セミナー生産技術

 

「個」から「群」へ、「群」から「個」へ(2)

 

原 田 英 雄

 どうしても涙を押し堪えて読むことのできない一節があります。それは、小島直記著「老いに挫けぬ男たち」(新潮社文庫)の「おとな」という部分です。
 神戸の小学校に鹿島和夫さんという教師がいます。その鹿島さんのクラスに「あおやまたかし」という家庭的に恵まれず、学力的にも優秀でない一人の生徒が入ってきます。服装といえば着たきり雀、近寄れば臭い、友達に暴力はふるうし、学校では暴れる。唯一の楽しみは給食で、3時間目の授業になるときまって「きゅうしょく、まだかあ」と催促します。
 6月、遠足で武庫川の上流にでかけることになります。多くの子供は真新しいリュックサックで喜々としている中で、たかしくんはお婆さんの使い古しの手提げ袋の中に、自動販売機で買った弁当を入れて行きます。新しい父親と戻ってきた母親に初めて買ってもらったビーチサンダルを履き。ところが、食事の時、女の子がサンダルを川に流すという事件がおきます。サンダルは対岸の灌木に引掛かりましたが、川は深く、橋もないので教師はあきらめるよういいます。その時、たかしくんは教師の止めるのも聞かず、「とったるわ」と、ずぶ濡れになりそのサンダルを取りに行きます。しかし、今度は自分のサンダルを流してしまいます。そして、「ぼくのサンダルながれたあ。おかあちゃんにこうてもうたサンダルが流れていったあ」と泣き叫びます。「ぼく、るみちゃんのんとったったのに、ぼくのサンダルだれもとってくれなかったあ」と怒りました。
 10月、めったに出すことのないたかしくんが、生徒と教師の連絡帳「あのね帳」に去って行った両親と兄弟について、次のような詩を書きました。
 『がっこうからうちへかえったら だれもおれへんねん ・・・・・・・・・・ ばんにおばあちゃんがかえってきた おじいちゃんもかえってきた おかあちゃんが「たかしだけおいとく」と おばあちゃんにいうてでていったんや おかあちゃんがふくしからでたおかね みんなもっていってしもうた ・・・・・・・・・・ あたらしいおとうちゃん ぼくきらいやねん いっこもかわいがってくれへん おにいちゃんだけケンタッキーつれていって フライドチキンたべさせるねん ぼくつれていってくれへん ぼくあかちゃんようあそんだったんやで だっこもしたった おんぶもしたったんや ・・・・・・・・・・』

(・・・・は省略)

 家に帰ってもだれもいない。腹が減る。怒りをガラス戸にぶつける。祖父は怒ってランドセル、教科書、「あのね帳」を川へ投げ込む。やがて、たかしくんは転校して行った。


6.ボディコンディションを測ろう

 人を評価する場合も、牛を評価する場合にも、表面で評価するのは危険です。よく、この牛群は揃っているとか、あの牛群は牛が太ったり、痩せたりして不揃いで問題だとかいいます。しかし、この表現は正確ではありません。泌乳最盛時のものであれば痩せていてあたり前。泌乳後期のものであれば太っていても当然です。このようなものが混在していれば、牛群はバラつきます。
 牛の太り具合を評価するために、よくボディコンディションスコア(BCS)が用いられます。最近、よく用いられているものはペンシルベニア大学のファーガソン博士によるものです。腰角、太腿股関節、座骨の三角形(骨盤の側望)を基準とし、それがV字形であるかU字形であるかをまず判定し、順を追ってみていきます。順次、仙骨靱帯、尾骨靱帯、腰角、座骨とみていくものです。そして、評価値を1から5の5段階(1は極めて痩せた牛、2は痩せた牛、3は平均的なもの、4は太ったもの、5は極めて太ったもの)とします。さらにこれを細かく評価するために0.25刻みの数値を用い、3.25とか3.50とか点数化します。実際的な評価法は「Dr.Fergusonのボディコンディション評価法」(ウイリアムマイナー農業研究所発行)などいくつかのテキストにもでていますので参考にしていただきたいと思います。
 このBCSは泌乳期によってそれぞれ最適なものがあるとされます。しかし、絶対的なものとして捉えない方がよいと思います。なぜなら、研究者によってその最適スコアが違うし、判定も個人によって主観が入り、若干異なるからです。おおよその目安として考えた方がよいと思います。


7.分娩時の最適BCSは3.5がよい

表―2 泌乳期別の最適ボディコンディションスコアの目安

泌乳期

分娩期
0日

泌乳初期
0〜4週間

泌乳前期
1〜4月

泌乳中期
4〜8月

泌乳後期
8〜10月

乾乳期

BCS

3.5〜4.0

2.75〜3.25

2.5〜3.25

2.75〜3.5

3.25〜3.75

3.5〜4.0

 表−2にその目安を載せました。分娩時には、3.5から4.0の範囲のものが最適です。分娩時にあまりにも太りぎみの場合(BCS4以上)には、難産、乳房炎、ケトーシス、乳熱、後産停滞、第四胃変位などの原因となります。また、飼料摂取量の低下の原因ともなります。さらに、それだけでなく乳量低下をも引き起こします。このことを図−6でみていただきたいと思います。これはウォルトナーの研究によるものですが、分娩時におけるBCSと分娩後90日間のFCM量との関係を示したものです。初産次から3〜4産次にかけていずれの場合においても、BCSが1から漸次3.5まで高くなると90日間FCM量は曲線的に増加します。しかし、4以上になると逆に90日間FCM量は低下していきます。このことから、泌乳能力を最大限発揮させるためには、分娩後のBCSに最適なものがあることがわかります。それは3.5程度ということです。


8.分娩後のBCS減少量は0.75以内に

 次に、乳牛の分娩後の痩せて行く具合はどうかということです。一般的には、牛群のうち約80%が分娩時から分娩後40日の間にBCSを0.5から0.75低下させます。この場合、BCSが1低下するということは体重(体脂肪)を約48kg損失させることに匹敵します。そして、2産次以上の牛では50〜60日以降において、体重は回復傾向となり、1週間につき約2kgの割合で増加していきます。ただし、初産の場合はこれらとは異なって、前回述べたように体重が減少する期間は短く、漸次2産に向かって体重は増加していきます。
 一方、高泌乳牛の場合には、よく知られていることですが、体重が著しく減少します。しかし、その減少程度が著しい場合には多くの問題を引き起こします。とくに、BCSの高い乳牛や高産次の乳牛では体重の著しい減少(体脂肪の減少)はケトーシスや乳熱等の発生要因ともなります。
 これもウォルトナーの研究によるものですが、分娩後のBCSの変化(痩せていく程度)は乳量生産にも深い関係があります。図−7をみていただきたいと思います。分娩後のBCSの変化と305日間のFCM量との関係を図に示したものです。初産次から4産次にかけてはいずれにおいても、BCSの変化(減少)が0.75〜1.00までの範囲においては、減少すればするほど305日間、FCM量は反比例して増加します(分娩後、乳牛が痩せれば痩せるほど乳量が多くなるということ)。ところが、BCSの減少が1.0以上に大きくなると、逆に305日間FCM乳量は少なくなって行くことがわかります。
 この図−6、図−7を併せて考えるならば、分娩時における理想的なBCS値は次のようにいうことができます。すなわち、分娩時のBCSの目標値は3.5。分娩後の最低のBCS値は2.75であること。しかし、これはあくまでも一般的なことであって、必ずしも現実にはそのようにうまくいくとは限りません。そうでなくても高泌乳を得ることができます。


図―6 分娩時のボディコンディションスコアと90日間FCM乳量との関係
(ウォルトナー、1993)


図―7 分娩時のボディコンディションスコアの変化とと305日間FCM乳量との関係
(ウォルトナー、1993)


9.BCSは低くても乳量が多い場合もある

 そこで、ボディコンディションが低くても、乳量が多い場合もあるということを事例により紹介したいと思います。筆者がこのことに気づいたのは、愛知県額田郡にある片岡牧場さんの乳牛を見てからです。その牛群は誰がみても痩せているの一言に尽きます。しかし、乳量水準は約1万kgと極めて高い水準にあります。もちろん、2回搾乳です。表−3をみていただきたいと思います。同牧場の1992〜1996年までの牛群検定成績の推移を示したものです。乳量水準は8000kg台から1万kg台の間で推移しています。最近5カ年の平均値では約9400kgとなっています。規模は表にもあるように約30頭台と必ずしも大きくはありません。しかし、高い乳量水準を維持しています。ただし、問題点としてあげられるのは表にもみられるように繁殖成績が良くないことです。分娩間隔は、400日を越え、空胎期間は120日以上です。種付け回数は約2回とそれほど悪くはありませんが、初回発情は90日前後と遅くなっています。

表―3 片岡牧場の牛群成績

項 目

1992年

1993年

1994年

1995年

1996年

搾乳牛頭数

32

31

34

32

31

乳量水準(kg)

8,973

9,559

8,638

10,200

9,741

分娩間隔(日)

404

412

414

395

445

空胎日数(日)

120

147

122

140

129

種付け回数(回)

1.8

2.2

2.2

 

1.9

初回発情(日)

100

89

84

95

98

 ところで、牛群のボディコンディションをみてみると、これはと思うほど痩せています。そこで、筆者は思い切って同牛群のボディコンディションスコアを測定してみました。1996年の11月中旬のことです。その結果は、図−8にBCSの泌乳期別の分布として表しました。
 図中に散布した同牛群のBCSの平均値は2.95です。牛群のBCSの平均値としては明らかに低い値です。とくに、分娩後から100日までのものは低く、乳牛のほとんどがBCSは3.0〜2.5の範囲に入っています。また、200日になっても3.0を越えるものは少なく、 220日頃からようやく3.0を越えるものが現れてきます。しかし、それでもなお300日近くになっても、BCSは3.0を下回るものが5割います。


図―8 ボディコンディションスコアと泌乳期別推移


図―9 乳量の泌乳期別推移

 そこで、この牛群における日乳量の泌乳期別の分布をみてみることにします。図−9にこれを示しました。150日を過ぎても30kg/日の乳量の牛がいます。300日を越えてようやく20kg/日以下となります。牛群全体の平均日乳量は32.1kgで、高い日乳量ということがいえます。この値を用いれば、前回示した回帰式からでも1万kgであると推定されます。また、泌乳曲線をみると、夏季の分娩牛のように泌乳のピークを描きません。泌乳期が進むにしたがって、乳量は最初から緩慢的にかつ直線的に低下して行きます。これは、泌乳初期の栄養不足(エネルギー不足)というストレスのために直線的低下となったものと考えられます。体脂肪動員がもっとあれば、泌乳のピークが形成され、カーブを描くものと思われます。同様に、乳蛋白質率の泌乳期別の分布を図−10に示してみました。乳蛋白質率については、200日頃までは5割程度が3%を下回り、やや低い状況にあります。しかし、全体としては平均値が3.33%となっており良好な値といえます。


図―10 乳蛋白質率の泌乳期別推移


図―11 乳脂率の泌乳期別推移

 一方、乳脂率についてみると、図−11に示すとおりです。泌乳期の一部分については3%を下回るところがありますが、全体としては乳蛋白質率と同様にそれほど低くはありません。全体の平均値は3.87%と比較的良好な値となっています。


10.飼料の実態を把握しよう

 ところで、このように牛が痩せているのにもかかわらず、乳量は多く、乳蛋白質率や乳脂率は比較的良好であるということから、一体どんな飼料が与えられているのか、その給与飼料に興味をひかれます。一般に、牛が痩せているということは給与飼料が不足しているものとみてよいと思います。そして、その結果乳量が少なく、乳蛋白質率も低くなります。ところが、片岡牧場の場合はそうはなっていません。同伴していた普及員も首を傾げていました。

表―4 片岡牧場の乳量別飼料給与量

飼料名

乳   量

20kg

30kg

40kg

50kg

自家配合

5

5

5

5

市販配合

3

5

7

9

ヘイキューブ

3.5

3.5

3.5

3.5

ビートパルプ

4

4

4

4

スーダン乾草

3

3

3

3

オーツヘイ

2

2

2

2

 

 

 

 

 

乾物給与量(kg/頭)

18.1

19.8

21.6

23.4

TDN給与率(%)

122

102

89

80

給与飼料中の成分含量

 

 

 

 

TDN(乾物%)

70.9

2.3

73.4

74.4

CP(乾物%)

14.6

15.0

15.4

15.8

ADF(乾物%)

23.9

22.8

21.8

21.1

NDF(乾物%)

41.4

39.7

38.3

37.2

 そこで、同牧場が実際に与えている飼料構成を調べてみました。その結果は、表−4に示したとおりです。ここには、牛群の平均体重を約600kg(実際には630kg)と想定し、乳脂率を3.5%(実際には3.87%)を産出基礎においています。乳量に応じ、10kgごとに市販配合飼料を2kgづつ増加させています。TDNの給与率をみていると、40kg以上では明らかにエネルギー不足です。30kg台でも給与率は102%になっていますが、残餌や腹の下へ入り込む飼料を考えれば、実際にはエネルギー不足とみることができます。飼料の給与量が少なく、乳量は比較的多く、乳蛋白質率はそれほど悪くはない。この点を経営的な観点からいえば、極めて効率の良い飼料の与え方になります。
 なお、給与飼料中の成分含量については、高泌乳牛では乾物中のTDNが73〜75%必要なことから、表の値であれば妥当なものとして考えられます。しかし、CP(粗蛋白質)については、乾物中は17%程度は必要ですので、表の飼料では2%程度低いといえます。したがって、CPを高めるように飼料構成を変更する必要があります。また、繊維についてはADF(酸性デタージェント繊維)、NDF(中性デタージェント繊維)それぞれ21%以上、35%以上あることから、低乳脂率やルーメンアシドーシスになるような危険性はありません。この飼料構成でよいと思われます。


11.牛乳の脂肪酸組成もBCSと関係する

  つぎに、この牧場の特質をもう一つの別の観点、すなわち乳牛の生理状況(たとえば血液性状やルーメン内性状あるいは牛乳組成)といった観点からみてみたいと思います。他の牧場の牛群とは何か違った特性があるのではないかと思ったからです。そこで、まず思いたったのが牛乳の脂肪酸組成です。なぜ、牛乳の脂肪酸組成かというと、野外においては、血液やルーメン液を採取するのに種々の制限があるからです。その点、牛乳は簡単に採取できます。
 図−12をみていただきたいと思います。これは、ボディコンディションが低い農家(低BCS、ここでは片岡牧場)とそれが中くらいの農家(中BCS)、きわめて高い農家(高BCS、この牛群では直腸検査をすると脂肪が腕の周りにベッタリつきます)の牛乳中の不飽和脂肪酸を泌乳期ごとにみたものです。この図から明らかにいえることは、BCSの低い牛群はBCSの高い牛群に比べて、泌乳期のどの時期をとってみても、不飽和脂肪酸が少ないことです。
 また、この3戸の牛群は、いずれも泌乳初期には不飽和脂肪酸は高いけれども、泌乳のピーク時や中期においては低下し、泌乳末期には再び高くなる傾向があることです。このことからいえることは、分娩後に太った牛ほど体脂肪を動員させ、不飽和脂肪酸を牛乳中へ多く出すことです。逆に痩せた牛ほど体脂肪を動員する量が少なく、牛乳にはその影響が少ないことです。したがって、牛乳中には不飽和脂肪酸は少なく、飼料由来の飽和脂肪酸が多くあります。泌乳の末期の牛には体脂肪が蓄積されますので、そこから動員される不飽和脂肪酸が多くなります。牛乳中への不飽和脂肪酸が増加することになります。この場合にも、太った牛ほど不飽和脂肪酸が多くなるということです。
 これらのことから、片岡牧場の牛乳では体脂肪由来の不飽和脂肪酸が少なく、飼料由来の飽和脂肪酸が多いことになります。そしてこのことは、飼料効率がよいことをも示しています。なぜなら、飼料エネルギーは体脂肪として蓄積するために、さらにエネルギーが必要とされます。飼料エネルギーは体脂肪を経由して、牛乳を生産するよりも、直接牛乳エネルギーになることの方がより効率的であるからです。


図―12 乳牛のBCSと牛乳中の不飽和脂肪酸の泌乳期別推移との関係

 片岡牧場の最大の利点は、飼料効率がきわめてよい点だと思います。また、分娩時のBCSが低いことは、健康問題が少ないことにもつながっており、この点でもよいことです。しかし、繁殖成績が悪いことは最大の欠点です。BCSがもう少し高ければ、乳量も増えます。片岡さんは人工授精師です。授精技術には自信があります。問題は牛群管理にあります。このことは、牛群のBCSに表れていますし、また牛乳の脂肪酸組成にも表れています。乳蛋白質率が泌乳期前半に低いのは、給与飼料からのエネルギー不足です。発情回帰が遅いのは、ボディコンディションの回復が遅いからです。片岡さんは泌乳初期には飼料の給与量を抑えているといっています。このことは、やはり問題であるといえます。分娩後のBCSの減少をいかに抑えるか、これは繁殖成績の向上だけでなく、泌乳量の増加にもつながってきます。前回、普通の泌乳牛には1万kgの能力があるといいました。片岡牧場の牛群には1万2000kgの能力があるのではないかと筆者は思っています。片岡さんはいわゆるブリーダーといわれる人ではありません。普通の酪農家です。牛群検定を実施し、検定済み種雄牛を積極的に利用して、牛づくりをやってきた人です。一つひとつ技術を酪農の基本にかえって、それを組合わせれば、1万2000kg搾乳は可能です。
 物事を表面で判断することは危険です。よって来る所以を明らかにして、多くの情報を得て、何をしたらよいかを正確に判断し、実行することです。
 次回は、繁殖について述べたいと思います。

(筆者:愛知県立農業大学校畜産科長)