21世紀に向けた農業革命

 

山 本 喜 行

 

は じ め に

 私は、昭和20年に山口県防府市で農家の長男として生まれ、農業高校から大学へ進学し経営経済を学びました。卒業後は公務員として働いてきましたが、自然を相手にする職業に就く夢を捨てきれず、どうしたら自然にある資源を有効に使えるかを考え続けていました。そして、11年後、自分の山林30haと水田1haを最も有効に活用できる可能性を見いだし、林業と畜産と水稲の複合経営に取り組みました。
 高校で畜産を学んだとはいえ、いざ牛を飼うとなると素人同然。まず始めたことは市場で仕入れたF1のぬれ子の育成出荷でした。この経験は後の和牛の子牛育成技術につながっています。市場に出入りする間に、たまたま和牛の妊娠牛が安く売られていることに目を付けました。まず、3頭を購入し、和牛の繁殖と子牛の育成に取り組みました。繁殖牛を飼い始めてから子牛の生産検査や登録で家畜保健衛生所等とお付き合いをするようになり、肉用牛の補助事業のことを知りました。そこで、規模拡大を決意し、平成3年度県単補助事業で牛舎と牧柵を整備しました。
 もちろんすべてが手造りです。土地造成や牛舎の建築にあたっては、0.3m3バケットのユンボをフルに活用しました。このユンボは林道の造成や木材の搬出、つまり、林業部門で使っているものです。そして、牛舎の材料も林業部門の間伐材を利用し、労働力も家族の手助けだけで建築することが出来ました。その結果、72.9uの10頭収容できる繁殖牛舎が約60万円の実費で完成しました。
写真―1 自宅全景
写真―2 自宅横の育成舎と畑(イタリア)

1.牛の本来持つ能力を利用

 現在、母牛14頭と育成・子牛6頭を飼育しています。私の牛の飼い方には一つの理念があります。それは、牛は繋ぐものではなく、牛には土を付けるものであるということです。家畜として改良されてきた牛を半野性化して、本来、牛の持つ能力を引き出し、その習性を利用しようと思い野に放すことを考えました。
 同じ時期に松食い虫で荒れ果てていた山林は、造林の補助事業を活用し、造林に次ぐ造林を重ね、30haある山林のうち、私の代だけで10haに林道をはりめぐらし、植林を完成していました。しかし、植林をしただけで木は育ちません。春から秋にかけての下草刈りがあります。そこで、あたかも水稲の草刈りにアイガモを利用するがごとく牛を山へ放してみました。やってみると考えは的中。桧は少し臭みがあるため被害は極小で済みました。花シバも臭みがあるためきれいに残され、最高の商品となり、とんだ副収入が得られ、一石三鳥とはこのことです。 

2.驚いた牛の能力 

 やればやるほど牛に教えられることがたくさんありました。削蹄の必要はなく、土からミネラルや微量要素を摂取しているので添加剤も必要なし。牛もいきなり山林には入らず、午前中は山際の水田、午後に山林に向かいます。夕方、カラスの鳴き声とともにボスを先頭に列を作って牛舎に帰ってきます。水田に牛が入ることには少し懸念がありましたが、思ったより傷みも少なく、適当にふんをするのでかえって地力がつくようです。
 牛達は、朝、私が餌をやるまではいつまでも待っています。このことから牧柵は必要ないと気付きました。なぜなら食べるものがない所に牛は行かないことを確信したからです。実際これまでに牛が行方不明になったことは一度もありません。結局、牛に手をかけるのは出産1カ月前から授乳期間3カ月の母牛と子牛の育成(8カ月まで)であり、これは舎飼いで行っています。それでも平成9年の子牛販売頭数は雌3頭、去勢5頭で総販売額は231万円(平均28.8万円/頭)でした。年間の飼料代が約70万円で、その他の諸経費も20万円程度ですから、それらを差し引いてもかなりの収入となりました。
写真―3 自宅近くの繁殖牛舎
写真―4 補助事業利用の繁殖牛舎

3.牛は成牛導入で

 しかし、私の本業は林業と水稲であり、現在の主たる収入は米と材木で牛はあくまでも副業です。飼っている牛は山林の雑草を刈る道具にすぎません。平成9年の夏に、県内の肉牛繁殖農家のグループが畜産会職員と視察に来られたので、山林の中の牛が通る道を歩いていただきましたが、綺麗に整理刈りされた林を皆が感心していました。牛がいなければ、この時期は毎日下草刈りに悪戦苦闘していたことでしょう。とても割に合う仕事ではありません。
 私が導入する繁殖牛は、今でも全てが更新用に見捨てられた成牛市場で販売される牛です。したがって、母牛の減価償却費は通常の3分の1以下に押さえることが出来ているはずです。しかも、種が付かない等の理由で繁殖牛失格となった牛が、放牧によって元気になり、子牛を産み始めるのですから資源の有効利用にもなっているのではないでしょうか。実は、夏に視察にきたグループの一員から来た牛が1頭いましたが、話を聞いてみると育種価の数値が良いそうで少し得をした気もします。雌が生まれて母牛の里へ帰ることができたらなおうれしいのですが・・。 

4.林業と畜産の結合

 私がこれから注目している放牧利用の方法は、遠距離の山林を利用した夏山冬里方式であり、これで規模拡大ができると考えています。それは、飼っている牛の中の仲の良い2頭の牛が、片道1kmもある樹齢7年生の山林2haに毎年6月頃から9月頃まで(みずみずしい野草の時期)、牛舎に帰らず住み着いている経験からです。
 畜産も同じでしょうが林業でも従事者は減少しています。つまり、中山間地の産業は危機的状況にあります。農林業とはいわれますが、行政サイドから見ると、林業と畜産はなかなか簡単には結びつかないようです。しかし、今後の村おこしや畜産を目指そうとする若者に夢を与えるための一つの手法として、私の考える放牧は有効ではないでしょうか。官民一体となって林業と畜産が結合することで、低コスト牛舎も可能になるし、放牧により下草刈りが必要なくなるので枝打ちなどに労力が向けられ、高価な取引ができる無節の柱材が出荷できるようになります。もっとも柱材の収入は次の世代になるわけですが、山で資産を増やしていると考えれば、サラリーマンよりはるかに貯金ができていることになり、本当に豊かな生活がそこで出来るのではないでしょうか。これこそ21世紀に向けた新たな農業革命だと私は思います。
写真―5 人が近づいても逃げない牛達
写真―6 水田利用の放牧地

お わ り に

 私の植林方法は純粋な林業サイドから見ると、完全ではありません。牛を放すことだけでもあまり良い顔はされません。まして、山桜や辛夷の木は切らずに残してあります。でも、花の季節になると植林を手伝ってくれた友人を招待して、野外バーベキューを開くことが出来ます。山は貯金をする場所だけでもないのです。
 林業へもメリットがある放牧というスタイルを活用する方法は、アグロフォレストリー(Agro Forestry)という学問分野で研究がされているそうです。これまで、説明してきた私の体験からも、放牧をうまく活用すれば、あまり設備投資をせず畜産に参入できると思います。皆さんもぜひ考えてみてください。
 

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