授精がなされ、また、他の農場ではそれが2%だと報告されています。そして831回の人工授精の中では発情でもないのに授精された牛は13.5%にのぼると報告されています。このような事実は、発情観察がいかに不正確であるかということでもあるわけです。
 それでは、どうしたら発情をよく捉えることができるか。これはよく観察することしかありません。表−7をみていただきたいと思います。1日1回の観察では60%の発見率です。4回では100%となります。発情発見はいかに観察が重要であり、いかに回数を多く行うかがたいせつです。そして、多いだけでなく、真剣に観察することです。ただ漠然と観察するだけではダメです。毎日、発情予定牛をチェックし、分娩後そろそろ発情がくる頃ではないかと思われる牛については、とくに注意を払わなければなりません。発情の弱い牛であれば、少しでも陰部や尻の辺りに粘液が付いていないかどうか観察することです。また、排卵出血があれば、次の授精のためにそれはいつ頃あったものなのか、予測も必要です。このような観察はいつも必要です。また、記録は誰がみてもわかる内容で、わかる場所においておかなければなりません。もちろん、牛体にも誰がみてもわかるように番号を付けておくことが大切です。このような記録が受胎率の向上につながります。
表−7 発情の観察回数と発情発見率 (ムアレイ,1990)
観察回数
発情発見率
1日 1回
60%
   2回
80%
   3回
90%
   4回
100%
 

 

図−13 発情の経過(ムアレイ、1990)
図−14 最高の受胎率を得るための授精適期
 


15.発情発見場所と時間

 フリーストールの場合、どこで発情をみつけたらよいのかということですが、表−8をみてください。発情発見の牛の位置とマウンティング指数(乾燥したコンクリート通路での発見を1とする)との関係が示してあります。搾乳中のミルキングパーラー、飼料を食べている飼槽、乳牛が待機しているホールディングエリアは発情行為がかき消されてわかりにくいということです。とくに密集したところは牛の動きが悪くなります。ある程度の空間と乗り合うための相手が必要です。また、通路が滑りやすいと牛は歩くのに慎重となり、発情行動も示さなくなります。また、肢蹄の悪い牛も発情行動が弱くなるので、そのケアを行わなければなりません。砂場のあるパドックに牛をだすことはきわめて有効ですが、ある程度労力と経営的ゆとりが必要となります。
 効率的に発情を発見するためには、1日のうち発情兆候がみられやすい時刻にチェックするのが良いです。図−15をみてください。夕方7時から翌日午前7時までが、発情発見率の最も高い時間帯です。夜、寝る前、あるいは起きたらすぐ牛舎内を見回ることがいかに重要であるかわかります。それがダメならば、せめてフリーストール牛舎ですべての牛が横たわっているような時間帯に、陰部辺りを観察し、粘液が流れていないかどうか確認することです。横たわった牛の下には、よく粘液がみられます。発情間近の牛は真剣に観察することです。
 実は、筆者自身、一度驚いた経験があります。それは、Mさんという酪農家で、飼料給与はメチャクチャ、栄養計算をするととてつもなく蛋白質が高い、また飼料の購入価格も高い、搾乳時間はデタラメ、体細胞数はいつも30万個を越えペナルティーは払っている。にもかかわらず受胎率だけはこのうえなく良く、受胎率は90%以上です。これがMさんの自慢です。発情を絶対に見逃さないように、毎日牛を注意深く観察していると自信をもっています。そして、遊びほうけている息子には任せられないと。これこそ「受胎は発情発見」だと筆者が確信を持つようになった理由です。
表−8 マウンティング行動の相対的指数(ベイルズ、1990)
発情発見牛の位置 
マウンティング指数
ミルキングパーラー 
0.1
採食中の飼槽 
0.2
ホールディングエリア 
0.3
乾燥したコンクリート通路 
1
乾燥したコンクリート通路と移動 
1.1
乾燥した土のロット 
1.6
乾燥した土のロットと移動 
1.8
 
 
図−15 1日の時間帯における発情発見率

16.繁殖管理は特定の人が責任を持つ

 何頭くらいまでならば、コンピュータを利用しなくても乳牛管理ができるか。また、乳房や顔で何頭までの乳牛を覚えることができるか。100頭以上になると絶対コンピュータが必要だと、フリーストール牛舎建設と同時に導入する人がいます。高額なコンピュータを。乳量の日変動や、乳温の変化で発情兆候を把握するために。そして、コンピュータを繁殖台帳代わりに用いるためです。しかし、100頭規模程度で果たしてコンピュータを導入しないと乳牛管理はできないものかどうか。筆者の知っている酪農家Kさんは220頭の乳牛を飼育しています。が、息子一人で220頭の牛を黒板一つで管理しています。牛の顔を見れば、何号なのかすぐに当てます。受胎率も高いということです。コンピュータに頼らなくても、これくらいの頭数なら覚えることができるといいます。150頭くらいでも大抵の酪農家は牛の顔で何号なのかわかるといいます。裏返しにいえば、200頭くらいの牛の区別がつかないことには、一人前の酪農家とはいえないかもしれません。ただし、発情発見には彼の息子が全責任を持っているということです。
 ポイントは、繁殖管理には特定の人が責任をもってあたることです。他人任せの場合には失敗が多いようです。


17.分娩後の発情を早めるには乾物摂取量を増大する

 分娩間隔を365日に近づけるには、発情回帰を早めなければなりません。不思議なことに牛というものは分娩後、一旦発情がくると、病気でない限り、21日の発情サイクルを繰り返します。それではどうしたら発情が早まるのか、表−9をみてください。これは分娩後9週間における卵巣機能回復と乾物摂取量、体重、産乳性および繁殖性との関係をみたものです。卵巣機能が「早期」に回復したものと「未回復」のものとを比較すると、前者の方が乾物摂取量が多く、体重変化が少ないこと(体重が減少していない)、したがって4%FCM量も多くなっています。初回排卵も22日と早く、発情も2.0カ月と早くなっています。また、受胎は「早期」「遅延」の方が、「未回復」のものよりも優れていました。
 これをボディーコンディションスコアからみたものが表−10です。ボディーコンディションの損失が少ないものでは、初回排卵までの日数が短く、受胎率も高くなっています。ただし、この場合乳量には影響がありません。
 分娩後に、発情の回帰を早めるには分娩時のボディーコンディションを適切なもの(3.5〜4.0)とし、乾物摂取量の増大をはかります。

 

表−9 分娩後9週間における卵巣機能回復と乾物摂取量、体重、
産乳性および繁殖性との関係(ステイプル、1990)
 項 目 
早期 
遅延 
未回復 
卵巣機能回復(日) 
<40 
40〜60 
60> 
 例 数 
25
14
15
4%FCM(kg/日) 
33.4
31.7
28.5
体細胞数(×1000) 
382
655
559
乾物摂取量(kg/日) 
18.8
17.7
15.2
体重変化 (kg/日) 
-0.81
-0.81
-1.22
初回排卵までの日数 
21.9
43.1
− 
初回発情までの日数 
47
73
110
受胎頭数 
21
13
5
種付け回数 
2.38
1.77
2.8
空胎期間(日) 
133
88
200
 
表−10 ボディーコンディションの損失と繁殖性との関係(ブリット、1991)
 項 目 
損失の少ないもの
損失の多いもの
例 数 
46
30
初回の排卵までの日数(日) 
17
23
2回目の排卵までの日数(日) 
36
44
3回目の排卵までの日数(日) 
59
64
1〜70日までの乳量(kg/日) 
26
27
305日間乳量(kg) 
8,136
8,254
初回の受胎率(%) 
62
25
2回目の受胎率(%) 
61
42
3回目の受胎率(%) 
63
27
 


18.泌乳能力と繁殖は関係するか

 よく泌乳能力が高い牛は、種付けが悪いといわれます。そこで、遺伝的に高泌乳の牛と平均的な牛の繁殖性の違いを表−11でみてみます。305日間補正乳量では両者に4000kgの差がみられます。子宮の回復までの日数や初回排卵までの日数には差はありません。しかし、初回発情の日数、初回発情までの排卵回数、受胎までの日数は高泌乳牛の方が有意に多くなっています。このことが事実とするならば、乳量を中心に改良を進めると、繁殖性は低下する一方です。しかし、実際には繁殖性に関する遺伝率は約0.1といわれており、遺伝の影響は少ないものと考えられます。また、受胎しない牛は子孫を残さないため、自然淘汰されます。
 高泌乳牛の場合、分娩後の乾物摂取量がじゅうぶんでない場合が多いので、これをいかに克服するかが繁殖における成功の鍵となります。乾物摂取量の増加をはかり、体重減少を押さえ、発情回帰を早めることが、繁殖成績の改善となります。

 

表−11 泌乳能力の違いと繁殖性との関係 (ハリソン、1990)
 項 目 
高泌乳牛 
平均的乳牛 
有意性 
 例 数 
10
10
  
305日間乳量(kg) 
10814
6912
p<0.05 
子宮回復までの日数(日) 
24
27
NS 
初回排卵までの日数(日) 
31
29
NS 
初回発情観察までの 
66
43
p<0.05 
      日数(日) 
  
  
  
初回発情観察までの 
1.6
0.7
p<0.05 
    排卵回数(回) 
  
  
  
受胎までの日数(日) 
217
74
p<0.05 
 
表−12 牛における受精と胚の損失(1回に100頭の人工授精)
(スチーブンソン、1997)
受精卵を持つ81頭の牛 
分娩結果
妊娠損失
29頭の若齢雌牛 
15胚 
31頭の雄牛 
6胎児 
1組の双子 
21頭の損失 
(60〜61頭の子牛) 
(受精卵をもつ牛の25%) 
 


19.受胎率を高めるために

 繁殖成績を良くするためには、二つのことが理解されなければなりません。それは、\授精の失敗と]胚の死滅です。表−12をみてください。100頭の乳牛に1回だけ人工授精をした結果です。81個の受精卵が乳牛の体内にできました。そして、19頭は受精されませんでした。受胎率81%ということです。分娩したのは29頭の若齢雌牛と31頭の雄子牛(うち1組の双子)です。一方、分娩にいたらなかったものは、胚のまま死滅したものが15頭、胎児の状態で死亡した(流産)ものが6頭です。
  もし、これが一般的なものとすれば、1回の人工授精による失敗は19%、受胎率は60%、胚の死滅が21%起きると考えられます。ここでは、これを基準に繁殖の問題点を検討します。
  受精(卵子と精子の結合)の失敗とは、発情発見に問題がある場合(発情でないのに授精など)、精子に問題があること(精子の活力低下、精液の保存、取り扱い)、非衛生的な授精、授精時期のタイミングの悪さ、卵巣、卵管、子宮に異常がある場合などです。これらはいってみれば人間の側の不備であり、技術の問題です。技術を改善すれば、受胎率は確実に高くなります。
 一方、胚の死滅には不明なところが多く、改善するのが困難です。たとえば胚の発育ステージが5〜7日というのは、ちょうど胚が子宮に入った後で、桑実胚が胚盤胞に発育しようとする時期です。この時期には胚が死滅しやすいといわれますが、その対策は不明です。
 また、15〜16日には子宮からプロスタグランディンなどのメッセージが発せられます。発せられると黄体が退行します。この時、発情が再来します。しかし、子宮からプロスタグランディンがでなければ、黄体が働き妊娠が維持されます。
 さらに、胚の死滅は受精後25〜40日の間におきます。それはいわゆる後期胚死滅といわれるもので、発育中の胎盤から子宮壁の合体過程で何らかのミスの結果です。
 しかし、これらの改善には不明な部分が多く、多分それはストレスというような不明確な逃げ言葉しかありません。
 繁殖成績を良くするということは、発情発見にはじまり、人工授精、受精、胚の発育、母牛の妊娠維持および健康等に関わる、これら一連の過程が何一つ欠けていては成り立ちません。乳牛の管理者はこのことをじゅうぶんに理解しておくことが重要です。

 次回は、栄養について述べたいと思います。

(筆者:愛知県立農業大学校畜産課長)

 
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