経営技術セミナー

 

養豚一貫経営における繁殖技術向上のポイント

 

今 田 哲 雄

 

は じ め に

 山形県立養豚試験場では、養豚一貫経営の経営改善を図るために、畜産会の経営診断を受診した養豚経営の経営実績を中心に調査分析しております。その中で、枝肉1kg当たり生産費および種雌豚1頭当たり所得に対する構成要因を分析した結果、繁殖技術では年間子豚離乳頭数、肥育技術では増体1kg当たり飼料費の影響が大きいことがわかりました。
 平成9年度には、養豚一貫経営における繁殖技術の向上を目的として、養豚一貫経営を子豚離乳頭数を階層別に区分して、繁殖技術水準について検討しました。本調査に供試した材料は平成6年度から平成8年度にかけて山形県畜産会の経営診断を受診した養豚経営の経営実績です。
 繁殖技術として、年間分娩回数、種雌豚1腹当たり子豚哺乳頭数(以下、子豚哺乳頭数)、子豚育成率、繁殖豚の更新率(以下、更新率)および繁殖豚年間平均飼料給与量(以下、飼料給与量)について、経済性として枝肉1kg当たり生産費(以下、枝肉生産費)および種雌豚1頭当たり所得(以下、所得)について調査分析しました。
 そこで、子豚離乳頭数階層別の調査結果と、調査結果から考えられる年間の子豚離乳頭数に対する対応策について紹介します。



1.養豚一貫経営の繁殖技術水準は

 調査は養豚一貫経営104戸を対象としました。調査対象経営の年間子豚離乳頭数の全平均値が20.9頭であったことから、階層は子豚離乳頭数を1頭ごと増減して8区に設定しました。調査区分および養豚経営の概況は表−1のとおりです。

表−1 調査対象農場の経営概況


 (1) 年間分娩回数、子豚哺乳頭数および子豚育成率
 子豚離乳頭数の階層別における繁殖豚の年間分娩回数、子豚哺乳頭数および子豚育成率を図−1、2、3に示しました。

図−1 年間分娩回数


図−2 子豚哺乳頭数


図−3 子豚育成率

 繁殖豚の年間分娩回数および子豚哺乳頭数は子豚離乳頭数の多い階層ほど優れていましたが、子豚離乳頭数の少ない階層では年間分娩回数が2.20回以下、分娩時の子豚哺乳頭数も少なく10.5頭以下でした。子豚育成率では、子豚離乳頭数は18頭以下の8区で84.2%と低い結果でしたが、それ以外の階層では89〜90%台で、ほぼ同じような結果でした。

 

 (2) 繁殖豚の更新率および飼料給与量
 子豚離乳頭数階層別による繁殖豚の更新率および飼料給与量を図−4、5に示しました。更新率および飼料給与量は子豚離乳頭数階層別では区間で差がなく、それぞれ33〜42%および1020〜10kgの範囲でした。

図−4 繁殖豚更新率


図−5 繁殖豚飼料給与量

 

 (3) 枝肉生産費および所得
 子豚離乳頭数階層別による枝肉生産費と所得を図−6、7に示しました。枝肉生産費は子豚離乳頭数が少なくなるほど高くなりますが、所得は逆に低くなる傾向がみられました。

図−6 枝肉生産費


図−7 雌豚1頭当たり所得


2.繁殖技術向上のための対応策として

 経営調査結果から、年間の子豚離乳頭数が多い階層ほど、枝肉生産費が低く、また、所得が高くなっていました。この階層の繁殖技術は、年間分娩回数および分娩時の子豚哺乳頭数が子豚離乳頭数の少ない階層に比べ、優れていました。繁殖豚の更新率および飼料給与量に関して、子豚離乳頭数の階層間で顕著な差はありませんでした。
 しかし、子豚離乳頭数の多い階層では、飼料給与量がほかの階層と比べ、差がないにもかかわらず、年間分娩回数および子豚哺乳頭数が優れていました。このことは、繁殖雌豚に対する期別(妊娠期、授乳期および空胎期)の飼料給与を含めた飼養管理が適正であったといえます。このような飼養管理が、離乳後における発情回帰を早め、かつ受胎する繁殖雌豚は多くなると思われます。その結果、年間の分娩回数が高くなり、年間の子豚離乳頭数も増したのだと思います。したがって、繁殖雌豚に対する飼養管理技術水準は子豚離乳頭数の多い階層ほど優れていると思われます。
 このように、養豚一貫経営において枝肉生産費の低減および所得の向上を図るには、いかに年間の子豚離乳頭数を多く生産するかがポイントになると思います。
 以下、年間の子豚離乳頭数に対する技術要因について説明します。

 (1) 不受胎を減らすために
 年間の子豚離乳頭数を高めるためには繁殖豚の不受胎を防止して、分娩率を高めることが要求されます。そこで、雄豚サイドと雌豚サイドの両面から技術対策などを説明します。
 @ 雄豚の管理対策
 雄豚の精液性状を供用前や定期的に検査し、精液性状を確かめてから、雌豚との交配に供用することが大切です。
 初めての夏を迎える若雄豚は日本脳炎に感染すると造精機能障害が発生し、精子数の減少、精子生存率の低下など、精液性状が劣るといわれています。したがって、種雄豚は日本脳炎による造精機能障害の低下を防ぐために、春から夏にかけてワクチン接種を2回実施するようにしてください。
 雄豚の頭数は一般的に繁殖雌豚が約15頭に対し、雄豚は1頭を繋養するといわれています。雄豚を効率的に供用するために、次のようなことがあります。
 つまり、交配した雄豚の供用日をカレンダーに記入し、特定の雄豚に交配が集中しないよう心掛けてください。また、雄豚の負担を減らす意味で、自然交配と人工授精を供用することがあります。表−2に示したように、受胎率および分娩時の産子数は併用した区がやや優れた傾向を示し、繁殖成績に対する影響は少ないと思われます。養豚経営では、交配作業の軽減化を図るために人工授精を採用することも必要と思います。

表−2 人工受精併用による受胎および分娩成績(佐藤金一ら、山形豚試、1993)

注1) 最小自乗平均値±標準誤差           


 A 雌豚の管理対策
 山形県の系統豚「ヤマガタL」の飼養管理マニュアルでは、繁殖雌豚に対する飼養給与法を図−8に示したように説明しています。離乳後の発情回帰の促進とフラッシング効果を目的として、離乳時から交配時までの空胎期は日量3.0〜4.0kg給与するようにしています。その後、交配が終わった時点から、妊娠前期の飼料給与量(2.2〜2.6kg)に戻して管理するようにします。

図−8 繁殖雌豚の飼料給与日量(種豚用飼料〈TDN72%、DCP12%〉の場合)


 次に、離乳後の発情回帰を早めるために、分娩1週間前から交配時までにビタミンE剤など飼料に添加給与すること、また、交配時にホルモン剤を利用することなどがあります。
 離乳後の発情回帰の促進および排卵数を増加するため、基本的には空胎期に飼料の給与量を増して、雌豚に対する栄養が不足しないように管理することが望まれます。
 B 受胎の確認
 豚は普通21日ごとに発情の徴候が見られます。そのため、交配後21日前後から妊娠の確認が必要となります。
 妊娠を診断する方法として、一般的にはノンリターン法が用いられています。これは交配後21日目に発情回帰の有無で判断する方法です。しかし、交配後の1回目の発情の徴候がみられない場合でも、妊娠していない豚がいることもあります。そのため、交配後1回目、さらに2回目の発情回帰も確認することが妊娠期の管理として望まれます。
 次に、超音波を利用して妊娠状態を診断する方法があります。これには羊水を超音波の反射音で診断するエコー法や、また、繁殖雌豚の体表探触子に胎子の心臓音、血流の音などを聴取りするドップラー法があります。
 そのほか、豚の直腸内に手を挿入して中子宮動脈の振動や肥大を触診する方法で、直腸検査法があります。


 (2) 流産および死産を予防する
 繁殖雌豚の年間分娩回数を高めるには、交配後の妊娠を確認し、さらに流産や死産を防止するような管理が望まれます。
 豚では胎盤が形成され、受精卵が子宮に定着するのは交配後30〜40日であるといわれています。したがって、交配後の発情2回目までは闘争や転倒による流産を防止するために、豚はストールに収容するか、単飼で管理することが要求されます。豚の移動は2回目の発情がないことを確認してからおこなうようにしてください。また、妊娠初期における胚胎の損耗を予防するために、繁殖雌豚に飼料を多給しないように管理することが望まれます。
 次に、夏から秋にかけて日本脳炎およびパルボウィルス病による流・死産が発生することがあります。養豚経営において、繁殖雌豚の流産および死産は年間分娩回数が低下し、子豚の生産頭数を減少させ、経営に及ぼす影響は大きいといえます。
 そのため、日本脳炎およびパルボウィルス病による流産および死産の発生を防止するために、春から初夏において混合ワクチンを接種することが必要になります。
 特に、初めて夏を迎える初産の育成豚は1回目の混合ワクチンを接種した後、4週間おいて2回目の混合ワクチンを接種することが望まれます。経産豚では、育成豚と同様に春から夏にかけて2回混合ワクチンの接種を行うことが大切です。この時期に、交配後約30日ぐらいで妊娠が確認された雌豚は、ワクチン接種による事故を予防するために接種時期をずらして、実施するようにしてください。


 (3) 産次構成は
 今回の調査では、繁殖雌豚の更新率は各階層とも32〜42%の範囲で、一般的に更新率は30〜40%といわれており、各階層間ともほぼこの範囲内でありました。
 今回の調査では調査対象とした各経営の産次構成を調査できませんでしたが、繁殖成績が安定した養豚経営を維持するには繋養する繁殖雌豚の産次構成を検討する必要があります。
 養豚経営内の繁殖雌豚の標準的な産次構成は、免疫グロブリンを多量に保有する3産から6産の母豚が常時繋養している繁殖雌豚の50%を確保することが望ましいといわれています。産次別では、未経産10〜15%、1〜2産30〜35%、3〜6産の泌乳量の多い豚が40〜50%、7産以上の老齢豚は10〜15%といわれています。
 廃用するのは発情徴候のない豚、不受胎が続いた豚、泌乳性の劣る豚、神経質な豚、7産以上の老齢豚、食欲の劣る豚、肢蹄に障害のある豚などを対象とします。そして、計画的に更新し、繋養している繁殖雌豚群は常に適正な産次構成を維持するように心掛けてください。


 (4) 虚弱子豚の予防と対策は
 今回の調査で子豚育成率は子豚離乳頭数が18頭以下の階層を除いてほぼ90%であり、畜産会が経営診断時に参考とする技術指標と比べても遜色はなく、技術的な差はないと思われます。
 年間子豚離乳頭数を高めるには、分娩時に虚弱子豚(体重1kg未満の子豚)の生産を少なくすることと、また、哺乳期における虚弱子豚の生存率を高めることが考えられます。
 最初に、分娩時の虚弱子豚の生産を少なくするには妊娠後期(分娩前30日)に飼料を増量することが大切になります。妊娠後期では、急速に胎子が発育するといわれており、胎子の発育および分娩後の泌乳のために、繁殖雌豚では栄養の蓄積が求められます。したがって、妊娠後期における飼料の給与量は妊娠前期に比べ、約10〜20%増量することが必要となります。「ヤマガタL」の飼養管理マニュアルでは、図−8に示したように飼料は2.4〜3.0kg給与するようにしています。
 次に、虚弱子豚に対して植物性油脂混合飼料を投与した時の生存率を表−3に示しました。30頭の虚弱子豚に対して、生後12時間以内と24〜48時間後にそれぞれ4mlを経口投与した結果、25頭の子豚が生存し、生存率は83%でした。このように、虚弱子豚が娩出した時は植物性油脂混合飼料を投与して、哺乳期の子豚育成率を高めることも望まれます。

表−3 植物性油脂混合飼料投与子豚の生存率および発育成績
          (鈴木義邦ら、山形豚試、1993)

注1) 最小自乗平均値±標準誤差
2) 生後5週齢で離乳した。


 (5) 離乳子豚の発育向上のために
 離乳後の子豚に対して離乳後の発育向上を図るために、血漿蛋白を添加した飼料の給与結果を表−4に示しました。発育および飼料要求率は、市販の哺乳期子豚育成用配合飼料を給与した子豚に比べ、優れていました。離乳子豚の発育を高めるために、離乳後約1週間は市販の哺乳期子豚育成用飼料に血漿蛋白飼料添加の検討が望まれます。

表−4 離乳子豚に対する血漿淡泊添加飼料の給与効果(斉藤常幸ら、山形豚試、1998)

注1) 3%添加:市販哺乳期子豚育成用配合飼料97%+血漿蛋白3%
 2) 6%添加:市販哺乳期子豚育成用配合飼料94%+血漿蛋白6%
3) 対照区:市販哺乳期子豚育成用配合飼料100%       
4) 平均値±標準誤差                   
5) 異符号間に有意差あり(P<0.05)            


 お わ り に

 養豚一貫経営において、枝肉生産費の低減、所得の向上を図るには、離乳時に子豚を如何に多く離乳するかがポイントになります。そのためには、繁殖雌豚の分娩回数などの繁殖技術水準を高めることが要求されるので、繁殖技術の改善に取り組まれることを期待します。 



 (筆者:山形県立養豚試験場開発研究専門員)

 


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