経営技術セミナー

受精卵移植による輸入スーパーカウ増殖の取り組み

 

叶 内 恒 雄

 

 は じ め に

 山形県では、酪農経営の活性化を図るため、平成5年度から受精卵移植技術を活用した「スーパーカウ ET モデル事業」を展開しています。
 受精卵移植技術により娘牛を生産したスーパーカウ牛群の作出と実証展示を行うとともに、受精卵を県内酪農家に供給し、子孫の増殖を行ってゆくというものです。
 そこで、これまでの事業の経過、採卵成績と娘牛の生産状況などについて紹介します。


1.スーパーカウの導入とプロフィール

 本県の酪農情勢を紹介しますと、図−1のとおり乳用牛の飼養戸数および頭数は、昭和55年に4160戸および2万6800頭であったものが、平成8年には890戸(昭和55年比21.4%)および1万9700頭(同比71.5%)に減少し、特に、戸数の著しい減少がみられます。しかし、生乳生産量は横ばいに推移しており、確実に産乳能力が向上しているといえます。

図−1 山形県の乳用牛飼養戸数・頭数 生乳生産の推移

 経営改善には能力向上による生産コストの低減および産乳量や乳成分(特に乳蛋白量)のアップによる所得向上が不可欠であり、高能力牛群の整備が急務となってます。
 このような背景から平成5年と6年にアメリカ、カナダより6頭のスーパーカウが輸入され、当センターに繋養されました(プロフィール参照)。

スーパーカウのプロフィール

<平成5年度導入>

<平成6年度導入>


2.受精卵移植によるスーパーカウ牛群作出

 輸入牛から受精卵を採卵および移植して、センターで20頭の娘牛を増殖し、「スーパーカウ牛群の作出」を第一段階の目標とし取り組んできましたので、その経過、方法および成績について触れてみます。

(1) 過剰排卵処理および採卵
 まず、ホルモン剤による過剰排卵処理を行います。黄体期(発情日から9〜13日目)に、卵胞刺激ホルモン(FSH製剤)を1日2回3日間、スーパーカウ本牛には計32mg、娘牛には計20mgを減量投与します。3日目にプロスタグランジンFαを36mgを朝夕2回に分けて投与し、発情を誘起します。発情発現後に人工授精を行い、7〜8日目に子宮内を潅流し採卵を行います。
 なお、この時点の娘牛の採卵は、人工授精前の13〜15カ月齢の未経産採卵(バージンフラッシュ)を意味し、受精卵の早期確保の目的で行っております。
 採卵成績は、表−1に示しましたとおり、本牛では延べ37回採卵し正常卵262個(平均7.1個/回)、娘牛では表−2のとおり延べ16回採卵し、正常卵89個(平均3.7個/回)を回収しました。これらのように、本牛からは安定した成績が得られ、また、娘牛の採卵成績も個体差はあるものの予想された結果が得られました。欧米では未経産採卵は、改良のスピードアップを期待し積極的に行われております。

 表−1 輸入スーパーカウの採卵成績          表−2 スーパーカウ娘牛の未経産採卵成績
                 (平成10年2月現在)                   (平成10年2月現在)
 


(2) 受精卵の凍結保存
 回収した正常卵は、新鮮移植のほか凍結保存します。当センターでは、ワンステップ法およびダイレクト法の2種類の方法で実施しています。ワンステップ法は、ステップワイズ法と同様に融解後、移植前に受精卵の生存性を確認しますので、高い受胎率が得られますが、操作に手間がかかります。
 一方、ダイレクト法は、融解後即移植できる簡易で実用的な方法ですが、受胎率がやや劣るとの報告もあり、両者に長所短所があります。

(3) 移植および分娩成績
 @ 移植は、ホルスタイン種未経産牛または経産牛に、新鮮卵または凍結卵を1卵ずつ移植しました。また、センターでは事前に性判別(PCR法)し、移植も行っています。受精卵9個を用い、雌と判定した受精卵5個を移植し、雌子牛2頭が生まれています。
 A 移植受胎および分娩成績は、表−3に示しましたとおり、センターでは76頭に移植し40頭が受胎し、受胎率は52.6%でした。これらから、雌子牛17頭が生まれ、本牛の人工授精による雌子牛3頭を合わせると20頭の娘牛群が作出されました(写真−1)。


表−3 移植および分娩成績(平成10年2月現在)

注)( )は内数で性別判断の♀胚数を示す。     
      
写真−1 スーパーカウと誕生した娘牛群


 一方、酪農家では48頭に移植され受胎18頭、妊否不明8頭で受胎率は45.0%でありました。これまで、6頭の雌子牛が生まれております。
 B 産子の生時体重を表−4に示しました。早死産であった雄子牛3頭を除いたセンターの37頭および酪農家の14頭の産子の平均生時体重は、雌子牛で43.3Kg(最小33.0Kg〜最大54.0Kg)、雄子牛で50.2Kg(最小40.0Kg〜最大58.0Kg)でした。


表−4 産子の生時体重(平成10年2月現在)
      注) 数字は、流・早死産を含まない。        

 幸いにも、これらの分娩で難産による事故はありませんでしたが、雄子牛の分娩では難産が心配されますので、体の小さい未経産牛への移植は行わないこと、分娩予定日を経過した場合の対応などについて、関係者には注意を促しております。


(4) 雌子牛の哺乳育成
 当センターの哺育育成プログラムを表−5に示しました。哺乳量は、当センターの慣行法より少なめに設計してあります。

               表−5 スーパーカウ子牛哺乳育成プログラム(給与量L/日)

《ポイント》
 @ 生時体重45kgを目安にしているので体重に応じて増減する。
 A 初乳は生後2時間以内に2kg、12時間以内に2kgを飲ませる。冷凍初乳も利用する。
 B 離乳の目安は、人工乳を1日700g以上摂取できること、乾草を十分摂取できること。


 飼養管理の主なポイントは、
  @ カーフハッチを利用する。
  A 初乳を早期に確実に飲ませる。
  B 下痢をおこさせない。
  C DG(日増体量)は0.8〜0.9Kgを目安とする。
などです。
 また、予防接種やパーネット投与など衛生対策も重要です。この時期に重度の下痢や呼吸器病に罹患すると、以後の発育に影響します。しかし、乳用雌子牛にとって栄養過剰も感心しません。高栄養で飼養すると乳房内の脂肪細胞が増加し、乳腺組織の発達を抑えてしまい、将来、十分に泌乳能力を発揮できなくなるからです。
 したがって、高い遺伝的能力をもつスーパーカウ子牛であっても、この時期の飼養管理が将来の産乳能力に大きく影響すると予想されます。
 また、雌子牛の発育状況は、おおむね体重および体高とも日本ホルスタイン協会の発育標準の平均値から上限の間を推移しておりますが、特に、体格の大きいスーパーカウ由来の子牛は発育が良好で上限を超えているものが数頭みられます。


3.今後の事業計画

 平成10年2月末現在、娘牛20頭のうち未経産採卵を実施後、人工授精により11頭が受胎し、うち3頭が分娩しています。分娩後は産乳能力を検定しながら採卵を行う計画になっています。酪農家への受精卵供給は、凍結卵1個3万円で有償配布しており、平成6年度から8年度まで毎年15個ずつ計45個、9年度71個の合計116個をすでに供給しております。
 今後の供給計画では、平成10年度120個、11年度140個、12年度160個、13年度160個が配布予定となっており、これらから酪農家で続々と娘牛が誕生してくることになります。


 お わ り に

(1) 酪農経営で改良はなぜ重要か
 高能力牛群の整備が生産コストの低減および所得の向上をもたらすことを裏付けるものとして、平成8年の国の調査データがあります。生乳1Kg当たりの生産コストは8000Kg牛群と6000Kg牛群とを比較すると、8000Kg牛群が6円87銭安く、1Kg当たりの所得は7円47銭高いとのことであります。
 改めて、改良の重要さがご理解いただけたことと思われます。本県の事業は、上記のような背景を受け展開されています。

(2) 受精卵移植で改良のスピードアップ
 ご存じのとおり牛などの単胎動物は一生でせいぜい数頭の産子が得られるだけですが、受精卵移植技術を用いれば、優良な個体を効率的に増殖でき、遺伝的な能力の向上および改良期間の短縮が図られます。また、受精卵から生まれた子牛は、代理母(受卵牛)の遺伝子は受け継ぎませんから、受精卵移植により、全く新しい血統の導入が可能です。  1992年にカナダ、以降はアメリカ、オランダから牛受精卵の輸入ができるようになり、1996年まで約5300個が輸入されております。また、国内でも本県のようにスーパーカウの受精卵を供給しているところも増え、繁殖計画に受精卵移植を取り入れ易くなりました。具体的には、能力的に低い牛に受精卵を移植して、高能力な娘牛を生ませ、さらに娘牛から採卵するといった具合に、受精卵移植を牛群の改良に役立てていただきたいものです。



 (筆者:山形県農業研究研修センター畜産研究部主任専門研究員)



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