経営自慢

林業から牛飼いひとすじ

─自作牛舎と堆肥販売で高収入─

飯尾 敏夫

 

1.はじめに

 牛肉の輸入自由化後、危険分散を図るため多品種化の傾向が強まる中、経営規模は小さいが乳雄肥育経営ひとすじに取り組み、低コスト生産と高付加価値を目指し、高収益を確保し、非常にユニークな経営に取り組んでいる「岡崎牧場」を紹介します。

 

○牧場の所在地:愛媛県上浮穴郡柳谷村柳井川7448

○経営主:岡崎孝夫 67歳(写真−1)

○経営類型:肉用牛(乳雄肥育経営)

○飼育規模:乳雄肥育牛60頭

写真―1 岡崎孝夫さん
 

2.柳谷村の位置

 愛媛県上浮穴郡柳谷村は愛媛のほぼ中央に位置し、国道33号線沿いの四国山地のふところ深く、高知県との県境に接しています。近くには久万川が流れており、下流で高知県の清流「仁淀川」と合流しています。このあたりは四国の「軽井沢」と呼ばれ、近くにカルスト牧場があり、林業と野菜生産の盛んな中山間地域の村です。
 岡崎牧場は、久万農協柳谷支所から車で約10分。標高650mに位置し、遠くに霊峰石槌山や南の方には太平洋も一望でき、あたかも時間が止まったかのような錯覚を覚える雄大かつ絶景の地です。

 

3.牛飼いの仲間たち

 柳谷村に4名で構成している「JA久万乳雄肥育部会」があります。4人の中でも長老であり、全員から絶大なる信頼を得ているのが岡崎孝夫さんです。4人は肥育経営を始めたのも同じ頃で、開始当初から素牛高、販売安と全員大きな負債を抱えましたが、苦労の末、この難局を乗り切りました。この苦難を乗り越えたことが、より一層、仲間の団結力を強めました。
 機能分担を年代別(30〜60歳代)に組み合わすことにより、効果的な運営を図っています。毎年、全員で定期的に研修旅行、懇親会をもうけ、和気あいあいと常に話し合い、協力をモットーにしています。

 

4.岡崎牧場のプロフィール

岡崎さんが、畜産に取り組み始めたのは昭和52年のことです。以前は、国有林の伐採を請負っていましたが、45歳を過ぎた頃より体力の不安もあり、将来的に難しいと判断。転職を考える中、色々な農業分野を研究、試みてみましたが、うまくいきませんでした。
 しかし、牛肉の消費は必ず伸びると思い、まずは土地探しから始めました。けれども、中山間地域のため、牛舎建設にあたり平坦な土地がありません。そんな時、知人の紹介で廃校になった小学校の跡地を購入しました。
 それまでの体験と山林所有を活用して、牛舎、倉庫、堆肥舎、すべて間伐材を利用し、木の切り出し、製材、設計から建築など、すべて自らが造ってしまいました。その上、自分の住居まで手造りといった具合です。かなりの低コスト生産です。当然、借入金はゼロです。(写真−2〜4)
写真―2 手前:肥育舎  後方:堆肥舎後方右:自宅
 
写真―3 自宅
写真―4 肥育牛舎:すべて間伐材使用による

      低コスト牛舎

 

 受入れ環境が整い、昭和53年、47歳の時、北海道より30頭の牛を導入したのが本格的な始まりです。開始当時は素牛が安く、高値販売という状況下、順調に収益が上がり、まずまずのスタートでしたが、良いことは長く続かず2年後には素牛高、販売安という状況に落ち入り、かなりの負債を抱えることになりました。この時に、自助努力では克服できない相場の怖さが農業にあることを知りました。
 付加価値を得るべき牛糞の堆肥化については、すでに15年前より完熟化による高品質な堆肥を製造から販売まで行い、大きな収益部門となっています。

 

5.肥育技術の変化

 岡崎さんは肥育規模が小さく、今後、規模拡大は中山間地のため難しいと判断。1頭ごとの個体管理による飼養管理の充実を図り、上物率の向上により、売上げを伸ばさなければ収益は上がらないと考えました。
 その第1として、素畜選定です。1頭のおちこぼれ牛も許さないと考え、自ら導入しています。
 第2として、全頭に愛情を持って接すること。愛情がないと何事にも答えてくれないとのことです。
 第3として1日当たり増体量(D.G)の向上です。健康で肉質の良い牛は適度な増体重があり、収益性も高いとのことです。
 第4として肉質向上と併せ、良い肉色でないと上物率及び収益性の低下になります。
 以上のことが大きく技術を変化させています。健康で発育のよい牛を肉質重視の「生産マニュアル」により仕上げているため肉質は鮮やかで明るく、キメ、シマリも優れています。
 岡崎さんの出荷牛は、「日本食肉格付協会」が示す規格(乳用種)B3が70%以上に格付された優れた経営であり、愛媛経済連の系統ブランド「伊予牛絹の味」の優良生産農家です。認定制度発足以来の認定という素晴らしい実績です(表−1.2)。

 

表─1 技術分析表
分 析 項 目
平成8年(1〜12月)
平成9年(1〜12月)

 

 

 

常 時 飼 養 頭 数
50
44
期 首 飼 養 頭 数
62
55

導入頭数(初生牛)
.
.
導入頭数(素 牛)
36
24
     (計)
36
24

枝肉出荷頭数
42
37
生体出荷頭数
.
.
       (計)
42
37

へい死頭数
.
.
廃用(早出し)頭数
1
.
     (計)
1
.
期末飼養頭数
55
42

 

導入体重(平均)A
kg
259
269
出荷体重(平均)B
741
773
増 体 重   B−A
482
504
1日1頭当り増体
g
985
1,045
肥育日数
489
482
肥育回転率
86
84.1
事 

 

へ い 死 率
.
.
廃用(早出し)率
2.8
.
      (計)
2.8
.
1日1頭当り飼養給与量
kg
7.94
7.73
1日1頭当り飼料費
374
362
農 場 要 求 率
8.06
7.39

 

 

「5」
.
.
「4」
4.7
5.4
「3」
51.2
75.7
「2」
44.2
18.9
「1」
.
.
「4」以上率
4.7
5.4
「3」 〃
55.8
81.1
 
 
表─2 平成9年個体別出荷牛成績総括表(枝肉出荷分・・乳用種)
月別
出             荷
導入
成  績
出荷
頭数
出荷
体重
枝肉
重量
枝肉
単価
販売
価格
歩 留
肉 質
枝肉
歩留
導入
体重
肥育
日数
増体
重量
1日当
増体重
(g)
胸最
長筋
ばら厚
脂肪
交雑
色沢
肉締
脂質
1月
4
783
470.9
835
419,032
39.5
6.2
1.8
2.7
2.7
2.7
4
60.1
253
498
529
1,061
2月
8
798
487
1,025
528,309
47
6.4
2
3
3
2.7
4
61
234
530
564
1,064
3月
4
774
474.3
1,160
578,500
51
6.2
2.3
4.2
3.5
3.5
4
61.3
220
550
554
1,007
4月
3
760
461.9
958
477,095
42.7
6
2.3
3.6
3
3
4
60.8
232
566
528
934
5月
4
770
466.5
930
473,009
44
5.7
2.1
2.7
2.7
2.7
4
60.6
344
393
425
1,082
6月
4
808
480.2
905
472,707
48.5
6.6
2.2
2.7
2.7
2.7
4
59.4
336
436
472
1,083
7月
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
8月
2
751
430.9
805
381,129
43.5
5.7
1.2
2.5
3
3
4
57.4
302
376
448
1,192
9月
3
746
452.7
941
459,535
39
6.6
2.3
2.6
3
3
4
60.7
284
407
462
1,135
10月
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
11月
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
12月
5
731
438.4
968
459,085
40.2
5.8
1.6
3.2
3
3
4
60
282
489
449
921
平均
4
773
466.5
964
482,893
44.4
6.2
2
3
2.9
2.9
4
60.4
271
482
501
1,044
 

6.パソコンによる経営管理

 部会では、「肉用牛ファームエイドシステム牛若丸21」を農協支所に部会費で3年前、購入設置したのを機に、自らがデータを入力し、自らの経営の分析判断に取り組んでいます。継続的なデータ分析による4半期ごとの決算を踏まえ、経営技術検討会を実施し、経営課題を常に追求し、改善意欲に燃えています。日々の積み重ねが、より良き結果となっています。
 「50の手習い」と申しますが、「60の手習い」で当初パソコンには抵抗がありました。しかし、若い人に誘発され「継続は力なり」と信じ、奮闘しています。岡崎さんの話では今後、肉用牛経営で生き残れる条件として自らが診断、分析することで能力を高め、経営を改善する以外に近道はないと考えています。その一助としてパソコンは大変であるが、慣れれば便利であるとのことです。
 パソコンは頭を柔らかくし、万年、青年の気持ちにさせてくれるそうです。

 

7.堆肥も大きな収入源

堆肥は全量、醗酵乾燥のうえ、稲ワラ交換及び販売をしています。完熟化による、すぐれものです。「岡崎堆肥」というくらい、相当自信をもっています。最近でこそ完熟化による堆肥が見直されておりますが、元祖というべき、すでに15年前より実践し、高い評価を受けています。
 総売上高に占める割合は 9.3%。当期利益金の比率は45.3%(平成9年)と高い収益部門となっています。出荷牛1頭当たり4万7000円の堆肥売上げで県下一となっています。「堆肥は、お荷物ではなく付加価値さえ付ければ売れる」とのことです(表−3)。

 

表─3 牛糞売上                                                  (単位:千円)
項 目
売上高(肉牛+牛糞)
当期利益金
牛糞売上高
売上比率(%)
利益比率(%)
総 額
出荷牛
1頭当り
総 額
出荷牛
1頭当り
総 額
出荷牛
1頭当り
総 額
出荷牛
1頭当り
総 額
出荷牛
1頭当り
年(1〜12月)
8年
18,729
435
2,926
68
1,741
40
9.3
59.5
9年
19,612
530
3,854
104
1,745
47
8.9
45.3
 

(1)堆肥化の取り組み

 立地条件上、堆肥舎及び倉庫が手狭なため腐熟期間を短くし(基本は3カ月間)、回転率の向上により、土地、施設の有効活用を図っています。とくに大きな投資は避けています。
 酵母菌については、自らが培養し、発酵菌、消石灰、ヌカ、モミガラによる副資材を組み合わせて投与、使用しています。

(2)良い堆肥を作る条件

好気性微生物は80℃以上で活動し、発酵菌が必要とする栄養源を充分含んでいることと、水分は75〜80%とし、水分含量を常に調整しています。
 適正な風量と切り返しにより酸素補給を図り、発酵の均一化に努めています(写真−5)。

 

写真―5 ボブキャットにて発酵の均一化
写真―6 堆肥舎内部:完熟
 

(3)製品管理及び販売

 1袋ずつ、スコップで袋詰をしています。1袋、約20kg(製造時21kg詰)で農家に1袋 250円で供給しています。
 販売価格は市況を勘案の上、年度当初に販売先と協議し決定しています。製造計画と合わせ、販売計画の中で調整を図り、より安定供給に努めています(写真−7)。

 

写真―7 堆肥:製品
 

8.庵で牛飼いの間も一息

裏山に「岡崎庵」があり、牛飼い仲間及び地域住民の交流の場にと茶室を造りました。すべて手造りです。
 生産は牛だけではありません。アメノウオ、シイタケ、ダイコン等々。すべて自家生産です。季節折々の料理を肴に、会話もはずみ、カラオケを歌えば気分は最高です。
 宴会の後、残った食物を外に出しておけばゴミではなく、イノシシ、タヌキが整理してくれるそうです。共存共栄、まさに動物にも環境にもやさしいのです(写真−8)。

 

写真―8 「岡崎庵」左に滝があり。貯水池にて養魚。
 

9.牛と大自然の中で暮らす

 自分自身、汗を流し体と頭を使っただけ良い結果となって表われます。牛は家族同様、愛情を込め接すれば、慣ついてくれるし、決して人間を裏切りません。「牛と共に暮らす。牛のペースに合わし、自然と共に暮らす」山の生活での信条だそうです。
 人間長く生きていると、良い時期、悪い時期、浮き沈みもある、牛を介して、多くの人にお世話になり、助けられてもきました。100歳まで、牛と共に暮らしたいそうです。
 しかし、山間地域に位置し、規模拡大の意志はあるものの、用地の確保、後継者の不在、環境の問題が大きな課題となっています。
 一つでも問題の解決がなされ、多くの牛の声が、山にこだますると共に、今後も健康に留意され、地域のリーダーとして、ご活躍されることを祈っております。

 

(報告者:愛媛県畜産会畜産コンサルタント)

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