生産技術セミナー

子牛の下痢対策を確実にして発育遅延を防止しよう(1)

予防のための3つのポイント、初乳は早く・牛床の乾燥・感染源の減少

岡崎 充成

 

はじめに

 福島県畜産試験場沼尻支場で7年間、黒毛和種の診療・治療に当たってきましたが、特に子牛の下痢が多発し、随分予防・治療に苦慮しました。その経験を通しての結論は「予防は非常に大切なものであり、他の業務と整合性を取りながらも徹底して実施する必要があります。そうすれば、下痢の発生は非常に少なくなり、発生しても軽くて済むと思います。しかし、何らかの事情で予防対策が出来ない場合もあり、下痢が発生してしまうことがあります。その時は子牛の症状を正確に把握し徹底した治療を行い、体力を落とさないようにして早急に治し、発育遅延をさせないことが経済的に重要である」と思うようになりました。
 子牛の下痢対策については多くの成書や文献があり、今更とも思うのですが、こんなことから私なりの下痢対策を、経験を通じてのノウハウを中心に述べてみたいと思いますが、なにしろ浅学にしてドロデミックな者の言うことです。間違いがあるかもしれません。選択的に役立つところだけを取り入れていただければ幸いです。

第1 子牛の下痢を予防する3つのポイント

●ポイント1:分娩後4時間以内に初乳を十分飲ませ親からの免疫を活用しよう。

●ポイント2:乾燥牛床で保温に努め体力増強とストレス軽減で免疫能を高めよう。

●ポイント3:創意工夫を駆使し感染源(細菌等)を少なくしよう。

 

1.分娩後4時間以内の初乳を十分飮ませ親からの免疫を活用しよう

 牛の場合、母親から生まれるときもらう免疫能(受動免疫)は初乳を介して子牛に移行します。この免疫物質は非常に大きい蛋白質で、通常はそのままの状態では腸から吸収されないのですが、生まれてから一定時間は腸管の門戸が大きく開いているのと、腸管の消化酵素が少なく免疫物質は消化・分解されないので、吸収されると言われています。この一定時間は個体によって数時間〜12〜24時間と個体差が非常に大きい特性があります。従って4時間以内に十分量飲ませる必要があります(十分量がないと吸収率も低くなります)。その量はホルスタインの場合2 rと言われています。
 ホルスタインは搾乳をしていますので、初乳の確実な給与が簡単ですが、黒毛和種は自然哺乳なので、どれだけ摂取したかを経営主が把握できないところに問題があります。黒毛和種で下痢が重症になり発育遅延になることがあるのは、案外このへんに問題があるのかもしれません。解決策として次のことが重要であると思います。

(1)母牛の乳房の張りと子牛の吸乳を観察し初乳を十分摂取したかどうか確認してください。摂取できない場合または摂取量が不十分な場合として、以下の4点が考えられます。
 @ 乳房の張りが悪く、子牛は盛んに乳房を突き上げるが吸乳時間が短く、乳の出が悪いようなとき。
 A 母牛が子牛を蹴ったり、突いたりして授乳を嫌がるとき。
 B 母牛が難産などの疾病や死亡で授乳ができなくなった場合。
 C 例年必ず下痢をする決まった母牛の子牛(初乳の泌乳量が少ないと思われます)。

(2)この様なときはホルスタインの初乳を凍結保存し、活用することが有効です(写真−1、2)。

 

写真─1 初乳を冷凍保存し子牛が摂取できない場合、
    ま たは摂取量が不十分な場合、給与する。
写真─2 初乳摂取のため冷凍庫から取り出しているところ。
 

@投与量はホルスタインは2l必要であると言われていますが、黒毛和種はやや少量でもよいかもしれません。しかし、黒毛和種の乳成分は濃いので2lを2回に分けて与えるのが良いと思われます。
A最初の初乳は免疫物質やビタミン・ミネラル等、子牛に必要なものを多く含んでいるので最初の初乳を確保してください。

 このようにして、母牛等からの受動免疫物質をもらっても、約20日で1/2に半減してしまいます。この間、子牛は種々の病原菌と戦って自分で免疫能を獲得していきますが、十分ではありません。従って1カ月前後は再び下痢等の病気に罹りやすくなります。ただ、この時期になると体力もでてくるので、1〜2回の抗生物質の投与で治ると思います。併せて径口補液の投与をすればベストでしょう。

 

2.乾燥牛床で保温に努め体力増強とストレス軽減で免疫能を高めよう

 放牧場など草地は非常に保温性が良いので、前述のような初乳を4時間以内に十分量摂取していれば、下痢の発生は少ないと思います。舎飼の場合は牛床の保温は非常に大きいポイントになりますので、管理技術のレベルが問われます。

(1)厳しい気象条件でも環境(牛床等)を良くすれば病気は防げる。

沼尻支場に赴任した当初、冬の舎飼期間、下痢・呼吸器病が多発し、重篤呼吸器病による死亡(呼吸器病による死亡は、前段階に下痢があり、体力低下の結果、呼吸器病に罹って死亡するものと思われます)する子牛もありました。また、病気耐過牛(肺炎の後遺症を持つ牛)は勿論、そうでない牛も、随分と発育遅延がありました。当時、厳しい気象条件のせいにする人もおりました(沼尻支場は標高900m、峠近くに位置し、風雪が大変厳しい)が、ボロ出し回数は少なく、長靴が糞尿に埋まって抜けそうになることもありましたので、私は疾病、死亡、発育遅延の原因は、厳しい気象条件より、湿潤牛床で保温が低下し体力消耗によるストレスが原因であると思っていました。翌年から牛床環境を良くするため、子牛別飼施設のボロ出しを頻繁に行い環境改善に努めたところ(写真−3)、重篤呼吸器病はなくなりました。ほとんどの死亡は新生時からの虚弱だけになり、発育遅延も大きく改善されました(発育遅延の抜本的解決は下痢子牛の治療を大量点滴・大量径口補液に改善〈後述〉したこと及び、離乳期の粉ミルク給与と育成期間のルーサン乾草給与への改善〈畜産会経営情報No.70 10〜17 参照〉まで待たなければなりません)。
写真─3 乾いた牛床で子牛はのびのびと採食している。
 

 このような乾草牛床による保温は、免疫能を高めて疾病発生を防ぐだけでなく、子牛の発育も良くするので、乾燥した戻し堆肥(馬関係などでは昔から行っています)を応用するなど創意工夫を凝らして牛床の乾燥に努めて欲しいと思います。

(2)牛床の乾燥と消毒のどちらを取ると聞かれたら「牛床の乾燥」を取る。

 ある技術者が土の牛床のボロ出しの後、パコマによる消毒を指示し、もう一人の技術者が「消毒は大事だから」と側面から支持した場面に居合わせ、技術者の顔も潰せなくて黙っていましたが、内心困ったものだと思ったことがあります。
 この技術者達は、2つの間違いをおかしています。第1点は有機物の多い土の牛床にパコマを散布しても薬効は瞬時にしてなくなるので消毒の意味はなくなってしまうことです。2点目はこの項の本題でもありますが牛床を湿らせ保温性をなくし、子牛の免疫能を低下させることです。
 正解は石灰の散布による消毒を指示するべきであったと思います。我々技術者は常に技術の研鑽が必要ですが、経営主の方も技術者の指導を鵜呑みにしないで、選択的に取り入れていただきたいと思います。
 このようなことから牛床の管理は非常に重要であると思っています。

 

3.創意工夫を駆使し感染源(細菌等)を少なくしよう

 初乳を介した親からの受動免疫、牛床の保温に努め、体力を十分付け、免疫能を高めることについて考えてきましたが、感染源を少なくするための方法としては、@牛床を乾燥させることは細菌などの増殖を抑え感染源を少なくする、A発症牛の隔離は感染源の拡大を防ぐ、B状況にあった消毒薬で感染源を少なくするの3点が考えられます。

(1)牛床を乾燥させ感染源の増殖を抑える

 牛床の乾燥は子牛の体力消耗を抑え免疫能の増強と発育効果があると、前述しましたが、もう1つの効果として感染細菌の増殖も抑えるのです。このようにして牛床を良く保つことは、子牛育成の根幹の問題と考えられます。

(2)発症牛を隔離する

 発症牛は大量の感染源を放出するので、群飼をしている場合はなるべく早く収容し隔離するべきです。黒毛和種の場合、親子同居なので難しいこともあるでしょうが、親子で隔離するのがベストです。子牛の下痢で親子分離は効果があったという報告もありますが、乳房炎など乳質に問題があるときは別として、親子分離はストレスが多かったり、親子関係に障害が起こることもありますので、好ましくないと思っています(後述)。とにかく感染源を広げないのが肝要かと思います。

(3)状況にあった消毒薬の使用

感染源を少なくすること、理想を言えば感染源をなくすことです。南極大陸では風邪のウイルスがないので風邪をひかないそうで、風邪に弱い小生などはいつもうらやましいと思っています。しかし、子牛下痢の感染源の細菌等を完全になくすことはほとんど無理と言って良いでしょう。細菌等の特徴として、数が非常に少ないと接触しても感染しなかったり、もう少し多い場合は感染しても発症しないということがありますので、消毒によって細菌等の数を少なくするのは大変意味があります。
 ただ、先に述べたように消毒薬は使い方を間違うと、効果が出ないばかりか、かえって害になることもありますので、その特性を十分把握し、注意して使用するようにしてください。次によく使われる薬剤は表−1にあげましたので参考にしてください。その中から特徴的な薬剤について述べます。

 

 
表─1 消毒薬一覧表の詳細
 

 

@石灰

 これは消毒剤でなくても、土壌改良材として使われる普通の石灰で結構です。消毒効果としては他の薬剤より落ちるのですが、糞尿等の有機物があっても消毒効果が最も落ちない消毒剤です。粉剤なので牛床など湿らさないし生石灰などは逆に水分を吸収します。以前は牛床や側壁にペンキのように塗ったものですが、省力のためそこまでやらなくても、牛床に十分散布したいものです。また、牛体に少しぐらい触れてもほとんど害はありません(写真−4.5)。

 

写真─4 ボロも出したし石灰でも振って牛を入れるか!!
写真─5 下痢など子牛の病気がでないこと
     を祈って「俺は石灰を振るのだ」
 

A複合製剤

 糞尿等の有機物があっても消毒効果はかなりある水溶液です。従って浄化槽などに間違って流し込まないようにしてください。踏み込み槽や車両などの消毒に適しています。

B逆性石けん製剤

 消毒力は前述の2種類に比べてはるかに強力なのですが、糞尿等の有機物があると、薬効がなくなってしまうのです。従って少量なら浄化槽に流入しても、浄化槽の微生物を殺すことはありません。牛舎などはどんなに洗浄しても多少は有機物が付いていますので、石灰やその他の薬剤等で消毒したほうが良いと思います。逆性石けんは家畜にとって毒性が低く、畜舎に空中散布して吸入や牛体塗布してもよいものが多いので、説明書をよく読んで使用してください。


 以上子牛下痢発生の予防法の3つのポイントをみてきましたが、これらを実施すれば下痢の発生は非常に少なくなるし、発生をしても軽くて済むと思います。しかし、何らかの事情で予防対策が出来ない場合などもあり、下痢が発生してしまうことがあります。下痢になってしまったら発育遅延をさせないようにしなければなりません。
 次回は下痢子牛を発育遅延させない看護・治療の4 つのポイントについて考えてみたいと思います。

(筆者:福島県畜産試験場肉畜部長)

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