生産技術セミナー

牛発情発見の簡易技術としての「発情発見棒」

−低コスト生産のキーポイントは発情発見から−

    

玉 城 政 信

 

は じ め に

 一般消費者は牛肉に対して「安全で、安くて、美味しい牛肉」の要求が強く、「国産牛肉、特に日本独特の和牛肉は美味しい。価格がもっと安ければ購入するのだが」と言うのが消費者の偽らざる気持ちです。
 そこで、国内の肉用牛生産者に求められていることの一つには、肉牛生産のコスト低減を図ることがあります。その課題解決の一つとして、確実により多くの子牛を生産する技術の確立が急がれています。
 その解決手法としては、牛の出産と出産の間隔を短縮する分娩間隔短縮技術が有効です。その実現には効率的な「種付け」が基本になります。 

人 工 受 精 

 本来、牛は自然の中で交配し、延々と子孫を残してきました。家畜化された近年までもこれらの増殖は自然種付けによりなされてきました。しかし、人工授精が開発されて以来、現在の日本で飼養されている牛の殆どが人工授精により子牛の生産がおこなわれています。
 人工授精の場合、飼い主が授精適期を把握することがきわめて重要です。この種付け時期(発情)を発見し、授精することが低コスト生産の基本となります。
 従来は短時間に低コストで発情を発見する技術がなく、費用と時間の少なくてすむ技術の研究・開発が望まれていました。 

発 情 と は

 下垂体前葉から分泌される性腺刺激ホルモンの支配を受けて、妊娠していない成雌牛は周期的に発情を繰り返します。雌牛は発情すると、(1)落ち着かず、(2)運動量の増加、(3)声をあげる、(4)食欲の減退、D外陰部の充血・腫大、(5)粘液の排出、(6)尾をあげるなどの兆候を示します。
 特徴的なのは他の牛に乗駕を許すことで、牛が自由に動き回れる状況だと乗駕により発情の確認がとれます。発情初期は乗駕されることをいやがり、中期になるとじっとして乗駕され、乗駕が発情発見のポイントとなります。 

発 情 周 期

 成雌牛は妊娠しない場合に、ほぼ一定の周期をもって発情を繰り返します。これを発情周期または性周期といいます。発情周期は、卵巣が周期的に卵胞の発育、成熟、排卵、黄体形成・退行を繰り返すのに対応して、子宮、膣などの副生殖器にも周期的な変化が起きます。
 発情周期の日数は、家畜の品種により差がありますが、同じ黒毛和種でも個体、栄養状態などによって多少の差がでてきます。牛の発情周期は21日ですが、この値は平均値で、早い牛は17日、遅い牛は23日とその間に7日間の開きがあるので、発情日の予測には注意が必要です。また、30日に近いものは早期へい死が含まれ、短すぎるのは卵巣機能異常が考えられます。


沖縄の農家での現状

 牛の妊娠期間は280〜285日前後ですが、産後の体力回復も加味して分娩間隔は365日前後を理想としています。しかし、沖縄県での平均分娩間隔は、1987年の443日より1995年は427日と16日改善されているものの目標の365日には及びません(全国でも同様な傾向です)。このことは子牛の生産に関与しない無駄な日数62日(427−365日)と、その間の労力を費やすことになっています。
 これらの改善には、的確な発情発見が不可欠になります。発情発見には少なくとも朝、夕2回の観察と日常作業時での注意が必要です。また、分娩後30日以降の発情に確実に種付けを行うことも重要です。
 しかしながら、毎日の観察となると、他の農作業との重なりや会合などの予期せぬことで、怠ることがあります。表−1に示すとおり米作の少ない沖縄県では、サトウキビの収穫時期(1〜3月)が農繁期となります。この製糖時期に種付けがうまくいかず、分娩間隔が長くなっている地域がみられます1)。時間的余裕がなく発情の人的見逃しがあることが予測されました。このことは沖縄県以外でも考えられることです。
 これらのことから、安価で、簡単な発情の発見が望まれていました。
              表―1 時期別子牛生産割合(沖縄畜産、1994)        (単位:%)
(注)調査は1991年2月から1994年1月の生産報告による。                      

発 情 発 見 棒 

 パドック内で発情牛を発見するための補助段の一つとして、発情発見棒の試み2)をしたので報告します。
 発情発見棒は図−1に示したように、高飛び棒のように両側を固定しないで床面に落下しないように10cm程度の余裕をもって紐をかけます。
 牛床より170cmの高さに発情発見棒を設置すると、牛が舌でいたずらができるので、180cm、190cm及び200cmで比較検討しました。
 @試験に供した黒毛和種繁殖雌牛14頭の平均体高は128cm程度で、最高値が136cm、最低値が124cm、平均体重は427kgです。
 A乗駕45件中、180cm及び190cmの発情発見棒は95.6%および84.4%の割合で落下しましたが、200cmの高さの発情発見棒の落下の確率は6.7%でした(表−2、図−2)。
 発情中期の乗駕時の高さは、おおよそ220cmに達します。その時は、発情牛があまり動かないため、発情発見棒を多く必要とします。発情初期に発見し、適期に授精するためにも発見棒の床面からの高さは180〜190cmが適当です。
 これらのことから発情牛がその群内にいると、乗駕により発情発見棒は落下し、発情を発見する有効な手段になると考えられました。
図―1 発情発見棒を設置した状況 図―2 発情発見棒による乗駕発見割合
(注)床面からの高さは180cm及び190cmが乗駕を発見しやすい。
 
表―2 発情発見棒の落下状況(沖縄畜試、1995)

発情発見棒設置の留意点

 (1)バーンクリナーなどの乗駕の障害となる場所の近くへの設置は避け、パドックの中央、または牛が集まる場所に設置するのが効果的です。
 (2)発情発見棒の床面からの高さは、体高が128cm程度の黒毛和種で、180〜190cmが適当です。
 (3)発情発見棒が床面に落下し、牛に踏まれるのを防止するために、棒より高い位置から紐などで吊るすと良いです。
 (4)発情発見棒の両側の受けは固定しませんが、カラスや風による落下を防ぐため、棒は5cm(幅)×10cm(長さ)程度が良いです。 

お わ り に

 牛肉の低コスト生産のためにさまざまな対策があると思いますが、身近な工夫で改善できる点が多くあります。
 ここに紹介した発情発見棒についても興味のある方であれば、今日からでも実行可能です。また、牛床にある糞の状態やスリップ跡による発情発見方法が沖縄県畜産試験場研究報告2)や沖縄県畜産会のインターネット3)に紹介されていますので参考にして下さい。
 牛は、発情をあらゆる方法で訴えていますが、私たちが、それをキャッチできないでいるだけなのです。

参考文献
1)玉城政信・石垣 勇・長崎祐二・兼次浩三、1994、沖縄県における黒毛和種雌牛の繁殖成績、沖縄畜試研報、32、41〜45
2)玉城政信・島袋宏俊・金城寛信・比嘉直志、1995、牛の乗駕発見技術、沖縄畜試研報、33、17〜20
3)沖縄県畜産会URL http://cali.lin.gr.jp/japan/k47/index.htm

 
 
 

(筆者:沖縄県畜産試験場大家畜室主任研究員)