生産技術セミナー

 

子牛の下痢対策を確実にして発育遅延を防止しよう(2)

治療・看護4つのポイント、病畜の収容と予防的治療・大量の補液と点滴・

下痢止の慎重投与・体力が十分回復後に放牧

 

岡 崎 充 成

 

はじめに

 前回は下痢予防のポイントとして、「初乳の分娩後4時間以内の摂取」、「乾燥牛床でストレス軽減」、「感染源(細菌等)を少なくする」の3点を述べました。

 これを実施すれば下痢の発生は非常に少なくなるし、発生しても軽くて済むと思います。しかし、何らかの事情で予防対策ができない場合もあります。実際例として沼尻支場のように放牧地で分娩させるときは、初乳の摂取状況の観察は不可能です。放牧場そのものは太陽の紫外線で殺菌されているので牛舎より無菌に近いのですが、風雨・気温の変化等自然の厳しさをまともに受けるので、1頭が下痢をすれば次々と感染し、集団発生することがあります。また、牛舎で分娩させても、夜間分娩で朝になって見つけ、良く吸乳していると思っても8時間以上も経過していて、初乳中の免疫物質が腸管から体内に吸収されないこともあります。その他の予防対策にしても、完全にできないことはままあるものです。このような条件下で不幸にして下痢が発生してしまったときは、発育遅延をさせないということが最も重要で被害を最小限にすることができます。方法としては早く発見し、適正な看護と早期に省力的治療(これが今回のオリジナル)を行い、体力を消耗させないうちに治してしまうことです。下痢子牛を発育遅延させない看護と治療のポイントは次の4つと考えています。これらについて沼尻支場の具体例を折り混ぜながら考えていきたいと思います。

第2 下痢子牛を発育遅延させない看護・治療の4つのポイント

●ポイント1:下痢子牛は親子で牛舎に収容し、同居子牛は予防的治療のため抗生物質を投与する

●ポイント2:大量経口補液は何回にも分けて投与し、大量点滴は「牛にやさしく」時間をかけて

●ポイント3:下痢止剤の初期投与は慎重に

●ポイント4:放牧等は体力が十分回復してから行うこと


1.下痢子牛は親子で牛舎に収容し、同居子牛は予防のため抗生物質を投与する

 放牧など群飼をしている場合に親子で収容することは、感染源を広げない、体力を消耗させない、いつでも治療ができる等の意味があります。また、1頭が発生すると同居子牛が次から次に発生するので、2カ月齢以下の子牛は予防的治療のため抗生物質の投与が有効です。

(1)親子で収容(隔離)

 下痢子牛とその母牛が群飼の場合は、集団から隔離して収容することが重要です。これは5つの大きな意味があると考えています。

@感染源の拡散防止

 細菌等の感染源を広げないこと、つまり、健康な子牛への感染の機会を少なくすることによって、集団発生の防止はかなりできます。そのためには下痢子牛は親子で収容する必要があります。

A運動による体力消耗を少なくする

 牛は集団で行動する習性があるので、下痢をしていても親と一緒に行動します。軽〜中程度の症状なら、健康な子牛より捕まえにくく、みかけ上は元気がある(軽度の神経症状を呈していると思われる)ようなことがあります。これを収容しないでおくと体力が消耗してしまい動けなくなり、口の中が冷たくなった事例に何度も遭遇したことがあります。放置すれば間もなく死亡したと思います。牛は野生の時代、草食動物の宿命として肉食動物から身を守るため常に集団で行動する習性がついたのでしょう。したがって、下痢子牛(肛門及びその周囲に白い下痢便を付けている場合もある)を見つけたらただちに収容すべきです。

B病畜は集団にいることだけでストレスを受けている

 動物は人間のように病院があったり、弱者を収容するような施設を持っていませんので、自分の種族を守るために弱ったものを排斥します。親も最初のうちはある程度保護しますが、群全体としては突いたり、追い回したりしますので、下痢子牛は集団の中にいることだけで大きなストレスを感じているのです。サバンナのような自然界ならいざしらず、経済活動として牛飼いをしているのですから、弱肉強食などといっていては経済効率が悪くて問題になりません。とくに、血統の良い牛はいちばん先に淘汰されてしまいます。弱った子牛はあなたの助けを待っています。すぐ収容してやれば恩返しとして、あなたのフトコロ(収入)を必ず暖めてくれるでしょう!!

C乳房炎以外は下痢子牛の断乳はしないほうが良い(私の経験から)

 子牛の下痢に断乳が有効であったという報告がありますが、母牛が乳房炎を起こしていて、それが原因で子牛が下痢を起こしている場合は別として、断乳はしないほうが良いと思っています。それは表─2から表─3のように治療(看護)方針を大きく改め、大量経口補液・大量点滴(後述)をするようにしたことによって、口の中が冷たくなり、起立しようともしない重症子牛でも1〜2日で治癒するからです。親子分離をすると母子ともに落ち着かなくなり、そのストレスは非常に大きいと思われます。また、母性本能の少ない牛などは、離れていたことによって授乳しなくなる可能性もあります。これらのことから断乳はしないほうがよいと思っています。

D収容していればいつでも治療が適正にできる

 牛舎に収容していれば、経口補液を一つとっても一日に何回でもできますが、放れていると捕獲が大変で、結局治療は最低のことしかしなくなります。「沼尻でも以前は、ほとんど動けなくなるまでは収容しないで治療していました。一人では捕獲できないので適正な治療がなかなかできませんでした。もちろん、日に何回も捕獲などできないので、経口補液を何回にも分けて投与(後述)することは絶対できません。はじめ軽〜中程度の症状であったものが、治療しているのに段々悪くなって、最後に重症になってから収容しても、治療に長期間を要したため、放牧場には数カ月間出せないし、発育遅延にもなってしまった」という経験を何度かしています。
 親子で収容するのは大変な作業ですが、早期に適正な治療さえすれば、発育遅延は起こさないので、治療・看護日数も少なくて群に戻せます。また、同居子牛への感染も抑えられますので、結果として省力的で経済効果も大きいことになります。以上のように多くのメリットがありますので是非実行してください。

表─2 旧治療(看護)方針(平成4年〜7年実施)

1.下痢が2〜3頭でた段階で、集団発生と予想し抗生物質を全頭に投与。

2.発症子牛の治療及び看護方針

  子牛の下痢を発見したら親子で牛舎に収容し、点滴を中心とした治療をする。下痢が止まれば治療はしないが、体力が十分回復してから抗生物質を投与して放牧する。具体的な治療方法は次のとおり。

(1)軽症

@ 症状 軟便〜下痢・元気良く、毛ツヤ等も良い。重症の前兆の場合もあるので要注意。

A 治療 経口補液300〜500pにベリノール沫10gをまぜて投与     1回/日

     VB1加リンゲル糖注120p皮下注(両頸側等)         〃

     テラマイLA約5p(1p/10kg)             1回/2〜3日

     バソラミン注(orトラムリン注)約5p(1p/10kg)

B 看護 止痢確認後4〜7日間舎飼いで様子を観察し、異常がなければテラマイLA約5pを投与後放牧すること。

(2)中症  

@ 症状 下痢・元気無く、毛ツヤも悪い。

A 治療 AM:経口補液300〜500pにベリノール沫10gをまぜて投与  1回/日

        VB1加リンゲル糖注120p皮下注(両頸側等)       〃

        テラマイLA約5p(1p/10kg)          1回/2〜3日

        バソラミン注(orトラムリン注)約2〜2.5p(0.5p/10kg)〔2回/日〕

     PM:VB1加リンゲル糖注500p静注             1回/日

        保存初乳300〜500p投与                 〃

        バソラミン注(orトラムリン注)約2〜2.5p(0.5p/10kg)〔2回/日〕

B 看護 止痢確認後7〜14日間舎飼いで様子を観察し、異常がなく、体力が十分付いたらテラマイLA約5pを投与後放牧すること。

(3)重症@ 症状 激しい下痢、元気まったくなし、後駆蹌踉、口の中が冷たくなったり、まったく起立できなくなればさらに重症。

A 治療 AM:経口補液300〜500pにベリノール沫10gをまぜて投与  1回/日

        VB1加リンゲル糖注500〜1000p静注           〃

        テラマイLA約5p(1p/10kg)          1回/2〜3日

        バソラミン注(orトラムリン注)約2〜2.5p(0.5p/10kg)〔2回/日〕

     PM:VB1加リンゲル糖注500〜1000p静注          1回/日

        保存初乳300〜500p投与                 〃

        バソラミン注(orトラムリン注)約2〜2.5p(0.5p/10kg)〔2回/日〕

B 看護 止痢確認後14日〜数か月間舎飼いで様子を観察し、異常がなく、体力が十分付いたら、テラマイLA約5pを投与後放牧すること。

表─3 新治療(看護)方針(平成8年〜実施)

1.子牛の下痢

  下痢等の集団発生、2〜3頭でた段階で全頭治療(抗生物質注射等)。症状に応じ次のような処置をする。ただし、下痢収容後2日間程度は止痢剤を投与しないこと(下痢は生体内の毒物を排出する作用があるので、初期に止痢剤を投与するとO-157のような疾病は重篤になるので投与しない方が良い)。体温が39.5℃以下の場合は、抗生物質投与は2回以下とする。牛舎に収容して治療、治療後体力が回復してから放牧地へだす。

(1) 軽症(G1)

@ 症状 軟便〜下痢・元気良く、毛ツヤ等も良い。重症の前兆の場合もあるので要注意。

A 治療 経口補液2rを3回/日に分け投与。

     テラマイLA約5p(1p/10kg)2〜3日間隔で投与。

     バソラミン注(orトラムリン注)約5p(1p/10kg)

B 看護 止痢確認後4〜7日間舎飼いで様子を観察し、異常がなければテラマイLA約5pを投与後群へ放す。>

(2) 中症(G2)

@ 症状 下痢・元気無く、毛ツヤも悪い。

A 治療 経口補液3rを4〜5回/日に分け投与。

     VB1加リンゲル糖注1r静注

     (等張リンゲルと5%ブドウ糖液を混合すると、低張溶液になり循環器系の負担が軽減される)

     テラマイLA約5p(1p/10kg)2〜3日間隔で投与

     バソラミン注(orトラムリン注)約5p(1p/10kg)

B 看護 止痢確認後7〜14日間舎飼いで様子を観察し、異常がなく、体力が十分付いたらテラマイLA約5pを投与後群へ放す。

(3) 重症(G3)

@ 症状 激しい下痢、元気まったくなし、後駆蹌踉、口の中が冷たくなったり、まったく起立できなくなればさらに重症。

A 治療 経口補液4rを6回/日に分け投与(投与間隔1時間以上)。

     VB1加リンゲル糖注2r静注

     テラマイLA約5p(1p/10kg)2〜3日間隔で投与

     バソラミン注(orトラムリン注)約5p(1p/10kg)

     必要に応じ重曹等で血中のpHを調整する。

B 看護 止痢確認後14日〜数か月間舎飼いで様子を観察し、異常がなく、体力が十分付いたら、テラマイLA約5pを投与後群へ戻す。

表−4 経口補液剤一覧表(1996年8月時点)

臨床獣医Vol.14 No10(1996)より

商  品  名 組   成 発  売  元
エフィドラル発砲錠 本製品1錠(48.7g)中
 塩化ナトリウム2.34g、塩化カリウム1.12g
 炭酸水素ナトリウム6.72g、無水クエン酸3.84g
 乳糖32.44g、アミノ酢酸(グリシン)2.26g
ソルベイ
エレクトロプラスA 本製品1包(47.7g)中
 塩化ナトリウム7.01g、塩化カリウム2.24g
 クエン酸ナトリウム7.84g、アミノ酢酸9.00g
 ブドウ糖21.61g
バイオサイエンス(株)
エンビガー1号 本製品1包(60g)中
 塩化ナトリウム5.84g、炭酸水素ナトリウム1.68g
 クエン酸ナトリウム3.44g、乳酸カルシウム1.08g
 アミノ酢酸9.00g、ブドウ糖38.52g
共立商事(株)
エンビガー2号 本製品1包(60g)中
 塩化ナトリウム4.68g、塩化カリウム3.00g
 クエン酸ナトリウム3.44g
 アミノ酢酸9.00g、ブドウ糖39.48g
日清飼料(株)
カーフナーサー 本製品1包(65g)中
 塩化ナトリウム7.00g、塩化カリウム2.20g
 クエン酸ナトリウム7.80g、アミノラップ9.00g
 ブドウ糖38.935g
日清飼料(株)
カーフライトA A粉末(25.2g)中
 塩化ナトリウム7g、塩化カリウム3g
 酢酸ナトリウム(無水) 6.6g
 アミノ酢酸(グリシン) 8.6g
日産合成工業(株)
くみあいレクテード B粉末(20.6g)中
 ブドウ糖20.6g
日本全薬工業(株)
サラーロン 包装A(19.4g)中
 日局塩化ナトリウム8.56g、日局無水クエン酸0.49g
 クエン酸カリウム0.11g、日局アミノ酢酸6.17g
 食添リン酸一カリウム4.07g
包装B(44.6g)中
 ブドウ糖44.6g
(株)科学飼料研究所
ソルマE 本製品1袋(80g)中
 塩化ナトリウム 6.4g、塩化カリウム 3.7g
 無水クエン酸ナトリウム 9.9g、アミノ酢酸(グリシン)16.6g
 ブドウ糖42.2g、乾燥硫酸マグネシウム 1.2g
フジタ製薬(株)
ホニプロン末 本製品 100g中
 プロピオン酸カルシウム10.5g
 クエン酸カルシウム30g、炭酸カルシウム適量
日本全薬工業(株)
マグコンゾール 本製品 100p中
プロピオン酸カルシウム25g
日本全薬工業(株)

(2)同居子牛は予防的治療のため抗生物質を投与する

 抗生物質による予防的治療ですが、牛群に下痢子牛が1〜2頭発生した時点で2カ月齢以下の子牛全頭に、長期間タイプのテトラサイクリンを注射します。だいたい1回の注射で治まりますが、続けて発生するようなら約1週間後に再度全頭注射します。これでほとんど予防ができます。
 同じように抗生物質で予防的治療をしているN牧場の最も悪い例です。子牛の下痢が発生すると母牛にテトラサイクリンの粉末を水槽に溶かして飲水投与します。当然乳汁に抗生物質が出てきます。この乳汁中の抗生物質で子牛の下痢を予防しようというわけです。初めは効いたが間もなく効かなくなったそうです。さらに子牛に直接投与しても効かなくなったそうです。しかたなくペニシリン(長期間タイプ)を使用したが効かないので、ウイルス性の下痢ではないかというのです。N牧場では専属の獣医師がいるのですが、2つの間違をしていると思います。

@親牛の乳汁を介しての抗生物質の投与ですが、子牛に直接注射するのに比べ体重換算だけでも10〜20倍の量が必要でしょう。同居牛群に投薬が必要な牛が20%であったとすると、50〜100倍の抗生物質を使用したことになります。さらに乳汁中にどのくらい移行するのかが不明であり、下痢を予防できるだけの抗生物質が投与されたかどうかも疑問です。したがって、耐性菌ができるのは時間の問題だったと思います。

A子牛の下痢は大腸菌によることが多いのですが、ペニシリン系は大腸菌には効かないので、無意味な治療をしていたことになります。治らないのは当然だと思います。

 このようにまちがった薬剤の使用は病気を治らせないばかりか、抗生物質の乱用は環境破壊につながりMRSの出現にも結びつくので、我々技術者としても大いに戒めなければならないことですが、畜主の方も「おかしいと思った技術」は取り入れないようにしていただきたいと思います。


 2.大量経口補液は何回にも分けて投与し、大量点滴は「牛にやさしく」時間をかけて

 大量の経口補液は何回にも分けて投与するのがよく、1回の限度はビール瓶1本=約0.64rが適当と思われます。大量の点滴は横臥保定器と留置針接着法の開発で、無人でもできるので「牛にやさしく」時間をかけて行うことができます。点滴は特別な技術がある人は別として、獣医師に依頼しなければならないと思いますが、経口補液は誰にでもできることなので、こちらから先に考えましょう。

(1)大量経口補液は何回にも分けて投与

@投与方法のノウハウ

 表3の新治療(看護)方針に示すように、重症の場合は経口補液を4r投与する必要があります。これを小分けして回数は多ければ多いほど良いのですが、私は1〜2時間おきに6回に分けて投与しています。具体的投与方法(案外重要なノウハウ)ですが、1袋で2rの補液剤があったと仮定します。写真─6、図─1のように、まず最初に2r分を1本のビール瓶に溶かします。それを3本のビール瓶に等量ずつ分けます。1回目の投与はその1本をお湯でうすめ、微温湯にして投与します。投与はゆっくりと行い、子牛がむせた場合は中止し、むせるのがおさまってから再開してください。無理をすると誤嚥性肺炎を起こす可能性があります。2回目は1〜2時間後の投与ですが、極寒期などは小分けした1/3量(濃度3倍)の経口補液は凍る寸前ですので、少し熱めのお湯を入れて微温湯にして投与すればよいので非常に省力的です。逆に夏などは冷蔵庫に入れて保存し、同じくお湯で微温湯にして投与してください。

図―1 経口補液の調整及び投与方法(簡単に調整し、省力的に十分量を投与しよう)

写真―6 経口補液材(21分)を1本に溶かして、3本に分けて注入するところ

A経口補液の重要性

 経口補液剤については恥ずかしいことですが、下痢の治療効果をあまり期待していませんでした。それが平成8年3月、福島しゃくなげ会主催で行われた、岩手大学内藤先生の講演を拝聴し、それまでの治療方法の間違いが思い知らされました。それは表─2の「旧治療(看護)方針」のように経口補液量が少なく、次の2点が改善されないために効果があがらなかったものと思われます。@点滴量だけでは足りなくて脱水症状が改善されなかった。A下痢子牛の体液は酸性になっているのが多いが、経口補液中に含まれるクエン酸等は体内に吸収されて体液を酸性→弱アルカリ性に戻すという薬効が不十分だった。その後先生に種々ご指導いただき表─3のように「新治療(看護)方針」で大幅に改訂しました。大きい特徴は経口補液量を軽症は0.3〜 0.5r→2r、中症は0.3〜0.5r→3r、重症は0.3〜0.5r→4rと桁が違うぐらい多くしたことです。表─4に経口補液剤一覧表を載せておきましたので参考にしてください。
 大量の経口投与量と大量の時間をかけた点滴(後述)により治療すれば、放牧場で発見が遅れて重症になり、口の中が冷たくなって、まったく起立できない子牛でも、ほとんど翌日は下痢が止まり、牛舎内を走り回っていることが多くなりました。

(2)大量の点滴を時間をかけても省力的に行う方法

@従来までの点滴の現状

 表─3の「新治療(看護)方針」のなかで点滴量は、「中症の場合1r、重症の場合2r、にしてあります。やはり症状が重くなると経口補液だけでは無理のようです。黒毛和種が下痢で重症になるのは、体重約40kgで、この子牛に1〜2r点滴するには2〜4時間が必要であると思います(小柄な成人女子ぐらいであると思います)。しかし子牛に点滴するには、術者と保定人の2人は必要です。4時間かかると延べ労働時間は8時間になり、子牛の下痢ごときに8時間もかけられない、ということが正直なところでしょう。通常は点滴量は半分以下、時間も30分〜1時間ぐらいが限度だと思います。しかし、点滴を速くした場合、うすくなった血液が心臓を通過して肺に達し、肺水腫になることが人間の場合でも問題になっています。家畜も基本的には同じだと思いますが、点滴をめぐっては肺水腫を憂慮する術者と時間を気にする保定人との間に意見の相違があり、常に苦慮していました。これらの問題解決のため「子牛用横臥保定器」の開発がせまられたわけです。

A省力的点滴のための横臥保定器の開発

写真─7 省力的点滴のために開発した「子牛用横臥保定器」(開発当初)写真のように側面部と底辺部からなり、頭部、肩部、腰部を側面部に保定して横臥し、素早く足を保定 写真─8 横臥保定器を使い技術者一人で点滴をしているところ。これだけでも飛躍的省力化でついつい「Vサイン」

 保定人なしで点滴ができないものかと考えに考えを重ねました。そしてある日突然、写真─7、8のような「子牛用横臥保定器」がひらめいたのです。「これで保定人との意見の相違が解決できる」その時は興奮の余り小踊りする思いでした(使用方法は写真─8参照)。開発当初は底辺部がある構造でしたが、底辺部がなくても保定できるので今は使っていません。この保定器の側面部は140cm×90cmのコンパネのまわりを角材(3.5cm×3.5cm)で補強したもので経費は約1,500円であり、非常に安価なので繁殖農家で常備したいものです。保定は下痢子牛のように弱っている場合は一人でもできますが、最初だけは二人の方が確実にできます。最後に放すときは一人でできます。「とうとう術者一人で点滴ができるようになりました」これで自分の都合で点滴に長い時間をかけることができるようになって、治療日数も約1週間から2〜3日になり、ひどい重症牛以外は発育遅延もなくなりました」

B横臥保定器のその他の利用

写真─9 横臥保定器を使えば点滴だけではなく去勢も一人でできる 写真─8 除角だって2人いれば「楽勝!楽勝!」でも一人でできる方法を試行錯誤中
写真─11-1[留置針]
 Aはカバーに入った留置針
 Bはカバーを取った状態(手前の部分で刺入時汚染防止できる)
 Cは内針だけが入った状態、これに注射筒を装着し血管に刺入もできる
 Dはタコ管付きの点滴カテーテルを装着したところ。←から上部6cmが血管に入る。また、←をEの瞬間接着剤で皮毛に接着することで留置針を抜けなくできる
写真─11-2 留置針を血管に刺入し、根本を接着したらタコ管カテーテルをガムテープで粘着したほうが良い

●去勢:写真─9のように保定さえしてしまえば、去勢は一人でできますので非常に省力的ですし、左後肢を前方に保定すれば術野が広くなり手術がやりやすくなります。

●除角:写真─10のように二人いれば簡単に実施できます。今後は一人でもできるような方法を開発したいと思っています。

(除角は、乳牛では子牛のうちに行うのは常識になっていますが、和牛ではまだ一般的ではありません。しかし、繁殖牛の競合防止やセルフロックスタンチョン利用等では必要条件です。また、肥育でも除角牛は競合が少なくなり、発育に個体差がなくなるなど利点はいっぱいあるので、今後は子牛除角の方向に向かうと思います。)

C無人点滴方法の開発

写真─12 子牛を横臥保定器に保定しているところ 写真─13 子牛を横臥保定し無人で点滴しているところ

 保定人は点滴開始時だけでよくなったので、気が済む治療ができるようになりました。しかし、術者が一頭の子牛に数時間取られるのもまた大変なものです。忙しいとついつい速度をあげたり、量を減らしたりしてしまいます。そこで人間並に人手をかけないで点滴ができないかと、思考錯誤を重ねた結果、無人で点滴ができる方法を開発したのです。まず、注射針ですが金属の針は血圧と生態反応で、約30分経つと非常に抜け易くなります。また、先が尖っているので少し暴れても血管壁等に刺り、詰まった状態になり点滴ができなくなります。そこで写真─11(上)A〜Dのような留置針を見つけだして、無人点滴は大きく解決に向かうことになります。価格も1ケース50本入り8000円ですので、省力性を考慮すれば安価だと思います。具体的方法は写真─11の説明を参考にしてください。この留置針は血管のなかに入る部分は約6cmで、合成樹脂なので多少は曲がるし、先が尖っていないので血管に刺ることはなく、子牛が多少暴れても点滴は可能です。さらに針の根元(タコ管との連結部)を瞬間接着剤で皮毛につければ、絶対といってよい程抜けません。そして写真─11(下)のガムテープでタコ管及びチューブを粘着し点滴を行います(写真─12、13)。30〜60分おきに観察しましたが、留置針が抜けたことはありません。
 これでほとんど人手をかけずに人間並に十分時間をかけて大量の点滴ができるようになりました。人間は必要にせまられると、なんとか解決手段を考えつくもののようです。そして前述の大量の経口補液療法を併せて行うことによって、省力的で劇的な治療効果をあげることができるようになったわけです。


3.下痢止剤の初期投与は慎重に

 新治療(看護)方針のもう一つ大きい違いは、下痢止剤を2日間は投与しないようにしたことです。下痢というのは腸管内の毒物を排出し生体を防御する反応でもあるのです。O-157のような病原性大腸菌は、菌が産生する毒素によって起こる下痢です。これに下痢止剤を投与すると毒素菌が体内に留まり、ますます重症になるといわれています。O-157の発生初期で下痢止剤を投与した患者に、多くの死亡者が出たことはこのような理由によるものです。子牛の下痢についても同じことが心配されますので、初期は使わないことにしました。もっとも大量の補液と点滴による著者らの治療法では、1〜2日で治るので下痢止剤は結局投与しないことが多くなります。


4.放牧等は体力が十分回復してから行うこと

 最後は下痢も止まり放牧場に再び出すような場合ですが、下痢が止まったからといってすぐに放牧などに出さないことです。1〜2日で治癒しても10日〜2週間、1週〜数週間治療したときは治癒後2〜6週間、牛舎で様子をみながら体力を十分回復させてから出すべきです。治癒まで6日要し、治ってから4日目に著者の指示を取り違えて放牧場に出してしまった子牛が、それから5日目に突然死したことがあります。死亡時肉付も良く下痢はまったくありませんでした。解剖の結果、とくに死亡に結びつくような所見もないことから、下痢により体力が低下していたのに回復する前に放牧場に出したので、厳しい放牧環境についていけなかったために死亡したのではないかと思っています。こんなこともあるので、下痢が止まったあとも十分体力が回復してから放牧するようにしてください。
 以上は下痢子牛の治療及び看護の4つのポイントをみてきましたが、親子で収容、大量経口補液、体力回復後の放牧など、畜主がやれる看護の部分は大変重要ですので必ず実行してください。それと同時に獣医師の適正な治療を受ければ発育遅延は防止できると思います。


おわりに

 前回は子牛の下痢予防方法として「@4時間以内の初乳の摂取、A乾燥牛床でストレス軽減、B創意工夫で感染源を少なく」の3点を考えてきましたが、「言うは易く行うは難し」で完全にやるのは大変だと思います。そこで、下痢が多い農家の方は@とAを優先し、やれるところから手を付けてください。予防対策が不足する場合は下痢の発症が多くなると思いますが、経済活動ですから予防に重点を置くか、治療に重点を置くかは畜主の選択でよいと思います。その結果として下痢が発生してしまったら、今回の「@親子牛舎収容、同居子牛の抗生物質投与、A大量経口投与と大量点滴、B下痢止剤の慎重投与、C体力が十分回復後の放牧」の4点に留意して、治療・看護にあたって欲しいと思います。
 2回にわたって子牛の下痢の予防・治療・看護を考えてきました。ノウハウを中心に述べたつもりですが、経験からのことが多いのでつまらないと思った人もあるでしょうが、意とするところを汲み取って「子牛の下痢対策を確実にして発育遅延を防止しよう」の問題解決につなげていただきたいと思います。
 厳しい状況の畜産は「熱意と創意工夫」がなければ乗り切れないと思います。小生の拙い文章が「畜産農家の熱意と創意工夫」を、さらに触発できればこの上ない喜びであります。
 最後に種々ご指導いただいた岩手大学農学部家畜内科学講座 内藤 善久教授に深甚なる謝意を表し稿を終わります。

 

(筆者:福島県畜産試験場肉畜部長)