生産技術セミナー

自給飼料分析からみた飼料生産

浅 井 英 樹

 


自給飼料に求めるもの 

 岐阜県における自給飼料分析は昭和61年に開始し、今年で12年目になります。12年の間に県内の酪農家戸数や飼料作付け面積は年々減少しているのが現状です。しかし、1頭当たりの平均乳量については牛群検定成績で12年間に1273kg上昇しました。その裏には、乳牛の能力の向上とともに、栄養管理技術の進歩や栄養管理システムの高度化があったものと思われます。
 このような乳量の増加に伴い、粗飼料の役割についても重要視されるようになってきました。給与割合の少ない自給飼料についても同様のことがいえ、求められるものはやはり質を優先した栄養価の高い飼料ではないでしょうか。しかも自給飼料については安価にかつ安全に生産できるのが魅力です。購入粗飼料については自給飼料で不足した分の粗飼料になるわけですから、自給飼料で栄養価の高い飼料を生産できれば、購入粗飼料は粗剛性(カサ)を目的とした飼料を安価に購入することも場合によっては可能となります。
 そこで今回、質の高い安全な飼料を生産するためには飼料成分がどうあればよいのかを飼料分析値をもとに述べさせて頂きます。


飼料分析値の意味するもの

 飼料分析値からいろいろなことを読みとることができます。酪農の場合には、如何に多くの乳を生産するかが求められ、採食量を最大に高める飼料設計や飼料生産が行われます。その際に飼料分析を行うことで、生産された飼料の成分値や栄養価がわかり、この飼料をメニューに入れることでどの程度のエネルギーが充足され産乳増加が期待できるか推測することができます。また、草種や品種の選定、刈取り時期、土壌や施肥など生産収穫時の状況についても知ることが可能です。その他に、今日では特定の成分値から乾物摂取量を推定することもできるようになりつつあります。
 表−1に飼料成分と分析成分の関係が示してあります。例えば、酸性デタージェント繊維(ADF)や低消化性繊維(Ob)は飼料中のリグニンやセルロースなど消化の悪い成分を含んでおり、栄養価とは負の相関関係にあります。そのため、ADFやObの数値が高い飼料は栄養価が低くなります。中性デタージェント繊維(NDF)や有機的な細胞壁物質 (OCW:organic cell wall)は総繊維ともいわれ、飼料中のヘミセルロースやセルロース、リグニンを含んでいます。総繊維の多い飼料は牛の採食量を制限させる要因となります。非構造性炭水化物(NFC)や可溶無窒素物(NFE)は糖や澱粉など微生物が餌としている成分を多く含んでおり、ルーメン内で大半が分解吸収される成分です。粗蛋白質は飼料中の蛋白質が含まれていますが、最近では粗蛋白質を、第1胃で分解される蛋白質、第1胃で分解されずに第4胃や腸管などで分解される蛋白質、分解されずに排泄される蛋白質など細かく知ることも可能となっています。
 このように、目的の飼料が牛にどの様な影響を及ぼすのか飼料分析値より探ることが可能であり、飼料の特性を知る上で飼料分析を利用しない手はないと思われます。

表―1 飼料成分と分析成分との関係


イネ科牧草の栄養価を高めよう

 牧草は土壌、施肥、気象、草種、番草、刈取りステージ、調製方法などの違いで成分値や栄養価は異なります。この中でも栄養価に強く影響を及ぼすのが刈取りステージです。図−1に刈取りステージの異なるイタリアンライグラスの乾物摂取量を示しました。これは乾乳牛に刈取り時期の異なるイタリアンライグラスサイレージを飽食給与した際の乾物摂取量を示したものです。出穂初期から出穂揃期、開花初期になるにつれ乾物摂取量は減少し、特に開花初期において摂取量の低下が著しいことがわかります。イネ科牧草は生育の進行に伴い繊維成分が増え、逆に粗蛋白質は減少します。繊維成分にはリグニンやセルロースなど消化性の低い成分が含まれており、生育とともにこの低消化性の繊維が増加します。

図―1 各ステージにおけるイタリアンライグラスの乾燥摂取量1)

 図−2にイタリアンライグラスのADFと粗蛋白質の成分値の比較を示しました。この結果からもADFの増加とともに粗蛋白質が減少することがわかります。また、図−1における開花期の乾物摂取量の低下を考慮するとADFの数値が乾物中の40%を超える飼料については乾物摂取量を低下させる要因を含んでいることを考慮する必要があります。

図―2 イタリアンライグラスのADFと粗蛋白質の比較

 また、ADFやObなどは栄養価と負の相関関係があり、表−2にあるような可消化養分総量(TDN)の推定に利用されていることからもイネ科牧草で栄養価の高い飼料生産を考えた場合、できるだけ早く刈取ることが必要であり、これによりADFなど低消化性の繊維成分が減少し、粗蛋白質や栄養価の高い飼料を生産することが可能となります。しかし、イネ科牧草は栄養価と収量が反比例にあることから高い栄養価を求めると収量は少なくなることを覚悟する必要があります。もし、ある程度の収量が必要ということであれば採食量を考慮して、遅くとも開花期に入る前に刈取ることが望ましいでしょう。

表―2 イネ科牧草のTDNの推定式


トウモロコシは品種選定が重要

 トウモロコシは黄熟期で刈取ることが最も高収量で栄養価が高いとされています。刈取り時期がはっきりしていることで、イネ科牧草に比べ成分値や栄養価に及ぼす変動は少ないのが特徴です。しかし、トウモロコシの場合、子実の付き具合で栄養価が左右されます。図−3に子実の多少による成分値の比較を示しました。図−3のI型は子実の多いタイプです。子実が多くなると粗脂肪が高く、繊維の割合が低くなるため、栄養価の高い飼料となります。逆に3型のように子実の少ないタイプは粗脂肪が低く、粗繊維の割合が高くなるため栄養価の低い飼料となります。このことから子実割合の高い品種を選定することが必要になります。

図―3 トウモロコシのタイプ別成分値の比較 1)

 表−3に品種の異なるトウモロコシの乾物収量と子実割合、サイレージに調製したときの成分値の比較を示しました。同じトウモロコシでも品種により成分値に差があることがわかります。また、栄養価の高い品種は粗脂肪が高くてADF が低くなっており、そのような品種は子実割合も高いことがわかります。したがって、品種の選定は乾物収量だけでなく調製後の成分値や栄養価も考慮に入れ子実割合の高い品種を選定することが必要です。

表―3 品種別トウモロコシの収量及び子実割合の成分値(乾物)の比較

 子実の少ないタイプについては品種の影響だけでなく刈取り時期が早いことも考えられます。表−4に乳熟期と黄熟期の茎葉子実中の成分値を比較しましたが、子実は黄熟期に比べ乳熟期で粗脂肪の割合が低く、粗繊維が極端に高いことがわかります。そのため、刈取り時期の早いものについては粗脂肪の低い、繊維量の多い飼料となってしまい、栄養価が低くなります。

表―4 茎葉子実中のトウモロコシの成分値(乾物)の比較

 図−4にTDNと粗脂肪、TDNとADFの関係を示しましたが、これらからも栄養価の高い飼料は粗脂肪が高くて、ADFが低い飼料であることがわかります。
 以上のことから栄養価を高めるためには、粗脂肪が高く粗繊維が低くなる品種を生産することが必要であり、そのためには品種の選定をしっかり行い、適期に刈取ることが重要となります。

図―4 トウモロコシのTDNとADF及び粗脂肪との関係

粗 飼 料 の 水 分

 表−5に粗飼料の水分含量の平均と標準偏差を示しました。購入粗飼料に比べ自給飼料ではばらつきが大きいことがわかります。飼料給与において残飼量の有無が生じる原因については、給与量にもよりますが、自給飼料の水分含量が影響していることが多く、サイロの取出し個所やロールベールの違いにより水分含量が異なっていることが考えられます。そのため、日常の給与においては飼料中の水分について特に注意を配り、定期的に水分の測定を行うことが必要です。

表―5 粗飼料中の水分含量

 また、調製時に水分含量の高い飼料は発酵や採食量に悪影響を及ぼすため、低水分に調製することが望ましいです。高水分な飼料は酪酸発酵を促進させエネルギーの損失や排汁によるロスを招き、栄養価の低い飼料となります。
 特に自給飼料の中でもロールベールについては水分のばらつきが大きく、高水分で調製されている飼料も多いため、水分含量については50〜60%とできるだけ低く抑えることが必要です。また、ロールベールは開封後、空気の流入に伴って好気的微生物が活発に活動を始め発熱が起こります。発熱した飼料は温度上昇に比例して蛋白質の消化率が低下し、飼料価値が下がることが知られています。そのため、開封後は速やかに給与することが望ましいです。
 以上のことから飼料の水分については、予乾等により低く調製することが品質や栄養価を高める上で重要であり、給与時においても給与不足とならないよう水分含量に気を配ることが必要であると考えられます。


硝酸態窒素は高くないですか

 硝酸態窒素の高い飼料については硝酸塩中毒の危険性があります。硝酸態窒素量の許容限界については表−6にあるようなものが一般に知られています。このことから飼料中の硝酸態窒素については乾物中0.2%を超えないようにすることが望ましいと思われます。表−7に草種別の硝酸態窒素の平均と0.2%を超えた飼料の割合を示しました。特に自給飼料についてはソルガムとイネ科牧草で硝酸態窒素が高くなる危険性があることを考慮すべきです。自給飼料で硝酸態窒素が高くなる原因としては、糞尿の多量投入や短期間での収穫調製にあると思われます。

表―6 硝酸態窒素摂取量の許容限界

表―7 各草種別硝酸態窒素量(乾物%)

 通常、硝酸態窒素は根から吸収され、植物の光合成や呼吸によりアミノ酸や蛋白質を生成します。日照不足や降雨、若刈りで刈取る場合は硝酸態窒素の蓄積が高くなります。硝酸態窒素の蓄積を少なくするためには糞尿や窒素質肥料の多量施用を避けることや、若刈りを避け収穫期を延ばすこと、あるいは茎の下部に硝酸態窒素が多く含まれていることから、高刈りをすることなどが考えられます。
 実際に硝酸態窒素が高くないか不安のある場合については、飼料分析を行われることが良いと思われます。硝酸塩中毒の報告は未だ受けたことはありませんが、下痢や体調不良が原因で硝酸態窒素の分析を行ってみると0.2%を超えていたという例もありました。どの程度の量でどのような症状があらわれるのか定かではありませんが、硝酸態窒素が低いことに越したことはないと思われます。
 また、購入飼料のスーダングラスや採草地に糞尿を過剰投入した付近の井戸水については、硝酸態窒素の高いものが見受けられます。購入飼料や水については、乾乳牛や育成牛で特に摂取する割合が高くなるため十分注意することが必要です。トウモロコシサイレージについては、表−7にあるとおり黄熟期で実が十分に付いた飼料であれば硝酸態窒素が高くなることはないと考えられます。


カリウムと硝酸態窒素

 表−8に自給飼料のイネ科牧草とトウモロコシのミネラルの成分値を示しました。トウモロコシはイネ科牧草に比べミネラルの変動が少ないことがわかります。逆にイネ科牧草については変動が大きく、特にカリウムで変動が大きくなっていることがわかります。カリウムは牧草中で不足すると収量が減少し、過剰にあると贅沢吸収が起こりミネラルバランスが崩れることが知られています。分析結果をみるとカリウムは不足よりむしろ過剰にあることが多く、大半の圃場でカリウムの贅沢吸収が起こっていると考えられます。このカリウムの過剰は糞尿の多量投入が関係しているものと考えられ、このような場合はカリウムだけでなく硝酸態窒素も高くなる危険性があります。

表―8 イネ科牧草及びトウモロコシのミネラル成分値(乾物%)

 図−5にイネ科牧草のカリウムと硝酸態窒素を比較したものを示しましたが、カリウムの数値が高くなるにつれ硝酸態窒素の高いものが多くなっていることがわかります。

図―5 カリウムと硝酸態窒素の関係

 最近、乾乳牛のイオンバランスが注目されておりカリウム含量の少ない飼料が求められています。この点からも飼料生産については糞尿の投入量に気を配る必要があります。


お わ り に

 少しでも安く、安全な、質の高い飼料を家畜に与えることは、利益を上げるための一つの重要な要因となります。乳牛の場合、飼料中の40〜70%は粗飼料であることから、利益を上げるためには粗飼料中の栄養成分についても無視できないものであるといえます。したがって、自給飼料についても収量だけでなく栄養価や摂取量を考慮した飼料の生産調製が必要であり、どの様な飼料を生産するか、あらかじめ目標を立て、収穫調製されたものが目標どおりの成分であるかどうか実際の飼料分析により確かめることが、飼料生産の質の向上、飼料費の削減、さらには利益の増加へとつながって行くのではないかと感じております。


 

(筆者:岐阜県畜産試験場酪農部)