経営技術セミナー

島根県中央子牛市場における子牛の市場動向

伊 藤 太 省

 

 は じ め に

 
 島根県の宍道湖の南に位置する宍道町にて毎月2日間開催される中央子牛市場(JA島根経済連主催)に出荷される子牛を、普及センターの畜産担当普及員と島根県種畜センターが協力し、平成元年から継続して現在まで調査してきました。調査したデータを基に、データファイルを作成、分析することで市場動向を的確に把握し、日常の活動に活用してきました。この処理も9年目となり、この間に牛肉の輸入自由化が始まり子牛市場の相場にも大きな変化がありました。今回一つの区切りとして、そのデータファイルの一部を用いデータを整理分析し、現在の「しまね和牛」の一面を紹介します。
 子牛市場で実施している調査項目は体高と胸囲に加え、現在は腹囲を測尺しています。以前は発育、体積均称、資質品位についても調査をしていました。データファイルには調査データのほか市場名簿から日齢、血統3代、母牛登録点数、損徴等、生産地、体重、市場販売価格、市場比(平均価格に対し百分率でいくらであったか)、購買者さらに子牛登記番号、生産者名について、ただし血統3代、損徴、生産地及び購買者はコード化し、市場開設日ごとに分類整理をしています。 この間に資質品位等の評価方法の変更がありましたが、データ処理にアイデアを凝し、データ内容の連続性を保っています。入力については、当初普及員の手入力で始まり、昨年からは利用契約を結び市場データファイルからファイル構造変換を重ね、このプログラムシステムで活用できるようにコンバート体制を整え省力化を進めています。順調に処理ができているときは、市場開催後約1カ月で、各普及センターへインターネットを通じEメールで提供しています。本誌では平成9年(1997)1年間の島根県中央子牛市場データを中心に分析しています。


 1.種雄牛の交配情


 さて、農家が一番求める情報は種雄牛の交配情報です。今どの種雄牛を交配したら一番有利に取引されるかが最大の関心事です。
 表−1のように今一番人気は茂重桜(2,143頭)、第2位が藤桜(1,577頭)、この2頭で50%以上を占めています。茂重桜と藤桜のプロフィールについては表−2、3のとおりです。これはインターネットURL:
http/www2.pref.shimane.jp/kisui/sengi/dreed/menu.htmにて検索をかけると島根の種雄牛について同様のものが表示されます。第3位以下(花桜、賢深、深晴……)になると桁違いに出荷頭数が減少します。

表−2 茂重桜のプロフィール 表−3 藤桜のプロフィール
表−2 茂重桜のプロフィール (31728 バイト)    表−3 藤桜のプロフィール (30795 バイト)

 子牛の測定値などは標準偏差(バラツキσ)をつけて表示していますので、種雄牛ごとの発育などの情報を得ることができます。この中で情報がわかりにくい日齢体重は、体重を日齢で割り算した値を集計し、その値が発育を判断する目安になります。また、一番右側の「優良」と「スソ物」は、全体の平均市場比から1σ以上離れている価格的に高い個体の割合を百分率表示で「優良」、逆に価格の安い個体の割合を「スソ物」として示しています。
 しかし、表−1の内容だけでは種雄牛ごとの子牛の発育に、どのようなバラツキがあるのかわかりません。この内容について分析したものが発育評価別子牛市場成績です。表−4及び図−1は茂重桜の発育評価の分析です。発育3以下が雌で47%とやや多いのが気になります。去勢は発育3以下が24%と「しまね和牛」の発育の良い特徴を示しています。このことから去勢は発育3以上で市場比100以上を得ています。しかし、雌はやや芳しくない値を示しています。これに対して表−5及び図−2に示した藤桜は発育3以下が雌は41%、去勢は27%で良好な発育を示しています。雌は、発育が良好な4以上で高値で取引されていることがわかります。
 このように人気上位2頭において種雄牛の違いと発育の違いからでも子牛の売れかたが違ってきます。図−1、2のレーダーチャートから見ますと、発育4以上が6角形に近い形で平均の円より大きくなる良好な形を示しています。ただし、出荷日齢は、発育が良い子牛は早く出荷されるため、この項目は内側に入ってきます。図−1、2のレーダーチャートに共通して胸囲については、発育ランクにかかわらず一番集中しているのがわかります。
 生産者は発育にかかわらず、できるだけ体型をそろえようとする取り組みの現れがみられるところと判断できます。胸囲についてはこのことと関連し、本文の後段で詳しく説明したいと思います。
 これらの形式で表示する分析、分類はこのほかに祖父牛別、祖々父牛別、生産地別、購買者別、指定した種雄牛について祖父牛別、指定した祖父牛について種雄牛別などについて同じように分析できます。
 さらに、期間を定めて集計ファイルを作成する際に、ファイルを構成する全ての項目について選択する制限を設定し、データを取捨選択して分析することもできます。
 この分析だけでも種雄牛の特徴、生産地ごとの子牛育成に対する取り組みの内容、購買者が求めている子牛の情報を細かく見つけ出すことができます。和牛飼養農家、改良組合等の会合等で使用する資料は、これらの情報から数値を拾い上げ、グラフにしたりわかりやすい表を作り構成しています。時には普及員どうしで表現のアイデア等を持ち寄り、表現技術向上を図っています。また、アイデアを発展させプログラムの充実も進めてきました。


 2.子牛の状態を正確に数値で知る


その中から数値データの分析間隔と項目を自由に設定することにより、市場が求める子牛の状態を正確に数値で知るプログラムを開発しました。例えば、表−6は縦軸に体重を10kg刻みに、横軸に体高を2cm刻みにとり集計したものです。
 この表から市場比を見れば高値で購買されているところがわかります。また、頭数を見れば生産者が出荷している子牛サイズの中心がわかります。
 雌では体高が112cm以上、体重が260kg以上で市場比が100を超えます。しかし、生産者が出荷する子牛サイズの中心はランク内の頭数からみて体高、体重とも1ランク下が出荷の中心です。
 去勢では体高が114cm以上、体重が270kg以上で市場比が100を超えます。生産者が出荷しているサイズも同じランクが中心となっています。
 以上のことから、雌子牛についてはもう少し大きくして出荷したほうが良いことがうかがえます。安易に体重を増やすということではなくて、体高と体重のバランスが大切だということがわかります。網掛で囲んであるところが市場比100以上の場所です。これが購買者が求めている体型をあらわしますので、この範囲に入るように育成することが求められます。
 雌では、やや体高が足りない場合でも体重を300kg前後まで稼いだほうが有利販売できる可能性を示しています。しかし、いくらでも大きい方がよいわけではなく、体高は120cmまで、体重も300kgまででまとめることが求められます。
 去勢で有利に販売するには、体重270kg以上が条件となっていることがはっきりわかります。また、体高は120cm程度までがよいということがわかります。体高が伸びない子牛はやや体重でカバーすることが有利販売につながることがここでもうかがえます。


 3.「しまね和牛」の有利販売のために


 「しまね和牛」は早熟、子牛段階の発育がよいことがセールスポイントです。発育ランクが問題になりますが、発育ランクごとにはどのように対応したらよいのか、今度は子牛の発育ランクごとについて、体重はどのようにつけたほうが有利販売されるかという分析を示してみます。表−8に示すように、和牛登録協会の発育標準値から体高に対応する体重を回帰式から求め、標準に対し実際の体重が+側か−側に何パーセントずれているかを分類し示します。この表では5%刻みおよび発育標準ごとに分類し、集計してみました。ただし、発育の6というのは標準の上限をオーバーした個体を示しています。
 これは、標準に対して肥満なのか痩せなのかを示し、このシステムでは経済的肥満度と名付けました。雌にいては市場比100以上を (809 バイト)を付しています。去勢については (790 バイト)を付しています。 雌は、発育の劣る個体については体重を増加させる飼育方法が有利販売につながるといえます。発育のいい子牛は、反対にやや痩せ気味のほうが高値に購買されるようです。平成9年のデータでは周辺部の対象となる子牛の頭数は少ないですが、この傾向は調査を開始して以来一貫して同じです。
 去勢は、「しまね和牛」の特徴である早熟の性質を求め発育は3以上で、発育3ではかなり体重がのっていないと高値の取引は望めないことがわかります。
 平成9年のデータでは、発育は4以上の雌は53%、経済的肥満度が標準以下すなわち痩せていると判断されるものが85%となっています。5年前の平成4年度のデータを見ると4以上は54%、経済的肥満度が標準以下は66%という数値となり、スリムな雌子牛が増えてきています。この要因は、子牛市場価格の下落により、濃厚飼料をひかえたからか、粗飼料主体の育成となったからかは、ここからではわかりません。
 去勢については発育が4以上が72%、経済的肥満度はおよそ平均以上が52%と早熟早肥の特徴をよく出しています。5年前も4以上は72%、経済的肥満度のおよそ平均以上は68%と、現在はややスリムになったものの同じような傾向を示しています。
 このことから「しまね和牛」の子牛の育成はまず発育、次いでやや発育が劣るものは体重を稼ぐ飼育が有利販売につながるといえます。


 4.体重を推定するために

  
 子牛生産の現場において、以上の分析からどのように育成指導したらよいか理解が得られたと思います。しかし、現場では子牛の体重をいつも容易に測定することなどできません。現場においては体重を推定し指導するしかありません。そこで、市場で測定している数値の中から体重と相関の高い項目は何があるかを検討してみました。表−910は雌および去勢の各測定項目間の相関表です。この中で体重と相関が明らかに高い項目は胸囲(雌0.74661/去勢0.72387)です。
 そこで、体重と胸囲の関係を回帰式から求め、胸囲1cm刻みで推定される体重を算出し雌、去勢に分けて表−11のような名刺サイズの一覧表を作りました。左側の胸囲の数値に対応する雌なら中央、雄または去勢なら右側の数値が体重の推定値となります。すなわち胸囲が150
cmの雌では267kgの体重となります。私はこの数値を名刺の裏に印刷し、巡回指導や市場での測尺時に農家の希望に応じて配布したところ大変喜ばれました。実際の現場では体高と胸囲を測尺し、ときには体重推定を加味し育成指導をします。私の経験から指導の副産物として、子牛は人になれ、市場でもおとなしくなり、扱いやすく、このことは取引にも有利に働くものと思われます。

表−11 体重推定
表−11 体重推定 (25542 バイト) (名刺サイズに作成しました。切り取ってご利用ください)


 5.購買者情報の集計分析

 
 次に、子牛生産を続けていくためには購買者情報をより早く集計分析し、これからの生産計画に反映させる必要があります。人工授精から子牛出荷までには18ヵ月(妊娠期間285日、出荷日齢257日)の期間を必要とします。新しい動きは早くつかめばつかむほど生産現場では有利に働きます。
 本来、購買者ごとに分類集計して子牛生産育成指導の対応をとるのですが、本誌では確認できる範囲で購買者を各都道府県に分類、集計した中で表現します。現在、「しまね和牛」を一番購入していただいているのは北海道と長野県です。北海道は雌子牛を中心に、長野県は去勢子牛を中心に購買しています。佐賀県が第3位の購買県です。島根県内には46%が残っている計算になります。
 平成元(1989)年度から平成8(1996)年度を都道府県段階で集計して雌、去勢別に子牛購入頭数ベスト10を表−1213に示しました。
 雌については、当初、岩手県が1位を占めていましたが、現在は連続5年北海道が1位となり、今年度も1位が確実です。岩手県は順位を下げてきています。
 去勢については佐賀県、山梨県、長野県が上位を争っていましたが、最近は徳島県、鳥取県が上位に食い込むようになりました。
 この紙面では詳しい購入子牛の分析データは掲載できませんが、繁殖、肥育の目的に応じて血統や発育などを吟味し購入していることがうかがえます。購買者の購入する子牛の血統、発育などの傾向と、購入頭数の推移などの動向を把握しながら、種雄牛の選択など生産者に情報の提供を考えています。
 地域的に表−1415に示すように集計すると雌は東北、北海道に多く購買され、次いで中部、四国が購買に入っています。去勢は中部地方が多く購買しています。次いで九州が多く購買していましたが、島根県を除く中国地方、四国が多く購買するようになりました。


 お わ り に


 今まで島根県は繁殖素牛、肥育素牛の生産県でありましたが、島根県内購買者が買い付ける子牛の割合は表−1415のように増加してきています。特に去勢は着実に増加してきています。これは生産頭数が減少の中で、肥育センターなどの施設が増加傾向にあり、肥育素牛の確保のためと思われます。生産子牛の約半数が県内で購買される傾向が強まったことから、今後は県内購買にも十分分析を加え、肥育成績や繁殖成績と連動し今後の繁殖牛経営指導情報の充実に努力していきたいと考えます。


(筆者:島根県農林水産部企画推進課専門技術員)


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