経営自慢
 

長命・連産にかける肉用牛経営

 

小 池 幹 夫

 

1.経営の特徴

 今回紹介する小野和夫さん(52歳)の肉用牛繁殖経営は、4〜6産の経産牛を中心に導入し、それを長命に連産させ成果をあげてきているちょっとユニークな事例です。
 小野さんいわく「4〜6産ともなれば、母牛の将来耐用年数の個体判別がしやすくなります。経産牛は環境変化の対応性も高いので飼いやすいです。また、育成牛での導入より分娩までの費用負担が少なくすみます」との経営方針をもたれています。


2.地域の概況

 小野さんの住む地域は、平成9年4月1日に1市1郡の11JAが広域合併した“JA秋田しんせい”の本荘市営農生活センター(旧JA秋田本荘市)の管内です。
 JA秋田しんせい管内の家畜の飼養状況は、肉用牛飼養戸数1056戸、飼養頭数3525頭、乳用牛の飼養戸数33戸、飼養頭数951頭、また、豚の飼養戸数18戸、飼養頭数548頭で、ひじょうに畜産に力をいれている地域です。また、JA秋田しんせい管内は、県内でも有数の稲作地帯で、総面積14万4965haのうち約10%が水田面積であり、全国的にも名高い「あきたこまち」とならんで味覚で勝負する「本荘・由利ササニシキ」の産地でもあります。最近は消費者動向と消費者ニーズへの対応を考慮し、味に磨きをかけるため完熟堆肥の土壌還元が奨励されてきており、堆肥の需要が急速に増えてきている地域です。


3.経営の歩み

 当初、小野さんの家では水田作業等の役用牛を飼育していましたが、農作業の機械化とともに牛の役目も終了し、その後高校時代から描いていた牛飼いの夢を実現するため、昭和39年に就農して、昭和41年に牛舎を建築し4頭の繁殖雌牛の導入をはかったのを契機に、以後、毎年計画的に増頭し「稲作+肉用牛」の複合経営を確立してきました。
 その後、河川改修工事等により水田面積4haのうち2.5haが買収され、また米価にも期待する材料がないことや1ha程度での複合経営では米も牛も中途半端になると考え、水田は委託栽培方式を採用し、肉用牛(繁殖)の専門経営の道を選択した。そして、新たな経営地として地域内環境の保全と牛への環境も考え、廃業した養豚団地の敷地を買い取り、繁殖雌牛40頭規模の低コスト牛舎を建築し、妻照子さん(47歳)と2人で経営を行い現在にいたっている。また、堆肥については完熟堆肥を生産して耕種農家への供給と稲ワラ不足を補うため稲作農家との交換も実施してきている。粗飼料生産については転換田(一部借用地含む)を有効利用し良質牧草を収穫している。
写真─1 整理整頓された牛舎入口での小野和夫さん夫婦。右側奥に 

     は牛房、手前左側が管理室

写真─2 転換田から収穫された牧草で冬季間給与のためラップロール 

     保管中

写真─3 牛舎構造は対頭式で連動スタンチョン。妊娠牛等は繋留する
 


4.経営への生きがい

  前述したとおり、平成6年頃から河川改修と大学誘致等で都市化される中で、水田面積4haのうち2.5haを買収された。このため肉用牛経営に活路を見出し、その拡大について検討したが、近隣ではじゅうぶんな敷地の確保も難しく、また畜産公害等も懸念されたため、廃業した養豚団地を買い取り、平成7年度に繁殖牛40頭飼養規模の低コスト牛舎を建築し本格的に肉用牛繁殖専業経営へ取組みはじめた。

 繁殖雌牛は平均産子数4〜6産程度の経産牛を25〜30万円で導入し、6〜7産までは連産させることを基本にしている。
 この経産牛の導入に際しては、JA秋田しんせいを窓口として情報の収集・分析をし、また助言等を受けながら繁殖雌牛の選定・導入を行っている。地域内には家畜市場があり、毎月40頭ほどの経産牛が上場されて導入しやすい背景にあり、逐次導入をしているが、血統としては増体よりも肉質系を狙いとして行っている。
 導入牛の飼養管理に関しては、導入時の環境変化によるストレス等の対策、また、それ以降の連産を維持するための飼養管理について日夜研究を重ねており、加えて定期的に巡回するS指導員からの飼料給与体系の指導や、時には飼料給与診断を受けるなど、目標の実現に向けて努力している。
 このような経営方式を確立するためにむだな時間も費やしてきたが、3年程前からは、その成果が徐々に現れてくるようになり、経産牛を導入した繁殖経営の一つのスタイルを作り得たと本人は自負している。

 子牛の販売価格については現在、平均雌で35万円、雄で45万円であるが、市場での評価は徐々に高まってきており、今後に期待できる態勢となってきた。
 経産牛導入の経営方針を採用した目的は、育成を導入し経産牛となるまで飼養する時間と費用等を検討した結果から経産牛導入の経営に踏みきったのである。

 このように経産牛を導入し長命・連産を続けるための飼養管理で実行していることは、まず第1に、次回受胎への準備としての飼養管理上の指導・助言を受けるため、分娩30日経過後に獣医師に診断を受けること、第2に、体力維持のために毎年5月末〜10月末までの間受胎牛を放牧することである。
 しかし、放牧については公共放牧場での放牧頭数枠が定められており希望するすべての頭数を放牧することが不可能な状態で、そのため残りの母牛は敷地内パドックを利用しているが、放牧牛との体力差が大きくみられるので、これを克服し連産を維持するため他の放牧場の利用も検討している。

 小野さんが自慢としている経営に貢献する長命・連産牛の繁殖成績の一部を別表に示した。
 小野さんに今後の抱負をたずねると、長男(和宏さん24歳)が3年間のサラリーマン生活に終止符を打ち、現在は後継者として就農しており、将来は長男と2人で60頭規模の繁殖経営を計画しているとのことであった。
しかし、今のところ長男の方は先進地研修(繁殖経営)を希望しており、それが実現し正式に就農するまでは、現在の経営規模を維持していくとのことである。

 最後に「産歴が進むにつれ分娩間隔にもバラツキが生じてきており、また、生産されてくる子牛も幾分小さくなる傾向があり、これがまた出荷時期の遅れの原因となる。これらの克服の対策としては牛個体ごとの観察を強化することと、獣医師やJA等の助言・指導を受けながら飼養管理方法にも研究を重ねて、長命・連産の維持を行い課題の解消に努力し、経営を安定させたい」と述べられておられ、「稲作+肉用牛」の複合経営から肉用牛繁殖専門経営一筋に生きていく意気込みの強さが感じられた。

 

別表 長命・連産牛の繁殖成績
名号生年月日
きんひかり号
昭和56年9月11日
(8産分娩後導入)
よしただ号
昭和58年10月7日
(7産分娩後導入)
かわやす号
昭和60年4月29日
(5産分娩後導入)
しげふじ号
昭和63年12月27日
(5産分娩後導入)
とちふく号
平成元年4月3日
(4産分娩後導入)
産暦
分娩月日
性別
分娩間隔
分娩月日
性別
分娩間隔
分娩月日
性別
分娩間隔
分娩月日
性別
分娩間隔
分娩月日
性別
分娩間隔
初産
昭58.11. 5
ヵ月
昭60.10.18
ヵ月
昭62. 6. 4
ヵ月
平 2.10.27
ヵ月
平 3. 4. 1
ヵ月
2
昭59.10. 1
10.8
昭62. 3.18
16.9
昭63. 6. 1
11.9
平 4. 2.23
15.9
平 4. 3. 1
10.9
3
昭60. 9.18
11.5
昭63. 3.10
11.7
平 1. 7.24
13.7
平 5. 3.10
12.4
平 5. 1.21
10.7
4
昭61. 8.20
11.0
平 1. 3. 2
11.7
平 2. 9. 1
13.2
平 6. 1.30
10.7
平 6. 3. 8
13.5
5
昭62. 7.25
11.1
平 2. 4.25
13.7
平 3. 8. 6
11.1
平 7. 1.12
11.4
平 7. 3.13
12.1
6
昭63.11.27
16.1
平 3. 6.13
13.6
平 4. 9.25
13.6
平 8. 4.30
15.5
平 8. 2. 1
10.6
7
平 1.12. 8
12.3
平 4. 8. 1
13.6
平 5.11.26
14.0
平 9. 7.22
14.7
平 8.12.26
10.8
8
平 3. 1.28
13.6
平 5. 5.29
9.9
平 6.11.24
11.9
平10. 7. 3
11.4
平 9.12. 9
11.4
9
平 4. 1. 8
11.3
平 6. 5.25
11.8
平 8. 2.13
14.6
 
(13.1)
 
(11.4)
10
平 5. 3. 8
13.9
平 7. 6. 5
12.3
平 9. 1.13
10.9
 
11
平 6. 5.30
14.7
平 8. 6.10
12.1
平10. 2.10
12.9
 
12
平 7. 5.20
11.6
平 9. 5.19
11.2
 
(12.7)
 
13
平 8. 7.12
13.7
平10. 5. 9
11.6
 
 
 
14
平 9. 8.27
13.5
 
(12.5)
 
 
 
 
 
(12.7)
 
 
 
 

(報告者:秋田県畜産会総括畜産コンサルタント)

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